小説家。 1920年、旧満州新義州生まれ。2002年没。 1970年に、終戦後の収容所体験を基にした『プレオー8の夜明け』で第63回芥川賞を受賞。 代表作に『セミの追憶』(新潮社)、『断作戦』『龍陵会戦』『フーコン戦記』(文春文庫)、『妻の部屋』『二十三の戦争短編小説』『兵隊蟻が歩いた』(文芸春秋)他多数。 戦後25年を経て50歳に至っての実質作家デビュー、徹底した一兵卒の視点、と、異色ながら貴重な戦争文学者である。
斎藤真理子さんの「在日コリアン翻訳者の群像」(編集グループSURE刊) を読みついでいます。SUREの黒川創さん、歴史研究者水野直樹さんなどを 聞き手として、斎藤真理子さんが質問に答えながら、日本での朝鮮文学の 翻訳史について語るというものです。 朝鮮半島の政治情勢とその上にのっかっている文学者たちであります。 知らないことがたくさんで、非常に勉強になります。当方などは、やっと最近に なって韓国の小説を読んだのでありますからして、死ぬ前になんとか間に合っ たというところであります。 当方が比較的なじんでいると思っていた作家さんに、このような活動があっ たのかとちょっと驚いたことであり。斎藤さん…
動作も物言いも、慌てず騒がずといった風格だった。なにをなさっても、山が動くという形容がピッタリだった。 「第一次戦後派と云ったって、せんじ詰めれば野間宏と椎名麟三の二人だけだろう」 文芸界の名編集長のお一人である寺田博さんが、あるときおっしゃった。気楽な酒場トークのなかでである。カウンターの隅っこで耳をそばだてていた私は、わが意を得てひそかに安堵した。日ごろさよう思いながらも、私ごとき雑魚が口にできる事柄ではなかったのである。「そうですよね、寺田さん」と、胸の裡でつぶやくしかなかった。 矛盾や不合理がいく重にも絡みあって、容易には解きほぐせぬ錯雑さに身動きとれぬ日本近現代史を、あるいは近現代の…
先日に訪れた京都岩倉の安価な本を二冊抜いて購入したのでありますが、 この二冊は朝鮮半島つながりの本でありました。 1冊はヤン・ヨンヒさんの「朝鮮大学校物語」ですから、これは日本で生きる 共和国民の話ですから、半島につながっているというのはわかりいいのですが、 もう1冊は古山高麗雄さんのもので、こちらは生まれが戦前の統治下の半島で ありました。名は体を表すでありまして、高麗というのは朝鮮半島を一つにして 建国した王朝の名称であります。 古山さんが生まれた新義州について書いた文章を過去にも話題にしており ますが、先日に購入した「他人の痛み」中央公論社 昭和54年刊(そういえば これは中公文庫にはい…
妻の部屋 遺作十二篇 (文春文庫) 作者:古山 高麗雄 文藝春秋 Amazon 『妻の部屋 遺作十二篇』古山高麗雄著を読む 四十歳を過ぎたあたりからだろうか。結婚式よりも、葬式に出る方が多くなったのは。今は年賀状だけのやり取りだけになってしまった学生時代の友人や昔の会社の上司や同僚から喪中欠礼が届くなんて、つい先だってまで考えたこともなかった。 大学生の時分、心理学の教授から戦前の青春を聞かされてなんだか羨ましいと思ったことがある。カフェの可愛い女給に入りびたったり、クラシック音楽やアメリカ映画にうつつを抜かしたり、玉の井の女性とねんごろになったり。大学も駅弁大学(by大宅壮一)と呼ばれる今よ…
★★★★☆ あらすじ 短編集。表題作は、敗戦後に戦犯としてサイゴン刑務所に抑留された主人公たちの日常を描く。芥川賞受賞作。タイトルの読みは「プレオ―8(ゆいっと)の夜明け」。 感想 従軍体験をした著者による戦争小説だ。読んでいると、実際に戦争に行った人の話は違うなと実感させられる。戦争経験のない自分たちが考える、戦争はこういうものだったはずという思い込みを打ち壊してくる。 割と頻繁に、死にたくないとか上官がムカつくとか考えていたという話や、また慰安婦の話などが自然な流れで出てくる。自分は日本の戦争映画などは良く描き過ぎだろうと思っている方だが、そんな自分でさえ、戦争ってそんな感じだったの?と驚…
「師走に入りましたが、京都ではことし紅葉が遅れていて、京都市の名所では今週見頃を迎えています。━━東山東福寺は、境内に渓谷があり、およそ2000本のカエデが植えられています。━━見頃には参拝者が一日1万人以上訪れ━━。」(NHK NEWS WEB<京都 NEWS WEB>令和6年12月4日)片腕はみやこに残す紅葉哉 宝井其角。謎のような句である。たとえば、紅葉という鬼女の話がある。「第六天の魔王の申し子として会津の伴笹丸夫婦の間に生まれた呉葉(くれは)は、都に上って名を紅葉と変え、美貌と魔王から授かった力を使って源経基に近づく。経基の寵愛を受けるようになった紅葉は奥方を呪詛するが、発覚して戸隠…
回受賞年 受賞者受賞作掲載誌 1712024上 朝比奈秋サンショウウオの四十九日新潮 1712024上 松永K三蔵バリ山行群像 1702023下 九段理江東京都同情塔新潮 1692023上 市川沙央ハンチバック文學界 1682022下 井戸川射子この世の喜びよ群像 1682022下 佐藤厚志荒地の家族新潮 1672022上 高瀬隼子おいしいごはんが食べられますように群像 1662021下 砂川文次ブラックボックス群像 1652021上 石沢麻依貝に続く場所にて群像 1652021上 李琴峰彼岸花が咲く島文學界 1642020下 宇佐見りん推し、燃ゆ文藝 1632020上 高山羽根子首里の馬新潮…
芥川龍之介賞(通称・芥川賞)の1970年代の受賞作品一覧です。 目次 第63回(1970年上半期) 第64回(1970年下半期) 第65回(1971年上半期) 第66回(1971年下半期) 第67回(1972年上半期) 第68回(1972年下半期) 第69回(1973年上半期) 第70回(1973年下半期) 第71回(1974年上半期) 第72回(1974年下半期) 第73回(1975年上半期) 第74回(1975年下半期) 第75回(1976年上半期) 第76回(1976年下半期) 第77回(1977年上半期) 第78回(1977年下半期) 第79回(1978年上半期) 第80回(1978年…
2024年11月30日時点での既刊及び刊行予定の講談社文芸文庫全1,319点(日本文学1,247点/海外文学72点、ワイド版を除く)をあげた。文庫の整理番号順に従って表記(一部変更あり)した。編者、訳者は一部を除き割愛した。 阿川弘之『舷燈』 阿川弘之『青葉の翳り 阿川弘之自選短篇集』 阿川弘之『鮎の宿』 阿川弘之『桃の宿』 阿川弘之『論語知らずの論語読み』 阿川弘之『森の宿』 阿川弘之『亡き母や』 阿部昭『単純な生活』 阿部昭『大いなる日/司令の休暇』 阿部昭『無縁の生活/人生の一日』 阿部昭『千年/あの夏』 阿部昭『父たちの肖像』 阿部昭『未成年/桃 阿部昭短篇選』 青柳瑞穂『ささやかな日…
○8月には、太平洋戦争や原爆関連の情報が多くなる。 その月に限らず、それに関心を寄せてきた。1947年生まれの私は、小さい頃、新宿や上野など街角で傷痍軍人による義援金?活動に接するたびに、異様な感を受け、遠くから見ていた。 成長してからは社会問題に関心をよせるようになり、母が生まれ育った日本統治下の朝鮮問題を調べ、太平洋戦争についてもっと知っておきたいと思うようになった。 60歳を過ぎてから、90歳を超えた二人暮らしが厳しくなった義父母と暮らし、義母から朝鮮・元山からの引き揚げ体験の話、義父から朝鮮時代や参戦の話をよく聞くようになり、いろいろなことに疑問を覚えるようになってきた。 だが、各種戦…
八月十二日 金土日と三日間営業。明日は井尻さんのところへ本の入れ替えに行くから休みで、明後日も開ける。少しずつ、自分の中でイメージとリズムを合わせていきたい。昨日で店舗開けて1年たったので。まだまだ。お盆前だけど、一気に気温が下がった感じがあって嬉しい。営業中、何度も外の空気を吸いたくなる。昨日は久しぶりの人、初めましての人、それぞれじっくり本を探してくれる。夕方、いつものお客さん、ぼくが着ていたBOOKNERD tシャツに反応してくれる。その人は少し前に盛岡に行っていたらしく、BOOKNERDや羅針盤などを回ったらしい。そして早坂さんの著書「ぼくにはこれしかなかった。」を数日前に読み終わると…
(8/2)ひとまず100点選書。第一弾の選書なので推薦本には頼らず。蔵書とアマゾンのブックリスト、これまでの読書経験と知識を駆使して、読みたい本を直感で選んだ。 今のところ順番はランダムだ。3500の選書リストが完成するまでには適切な分類法を見つけようと思う。その際、選書やリスト作成におけるルールも付記する(表紙画像は載せない、アマゾンや出版社ページへのリンクは貼らない等)。 (8/3)200点選書。 (8/4)300点選書。 (8/5)400点選書。そろそろ分類しないとね。日本十進分類法を参考にする予定。 (8/9)500点選書。 (8/10)600点選書。 (8/11)700点選書。 (8…
DJヒロヒト 作者:高橋 源一郎 新潮社 Amazon 『DJヒロヒト』高橋 源一郎著を読む。 分厚いが、読み出したら、面白くて、面白くて。『日本文学盛衰史』のスタイルを、さらに発展させた感じだそうだ。にしても、膨大な資料(著作や記事など)を読み込んで、そこから大胆にリミックスしている。なぜDJなのか。大日本帝国の命運を、ある意味、DJエディット*していたからなのだろうか。 ランダムに一部をセットリスト風に紹介を。ちと、無理くりだけど。 01.熊楠と天皇ヒロヒト。有名な神島での出会い。熊楠は反神社合祀運動で森の伐採に反対した人。さらに大逆事件との関連も。おつきの人は反対したが、ヒロヒトは押し切…
芥川賞受賞作を遡って読んでいるひとこと感想の続きです。70年代の分です。 1980年代:続続続・芥川賞ひとこと感想日記(1989-1980) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 1990年代:続続・芥川賞ひとこと感想日記(1999-1990) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 2000年代:続・芥川賞ひとこと感想日記(2009-2000) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 2010年代以降:芥川賞ひとこと感想日記(2022-2010) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) ■ 森禮…
「桜のめでたく咲きたりけるに、風のはげしく吹きけるを見て、この児(ちご)さめざめと泣きける」。さめざめ、とは止まらぬ涙をこぼして泣くということ。この稚児は片田舎からひとり比叡山に預けられ、修行していた。「これも今は昔、田舎の児(ちご)の比叡の山へ登りたりけるが、桜のめでたく咲きたりけるに、風のはげしく吹きけるを見て、この児さめざめと泣きけるを見て、僧のやはら寄りて、「などかうは泣かせ給ふぞ。この花の散るを、惜しう覚えさせ給ふか。桜ははかなきものにて、かく程なくうつろひ候ふなり。されども、さのみぞ候ふ」と慰めければ、「桜の散らんは、あながちにいかがせん、苦しからず。わが父(てて)の作りたる麦の花…
本日は午前のうちに京都へ移動することになりです。着替えとお土産と車中て読む文庫本だけを持参です。京阪で出町柳まで行って、叡電に乗りかえて岩倉までです。乗り換えがスムーズにいきまして、思ったよりも早くに目的地につきました。 今回のお楽しみは、近くに新しく開業した小さな古本屋さんを訪ねることでありました。岩倉に着いてから、一休みしているうちに、雨となりましたが、傘をさして訪問しましました。先日は、京都で古い歴史の古本屋さんが、閉店したと話題になっていましたが、新しく開業される方もいらして、うまくいってほしいものとおもいました。 若い店主さんは、生田さんといわれて、あの愛書狂生田さんのお孫さんとのこ…
河合隼雄(1928―2007)が、国際会議に出席するために北京に行った時、日本人女性の留学生から一通の手紙を受け取った。手紙は、彼女の苦悩を伝えていた。 「私は中国人の学生と親しくなるにつれて、率直な意見を聴くようになりました。 『あなたと親しい間柄だから言うけれど、なぜ日本人はあのような残虐行為ができたの?』 そう言って、日本が中国を侵略した時の具体的な残虐行為を詳細に聞かされ、私は、いたたまれない気持ちになります。先生、どう応えたらいいですか。教えてください。」 河合隼雄はこの手紙を読んで、自分もこの問いを引き受けていかねばならないと思う。 大江健三郎は、この手紙にこう応えた。 「このよう…