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2013-03-06

あの「ごぼう茶」を生み出した「商人」が取り組む「逸品」創りの極意とは 〜熊本県菊池市「渡辺商店」の6次産業化ストーリー

| 10:15

不定期で執筆している6次産業の現場レポート。先日、熊本菊池市に伺った際に偶然出会った「3次産業から遡って6次産業化を進めている」興味深い事例です。新しいモノ創りに取り組む渡辺義文さんの躍動感が皆さんに伝われば、原稿としては成功なのですが。。。是非ご一読下さい。オリジナルページには写真も載っています→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35056


「モノを仕入れて売るだけなら商人ではない。売人でしょう。オンリーワンの逸品を年に3つでも4つでも創り出してお客さんに売っていく。それが本当の商人だと思います」

熊本県菊池市にある「渡辺商店」の渡辺義文さんは酒小売店の3代目。商店街はご多分に漏れず「シャッター通り」で、渡辺商店はさらに一本路地を入ったところにある。

 それでも渡辺さんは意気軒昂だ。独自に開発した商品を直接インターネットで消費者に販売。昨年の年商は何と2億円。前の年から6,000万円も増えた。店を継いだ時には家族以外に1人だった従業員は、今や18人。経済停滞の町で新たな雇用を生んでいる。

 渡辺さんが手がける「商い」は独特だ。地元で埋もれている豊かな食材に目を付けて農家から買い、時には地元の業者に持ち込んで加工、その様子をインターネット上で事細かに消費者に伝えることで共感を引き出し、買ってもらう。基本は「自然」。無農薬栽培や有機栽培、無肥料栽培といったオーガニック・フーズだ。渡辺さんが運営するネットショップ「自然派きくち村」の商品を覗いてみれば分かるように、商品それぞれにストーリーがある。

「それぞれのプロが、同じコンセプトの中で1つにまとまる。それが本当の6次産業化だと考えています」

 渡辺さんは、3次産業である「商人」が、1次産業の作物づくりから、2次産業の食品加工までを取りまとめて「逸品」さえ創り出せば、必ず売れると信じている。いわば6次産業化の総合プロデユューサー役を務めているわけだ。

年間3万個、3,000万円を稼ぎ出す"逸品"

 初めから順風満帆であったわけではない。渡辺商店の飛躍には大ヒット商品の存在がある。

 「ごぼう茶」だ。今や全国的な大ヒット商品となっているが、6年前、"全国で初めて"製造・販売したのが渡辺商店だ。もともとのきっかけは、地元の名産品だった「水田ごぼう」を使って、何か加工品が作れないかと考えたこと。菊池は米どころとして知られるが、水田ごぼうはその裏作として作られている。

 ごぼう茶が完成し、細々と販売を始めてから3年ほど経ったある日のこと。フジテレビの『人志松本の◯◯な話』という番組で、「若返りするマル秘ゴボウ茶」として渡辺さんのごぼう茶が紹介されたのだ。すると番組放送中に注文が殺到、すぐに「売り切れ」の表示を出したものの、瞬時に600個を売り切ったという。それからの1週間というもの、徹夜で発送作業に追われたそうだ。

「1週間もしたら全国各地からごぼう茶が発売されて、もうびっくり」

 そこから全国的な大ヒット商品に育っていった。それでも渡辺さんは無理な製造拡大はせず、「自然派」の素材にこだわった。菊池産の水田ごぼうを使ったごぼう茶は「元祖ごぼう茶」として今でも人気商品。ごぼう茶だけで年間3万個、年商で3,000万円を稼ぐ。

 逸品作りの原点は2001年。もともと免許業種で守られてきた酒小売業だが、規制緩和でコンビニやスーパーでも酒が売られるようになり、このままではいずれ渡辺商店は廃業に追い込まれる、と渡辺さんは考えていた。そんなある日、環境問題の講演を聴いて、本物の自然志向の食べ物を作ろうと思い立ったのだという。

 自ら田んぼを借りて米作りを始めた。29歳の時だ。「地域にはすごい爺ちゃんがいるもんで、後藤さんという方の言う通りに米を作った」という。もちろん無農薬栽培である。そしてその米が九州米サミットの食味品評会で最優秀賞を取ったのだ。「伝統の力を見せ付けられた」と渡辺さんは振り返る。

 ところが、その米は4俵しか売れなかった。

 転んでもただでは起きないのが渡辺流。その米を球磨焼酎の蔵元である熊本県人吉市の「那須酒造場」に持ち込んだのだ。家族経営の小規模ながら数々の賞に輝く本物志向の蔵元だ。そして生まれたのが「蔵六庵」という米焼酎。ラベルには「ただただ自然」と書き入れた。

これをネットに載せたところ800本が売れた。このとき渡辺さんは「売りたいものが作れる」ということの喜びを満喫したのだという。

農家が儲かる仕組みにしなければ良いモノはできない

「自然派きくち村」では地元の農家が作った米も販売するが、この販売方法も独特だ。「秋岡夫妻の自然栽培米」「北野」「木庭さんの自然栽培米」といった具合に生産者独自の"ブランド"が付いている。「生産者それぞれに思いが違うので、その考え方を伝えて売るのが大事」だと渡辺さんは言う。

生産者から買った米は店先には並べない。保冷倉庫に入れ、インターネットなどで注文が来るたびに精米し、真空パックにして送り出す。最高の品質のものを消費者に届けるのが"商人"の務めだと考えているからだ。

 仕入れ価格は、生産者の希望通り。決して買い叩かない。「その価格にうちの儲けを乗せて売ればいいだけの話なので、買い叩く必要はない」と渡辺さん。しかも委託販売ではなく、自ら売れると見込んだ分量を買い取っている。そこには、農家が儲かる仕組みにしなければ本当に良いモノはできない、という考えがある。「渡辺流6次産業」を貫く信念だ。

 渡辺さんはさらに「こちらも自分でリスクを取らなかったら本気でモノは売れない」と考えている。時に「売り切れ」となるが、それはそれで「仕方がない」と割り切っている。

 現在売り切れ中なのが「緑玄米餅」。地元の富田さんが自然農法で作った「古代緑米」を買い取り、それを菊池の銘菓「松風」で知られる「中原松月堂」の3代目中原大松さんのところに持ち込み、丸もちを作った。緑米だけでなく、赤米、黒米とすべての古代米で試作した結果、緑米がもっとも美味しい餅が作れるという結論に至ったという。

 価格は10個で1,200円。菊池基準で言えば猛烈に高いが、こだわりの逸品は、その誕生ストーリーと共に6000個も売れたのだ。

地元菊池に本物の酒を

菊池川」の前掛姿の渡辺商店の渡辺義文さん

 もともとが酒屋だけに酒造りにも回帰した。菊池にかつてあった酒蔵は、最後には他の酒造から「桶買い」した酒を瓶詰めして売っていた。それが何とも口惜しかったという。その酒蔵が廃業した後、地元の本物の酒、誇れる酒を作ろうと考えたのだ。

菊池市を流れる「菊池川」にこだわり、その源流の阿蘇山系の自然水と菊池産の米を使い、菊池川流域にある「千代の園酒造」に委託して日本酒づくりに乗り出した。

酒米は百年以上前に発見された「雄町」という品種を、地元のグループ「菊池環境保全農業技術研究会」のメンバーが無農薬・無肥料で育てた。酵母には「熊本酵母」を使うところまで、「地元」にこだわった。名前も、純米吟醸酒菊池川」とした。もちろん、もともと酒小売店である「渡辺商店」の店頭にも並べられている。

 取材を終えて、一緒に地元の居酒屋に入った。渡辺さんは当然のごとく「菊池川」を注文する。猪口で一杯ぐいっと飲み干すと、奇怪な行動を始めた。今度はおもむろに手の平に酒を注ぎ、ペタペタと頬に塗り始めたのだ。

添加物を一切入れていない水とコメと酵母ですから。酒と言えば酒、化粧水と言えば化粧水なんですよ。どうですスベスベになるでしょう」

 どうやら今度はこだわりの化粧品を考えているようだ。