伊藤雄之助の逆転ホームラン

「あなた買います」(1956年、松竹)
監督小林正樹/脚本松山善三佐田啓二伊藤雄之助大木実岸恵子水戸光子東野英治郎佐々木孝丸多々良純/三井弘次/花澤徳衛/山茶花究

南海ホークスの元監督穴吹義雄さんの紹介で必ず出てくるのが、「あなた買います」のモデルという話である。わたしもそういうかたちでこの映画のタイトルを何度も目にしたことがあるけれども、初めて当の映画を観ることができた。
プロ球団による大学野球の人気野手大木実の獲得合戦が映画の主題。佐田啓二は「東洋フラワーズ」のスカウトで、大木の獲得に腐心する。伊藤雄之助は大木の育ての親という立場。高知の田舎から大木を見いだし、学費を出して野球選手として育ててやる。伊藤は大木の両親から息子の将来一切を委ねるという証文をとっているので、各球団は伊藤を通して獲得交渉をしなければならない。だから世間は伊藤を大木のヒモとし、裏で甘い蜜を吸っていると陰口をたたく。
実際各球団から贈り物やら現ナマを受け取って私服を肥やす怪人物として、伊藤雄之助の存在感は抜群だ。胆石を患っているということで、ときどきお腹をおさえて悶絶し倒れ込んだりするが、岸恵子はこの半分は仮病だと喝破している。
岸恵子は大木の恋人役で、伊藤雄之助の愛人水戸光子の妹に当たる。野球のことなど関係なく、ただお金目当てで人気選手大木のまわりに蠢いている人間たちに我慢ならず、距離を置いている。
大木が金になると見るや、これまで家を離れていた兄たちが家に帰ってきて、今後伊藤雄之助との縁を切り、自分たちが後見すると言い出してくる。慌てて四国に飛ぶ佐田と伊藤。どの球団からもリベートを受け取って私服を肥やしている人物だと思わせておいて、実はもっともピュアに大木の野球人生を考えていたのが伊藤だったのではないか、そして伊藤や自分に群がるプロ球団を利用していたのは実は大木のほうだったのではないかという大どんでん返しがあり、伊藤が高知で病に倒れ映画は終わる。恐ろしい映画である。

年が明けてから山形で購った本

小林信彦『悪魔の下回り』(新潮文庫
カバー、105円。ISBN:4101158088
マキノ雅広『映画渡世 天の巻』(ちくま文庫
カバー、500円。ちくま文庫は本当にいい本を文庫にしてくれているなあ。そういえば読売新聞正月版の特集に、マキノ雅広の甥津川雅彦が「マキノ雅彦」を名乗って(襲名して)映画を撮ったという話が出ていた。轟夕起子マキノ雅弘の奥さんだったことを思い出す。この本に彼女との出会いのことが書かれてあった。ISBN:4480030727
★松井浩『打撃の神髄 榎本喜八伝』(講談社
カバー・帯、700円。新刊(2005年4月刊)で買い漏らしたときから、古本(ブックオフ)で探そうと心がけていた本。ようやく出会った。ISBN:4062129078
泉麻人『給水塔の町』(角川書店
カバー、105円。自らの少年時代を舞台にした書下ろし長篇。書名にある「給水塔」は哲学堂近くの野方給水塔らしい。めくると泉麻人的道具立てが多く目に飛び込んできて、買いたくなった。ISBN:4048730126
★塚谷裕一『漱石の白くない白百合』(文藝春秋
カバー・帯、700円。ダブり。ISBN:4163474706
山田稔『ああ、そうかね』(京都新聞社
カバー・帯、700円。ダブり。ISBN:4763804022