条例事項・法律事項(上)

kei-zuさんが法学セミナーに執筆されている「法令エッセイ クロスセッション」は、これまで条例で規定する必要がない、あるいは規定すべきでないとされてきた事項を定める条例に関して考察されているものであると私は感じている。
条例で定めなければならない事項に関しては、地方自治法第14条第2項に「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」という規定がある。このほかにも、法令で条例事項とされている事項はあるが、それを除けば、この地方自治法の規定によれば一般的には権利義務規制に関する事項以外の事項は条例で定める必要はないことになる。
この条例で定めなければならない事項の考え方は、法律のそれとパラレルに考えられているといってよいだろう。そして、内閣は、次のとおり権利義務規制に関する事項を有しない法律案は、原則として提出しないことにしている。

内閣提出法律案の整理について(昭和38年9月13日閣議決定
(1) 法律の規定によることを要する事項をその内容に含まない法律案は、提出しないこと。
(2) 現に法律の規定により法律事項とされているもののうち、国民の権利義務に直接的な関係がなく、その意味で本来の法律事項でないものについては、法律の規定によらないで規定しうるように措置すること。  
とくに、国家行政組織法については、諮問的または調査的な審議会や部の設置は政令で定めることとし、また、行政機関に置くべき国家公務員の総数は法律で規定し、その各省庁への配付は政令で規定することとする等の改正を早急に検討すること。
(3) 単純に補助金の交付を目的とする規定を法律で設けないこととし、現存のこの種の規定については、廃止の措置を漸次進めるものとすること。これに伴い、長期的な計画または視野に基づく補助については、政府の重要施策としてとくにこれを公にする必要がある等特別の事由のあるものは当該補助要綱を閣議で決定することとし、その他のものは、主務省庁と大蔵省(主計局)との間で協議の上、長期的な計画または視野に基づく補助であることを当該補助要綱に記載できるものとすること。
(4)・(5)  (略)
(6) (1)、(3)または(5)によることができない特別の事情があるときは、各省庁は、その法律案の提出につき、理由を具してあらかじめ内閣官房長官に説明し、閣議の事前了承を経るものとすること。
(7) (略)

内閣提出法案には権利義務規制に関する事項を含めなければいけないこととされていることから、無理をしてこのような事項を法律に書こうとする結果、自治体にしわ寄せがくることがあるという批判も聞くことがあるが、上記(6)によると、一応例外は認めていることになる。
そして、内閣提出法案で、必ずしも法律とする必要がなかったと思われるものとして、私は、平成10年に成立した中央省庁改革等基本法案が思い浮かぶ。この法律の意義として、当時の内閣法制局長官であった大森政輔氏は、その著書『20世紀末期の霞ヶ関・永田町―法制の軌跡を巡って―』(P203)で、次のように述べている。

今次の行政組織及び制度の改革を進めるに当たり、単に内閣において個別の法律案の作成を進めるのではなく、行政組織及び制度の改革に当たった政府のよるべき基準、方針、採るべき措置について、国会の意思を明示する改革基本法を制定したことは、迂遠なようでありながら、その後の改革の具体化作業を円滑に遂行することに決定的な寄与をしました。各府省庁設置法案の策定等に際して、その任務・所掌事務規定に関する省庁間の紛議の発生を防止し、政党を巻き込んだ関係者の抵抗を抑止できたことは、その成果であったと考えられます。

ここでは、政党等の抵抗を抑止し、その後の行政組織の改革の作業を円滑に進めることができたことを成果としているが、これはあくまでも内向きの理由で、必ずしも法律で定める必要があることとはいえないだろう。つまり、権利義務規制に関する事項を含まなくても、他の成果があれば、内閣法制局も一定の評価を行っていることになる。
こうした記載を見ると、ことさら法律には権利義務規制を定めなければいけないと言ってみても、仕方がない気がしてくるのである。
(以下次回)