もう日本は経済的に大きく浮上することはなく、ジリ貧に陥る一方と思われるので、これからは経済的な豊かさ以外のことに主な喜びを見出していくしかない。そんな時代にあって、貧困や苦しみの中で何気ない日常生活に生きる歓びを見出すことの価値を教えてくれる私小説の存在意義は大きい。とりわけ高齢者の書く私小説が増えていくのは必然であり望ましいことだ。保坂和志の短編小説に文字通り「生きる歓び」というのがあるが、これはいい小説だと思う。あっさり書かれているように思えるから自分でも書けるんじゃないかと思って書こうとしても、当たり前のことだが書けない。それでも読んでいるだけでも面白い。保坂和志は小島信夫に傾倒していて…