ミシガン出張

東海岸のミシガンに行ってきた。
火曜から金曜までガッツリ仕事で出張だ。
なんだかんだで昨年から既に3回目か4回目になるミシガンだが、徐々に仕事の種まきをしている段階だ。新しい顧客と会ったり、関係を構築したり、こういう新規開拓の仕事は根気もいるが楽しい仕事でもある。
ミシガンにはホームオフィスのローカルマネージャーがおり、彼と一緒に顧客を回った。

ミシガン州デトロイトのある州で、自動車の街だと言って差し支えない。米国の大手自動車メーカーが三社も本社を構え、日本企業も工場を構えて多くの部品メーカーも点在するまさに自動車の街、モーターシティ。
豊田市であってもトヨタ一社なのに、ミシガン州にはグローバルレベルの会社が3つもある。
(愛知三河まで広げれば、トヨタ、三菱、ヤマハ、スズキがあることになるから、中部地区もそれはそれで自動車の街なのだが)

しかし、そんなデトロイトが栄華を誇ったのはもう随分昔の話であり、もはや10年前だが、08-09年にはGM、Ford、クライスラーが破綻してオバマ政権時に国による救済がなされ、デトロイトの街やオフィス、民家は半分くらいは廃墟となり、人々は郊外に飛び出して行った。白人の裕福な層が郊外に出て行きドーナツ現象が起こる「ホワイトフライト」なる現象も起きていったそうで、今でもデトロイト市内は治安が悪いことこの上ない状態になっている。Uberにも何度か乗ったが自動車メーカーのFordやGMで働いていた技術者が食い扶持が無くなり、泣く泣く?Uberドライバーをやってるケースも少なくない。

ミシガンを担当してくれているローカルのセールスマネージャーのRobは非常に前向きで押しの強いまさに「アメリカのセールスガイ」といった趣で、彼の不屈の精神というかガッツや明るさには周りを楽しくさせる雰囲気がある。またアイデアマンでもあり、展示会での見せ方の工夫などが上手く、どうやって売るのが難しい製品を売るか、すごく考えてくれている。大学では指に怪我をするまでは電気工学を学んでおり電気関係にも強い。ミーティングでは電気関係の話も結構出るのだが、私がバシバシ話していたら、「お前の大学出の選考は電気工学だったのか?」と聞かれたが、私は法学部だった…、日本の大学とアメリカの大学の差とか色々考えることが多い。面倒なのであまりきちんと説明はしなかった。日本とアメリカのセールススタイルとか物事の進め方は相当に違うことを感じることが多い。アメリカの典型的なセールスマンは砕けた話し方をするし、楽しい話をして電話をガンガンかけてなんぼ、といった趣がある。日本のセールスマンは業種にもよるが、エンジニア相手のBtoBの場合は落ち着いてることも多い。あんまりガンガン話しかけるような感じではないことも多い。

GMの本社は今も湖の近くにあり、デトロイト市内中心部にあるが、私の扱う製品は電子材料でありGM, Ford、クライスラーのようなOEM(カーブランドメーカー)に行くことはほとんど無く、実際にはデトロイト市から出てしばらくしたところにあるいくつかの郊外の街NoviやファーミントンヒルズなどにあるTier1(1次下請けと書くほど小さい会社ではないが)を訪問することになる。

自動車は30,000点を越す部品から作られており、非常に多くの部品メーカーがこれらを供給している。その中で勤務する人も星の数ほどに多く、正しいコンタクトパーソンを探すのはまさに「砂漠の中で砂つぶを探す」こととそう変わらない。地道に展示会に出展したり、展示会にいる人に声をかけてつかまえたりしてなんとかかんとか製品を紹介しようとする。そうやって始まったプロジェクトもいくつかある。

プロジェクトを前進させるためにあれやこれやとネットワーキングしたり、客に会って関係を深め、製品を理解してもらい使ってもらおうとする。これまでたくさん使われてきた分野でもないので、最初は産みの苦しみがある。お客様からも様々な質問があり、結構タイムリーかつスピーディーな回答は大変だ。西海岸ほど英語もゆっくりではなかったりもするし、先方も日本人に慣れてないケースも散見される。英語のイントネーションなども微妙に異なる。
移動時間の間もワイワイRobと話してるので、1日が終わるとヘトヘトになる。やっぱり英語で話してる時はちょっと別の脳を使ってる気はする。レストランで食事してからホテルでぐったりだ。時差の影響もある。(デトロイトサンノゼは3時間の時差。デトロイトの方が3時間早い。時差ぼけはなかなか直らない。)

シカゴの近くにあるHollandという街に行く時は車で3時間ほどかかるため、Robとあれこれと車で話をした。
・ホワイトフライトの話
・いかにイギリス人がネイティブアメリカンを駆逐したか(ちょっと、毛布による伝染病の話はひどいなあ、と思ったが…)
・また、アメリカ大陸で一万年前までは馬が沢山いたが一旦、ネイティブアメリカンの乱獲によりアメリカ大陸では絶滅した話とか…西部劇観てたらなかなかピンと来ない話だ。
・日本に研修で行った時にお酒を飲みすぎた人の話とか、ホテルが死ぬほど狭くて驚いた話とか…アメリカのホテルはバストイレ式だが、日本のビジネスホテルのユニットバスに比べるとそこまで狭くはない。

私もあれこれと日本の話をした。坂本龍馬の話とか…アメリカ人は知らないよねえ。明治維新の話とかちょんまげの話とか。あと、WW2の時に韓国人に日本軍が酷いことをしたのは本当か?という話も。日本政府と韓国政府の最近のやりとりとかを中心に話したり。案外、韓国側のプロパガンダ、ということはすぐにわかってもらえるものですね。

彼自身がバイクに乗るのが趣味だったとか車を5台、ボートを二台持ってるだとか、湖のほとりに家があるだとか、場所によっても家の値段が違うとか。Robの家にもたまたま行った。娘さんが可愛かった。

そんな中で印象に残ったのは「なぜ、ミシガンでは殆ど、テスラを見かけないのか?」という私の素朴な疑問に対する答えだった。

彼は「テスラの車のデザイン自体は好きだよ」と前置きした後で語ったことは、こうだ。

1. ミシガンやその隣のオハイオインディアナ州まで含めたエリアでは3つのOEMの本社や工場、日系自動車メーカー、Tier1の多くが製造工場をこのエリアで構えておりここに働く従業員やこの産業で働く人たちが非常に多い。
2. 自分の親もOEMの工場に勤めているし、兄弟もそうだ。
3. だから、ビッグ3のクルマを買うことで自分の家族や友人、仲間や親戚を結果的に助けることになる。テスラを買ってもミシガンの友達や家族の助けにならない。

たしかにテスラは台湾系サプライヤーや日系サプライヤーの存在感が強く、ミシガンの会社にはあまりお世話になっていないかもしれない。電池はパナソニックだしね。テスラ自身のカリフォルニア州フリーモントの工場はGMトヨタの合弁だった工場を買い受けたものだが…。
こうした情緒的な判断で車が買われることもあるのだなあ、と感慨深くもなった。それは豊田市トヨタ車が多い理由と同じだろう。そう考えれば、ミシガンでテスラ車を殆ど見ない理由も頷ける。カリフォルニアとは大違いだ。ZEV規制があったとしても、ミシガンの人たちはモデル3ではなくVoltを買うだろう。それはそれで納得だ。そういう意味では北米にがっちり進出して工場運営に成功しているトヨタや日産はつくづく凄いなあと思わされる。


出張は金曜で終わり、夕方にサウスウェストのフライトに乗りシカゴ経由でサンノゼに戻った。帰宅したらデトロイト時間では既に夜中の1時になっていた。次は四月くらいだろうか…。ミシガン出張は結構ハードだ…。