残り物の皿を舐めまわすように、仕舞いの一滴までをも読み取ったとはとうてい思えぬままに、別れなければならぬ小説ばかりだ。 細部までをも検討する機会など、もはや訪れることもあるまい。実例用例を地道に積み重ねて立証せねばならぬ機会も、ありえまい。かつて深刻な興味を抱いて読んだ作家だとて、選りすぐりの代表作のみを寄せた選集を一冊残せば十分だ。私らの世代で申せば、クリーム色の箱入り「新潮日本文学」があれば、また文庫化された代表作があれば、事足りる。 単行本類にたいしては、造本やら装丁やらに懐かしき思い出もあるが、店仕舞いが優先だ。安岡章太郎を、庄野潤三を、小島信夫を、それに出し残してあった島尾敏雄を、古…