「バイト・テロ」とSNSでの「炎上」を防げ!ついに新入社員への研修教材が静かなブームに

ちょっとした悪ふざけのつもりのアルバイトの投稿が店を閉店や倒産に追い込む。そんなSNS上の「炎上」事件が頻発しています。若者のレベルが下がったというよりも、SNSの登場で誰でも「発信」できるようになったことが大きいのでしょう。企業も防衛策を模索し始めたようです。現代ビジネスにアップされた拙稿を編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37590

 今年夏以降、ツイッターフェイスブックといったSNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)での投稿が「炎上」し、企業に大打撃を与えるケースが目立っている。

 7月にはコンビニエンスストア「ローソン」の店舗で従業員がアイスクリームケースの中に入った写真を投稿。8月にはハンバーガー・チェーン「バーガーキング」の店員が大量のバンズの上に大の字に寝そべっている写真をアップした。いずれも「客に販売する食材の上で寝そべるなど言語道断だ」といった批判がネット上で相次ぐ「炎上」状態になった。客からのクレームを受けた企業は謝罪を余儀なくされた。

 飲食店や小売店などの店舗には学生アルバイトやパートなどの従業員が多い。問題を起こした従業員からすれば、ほとんどが悪意のない「悪ふざけ」だったに違いない。何気ない気持ちで、普段愛用しているSNSに面白半分に写真を投稿したわけだ。

雇用主の生活を一気に暗転させるアルバイト

 これまでも学生アルバイトによる似たような悪ふざけはあったに違いない。
 だが、顧客の目に直接触れることはなかった。スマートフォンSNSの普及で、誰でも気軽に世の中に向けて「発信」できるようになった結果、予想外の反響が巻き起こり、収拾が付かなくなったということだろう。

 ローソンのケースでは、「加盟店従業員の不適切な行為についてのお詫びとお知らせ」という文書を本社が公表。当該の店舗からアイスクリーム商品とアイスクリームケースを即刻撤去したうえで、その店とのフランチャイズ契約を解除、店は休業となった。もちろんアルバイト従業員は解雇された。
コンビニエンスストアは個人や零細事業者が本部とフランチャイズ契約を結んで経営しているケースが多い。不届きなアルバイトの行動で、そんな零細経営者の生活が一気に狂ってしまうことが明らかになったのである。

 10月には東京・多摩市でツイッターでの投稿がきっかけになって閉店・破産したそば店も出た。アルバイトの男子大学生が店内の大型食器洗浄機の中で横たわった画像をツイッターに投稿したところ、インターネット上で批判が殺到。「店には衛生面で苦情電話が相次ぎ、閉店に追い込まれた」と朝日新聞は報じた。
 記事では「もともと業績は厳しかったようだが、ツイッター投稿が倒産の引き金になった可能性はある」という帝国データバンクの分析を引用していた。悪ふざけの画像による炎上は、「冗談」や「お遊び」では済まず、企業や店舗に大打撃を与えるということが明らかになったのである。

 このほかにも、「丸源ラーメン」のアルバイトが調理前の食材を口にくわえた写真を投稿した問題では、開封済み食材の廃棄や冷凍庫内の消毒が済むまでの休業を余儀なくされた。ステーキハウス・チェーンの「ブロンコビリー」でも店員が冷蔵庫に入った写真を投稿。会社は「事態の重大性に鑑み、店内の消毒、及び従業員の再教育のため」として当該店舗1日休みにした。「餃子の王将」や「ほっともっと」「ピザーラ」でも同じく冷蔵庫に入った写真が投稿され、ネット上などで大問題となった。

どこで問題が起きても不思議ではない

ピザハット」では、アルバイトがピザ生地を顔につける姿が投稿されたほか、「マックスバリュ九州」では店員がアイスケースにダイブした写真を投稿。「東急ストア」でも店員が勤務中に廃棄商品を口に入れて撮影して投稿していた。
 もはや、アルバイトを使っている飲食店や小売店ではどこで問題が起きても不思議ではない状態になっている。

 学生のレベルが下がったと言えばそれまでだが、そうした学生を採用していく企業にとっては新たな「頭痛の種」だ。企業も必死に防衛策を探っている。

 学生向けの就職情報サイトなどを運営する「マイナビ」は企業の研修教材なども開発・販売しているが、ここへ来て静かなヒット商品が生まれているという。「SNSKit ソーシャルメディアマナー」というDVDとパンフレットのセットだ。新入社員などにSNSを使う際のマナーを実例を示して理解させようという内容だ。

「取引先の情報や悪口などを書かない」「会社での不平不満や愚痴を書かない」「職務上知り得た話を書かない」といった「言わずもがな」の項目が並んでいるが、今の大学生や新入社員には、一からやってはいけない事を説明しなければならない、ということなのだろう。

 今年5月に発売したこの教材。まったく宣伝していないにもかかわらず、9月末までに257社が導入したという。10月の1カ月間では20社が導入を決定したうえ150社が検討中だという。

 DVDでは、取引先へのプレゼンテーションに失敗した社員がSNSで社名を伏せて「つぶやいた」ところ、会社の建物の写真を投稿したことから先方にバレて抗議される話や、開発中の新プロジェクトについて投稿したところライバル企業に先を越される話などが、ストーリー仕立てで展開されている。

匿名で投稿していた経産省幹部も処分

ビジネスパーソンにとって最も大切なことは『信頼』です」と改めて強調しているところに、今の社員教育の難しさが滲んでいる。
 導入した会社がどういう使い方をしているかは明らかではないが、就職内定者ばかりではなく、アルバイトやパートなどの従業員の教育にも使われている模様だという。

「復興は不要だと正論を言わない政治家は死ねばいい」
 そんな匿名での投稿をしていた経済産業省の幹部が時を経て特定され、処分される問題も起きた。経済産業省ではこれを受けてSNSで発信する際は上司の許可を得る制度を徹底しているという。要はSNSを使うな、ということだ。

 だが、一方で、SNSの利便性や可能性が否定できないのも現実だろう。SNSは「公の場」だということを理解し、発信の仕方を考えなければいけない。

 ひと昔前、情報を広く発信できるのは新聞やテレビなど一部のメディアの専売特許だった。今やSNSを使えば誰でも情報発信できる時代だ。「悪ふざけ」ではなく、企業に不満を持ったアルバイトが意図的に問題行為を発信しているのではないか、と見られる事例も出始めた。
 ネット上の一部では「バイト・テロ」という造語まで生まれている。

 そんな「テロ」に見舞われれば、顧客を相手にする企業の信頼は瞬く間に瓦解しかねない。研修教材が静かに売れている背景には、それで問題がすべて回避できるとは思わないが、何も対策を打たないわけにはいかない企業担当者の焦りが見え隠れする。