ジャッキー・コーガン



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2008年、サブプライムローン問題とその処理でアメリカ国内が紛糾していた頃。雇われ支配人マーキー(レイ・リオッタ)が経営するギャングの賭場が襲撃された。襲ったのは若者フランキー(スクート・マクネイリー)とラッセル(ベン・メンデルソーン)というチンピラ2人だ。彼らはジョニー(ヴィンセント・カラトーラ)という男の依頼を受けたのである。組織の代理人ドライヴァー(リチャード・ジェンキンス)の依頼により、登場したのは殺し屋ジャッキー・コーガンブラッド・ピット)。彼は調査と事態収拾の為に動き始めるが。


90分強の映画で、これ以上長かったら退屈だったでしょう。現代アメリカの経済、ひいては国家とギャングの世界を並列に描いて批評しているのは分かりますが、映画が面白いかどうかはまた別の話です。テーマとかメッセージは伝わるものもありますが、全編そればかりだと観ていてちと窮屈なのも事実。退屈はしないけど面白味は少ないのでした。いや、ところどころ面白い場面もあるにはあるのですけれどもね。長々した台詞が多いのは、クエンティン・タランティーノの影響でしょう。役立たずの往年の凄腕殺し屋(ジェームズ・ガンドルフィーニ)とか、殺す相手は泣き叫んだり命乞いしたりで観ていられないので、優しく殺すのを信条としているジャッキー・コーガンとか、人物は面白い人が多いけれども、この長台詞手法もさすがに新鮮味がありません。ブラピはスターらしい魅力がありました。ベン・メンデルソーンのテラテラした常に汗かきメイクは、気色悪さ増大。かなりイッちゃってる役でしたしね。麻薬でラリパッパな場面、映像的にも音響的にも可笑しかった。サム・シェパードがどう見ても堅気でない男なのは珍しい。


映画最大の見せ場は、後半に用意されている幾つかの場面です。VFXを用いた超スローモーションの人体破壊描写は、一見の価値があります。排出される薬きょう、銃口から飛び出す弾丸、撃たれて砕け散るガラス、吹き出す血しぶきと脳漿。これらがゆっくりゆっくりと克明に描かれていて、残酷美として強烈な印象を残します。でもガラスがあれだけ撃たれているのなら、もっと人体への弾着がある筈では?等と思ってしまいましたが。とまれ、独特の映像美として記憶される場面となったのではないでしょうか。


ジャッキー・コーガン
Killing Them Softly

  • 2012年|アメリカ|カラー|97分|画面比:2.35:1
  • 映倫:R15+(刺激の強い銃器による肉体損壊、殺傷・鮮血飛散の描写、麻薬の使用、性的会話がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): Rated R for violence, sexual references, pervasive language, and some drug use.
  • 劇場公開日:2013.4.26.
  • 鑑賞日:2013.4.30.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜4/ゴールデンウィークの谷間、平日火曜の21時25分からの回は、私を入れて21人の入り。
  • 公式サイト:http://gacchi.jp/movies/jackie-cogan/ 予告編、作品紹介、宣伝マンのブラピ化への道ブログ、ダンテ・カーヴァー先生による正しい罵り方講座…等々、力の入った企画の数々で賑やか。

死霊のはらわた



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

山奥のコテージに5人の若者達がやって来た。ミア(ジェーン・レヴィ)の麻薬中毒リハビリの為、兄デヴィッド(シャイロー・フェルナンデス)と、その恋人や友人らが集ったのだ。しかし地下室には多くの猫の惨殺死体が天井からぶら下げられており、さらに何かの皮で出来た禍々しい古文書が見つかる。よせば良いのに、古文書に掛かれていた文を読み上げた事からさぁ大変、何かが蘇り、山小屋での血みどろの惨劇の幕が切って落とされた。


1981年に製作された自主製作映画『死霊のはらわた』は、今やは『スパイダーマン』シリーズや、『オズ はじまりの戦い』といった大作の監督ともなったサム・ライミの処女長編作であり、彼の名を一躍世界的に有名にした映画でもあります。日本のみならず欧米でも、本作公開後にスプラッター映画なる言葉が広まったとある文献もありますので、映画史に残る作品でありましょう。もっとも中学生だった当時の私は、まだ劇場では観ていなくて、公開とほぼ同時に出た画質の悪い正規版VHSをお小遣いで購入し、同級生らを家に招いて皆でわいわい楽しんだものでした。牛乳飲んだりしながら(意味が分かる人は、このオリジナル版を観た事ある人)。オリジナル版最大の魅力は、大袈裟過ぎるダイナミックなキャメラワークや稚拙な特殊メイクも含めて、恐怖と残酷と黒い笑いがいっしょくたになった馬鹿力でした。描写自体は超残酷なのに、やり過ぎるとギャグになるという「分かった」演出は、とても面白かったのです。


こちらのリメイク版はライミらが製作に携わっていて、監督はウルグアイの新人フェデ・アルバレス。プロットは旧作準拠でも展開はかなり変えられており、これはオリジナル版を相当に強く意識したものによると思われます。例えば山小屋に若者たちが宿泊するなどというのは、現代の感覚からするとヴァカンスとは程遠いのだから、だったらその理由に現代的でもある麻薬問題を絡めよう、という事ですね。オリジナル版にあった設定をひっくり返すかのような場面も用意されています。脚本や演出、特殊メイク等、非常に頑張った感がありました。だからか、全体的に生真面目な作りになっており、結果的にはオリジナル版の馬鹿力には遠く及ばないものとなっています。それに正直、怖くなかった。禍々しい雰囲気は出ていたし、真面目は良いけれども、もう少し緊張を盛り上げて欲しい。残忍な描写も馬鹿馬鹿しさが欲しい。


結果的に、志は買うものの、力及ばずの映画になってしまいました。ある意味、これは無謀なリメイク企画とも言えるのではないでしょうか。オリジナル版の面白さはサム・ライミの個性に直結していただけに、同じ手法でリメイクしても意味が無いとの戦略は分かりますが。ホラー慣れしていない、旧作を未見の観客の反応を知りたいとは思います。


死霊のはらわた
Evil Dead

  • 2013年|アメリカ|カラー|90分|画面比:2.35:1
  • 映倫:R18+(極めて刺激の強い数々の殺傷、肉体損壊、鮮血飛散、及び恐怖と脅威感がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): Rated R for strong bloody violence and gore, some sexual content and language.
  • 劇場公開日:2013.5.3.
  • 鑑賞日:2013.5.3.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜1/公開初日のゴールデンウィーク金曜22時45分からの回、横浜ららぽーとTOHOシネマズで1番大きな劇場で公開という強気の興業は20人強の入り。
  • http://www.harawata.jp/ 予告編、作品紹介、ゲーム(年齢制限あり)など。