写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

どちらが正論? ピントの合わせ方

僕の身近にいるSさん。筋金入りのカメラマニアで、所有のカメラは数えたことがないそうです(僕の推察するところでは、軽く1,000台は超えているのではないかと思うのですが?)。そのSさん、僕の目から見ると、この時期なぜか猛烈にデジタルカメラを買いだしたのです。そのうちの一部が、マイクロフォーサーズ規格の「ルミックスGF-1」なのですが、ボディは赤と白の2台をパンケーキレンズとともにというわけです。Sさんいわく、持った感じは、塗りの白のボディの方がしっとりとしていて手にフィットするそうで、赤のボディは表面がぼつぼつとした感じで、今ひとつなじめないというので、赤ボディの後に白ボディを追加購入しました。なるほど、カーラーボディでも単なる色の違いだけでなく、触感が大切なわけなのですね。実際、僕も触った感じでは確かにその感じは納得できました。
Sさんは、このGF1にメーカー純正のライカMマウントアダプターを付けて、コシナ/フォクトレンダーのスナップショットスコパー25mmF4を装着して楽しんでいるのですが、「このライカMマウントアダプターはどのような基準で作られているのだろうか」と疑問を投げかけました。Sさんによると、撮影は、だいたいの被写体までの距離を読んで、スナップショットスコパーの距離リングの目盛りを合わせて、シャッターボタンを押すという撮影をしたいそうですが、実際やってみるとピントが合わないというのです。そこで、どうしたものだと周りの人に疑問を投げかけたわけです。得られた回答は、「それはそうでしょう。ライブビューでピントを合わせるシステムなのだから、距離リング目盛りで合わせるというのは考えていないのでしょう。それにライカマウントレンズといってもいろいろで、純正とサードパーティを合わせるとどれだけあるかわからないから、誤差を考えているのでは」とか、「一眼レフ交換レンズの検査基準では、無限遠の手前で止まってしまうのは不合格で、無限遠を行き過ぎるのは合格だと昔から決まっているのです」ということでした。なるほどそれぞれ一理あります。それにAF一眼レフ時代は、AF原理からしてマニュアルフォーカスの機械制御時代のレンズと異なり、いわゆる「∞位置突き当て撮影」はできないことはわかりますが、距離目盛り位置は回転角度が極端に狭くなり、距離目盛りを省略したレンズもあったりで、読み取りセットは難しいのもわかります。
Sさんは、それでも納得いかず、マイクロメーターを取りだして、誤差を測ってみました。それによると、そのMマウントアダプターは基準のフランジバックに対して約0.5mm短いそうです。そこでライカスクリューマウントとMマウントの間に0.5mm厚の座金をあててみたらいいのではないだろうかというわけです。そうすれば、距離目盛りに合わせてピントがくるはずだというのです。なるほど、確かにそうで、機械的フランジバックの短さを利用してのライカマウントアダプターなわけですから、マウントアダプターを付けてのフランジバック合わせはできるはずです。というわけで「このライカマウントMマウントアダプターはどのような基準で作られているのだろうか」というSさんの疑問に戻るのです。
Sさんによると、スナップショットスコパーの距離リングに植設されたレバーの操作はきわめて快適で、簡単に距離を合わせることができるというのです。そういえば、かのライカ使いの木村伊兵衛さんの必殺技はファインダーを覗かずに、予め距離を定めておき、切り撮るという撮影技法だったわけです。しっかりとファインダーを覗き、距離計を使ってピントを合わせるというのは一眼レフ以来のひとつの技法ですが、最近では焦点深度の深いコンパクトデジカメでは、ノーファインダー撮影も気軽に行えるようになりました。ライカレンズを使った最新ミラーレスカメラのピント合わせは、メーカーが提示した方法と、Sさんのやり方はどちらが正論なのでしょうか。それとも写るということと、写真が撮れるということはやはり別なのでしょうか、考えさせられました。