「男らしさ」って何?

×「男らしさ」って何?
×愛知学院大准教授
×熊田一雄さん


 最近の男子学生たちは二十世紀的、会社人間的な男らしさから距離を取り始めていると感じます。ここで言う「男らしさ」とは、経済成長のための戦闘集団としての家族を引っ張る男というイメージです。でも、このイメージは、もはや成長のない成熟化社会には似合わない。
 こうした傾向は時代の必然と考えています。長い目で見れば「男らしさ」「女らしさ」から「自分らしさ」が大事という方向に移り、ジェンダー(社会的、文化的性差)は解消に向かうでしょう。
 ただ、今は過渡的な時期。近代の「男らしさ」への愛着も根強く残っている。その特徴の一つはパターナリズム(父性的温情主義)。男は女や子どもを守るものだという考え方です。もう一つはホモソーシャル(女性・同性愛者嫌悪に基づく男性同士の連帯)な絆。心の中は男性の戦友のことでいっぱいで、それを最優先します。
 その典型が、昨年、小説と映画が記録的なヒットになった『永遠の0』の主人公です。彼は特攻に反対でしたが、自分だけが助かっていいのかという気持ちから特攻機に乗る。そして、部下だけは助かるようにして死んでいきます。生き残った部下は主人公の妻と子どもを守ると決意します。つまり、男同士の絆ほど尊いものはないということです。間接的に女性や同性愛者をおとしめるソフトな性差別の作品だと思います。
 過渡期で男らしさの次のモデルが見えていないゆえの問題もあります。自分だけ良ければいいというミーイズムのまん延です。それを補うのが、江戸町人文化にあった「俠」と「粋」だと考えています。「俠」は自らの力をたのみにして人と協力すること。強きに対抗して弱きを助ける美意識です。ボランティア志向の高まりはまさに「俠」の復活と言えます。「粋」は、今ならアイドル文化です。
 実は、アンパンマンこそ、「俠」を体現したヒーローなのです。アンパンマンは「愛と勇気だけが友達」で、男の戦友は持ちません。原作者のやなせたかし氏の弟がホモソーシャルな雰囲気の中で特攻に志願し、戦死したエピソードが背景にあります。やなせ氏は「らしく」についてこう言っています。「人間、人それぞれなのですから、別にらしくある必要はないと思うのです」と。
(聞き手・大森雅弥)


くまた・かずお 1962年、京都市生まれ。東京大大学院総合文化研究科博士課程単位取得中退。専門は宗教社会学、文化社会学ジェンダー研究。著書に『〈男らしさ〉という病?』など。