駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ(六島・大阪帝拳ジム共催)

今年7月、日本最速タイとなるプロデビュー8戦目での世界王座奪取を達成した名城信男の初防衛戦をメインに据えた、西日本地区では今年最後のビッグマッチ。予備カードを入れて全7試合48Rとは世界戦興行にしては小さめのボリュームだが、セミに日本スーパーウェルター級王座決定戦、セミ前に西日本期待の吉澤佑規[ウォズ]が出場試合など、最低限の要所を押えたマッチメイクは為されていた。また、チケット価格最低3000円からというリーズナブルな設定もファンにとっては嬉しいものであった。
ただ、今回は土曜の早い時間からのスタートという事で、客席には如何にも関係者然とした人たちばかりが目立ったのも確か。現在の西日本ボクシング界の集客力からして府立第1のキャパシティを持て余すのは遺憾ながら致し方ないが、こういう色々な意味で“お手軽”な興行こそ、沢山のライトファン層に足を運んで欲しかったと残念に思う。
テレビ番組のPRにしても、視聴率ばかりが気になるテレビ局は(結果的に視聴者を減らす事になる)興行の告知に消極的だろう。興行に足を運ぶ人を増やすためには、試合直前だけでなく平時から世界王者ら実力者の顔と名を売る必要があるはずだ。本分を逸脱した売名行為は、誰もが思い浮かぶ具体例を敢えて挙げるまでも無く避けねばならないが、“本業”の土台を固めた上での広報活動は積極的に推し進めるべきである。名城は今後、トークバラエティ番組への出演を増やすそうだが、その実直かつ天然のユーモラスさも醸し出す好感度の高い人柄が、多くの一般層の興味を惹く事を大いに期待したい。


※先に結果を更新、その後に観戦記を追記してゆきます。
※駒木の手元の採点は「A」(10-9マスト)「B」(微差のRは10-10を積極的に採用)を併記します。「B」採点はラウンドマスト法の誤差を測るための試験的なものですので、(特に8回戦以上のスコアは)参考記録程度の認識でお願いします。公式ジャッジの基準は「A」と「B」の中間程度だとお考え下さい。

第1試合・フライ級4回戦/△吉田雄佑[奈良六島](判定1−0)宮村裕司[神拳阪神]△

両者戦績は吉田2勝(1KO)無敗、宮村2勝(2KO)3敗2分。吉田は4/9、5/27とオープン戦を2勝してから半年振りのリングで、宮村は新人王予選の初戦で橋詰知明[井岡]と当てられ、健闘空しく敗退している。
1R。ショートレンジの打撃戦。吉田が先手を打ってショートフック中心の攻撃でヒットを奪い主導権。宮村はリズムを取ろうと距離を開けるなど試行錯誤しながら反撃するが、吉田のガードは堅く奪ったヒットは僅か。
2R。吉田が宮村の低いガードを咎める形でジャブを突いて先制。しかし宮村も強引に踏み込んで左右のボディフックで次々とヒット、有効打を奪う。ラウンド終盤にも宮村は顔面へも印象的なヒットを見せた。
3R。踏み込んで来る宮村を迎撃したい吉田だが、強引なフックの大振りが目立ち焦りが窺える。これらの攻めに対し、宮村はダッキングとステップワークで捌いて強打系の攻勢でタイミングよくヒットを奪っていった。
4R。吉田が距離を取ってジャブ中心の組み立て。宮村を牽制して、反撃のフック攻めを不発に終わらせる。ラウンド後半からの吉田は余裕も窺える試合振りで、キッチリとポイントを奪って締め括った。
公式判定は北村39-38(吉田支持)、大黒38-38、藤田38-38のマジョリティ・ドロー。駒木の採点は「A」「B」いずれも38-38イーブン。
吉田は、以前は右ストレートが持ち味のファイター型であったが、今日の印象は「こじんまりとしたボクサーファイター」。型を維持するのなら、パンチ力を活かせるような方策を考えておきたい。
宮村は相変わらずのガードの低さが災いし、被弾の山。勝てた試合を落としてしまった印象。最終Rの試合振りからは距離に対する無頓着さも見え隠れし、全般的に試合の仕方が粗い感じ。

第2試合・Sウェルター級契約ウェイト(67.0kg)6回戦/○細川貴之[六島](判定2−0)バーヌン・サコームシルバ[タイ国]●

細川は9勝(2KO)6敗。05年の新人王戦でウェルター級西軍代表となったが、牛若丸あきべぇ[協栄]に敗れ、年が明けてからも再起に2度失敗して現在泥沼の3連敗中。今日はやや楽な相手を招いたが、何とか良いリスタートを切って年を越したいところ。
対するバーヌンは5勝(1KO)2敗とのアナウンス。タイ国では層の薄い階級だけに、ノーランカーとあっては、この成績すら鵜呑みに出来ない感じ。
1R。細川がワン・ツー中心の正攻法でステップ踏みつつ細かいヒットを量産。バーヌンは緩慢な動きながらも積極性もあるが、ディフェンス巧者の細川に難なく捌かれた。ラウンド最終盤には細川がロープ際で猛ラッシュを決めてグロッキーに追い込む。
2R。無防備に前進してくるバーヌンを前に、細川は自分の腕を試すかのようなワン・ツー攻勢。次々と手数、ヒット数を重ねて圧倒的優勢を築くが、決定力不足でKOまで持っていけず。
3R。このラウンドも足を使いつつ軽いパンチを浴びせてゆく細川だが、バーヌンのカウンターが時折ヒット、更にフックまで有効打されてヒヤリとする場面もあった。
4R。バーヌンのジャブが細かく当たり始め、攻勢点が成立するほどに攻撃が決まる。右のカウンターが良いタイミングで決まって、一時はハッキリとした優勢に。ラウンド終盤になると細川も反撃に移り、フックなど決めて対抗するが、ここは良くて互角まで。
5R。バーヌンがこのラウンドもジャブとフックで先制。細川は打ち終わりを狙われて苦しい。ワン・ツーをクリーンヒットさせて失点を挽回したが、その後は膠着戦となって互いに決め手無し。細川はこの相手にヤマ場が作れない。
6R。クリンチ多く膠着気味の展開。細川は離れ際の攻撃にワン・ツー、フックを追加して漸く手数で小差優勢。
公式判定は上中58-56、宮崎58-57、原田57-57の2−0で細川。駒木の採点は「A」59-55「B」60-56で細川優勢。コアなマニアの間では「安河内さん(JBC事務局長)が来ている時は地元判定の無いシビアな判定になる」という噂があるのだが、果たして安河内氏来場の本日はご覧の通り(笑)。
細川が無名のタイ人に大苦戦。好守の中にガードが不用意に開く瞬間があり、そこにつけ入られてしまった形。パンチ力不足も響いて、ダメージの差で採点上でもかなり競った展開になってしまった。勝つには勝ったが、反省点ばかりの苦しい勝利。

第3試合・ライト級契約ウェイト(60.0kg)8回戦/●ユキ・ウォーウィスット[タイ国](2R1分54秒KO)吉澤佑規[ウォズ]○

日本Sフェザー級9位にランクされている吉澤は16勝(6KO)1敗の戦績。03年には全日本新人王も奪取している京都のエース。今年9月には金井晶聡[姫路木下]とのランカー対決を制して、ランキングに良い意味で見合わぬ地力の高さをアピールした。今回は試合を使ったクールダウンとも言うべき調整戦。
対戦相手のユキは今回初来日で恐らくはノーランカー。7勝(2KO)3敗とのアナウンスがあった。
1R。吉澤が余裕ある試合運び。格の差で空間を支配して圧力を加えつつ、ユキの緩慢な攻勢を捌いておいて左ジャブ、ボディフック中心にヒット、有効打を集める。更に右ストレートで痛打を浴びせて駄目を押した。
2R。このラウンドも吉澤ペース。手数少ないが着実に精度のある攻撃でヒットを集めて一方的展開。大振り狙いを空転させて敵に背中を見せたミスがあったが、あとは落ち着いて捌き、最後は右→左アッパーでノックダウン。戦意の低いタイ人は派手に倒れて試合を止められた。
吉澤が噛ませタイ人を相手に淡々と格の差を見せて圧倒。今日は相手も相手、「無事のお勤め御疲れ様」という他はかける言葉も無し。

第4試合・日本Sウェルター級王座決定戦10回戦/○《日本SW級1位》石田順裕[金沢](判定2−0)松元慎介[進光]《同級5位》●

OPBF&ABCOを加えて三冠地域王者として君臨していた日本王者クレイジー・キムが、防衛戦の過密日程を嫌ってこの王座を返上。これに伴って王座決定戦が開催される事となった。しかし出場予定だった松橋拓二[帝拳]が負傷を理由に出場をキャンセルし、代わって5位の松元に挑戦権が巡って来た。結果として「日本王座」の前に「西」を付けたくなるマッチメイクとなったが、来春のチャンピオン・カーニバルが楽しみになるような試合を期待したいところ。
この階級の日本1位、OPBF2位に位置するトップコンテンダー・石田は15勝(5KO)5敗2分の戦績。01年にはこの階級でOPBF王座の獲得経験がある他、昨年にはビー・タイトでも優勝するなど、キムの陰に隠れた存在ながら実力を誇示して来た。この日本王座には3度挑戦していずれも判定負けしており、獲得は長年の悲願でもある。
対する松元はOPBF10位、日本5位のランキングで、ここまで12勝(3KO)3敗1分。03年の新人王戦でウェルター級西軍代表となり、翌年9月に当時の日本ランカー・新屋敷幸春[沖縄WR]に判定勝ちしてランキング入り。それ以来貫いて来た無敗のキャリアは今年7月に日高和彦[新日本木村]にTKO負けして中断したが、今回は東日本のランカーが軒並み出場を辞退した事でチャンスが巡って来た。
なお、この両者は04年4月、松元の新人王戦卒業第1戦でマッチメイクされたが、この時は石田が8R判定勝ちを収めている。
1R。松元は早いジャブを突いてヒット数先行も、当たりは軽い。石田は前進しつつ強打中心に反撃し、散発的ながら左フック、右ストレートを有効打。ロープに詰めての手数攻めも見せて形勢挽回する。
2R。松元はこのラウンドもジャブ攻勢。それに加えて右フックをタイミング良くスマッシュさせリードするが、石田もカウンターでクリーンヒット奪い、右ストレートを追加して際どい形勢に持ち込む。
3R。やや距離が詰まっての打撃戦。松元はショート系のブローで手数を稼ぐが、石田は右ストレート中心に重い有効打でヒット数優勢。この階級らしからぬスピード感ある攻防で、好勝負の気配。
4R。石田がラウンド前半、右ストレートに加えて左ショートフックを機能させてヒット、有効打数でリード。松元も後半には自分の距離を奪い返してジャブ中心の攻勢で失点をリカバー。だが松元の攻撃に決定打が欠けており微妙。
5R。松元がこのラウンドも距離を維持し、左フック、ジャブで石田の動きを封殺。石田も右ストレートなどで反撃を狙うが不発気味。ラウンド終了直前の打ち合いも松元が左右の高速ブローで優勢に渡り合った。
6R。松元のペースが続く。石田が接近するところをワン・ツー、ボディフックの高速コンビネーションで有効打奪う。その後も左ボディ、ワン・ツーでヒットを重ねて打ち合いでも大差。石田ワン・ツーで反撃も、苦し紛れの感が否めず。
7R。石田は左中心の攻めにスイッチ。ジャブの差し合いを優勢に進め、左カウンターでクリーンヒットも奪う。松元もカウンター気味の強打で反撃し、ラウンド後半にはジャブ中心の攻めでビハインドを縮めていった。
8R。松元の左ジャブ中心の攻勢が光る。石田はワン・ツー狙いだが、やはり空転。松元のハンドスピード豊かなジャブ、フック、ストレートが度々有効打となって優勢確かに見えたが……。
9R。石田が左アッパー狙いに転じると、これが見事にハマってヒット数で優勢となり、前半戦を制する形に。ラウンド後半には松元も再び距離を取ってジャブ中心に反撃するが、石田は最終盤にロープへ詰めて攻勢をアピールした。
10R。クリンチの多い膠着戦も、松元が渋太くボディへ手数を叩き込んで優勢に推移。最終盤、石田はロープ際に詰めてラッシュしたが、この短時間でどこまで挽回されたか?
公式判定は原田98-93、北村97-95、大黒95-95の2−0で石田が新王者となり、OPBF王座と併せて5年越しの2冠を達成。駒木の採点は「A」95-95イーブン「B」97-96松元優勢。
強打中心の石田、細かく鋭いジャブ中心の松元と持ち味の違う両者の大熱戦。小差判定ならどちらの勝ちも有りというクロスファイトだったが、微妙な判定に会場からも驚きの声が。公式のジャッジペーパーを見ると、石田の勝ちにつけた原田、北村の両氏は7R以降4つのラウンドで随分と松元に辛い採点が為されており(原田40-36、北村39-37でそれぞれ石田優勢)、こちらとは随分と違う見方が為されていたようである。
石田はパワーと臨機応変の試合運びでいぶし銀のポイントアウト。しかし相手の左ジャブとハンドスピードに苦しめられ、特にスタミナ面では圧倒された形。下馬評を覆される苦戦でもあり、勝ってなお翌年からの防衛戦線に不安を残す結果となった。
松元は左ジャブ中心にヒット数と主導権支配では試合を通じて優勢をキープしたが、この階級では勝ちを確かなものにするために必要である、痛烈なダメージングブローが余りにも少な過ぎた感もある。厳しい採点には同情したくもなるが、二度来る保証の無いチャンスだっただけに、もっと強欲さを試合振りに繋げて欲しくもあった。

第5試合(予備カード1)・Sフェザー級4回戦/○米澤隆治[奈良六島](判定2−0)大前健太[クラトキ]●

この日は時間調整の予備カードが2試合組まれていた。第3試合が2Rで決着した分の穴埋めに、ここで1試合目が挟み込まれた形。
両者戦績は米澤が未勝利1敗、大前はこの日がデビュー戦。
1R。ガチャガチャした打ち合いから始まったが、やがて大前が乱暴なフック、アッパー連打で圧力をかけて手数で優勢に。しかしラウンド後半からは米澤がワン・ツー狙い撃ちでヒット、有効打を決めて互角まで挽回。
2R。このラウンドも大前が体ごと浴びせつつボディに連打で手数攻め。米澤の反撃は限定的でヒット数も少なく、大前が手数と攻勢で採点上も優勢か。
3R。大前はこのラウンドもラッシングを見せるが、米澤が右ストレート、左右アッパーで迎撃してヒット数リード。大前はラウンド終盤には前進もままならなくなり戦意が空回り。
4R。両者中間距離でワン・ツー中心に手数浴びせあうが、明確なヒットに恵まれない。米澤が攻勢点で微差優勢のようにも見えたが、形勢互角のまま淡々とした内容で最終ラウンドも終了した。
公式判定は藤田39-37、洲鎌39-37、大黒38-38の2−0で米澤。駒木の採点は「A」38-38「B」39-39でいずれもイーブン。
米澤は相手の圧力に屈する場面が目立ったが、3Rには迎撃でヒット重ねて主導権を奪い返し、4Rも攻勢点で際どく上回り、小差判定で初勝利をモノにした。ただ、今日のパフォーマンスを見る限りでは地力的には4回戦でも平凡か。
大前はアグレッシブに前へ、前へと攻め立てたが、手数だけで精度甘い攻撃で、乱雑さばかりが目立ってしまった。

第6試合・WBA世界Sフライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》名城信男[六島](判定3−0)エデュアルド・ガルシア[墨国]《同級13位》●

メインイベントは、今夏劇的な世界奪取を果たした名城信男の初防衛戦。これがデビュー以来始めて名目上格下の選手との対戦、若き王者の新境地は開けるか。
王者・名城は8勝(5KO)無敗の戦績。アマ時代は平凡な戦績に甘んじたが、プロに転向してB級デビューした後は3連続で短時間KO勝ちを収めて一気に台頭。更に4戦目で元ランカーの竹田津孝[森岡]、5戦目では元日本王者・本田秀伸[Gツダ]を撃破して世界ランカーにのし上がると、6戦目では田中聖二[金沢]の日本王座に挑戦し、完勝。この試合直後、田中がリング禍で死去する悲劇もあったが、これを苦悩の末に乗り越えて7戦目では日本王座初防衛戦を兼ねた世界挑戦者決定戦でプロスパー松浦[国際]に判定勝ち。続く世界タイトルマッチではこのワンチャンスを見事活かしてマーティン・カスティーリョをTKOで降し、辰吉丈一郎と並ぶプロ8戦目での日本人最短キャリアでの世界王座奪取を達成した。次回防衛戦にも予定されている指名試合に向け、まずは下位ランカーに格の差を見せ付けて勢いをつけたい所だろう。
対する挑戦者ガルシアは17勝(7KO)4敗の戦績。このタイトルマッチのために転級したが、本来はバンタム級の選手で、今年8月にはWBCラテン王座も獲得している。02年12月には来日して杉田真教[天熊丸木]に判定負けしているが、採点に異論も出た程の接戦を演じた。今年には“仮想カスティーリョ”として名城のスパーリングパートナーも務めており、今回は「勝手知ったる他所の国」といったところだろう。ルディ・ロペスに続くメキシコ生まれのシンデレラ・ボーイ誕生となるか。
1R。名城は左のフック、アッパー中心の組み立てで上下に有効打を連発。守ってもガード、ステップワークを駆使して手堅く、手数をヒットに繋げさせない。ガルシアの動きは、やはり地域王者級。世界挑戦者としては平凡な地力に見えるが……
2R。劣勢を意識したガルシアはアグレッシブにフック中心の荒っぽい攻めで先手。ヒットは限定的で軽いものに留まるが、手数ではリード。対する名城は迎撃する形で左ボディ、アゴへカウンターなど要所で有効打を奪い、形勢を互角以上に揺り戻す。
3R。ガルシアはこのラウンドも手数豊富に先手を打つ。しかし名城は手堅くパーリングでこれらを捌いて踏み込むと、フック、アッパーを浴びせてヒット数で優勢に立つ。ラウンド後半からは連打で効かせる場面も作った。
4R。ガルシアはやはり手数攻め。ラウンド序盤に右ストレート、フックが不意にヒットするなど波乱の目も見え隠れするが、名城は後半から上下にフック、アッパー中心に圧力・手数で攻め立てる。ほぼ互角だが印象度では若干名城優位か?
5R。このラウンドは名城が圧力をかけつつ、手数でも互角に対抗。左フック、右ショートアッパーで有効打を奪う。しかしガルシアの一見乱雑なフック攻勢が出会い頭気味に有効打となり、非常に際どい形勢に。
6R。名城が圧力かけつつ、左ボディ中心に左右フックをタイミング良く浴びせて優勢。ガルシアは後退しながらワン・ツー、フック連打を放つが、これは名城に捌かれた。
7R。このラウンドは終始、名城が追い回しつつ手数、圧力攻め。しかしガルシアはスパーリングを通じて得た経験を利して、名城の攻勢を軽快なリズムで捌いてゆく。それでも名城はガルシアの反撃を封じながらコーナーに詰めてフック、スイングで優勢確保。
8R。名城はこのラウンドも追い回しながらの左右フックで攻め立てる。ただしガルシアの精度に欠ける連打も決まって形勢は極めて微妙。世界戦にしてはやや散漫な内容になってしまった。
9R。このラウンドもスパーリングのような、激しくも淡々とした流れの攻防に終始。決め手に欠ける打ち合いが続く中、名城が要所でヒット、有効打を奪って小差優勢を確保する。
10R。ラウンド前半は手数互角の中で名城の攻勢点有利が目立つ展開だったが、ガルシアの強引な右オーバーハンドが名城の耳付近を捉えるクリーンヒット。平衡感覚を狂わされた名城はクリンチに逃れ、この試合最大のピンチ。しかし終盤には名城も反撃して健在をアピールした。
11R。密着しての手数合戦。ガルシアが手数で若干有利に立つが、名城はボディに渋太く有効打を重ねて効かせると、右ストレートにスイング系強打でグラつかせた。
12R。名城はアグレッシブに仕掛け、ガルシアの手数をパーリングで捌きつつ、的確にフック、ストレートなどでヒット連発。ラウンド終盤にはロープに詰めて強打攻めでガードごとガルシアを吹き飛ばして優勢を確保し締め括った。
公式判定はプラヤドサブ[タイ国]118-110、カラバーニョ[ベネズエラ]117-112、張[韓国]117-112の3−0で名城。駒木の採点はWBA世界戦の基準と慣例に準じて119-111で名城優勢と見た。
ネット界隈を中心に「点差が開きすぎている」という声が上がっているが、確かに内容と採点結果がここまで乖離した試合も珍しく、明らかにラウンドマスト制の弊害が現れた一戦といえるだろう。大昔の5点法時代なら、勝ち負けの逆転までは無いにしても差は相当小さくなっていたはずだ。
この試合、多くのラウンドにおいて「ガルシアの手数優勢=“アグレッシブ”要素優勢」と「名城の明確なヒット数及びダメージ優勢=“クリーンヒット”要素優勢」が並立していた。“クリーンヒット”と“アグレッシブ”の同格化が進行しているWBAの採点基準では、この2要素における両者の優劣判断は極めて微妙となる。残る“リング・ジェネラルシップ”の要素でも、名城が積極的な前進姿勢をアピールするものの、ガルシアも先手で手を出しており甲乙つけ難い。公式ジャッジ3氏は、ジャッジペーパーにズラリと10-10を並べたくなった事だろう。
恐らく勝負の分かれ目となったのは、残る“ディフェンス”の要素で名城のパフォーマンスが若干上回っていた事、そして同格化が進んでいるとはいえ、公式ルール上“クリーンヒット”要素は“アグレッシブ”要素に優越する事の2点。この材料によって、ジャッジはラウンドマスト制を運用する中で、「誠に不本意ながら『10-9名城』をスコアする」事を選択せざるを得ず、しかも同様のラウンドが山と積み重なれば、内容と乖離した大差判定になるのも必然と言える。5点差をつけたジャッジ2氏は、これでも採点基準上正当性が保たれる範囲ギリギリでガルシアの“アグレッシブ”と“リング・ジェネラルシップ”の優勢を重視したものであると推測される。確かに心情的には接戦のスコアに調整したくなる内容でもあり、現実的な行為と言えなくもない。
この試合は、駒木の周囲の“手元の採点”では、ドロー程度の僅差から10点差の大勝まで大きく割れた試合だった。だが“不発に終わった手数”を殊更に重視するWBAの世界戦ですら、このようにジャッジ3者揃って明快な点数差となったのだから、少なくともプロボクシングの採点基準を適切に運用すれば、名城の数字上の完勝は揺るがない試合だったのであろう。たとえそれが、点差を根拠にして名城を賞賛するに値しない内容ではあったとしても。
なお蛇足ながら、この判定をランダエタ×亀田戦になぞらえて名城を誹謗中傷する輩がいるようなので、彼らに以下の言葉をプレゼントしておこう。「ランダエタはガルシアより、名城は亀田よりも、パンチに精度もあったしディフェンスも上手かった。名城はダウンしていないしTKO寸前まで追い詰められてもいない。そしてガルシアはランダエタのように試合をコントロールしていなかった」と。お祭り好きの皆さんも(そして我々ボクシングファンも)、そろそろ「ランダエタ×亀田」という“超常現象”の呪縛から逃れる努力をすべきではないだろうか。来る12・20がその好機となる事を願って止まない。
さて、初防衛を果たした名城だが、最近ではプロスパー松浦戦時以下の大スランプ。持ち前の流れるような攻防一体のコンビネーションは影を潜め、ディフェンス主体の手堅いファイトでポイントアウトを果たすのが精一杯。本来の地力差からすると非常に物足りない内容に終始した。馴れない守る立場での戦い方を模索する内に深みにハマってしまったようだ。一定のリスクを背負いつつ、アグレッシブに攻め立てるのが本来の持ち味の選手が負けないファイトに徹すれば、苦戦を強いられるのも必至か。今日のような戦い方では来る指名試合は到底戦い抜けないだろうが、強豪相手を目の前にすれば、逆に“挑戦者精神”が燃え盛って好勝負を演じる事も出来るのではないか。
ガルシアは、本来なら「世界挑戦を直前に控えたホープ」の前哨戦の相手を務めるような地力の選手。王者の手の内を知っている強みもあって健闘したが、フルラウンドでまともな試合を成立させるだけで精一杯といった感。

第7試合(予備カード2)・Lフライ級4回戦/○中村優一[正拳](4R1分10秒TKO)山中康弘[クラトキ]●

メイン終了後、「最終試合」として予備カードの2試合目が行われた。
両者戦績は、中村はこれがデビュー戦で、山中は5月にデビュー戦をKOで飾って1勝(1KO)無敗。
1R。中間〜ショートレンジの乱打戦。共に精度に欠ける連打中心だが、中村の右ストレートがクリーンヒットして山中を効かせる場面が2度あって、これが採点上では明確な決め手となった。
2R。このラウンドも乱打戦模様。ラウンド序盤、山中の左ストレートが立て続けにヒットして先行。その後も山中が手数豊富に戦い抜いてポイントを奪取。
3R。タフな乱打戦が続く。中村がボディ中心に手数、ヒット集めてパワー押しし、山中をロープに詰めて攻勢点確保。山中も手数はあるが、やや守勢気味に置かれた。
4R。このラウンドも乱打戦。始めはほぼ互角の形勢で推移していたが、中村が徐々に手数と圧力で勝りだし、形勢が明らかになった所でレフェリーストップ。ダメージの蓄積もあって山中は試合終了直後、キャンバスにバッタリと崩れ落ちた。
両者技術より気持ちが先行した乱打戦。中村が一進一退の攻防戦をパワーと手数で押していって、最後は相手の心をへし折った形。

興行全体の総括

試合内容だけで見れば、ベストバウトはセミファイナルの石田×松元戦。階級なりの迫力と、階級らしからぬスピード感で時間を忘れる10Rとなった。判定結果が試合内容にまでミソをつけてしまったのが残念でならない。勝った石田は勿論、松元にも今後の更なる活躍を期待したい。
メインとセミを除く5試合は、残念ながら特筆すべき好事は見当たらず。2階席のチケット代相応のパフォーマンスは見せて頂けたが、リングサイド席に大枚を叩いた人にまで満足感が浸透させられたかと言えば、かなり微妙かな、という気がする。