浮世ばなれの昔噺にて、お耳を汚します。昆林斎胡内と申します。 わが国近代の文士がたは、諸外国の文学をよぉく勉強なさいまして、上手に摂取いたしました。しかし何事におきましても、追いつき追いこせと励みます者の哀しさ。とかく急ぎ足にて事を運ばねばならず、時計を早回ししなければなりませんでした。ときには前後するふたつの時代を、同時に勉強しなければならぬ場合すらございました。 ところで芸術思想の分野では、十九世紀的な枠組み・二十世紀的な枠組み、などと申します。「枠組み」とは、根本の考えかた、暗黙の約束事、という意味になりましょうか。これとは別に、近代的枠組み、現代的枠組みという申しあげかたもございます。…