虫めづる姫君〜堤中納言物語の一編
以前私が環境化学分析の会社に勤めていたとき、実験中の女性社員が「きゃーーー!!」と、この世もあらんばかりの悲鳴を上げたことがあります。なんだと聞いてみると、「虫がいます!」という返事でした。どれどれ・・・と見てみると、その虫は「カマドウマ:便所コオロギ」でありました。私はティッシュを持ってその虫を掴み、外界に追い出しました。特に有害な虫ではありません。
一般的に、女性は虫という生き物が嫌いなようです。もっとも私もゴキブリは苦手で、とても触る気にはなりません。噛まれそうで、怖い。
でも、ここに、堤中納言物語の一編に「虫めづる姫君」という作品があります。この姫君は、子分格の男の子たちに虫を捕まえてこさせ、特に「毛虫」の生育過程を見守り、蝶になるまで育てるのを無上の喜びとする姫です。同年代の姫たちのように、化粧さえしません。一節を引いてくると、(両親が)
「理屈はそうだが、外聞が悪いじゃないか。世の人は見た目の美しいのを好むものなんだ。『気味悪い毛虫を慰んでいるんだとさ』と世間の人の耳にはいるのもみっともない」と親がおさとしになると、姫君は、「かまわないわよ噂なんか。万事の現象を推究し、その流転の成り行きを確認するからこそ、個々の事象は意味をもってくるのよ。そんなこともわからないなんて、ずいぶん幼稚ね。毛虫が蝶になるんですよ」
「完訳日本の古典27:堤中納言物語・無名草子:小学館」P129
ちょっとした生物学者なのですね。物語は、このあとこの姫に興味を持ったある男性が贈り物とて「精巧に作った蛇のおもちゃ」を姫に贈るのですが、さすがにこのいたずらである贈り物には、平静な態度を装ったけれど、声は甲高くなってしまい、まわりの女房たちは大笑いしたとか。・・・さすがの姫君もこのプレゼントには面食らったというのですね。ところで「虫」という漢字は、もともと「蛇」をしめす象形文字でした。蛇にまでは関心が向かなかった姫君、まだまだ修行が足りません。あとでこの男性と恋歌(?)のやりとりを複数回しますが、男性は、垣間見た姫の眉毛が「げじげじの毛虫のようだ」と歌にして、笑って帰っていきます。・・・これって、この物語が作られたころは、一種の「ギャグ漫画」として読まれていたのだろうと推測できます。
『堤中納言物語』(つつみちゅうなごんものがたり)は、日本の平安時代後期以降に成立した短編物語集。編者は不詳。10編の短編物語および1編の断片からなるが、成立年代や筆者はそれぞれ異なり、遅いものは13世紀以後の作品と考えられる。
10編中の1編「逢坂越えぬ権中納言」以外の著者・詳細な成立年代は不詳である。ただし、文永8年(1271年)成立の『風葉和歌集』に同編および「花桜折る少将(中将)」「はいずみ」「ほどほどの懸想」「貝合はせ」から歌が入集しているため、これらの物語が文永8年以前の成立であることは確認できる。10編の物語の中のいずれにも「堤中納言」という人物は登場せず、この表題が何に由来するものなのかは不明である。複数の物語をばらけないように包んでおいたため「つつみの物語」と称され、それがいつの間にか実在の堤中納言(藤原兼輔)に関連づけられて考えられた結果として堤中納言物語となった、など様々な説がある。
今日のひと言:「虫めづる姫君」以外の作品は、いまいち、という感じでした。一級品の古典とは呼べない気がします。
なお、虫に関する過去ログがありますので、挙げておきます。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110927#1317119399
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カレーライスの悦楽(今日の料理・特別版)
私は以前、拙ブログで、レトルトカレー「よこすか海軍カレー」の稿で以下のように書きましたが、
「にん・たま・じゃがと言うように、ニンジン、タマネギ、ジャガイモは、いまでもカレーの具材としてもっともポピュラーです。
これは、海軍のカレーにさかのぼると思います。大前提として、戦艦はいちいち材料を求めて接岸することはめんど臭く、長持ちする食材を求めたのだと思います。さらにその上、これらには、健康維持に重要な成分を含んでいたのです。ニンジンはビタミンAを含み、タマネギはビタミンBの吸収を効率よく行わせ、ジャガイモはビタミンCを含みます。
イイカゲンではなく、経験則的に正しい組みあわせなのですね。客観的にもね。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090126#1232949266
:カレーと根菜類の必然
ただ、カレーと言っても、本場インドでは通じないかも知れません。あるのは「ガラムマサラ」(辛い香辛料)という複合調味料で、これは各家庭ごとに独自な味を保持していて、味音痴なイギリス人が手におえず、「最大公約数」的に「決まった味」を持つミックス調味料・・・「カレー粉」を作ったというわけです。漫画「美味しんぼ」の確か24巻で、カレーの話が出てきますが、おおむね、ガラムマサラは香辛料の交響曲であり、それぞれのスパイスが自己主張しながらも、全体では統一された味になることに落ち着くようです。そこへ行くと、カレーは「独唱曲」とでも評せましょうか。
では、色々あるスパイスのうち、どれがキーになるかと言うと、ある本では「ジンジャー:生姜」であるとしています。(図書館には、様々なカレー料理関係の本が置いてあり、その一冊で見たのですが、もう一回読みたくても、手に取れませんでした。どこへ行ったか?)そして、このキー・スパイスに加え、ガラム・マサラに絶対不可欠だと思われるのがクミンシード(香りの演出)、ターメリック(色の演出)、カイエン・ペパー(唐辛子・味の演出)の3つでしょう。
そんな具合でこれ等4種を中心にガラムマサラを作り、食べてみたところ、確かに単なるカレーより刺激的な味を味わえました。もちろんほかにも幾つかスパイスを配合しました・・・カルダモン、クローブ、フェネグリーク、アジョワン・シードなど。
特に、インドでは大事なお客さんが来るときには、世界で3番目に高価なカルダモン、複雑な香味を与えるクローブなどを、すり潰さずに供するということなので、我が家のカレーでも、カルダモン(皮は除き、黒い種をそのまま入れる)、クローブなどをそのまま加えて食べています。
最近(2014.02.12)もカレーを作りました。ジャガイモの分量を半分にして、その分、キクイモ(菊芋)を入れてみましたが、それなりに美味しかったです。なにを入れても美味しい、というのが「カレーの徳」でしょう。使ったのは「ハウス ジャワカレー辛口」のカレールウ。
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今日の一句
雪のあと
カマクラつくる
おしゃれな子
雪は、大人にとっては「災難」ですが、子供にとっては「ワンダーランド」なのですね。
(2014.02.13)