モリサワ タイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」に行ってきた
タイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」開催のお知らせ
最近は、P4D関連とかRuby関連とか、技術寄りのイベント参加が多くて、デザイナー向けのイベント(しかも偉大なタイプデザイナー様…自分にとっては神様みたいな雲の上の存在…)というのは緊張したが、とてもとてもおもしろくて、本当に行ってよかったです。興奮がさめないうちにメモを整理(ΦωΦ)
講演内容
- マシュー・カーター氏「欧文のテキスト書体とディスプレイ書体」
- 岡野邦彦氏「和蘭(わらん)ができるまで。」(和蘭:モリサワタイプデザインコンペティション 2012 和文部門 金賞)
- 小塚昌彦氏「ひらがなを考えよう」
の豪華布陣
以下、内容のメモ(ところどころ聴き逃して内容が不正確だったりします。あと遅刻したのでマシュー・カーター氏の序盤を聴き逃してしまった…モッタイナイ…)
マシュー・カーター氏「欧文のテキスト書体とディスプレイ書体」
Millar daily Roman
Vincent for Newsweek
- 新聞のために作った書体
- 題字や本文テキスト、黒字に白抜きで利用する用などいくつものパターンを作った
Monotype Bembo Roman
Verdana
- スクリーンで読まれる事に最適化して作った
- IKEAのパンフレットに採用された
- スクリーン用のフォントを紙媒体に使うなんて!…とデザイナー達にDISられた
- が、私は良いと思う
- 書体の出自が何であろうと、かっこ良ければそれでいいんだよ
Yale typeface
- イエール大学のための書体
- 大きいサイズで表示したり、スクリーンで使われる事を考慮
- 構内のゴミ箱にも使われててうれしい
monticello(モンティチェロ)
- 活版用タイプフェイス
- ミラー(左右反転)でスケッチを作る
活版のタイプフェイスは直線的すぎる- イタリックfとかの曲線が不恰好
- 写植になって改善
- 3Dから2Dになり技術の進歩で精密なフォルムが作りやすくなった
- デジタル時代になってから知らない人にものすごい雑に
コピーデジタル化された - 手書きの味わいをだすために自らリデザイン
- 縦と横のラインの接合部を盛る
- 横のラインにボリューム出し
- 書体をチョコレートに漬けた感じのボリュームを付加(これは逆、説もあり。自分は正と解釈した…が記憶に自信がない)
- 活版用のタイプフェイスをそのままデジタルに変換しても同じパフォーマンスは出ない
岡野邦彦氏「和蘭(わらん)ができるまで。」
フォントデザイナーを志すきっかけ
- 93年、マシュー・カーター氏のワークショップ
- sophiaを使って作られたパンフの美しさに感動
- フォントにもデザイナーがいる!という意識の目覚め
オランダ ハーグに留学 書体デザイン学ぶ
- オランダは美術館が専用の制定書体を持っていることが多い
- エッシャー美術館とか
- マウリッツハウス
- 専用のフォントは8カ国分用意される
- 日本語用のフォントはないのでパンフがすごく残念な感じに!
和文書体について
フォント制作の過程
- 200-300dpiでスケッチをスキャン
- Illustratorでトレースし作りこむ
- Glyphsでフォント化
- OTFに
- Illustratorで実際に打ってみて、またフォントから直してをくりかえす
- 出力チェックは未アウトライン状態でずっとやっていたがアウトライン化すると出力でフォントが太くなる事を思い出してアウトライン化した状態に合わせて全部直した
- アウトライン化してから出力チェックした方がいい
- 最近はリガチャーの要望も多いので、OpenTypeFeature のあるフォント作成ソフトがおすすめ(Glyphsはついてる)
クルマのデザインが書体デザインのヒントになった
- 横方向の流れ
- 下半身の重心
和蘭という書体名に込めた思い
- オランダでの経験
- オランダの低地と、書体の重心の低さをかける
- 蘭の小振りな花びらのイメージ
- 江戸時代の出島(唯一オランダとのみ貿易)
- 日本と世界をつなぐ架け橋になってほしい
小塚昌彦氏「ひらがなを考えよう」
縦書きの草書
- 傾きに注目する
- かな文字は1字1字は独立して見ない
- 1ワードが一続きでつながっている
- 「わ」右下がり
かな文字のスケッチ
- かな文字は筆を使って水彩のビリジアンを薄く溶いてスケッチ
- 鉛筆はつかわない
戦後の話
- カタカナ小さいのが多い
- いかにカタカナを大きくするかの流れが昭和20-30年代
- タイポス37 昭和34年
- 新書体ブームへ
- FrutigerやHelveticaのようなファミリーつくりたい
- かなを分解してそれぞれのエレメントをパターン化するという考え方
- 写植の時代へ
かな文字作りについての認識
- ひらがなの「は」は 「波」の草書体から生まれた
- 左側の縦棒はさんずいを象形化したもの
- ひらがなも漢字もエレメントのパターンを組み合わせて作ると認識してるかもしれないが、かなはその発想でいいのか?
- 漢字は表意文字だが、ひらがなは音声そのもの
- 日本語は表意と表音が混じり合ってる特殊な言語
『新書体』という本、 桑山弥三郎氏編集
- デザイナー30人が参加
- ほとんどがパターン化の発想で作られてる
例えば機械の読み上げ音声を例に考える
- あきはばらは「あ」、「き」、「は」、「ば」、「ら」
- ではなく 「あきはばら」と1ワード一続きで発音しないと変
- カナをパターンの組み合わせで考えることは、読み上げ音声の違和感と同じ感じがある
- ひらがなは出自から縦組み用に作られてる
書体における線
- のっぺりした単調な線ははじまりと終わりがない
- セリフの発生→線にはじめとおわりの区切りが欲しい
- ディスプレイ体は面の発想
- 横線を宙に指で書いてみて下さい
- 左から右に書くよね?右から左に書いた人いないよね?
- 漢字は右手でかかれたもの
- 石に文字を掘っていた時代、線のはじめとおわりは意識されなかった
- 紙と筆記具が使われるようになってはじめて、線のはじめとおわりが意識されるようになった
書体に制作において考慮するデザイン要素
- ウエイト
- 重心
- ふところ
- 地球に重力があるから、重心は下よりのほうがカッコイイ
- 宇宙に行って無重力状態になれば、上重心の書体がカッコよくなるかも?
かなのエレメントの出自
- 「に」「ほ」の左の縦棒は にんべんを象形化したもの
- 「は」 さんずいを象形化したもの
- 似ているが出自が全く違う物を同じように表現していいのか?
- 似たようなものは単純化パターン化するのがタイポスの考え方だがそれでいいのか?
かなは発音すると全部違う音であるように、現代において当たり前になったパターン化、画一化に対してもっと懐疑的になっていい
文字とは
- 文字は目で見る言葉である
- 文字の形は右手の軌跡である
- タイポグラフィは民族のもの
陸隷書という書体(モリサワ)
- 中国の作者にかな文字を追加で作ってもらった
- かなの来歴を説明
- 作者納得しない
- 「あ」隷書にテールをくるっとはらうパターンはないと抵抗
- 外国の方に無理言って作ってもらって申し訳なかった・・・
活版の種字
- 正確な作り込み難しい
- 活字の母型の深さが不揃いだと刷りの太さにむらが出る
活版書体を縦組みで美しくみせるために傾きを調整
- 「ね」「な 」前のめりに傾かせる
- 「る」 中心より左寄りに置く
- こうした調整ができないのが鉛の活字の限界だった
横組を意識して運筆方向を決める
- 50音中14字は左下方向のはらい (一番多い)
- 終筆のハネはじゃまなときがある
- 横組には横組の作り方がある
タイプフェイスの機能
- 一列にならぶこと: alignment
- 情報を正確に伝達する: text
- 視覚的イメージを表現: display
質疑応答
Q: 文字デザインのデジタル化の影響についてどう思われますか?
カーター氏
小塚氏
- 原点はかわらない
- 読者が気づかないように旧来のものを現代の技術で再現し、技術を生かして今までにできなかった事を表現するのが現状
- 写植もデジタルも転換期は重鎮にDISられる
- これから画期的にタイポグラフィは変わる
- 日本語にはプロポーショナルな書体がない
- 欧文のハイフネーションのような発想も必要
岡野氏
- 自分が新しいんじゃないかと思ったアイデアが、金属活字の時代にも行われていたりする
- 古いものに学びつつ、新しい事にチャレンジ
- 使い方によって文字の形も動的に変化していいのでは
Q (カーター氏へ)かな文字はワードごとの固まりでとらえるという小塚氏の話をうけて、欧文書体の組版ではどうお考えですか?
- 欧文では、文字は組み合わせる事でしか意味をもたない
- 可読性が最重要
- それぞれの文字を単体で見せるのに注力するのは本末転倒
- 文字そのものには意味がないから
- 文字同士のスペーシングが最大の意味を持つ
Q 文字に興味をもったきっかけは?
カーター氏
- 父がタイポグラファーだった
- オランダのタイプ鋳造所で働いた
- デザインより前に活版作りから学んだ
- 見習いからデザインをはじめた
小塚氏
岡野氏
- 学校の課題で毎週ポスターを作る
- 文字を使うには見本帳を繰って選ぶ→イメージにあうものがない!
- 写真は自分で撮り、イラストも自分で書くのに…文字だけは他人の作ったものを使うのに疑問
- 自分で作ろう
Q カッコよさとユニバーサルデザイン・視認性への配慮の両立にジレンマ。乗り越えるこつは?
小塚氏
- 大きくすれば見える。大きくすれば情報は減る
- 専用のフォントを作るには資本がいる。デザインだけの問題ではなく社会のバックアップが必要。
感想
- タイプデザイナーはやっぱり偉大だった…!
- 自分にはとてもなれそうにない…
- でも作ってみたいのでGlyphs買おう(ΦωΦ)
- かっこ良ければいいんだよ、っていうのがいいよね!(IKEAの話とか)
- マシュー・カーター氏のセリフ、ホント美しい!
- 岡野氏、初めての和文書体製作であのクオリティすごい!そして直し続ける執念、情熱、ただひたすら頭が下がる。自分には真似できそうにない。
- 和蘭のビジョンもすごく良いと思った。従属欧文に対する問題意識。普段のデザインワークの中でのモヤモヤを解決するために生まれたものっていうのもいい。
- 小塚氏のお話はすごく本質に迫ってて、モダニズム以降の流れに今一度懐疑的になって新しい価値を生み出せという、現代のデザイナーへの応援メッセージに思えた。今は歴史の転換期なのだなと改めて感じて胸熱。
- 遅刻して一番端っこの後ろの席だったせいで、前の席に岡野氏、隣にマシュー・カーター氏…というおいしいポジションに…(ΦωΦ) ファーー!となった
- 当然なんだけど、タイプデザイナーの方々はみんな「フォント」って呼ばずに、「書体」「タイプフェイス」って呼ぶ。それがいいよね。
- あと、岡野さんの話でも10年かけて作るって、和文書体ってやっぱり大変だよなあ…我々は使う側だからそれを気軽に選んだり、上から目線で褒めたりDISったり…ホント気楽なもんですよ…(すいません…
雑談 with @machida, @saucerjp
このあと、一緒に来てたデザイナー友達と、デザインについてすごい話してすごい楽しかった。デザイナーどうしでデザインについてまじめにこんなに話すのはすごく久しぶりで(プログラマとシステムについて話すことは多いのに…)、やっぱり自分はデザインが好きだなあと思った。
色んな話をしたのだけど、この2つが特に自分的に印象的。
デザイナーのコアスキルは何だろうね?
理屈は後付けだよね?
- デザイナーは感覚的なものが先に来て、後でその理由を言語化して納得して確信を得る(もしくは人に説明するための手段を得る)
- というか、感覚的にモヤっときてるものの背後には必ず、確固とした理由があるので、それを後から言語化するのはそんなに困難ではない。
- ところが人に説明するときには、理屈で説明するしかないので、まず理屈から入ってデザインしたんだなと思われがちなんだけど、割とそれ、実態とは違うよね。。
- 結局、自分で作る中で、感覚と審美眼を磨くしかないんだよなー。
的な話をしてて、書いてたらこんな時間だ…!!
仕事中に抜け出させてもらって行ってきたので、これから仕事します・・・・すみません。。。
いやー、デザインって(つらいけど)楽しいですね。いいものですね。
追記
読んだ方からフィードバックいただきました。ところどころ間違ってたみたいだ。すいません・・・
ご指摘、ありがとうございました。
「デジタルになってから知らない人にものすごい雑にコピーされた」
→ これって、おそらく、許可のない「コピー」ではなく、マシューさん自身が最初のデジタル化に関与しなかっただけではないかと思います。そのデジタル化はあまり良くなかった。
→Monticelloを出すことのできる正当な会社によるデジタル化が、例に出されてあれだったのか100%確かではないので、「コピー」ではなく、「デジタル化」とかに変えれば問題ないかと。
「書体をチョコレートに漬けた感じのボリュームを付加」
→ これは逆です。「そうではない」と言っていました。チョコレートを付けたように全体を太くするのではなく、例えば、ステム(縦画)はやや太くするくらいに、セリフ(横画)の太さはそれよりももっとウェイトを強めた、という感じだったはず。
→ もちろん、「ステム=縦画」、「セリフ=横画」の意味ではありません。あの例のなかで、縦画のうち、例えばステム、太くした横画のうち、例えばセリフ、という意味です。
「活版のタイプフェイスは直線的すぎる」
→ これって言ってましたっけ? 機械の制約のせいで、イタリックのfが途中で切れた感じで、しかもほかの文字よりも角度が直角に近くなってしまったというようなことは言っていたと思いますけど。
Vincentのところに、「新聞のために作った書体」って書いてありますけど、「雑誌」ですよね。
Verdanaの綴り、間違ってる。