作家。1915年(大正4年)2月28日、岐阜県生まれ。 吉行淳之介・遠藤周作・安岡章太郎などと共に第三の新人と称される。 1955年「アメリカン・スクール」で芥川賞。 1966年『抱擁家族』で谷崎潤一郎賞。 1972年『私の作家評伝』で芸術選奨文部大臣賞。 1981年『私の作家遍歴』で日本文学大賞 1982年日本芸術院賞。 1983年『別れる理由』で野間文芸賞。 1998年『うるわしき日々』で読売文学賞。 2006年10月26日歿。
残り物の皿を舐めまわすように、仕舞いの一滴までをも読み取ったとはとうてい思えぬままに、別れなければならぬ小説ばかりだ。 細部までをも検討する機会など、もはや訪れることもあるまい。実例用例を地道に積み重ねて立証せねばならぬ機会も、ありえまい。かつて深刻な興味を抱いて読んだ作家だとて、選りすぐりの代表作のみを寄せた選集を一冊残せば十分だ。私らの世代で申せば、クリーム色の箱入り「新潮日本文学」があれば、また文庫化された代表作があれば、事足りる。 単行本類にたいしては、造本やら装丁やらに懐かしき思い出もあるが、店仕舞いが優先だ。安岡章太郎を、庄野潤三を、小島信夫を、それに出し残してあった島尾敏雄を、古…
本日は早朝から台所で作業をしていまして、そのあとはトレーニングと やること多く忙しでありました。その合間に手にしていたのは、昨日に話題に した「現代文学の発見 物語の饗宴」に収録の由起しげ子「女の中の悪魔」 でありました。 この小説は、二段組で50ページほどの中編で、さすが「物語の饗宴」に 収録されているだけあって、とても面白く読むことができました。由紀さんの 小説を読むのは初めてのことでありまして、このような小説も書く人であった のかと思うことで。 当方は、どうしても小島信夫さんの小説を読むための下調べのような感覚 で、この由紀さんの小説に由紀さんの私生活が反映していないかなと思って 見てし…
昨日にアンソロジスト松田哲夫さんの本を見ていましたら、強烈な印象が 残っているシリーズとして「現代文学の発見」(學藝書林)のことをあげていま した。このシリーズに影響を受けたという人は、あちこちにいてそこそこ知られて いるのですが、40代以下の人はほとんど手にしたことがないでしょうね。 このシリーズは、ずっと後年になって新版がでているのですが、それは最初 のものとは、すっかり装丁がかわっていて、当方はなかなか馴染めないものに なっています。 「現代文学の発見」といえば、粟津潔さんでありますね。当方は、何冊も架蔵 學藝書林版 現代文学の発見 第16巻 物語の饗宴 粟津潔 装丁 しておらないのです…
本日は鉄道旅行の日でありました。普通列車に乗って100キロの 道のりを移動するというものです。 100キロ行って、昔ながらの団子やに立ち寄ってお団子を食べると いうのが旅行の目的でありまして、行かなくては食べることができない のでありますから、旅行の目的としては十分でありましょう。 それにあわせて駅そばの本屋で新刊などをチェックしてみようかなと 思いましたです。今月の文庫新刊とか、一般の新刊で手にしてみたいも のがありまして、それらが入っていないかなです。 ということで、気になる新刊であります。 日記から 作者:坪内祐三 本の雑誌社 Amazon 坪内さんが「毎日新聞」に連載していたものが初め…
購入。 絶えず本を読み続けていないと人生の深淵に真っ逆さまに滑落してしまうのを恐れている。読む本は、手探りの中で何か「引っかかり」を感じたものを掴んで、それから次の「引っかかり」に手を伸ばして絶壁を進んでいくという。自分で「ロッククライミング式」読書というやり方を採用している(というか自然にそうなった)。 それとは別に、新刊が出ると必ず買うという作者が何人かいて、菊地成孔はその一人。おそらく全巻揃えている(この人の全集は多分出ないだろう)。 しかも大谷能生との共著とあっては、買わないというわけにいかない。 それとは別に、「ロッククライミング」方式で小島信夫の『別れる理由6』(小学館P+D BO…
ちょっとほかに読むものがたくさんあって間隔があいたが小島信夫「小説作法」(中公文庫、2023年4月)のつづきを電車の中で読んでいた。 ドストエフスキーの「悪霊」について語っている部分は面白く読んだが、自分があまり関心のない話題(ドガや戯曲やカフカや)についてはつい読み飛ばしてしまう。 というのも小島信夫の語りというのはたいへんに回りくどくて、何がいいたいのか話を聞いていても(文章を読んでいても)さっぱり合点がいかず、面と向かって聞かされていると「いいから要点と結論を言ってくれ」と怒鳴りそうになって来るからだ。 とりわけ「私の最終講義」という副題がついた「小説とは何か」という講義の中で「チャリン…
新刊で出たばかりの小島信夫「小説作法」(中公文庫、2023年4月)を買う。 最近は小島信夫はまったく読まなくなった。というより、読むのが嫌だった。その理由はのちに述べるが、2年くらい前に小島信夫の虜になっていた頃は、手に入る限りの小島の小説をすべて読み、「抱擁家族」と「うるわしき日々」をワープロで全部書き起こしたりしていた。 小島信夫の小説には磁場のようなものがあって、そこにハマるとちょっと頭がおかしくなって、考え方に変なクセがついてしまう。その磁場からいったん抜け出すと、もう一度入りたいとは思えない。 しかし今回の新刊は単行本未収録の対談も収録されており、買えるときに買わないとすぐ絶版になる…
数日前に友人と居酒屋へ行ったときに刻んだ蕗の薹と桜エビのかきあげを食べた。数駅となりの町にある居酒屋へ行くために、まず家から最寄り駅まで自転車で行った。途中、中学校の正門の横にある八重桜が咲いていた。今が盛りと咲いていた。かきあげの蕗の薹の苦味が美味しかった。その翌日の昼には冷製パスタを買ってきて家で食べた。近所に評判の良いパスタがテイクアウトできる店があり、ときどき買ってくる。冷製パスタは二種類あって、冷製パスタはじめました、というポップが添えられていた。海老とアボカドとフレッシュトマトとブロッコリーと水菜のペペロンチーノという冷製パスタだった。その翌日にはたくさん黄砂が飛んできた。なんとな…
残光 作者:小島 信夫 新潮社 Amazon 『残光』小島信夫著を再読。 確か第三の新人に含まれている人で、安岡章太郎や庄野潤三あたりのユーモアにも通じるものがある。他に何作か読んだ。読んだとしても、たぶん、覚えてはいない。拙ブログを検索して確認する。 これは加齢のせい、それとも記憶の容量に問題があるのか。ともかく映画もかつてスクリーンで見て感動なり興奮なりしたはずなのに、TVやDVDで再見すると、何か違っていたりする。 『残光』は、読書人関係のWebやブログを拝見してどうも読み辛そうだという先入観があった。あった、あった。而してそれはこの本を読み進むにつれてコッパミジンに粉砕される。 90歳…
もう日本は経済的に大きく浮上することはなく、ジリ貧に陥る一方と思われるので、これからは経済的な豊かさ以外のことに主な喜びを見出していくしかない。そんな時代にあって、貧困や苦しみの中で何気ない日常生活に生きる歓びを見出すことの価値を教えてくれる私小説の存在意義は大きい。とりわけ高齢者の書く私小説が増えていくのは必然であり望ましいことだ。保坂和志の短編小説に文字通り「生きる歓び」というのがあるが、これはいい小説だと思う。あっさり書かれているように思えるから自分でも書けるんじゃないかと思って書こうとしても、当たり前のことだが書けない。それでも読んでいるだけでも面白い。保坂和志は小島信夫に傾倒していて…