愛と悔恨のカーニバル 打海文三

最近は神様仏様文三様〜って感じです(笑)

結局は世の中に悪とみなされているために叶わない姉弟愛に苦しんだ末に破滅するという話。
みなされているだけでほんとに悪なのか、という疑問がまずある。

狂気の沙汰としか思えない惨殺シーンがいっぱい出てくるんだけど
人間は本来は狂わなくてもそういうことができてしまうものなのかもと思えてくる。
実際に登場人物は狂ってはいない。
社会のものさしからはみ出た感情を抑えることに限界がきただけ。
そこから派生して、これだけ多くの個々の感情を抱えた人間が
とくに問題もなく生活をしている文明社会ってすごいなーと思った。
それだけ現代は感情を我慢しなければいけないことが多いということかな。

「世界中の人間が、それについてよく知ってるのに、知らないふりをしてる」

ハルビン・カフェ 打海文三

主人公(というか話の中心にいる人。って主人公かやっぱ)が悪人という異色作。
悪人といっても吉田修一の悪人みたいに感情移入できない正真正銘の悪人。

そうよね、主人公が善人じゃないといけないって決まりはないのよね。
でもなぜか世の中にはそういう作品が多いわけで。
流されてました、私。深く反省します。

で、めちゃめちゃおもしろい!
ハードボイルドっていうジャンルになるんだろうと思う。
架空の都市の話だけど巧妙に重厚に話ができていて突っ込むところがない。
この話を考えて、しかもおもしろく書くって相当すごいよ!
圧倒されるってこういうことかーと思う。
人間関係が複雑で名前も覚えにくいから何回も前に戻って読んだけど
それさえも喜んでそうさせてくださいってくらいおもしろい。
個人的に登場人物の関わりがあとからどんどんわかってくる小説って好きだな。
最後の最後に語り手の素性が分かったときもへぇ〜と感心した。

そしてなんといっても表紙がカラヴァッジョの「洗礼者ヨハネの斬首」というセンスのよさ!
見た目だけで読みたくなっちゃうわ〜
ハルビンっていう言葉にもなぜか弱い・・・
村上春樹の影響かなー

萌の朱雀 (1997年 河瀬直美)

セリフの少ない映画は苦手だと思っていたけれども
単にこれまでのそれは私にはおもしろくない映画だっただけみたいだ。

この映画、とてつもなくセリフが少ない。
台本薄っぺらいんじゃないかな、と見ながら思ったくらい。
でもとてつもなく伝わってくる。
日本の自然の素晴らしさ、何気ない日々の大切さ、
こつこつ生きることの素晴らしさ、その土地に根付いているものへの畏敬の念、
大事な人を大事だと思う、当たり前だけど日常に埋もれてしまう感情。

まず子供二人の演技にやられる。
というかあれは演技じゃないのかな・・・?
見たあとに調べたらほとんどが素人の人みたいだ。
女の子と男の子の仲良さ加減が演技だったら二人は天才子役だってくらい
ほんとーに中がよさそうで見てるだけで幸せを感じる。
家族が揃ってる場面を見てるだけで家族っていいなーって涙が出てきて
はじめて子供がほしいと思った。
ちなみに尾野真千子のデビュー作で、監督が学校の下駄箱で彼女を見初めたらしい。
たしかに・・・素人にしては素晴らしい演技だと思う!
しかも今よりかわいい!

陰影の使い方や映像が荒いかんじ、役者の演技や表情が平板なことなんかが
すごくいい影響を与えてると思う。
ランドセルに何個もお守りがぶら下がってるとこなんか、にくい!
小学生の時はもらったお守り下げてたもんなー
効力が一年なんて知らないから増えるんだよね。

河瀬監督は奈良県出身。
地元を愛してるってことがすごく伝わってきた。
最初に森の青々した緑を見たときは舞台になってる西吉野村に行こうと思ったけど
まずは福岡県のいいところを旅してみようと思った。

最後に、どなたかがこの映画の感想をブログに書いているなかに
「登場人物全員が笠知衆状態」とあって、まさに!と笑った。

ソラニン 浅野いにお

映画を途中まで見て、マンガを全部読んで、映画の残りを見るっていう
変則的なお付き合いとなりました。

映画はマンガに忠実だけどそれでもやっぱりマンガのほうがおもしろかった。
おもしろいじゃ簡単すぎるな・・・
バンプの詩を聞いたときと同じような感情になる。
こういう気持ちを表現してくれる人がいることをすごく嬉しく思う。
とくに浅野さんは同じ年で、同年代の大人と呼ばれて当然の人が
そういう気持ちをもってることが嬉しい。
周りはみんなちゃんと社会人してて、
心の中ではどう考えてるか分からないけど
こんな気持ちを分かってくれる人はいないんだろうなと思ってるから。

でもきっとそんなことはないんだろうな。
だってソラニンバンプも売れてるって事は
共感してる人がそれだけいるってことだもんね。
だとするとみんな複雑な気持ちを抱えつつ日常を送ってるわけだ。

ソラニンを読んでも明確な答えは分からなかったけど
そもそも明確な答えはないだろうということも分かってる。
じゃあどうすればいいんだ・・・