F1日本GPでのクラッシュについて。

F1日本GPでのクラッシュで現在も病院で治療中のジュール ビアンキ選手。
昨夜、ご家族より容体について発表がありました。
「びまん性軸索損傷」とのことです。
この症状について調べてみましたが、脳が強く揺れたことによる脳の細胞レベルの損傷で、
生命が助かっても意識障害などの後遺症が残る可能性が高いようです。
レーシングドライバーとしての復帰は難しいかもしれないけど、
せめて普通の生活が出来るレベルにまで回復してほしい。
一日も早い回復を祈っています。
遠い異国の地で看病されるご家族の身体的、精神的な苦痛も多いと思います。
多くのサポートがなされることを願っています。


さて、モータースポーツでこういう大きな事故があると、ニュースでも大々的に伝えられるので、
普段レースを観たことない人まで関心を持ちます(こんな時だけニュースに出たり、
関心もたれるなんて悲しいことですが・・・)。
普段レースを観てれば常識的にわかることでも、そういう方たちはわからないので、
ネット上でもだいぶ誤解のある書き込みが多々見受けられます。
発生直後は情報も錯綜しますし。
やっと、だいぶ情報も落ち着いてきたので、ネット上に多い誤解のある書き込みに対して、
レースでは一般的な意見、自分の意見も含めて書いていきたいと思います。
あまりレースに詳しくない人にも、理解してもらえれば幸いです。


ビアンキ選手以外に、オフィシャルも怪我をして救急搬送された。

オフィシャルの方で負傷した方はいないとのことです。


■そもそも台風が来ている中、開催するのがおかしい。あんなひどい雨の中開催なんてありえない。

  • >たしかに台風は迫っていましたが、台風が猛威を奮ったのは翌日です。

雨もレース中はそこまでひどくはなかったです(最初と最後は雨量は多かったですが)。
もっとひどいコンディションで行われたレースも多いです。
日本GPでいえば、2007年の富士の方がひどかったんじゃないかな?
今回のレースでは、レインタイヤの中でも比較的雨量が少ない時に装着する
インターミディエイトタイヤを装着していたマシンが多かったことからも、
それを証明しています。
雨量が多ければエクストリームウェザータイヤの方が速いですから、
みんなそちらにするはずなので。
最後の方は雨量が増えてきたので、ゴールまで残り周回数が少ない状況でしたが、
これからもっと雨量が増す方に賭けて(ピットストップのロスも挽回出来ると賭けて)、
エクストリームウェザータイヤに変更したマシンもありました。
モータースポーツは程度にもよりますが、雨でも開催されます。
滑りやすい路面コンディションの中でドライバーの超絶テクニックが光ったり、
履くタイヤやセッティングによって、いつもとは違った展開になったりするので、
雨もモータースポーツの面白い部分の一つなのです。


■事故発生時は暗かった。

  • >現地にいたわけではなくテレビで見た感じなので、はっきりとは言えませんが、

たしかに少し暗かったと思います。
天気も悪かったので、なおさらです。
ただ、もっと暗かったであろうレースもありました。(韓国GP)
今回、ドライバーはフラッグも見えていたし、フラッグの色を示す電光掲示板も
はっきり見えていたと言っていたのでそのあたりの問題はないと思います。
ただ、ウェットパッチ(水たまり)は見えなかったと言っているドライバーもいるので、
難しいところですね。
仮に明るかったところで、ウェットパッチが見えたかというとそれもわからないし。


■スタート時刻を前倒しするべきだった。

  • >今回のレーススタート時刻は15時。

翌日が祝日でないのに、このスタート時刻は遅いと思います。
自分が現地観戦する場合、この遅さは非常に嫌です。
セーフティーカー導入や赤旗中断があると、日没までにレースが終わらない可能性があるし。
おそらく、ヨーロッパのTV視聴者のためにこの時刻に設定したのだと思います。
(同じ理由で、最近のアジアや中東のF1レースはナイトレースが増えているのです)
なお、レース開催可否の判断、スタート時刻の決定、セーフティーカーの導入の決定は
鈴鹿サーキットではなく、FIA(国際自動車連盟)です。


台風の影響については、F1決勝前のサポートレース時のが雨がひどかったとの情報もあるので、
この時刻で正解だったかもしれません。
今や、最先端の天候予測で何時何分に雨雲がくるとか予測できるみたいなので、
その予測結果から、あえてレーススタート時刻は変更しなかったのかもしれません。


なお、レーススタート時刻の変更は、多くの人が関わっている&大金が動いているだけに、
なかなか難しいと思います。
全世界でのTV放送に影響がありますし、サポートレースのスケジュールも変わります。
決勝レースにギリギリ間に合うためにチケットを買った人は、間に合わなくなってしまうので、
払い戻し対応が必要になるでしょう。


■他の日に開催するべきだった。
上記理由と、次のレースへの輸送の関係から、他の日にレースを行うというのは、
限りなく不可能に近い話です。
スタッフも多いので、宿泊施設や移動手段確保の問題もあるし。


■事故時の映像、画像を見るとグリーンフラッグが振られている。
クラッシュ車両がある場合はイエローフラッグが振られるのが普通なのに、
重大な誤りではないか。

  • >グリーンフラッグが振られているのは、クラッシュ車両の後ろのポストです。

その前のポストではダブルイエロー(2本のイエローフラッグ)が出ていました。
つまり、映像や画像に映っているグリーンフラッグは、
前のポストで出されているダブルイエローの区間解除はここからですよという
意味のグリーンフラッグです。
したがって、オフィシャルもレースコントロールも誤りはありません。正しい運用方法です。


ダブルイエローは、その先で重大なクラッシュ、またはクラッシュ車両の回収が行われているという
意味で、走行車両は減速し、いつでも停止できる状態でなくてはいけません。
もちろん、追い越し禁止。
ダブルイエロー区間でのスピンやクラッシュは、車両回収をしているオフィシャルや、
そのダブルイエローの原因となったドライバーを巻き込む危険があるので、
絶対に起こしてはいけないものです。
そういう意味では、ダブルイエローが出ているのに、その区間でクラッシュしてしまった
ビアンキ選手に非があるとも言えます。
ただし、そうは言っても、減速して何km/hにしなさいというように明確な速度は決まっておらず、
各ドライバーの判断に委ねられています。
おまけに、今回は雨でハイドロプレーニングが起きやすい状態でした。
ドライバーの判断では充分にクリアできるスピードだと思っていたのが、ハイドロで
全くコントロールが効かなくなってしまったというのが事実だと思います。


今後の改善点としては、このダブルイエロー区間での速度判断をドライバー任せにするのではなく、
徹底的に安全な速度になるようにすべきです。
今年のル・マン24時間レースでは、ダブルイエロー区間は徹底的にスピードを落としていました。
24時間のレース中、この運用が全ドライバーによりしっかり守られ、安全にレースが進められました。
F1もセーフティーカーを出さないで事故処理する場合は、これと同じようにすべきだと思います。
もちろんこれを実現するには、ダブルイエロー減速区間を絶対に見逃さないようにするシステムが必要です。
1台でも見逃す車がいた場合、減速した車にぶつかって大惨事になるからです。
(フォーミュラの場合、タイヤに乗り上げて空を飛ぶ可能性大・・・)
現在のF1はステアリング上にフラッグの警告灯もつくし、これを利用して、
ダブルイエロー区間だけ、全車のスピードコントロールを自動で出来れば安全に減速出来るかと思います。


■オフィシャルが重機を出して作業していたのが悪い。

  • >ダブルイエローを出して、重機でクラッシュした車両回収を行うのはこれまでのレースでも

行われてきました。
正しい運用です。
ただし、今回の事故からもわかるように、ドライバー、オフィシャル共に危険な状態に
遭遇することがあります。
今後はセーフティーカーが出た状態、もしくは上記のダブルイエロー区間のみ超スロー走行でしか
重機でのクラッシュ車両回収は出来ないなどの運用変更は必要だと思います。


■今年、レギュレーションが大きく変わったから大事故になった。

  • >レギュレーション変更は今回の事故とは関係ないと思っています。

昨年の車なら大丈夫だったかと言われたら、そんなことはないと思うし。
それこそ、もっとダウンフォースがあれば・・・タイヤがグリップすれば・・・とかは
言い出したらキリがないからね。


悪天候でヘリが飛べず、救急車での搬送となった。

  • >救急車での搬送でしたが、悪天候でヘリが飛べなかったわけではなく、

頭の怪我の場合、気圧の変化が悪影響を及ぼすことがあるため、それを考慮して
救急車での搬送にしたとの話があります。
しかし、FIAの発表によると、上空の視界が悪く、ドクターヘリが病院に着陸できないために、
救急車での搬送にしたとのこと。
どちらが正しいのかはわかりません。
レース直後にドクターヘリが飛んでいる様子を捉えた写真はありました。
サーキット上空はOKだったけど、収容先の病院の上空の視界は悪かったので、
ドクターヘリでは行けなかったってことなのかな?
ちなみに、悪天候でドクターヘリが飛べない場合は、レースが開催されません。
2007年の富士SWでの日本GPは、それが原因でスタートディレイになり、
ヘリが飛べる状態になってからスタートしました。


■F1はよく死亡事故や重大事故がある

  • >レース中には、そんなに頻繁には起きていません。

レース中の死亡事故は1994年のアイルトン セナ選手以来起こっていませんから。
ドライバーが怪我するような事故だと、最近では2009年のフェリペ マッサ選手が怪我をした事故が最後かな。
(前車が落としたパーツがヘルメットを直撃して、頭を怪我)
テスト中の事故では2012年にマリア デ ビロタ選手が、
コース外のトラックに衝突し(今回のビアンキ選手と同様)、頭を強く打ち、右目を失明。
約1年後にこのクラッシュで受けた傷が原因で亡くなりました。


と、まあこんな感じですかね。
特にフラッグと雨での開催に関しての批判を多く見ましたが、これで誤解が解ければ良いと思います。