「雑誌『近代文学』派というのは、左翼白樺派だな」 先輩にして恩人でもある、小説家の夫馬基彦さんが、ある昼休みの講師室でお茶を飲みながら、ボソッとおっしゃった。むろん冗談半分にだが、言いえて妙でもあると、聴いていて思った。佐々木基一と本多秋五あたりが念頭にあっての一言だったろう。平野謙をも含むかもしれない。 夫馬さんからは文学全般についてずいぶん教えを受けたが、ことに連句(歌仙)を教わった。夫馬宗匠による捌きのもとで、かなりの歌仙を巻いた。私以外は英文学者とジャズ演奏家で、連衆四名は月に一度、小料理屋の座敷に集った。 なにせ酒と雑談が七で俳諧が三の愉しい一夜だから、一巻を巻くのに何か月もかかった…