文明への危機感映し30年 雑誌「ムー」衰えぬ人気

朝日新聞 2009/12/21

■文明への危機感映し30年 雑誌「ムー」衰えぬ人気
朝日新聞 2009/12/21
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UFO、超能力、古代文明、都市伝説。今なら、2012年に人類が滅亡するというマヤ暦をめぐる予言か。そんな衰え知らずの「世界の謎と不思議」に挑戦してきたのが月刊誌「ムー」学研パブリッシング)だ。今年創刊30周年。その長寿の“謎”を調べてみた。
 「ムー」の実売は約8万部と健闘。編集長の三上丈晴さんによれば、若い女性の間のスピリチュアルブームや、鳩山首相夫人の幸さんが対談連載していたことなども話題になり、微風ながら追い風が吹く状態という。
 そもそもの雑誌の始まりは、学年誌「高2コース」で毎月特集していた“謎”に関する記事がウケたことだった。1979年に隔月誌として出発。創刊号の総力特集は「異星人は敵か、味方か?」で8万部刷り、実売約5万部だった。81年、月刊誌に。読み物を中心に切り替えたことで、実売は20万部まで伸びた。
 宇宙人ネタや、ピラミッドの謎、ヒトラーもの、「○○大予言」という記事が、誌面を飾った。読者の中心は高校生と大学生。
 編集方針の1つが「『不思議』や『謎』に驚くのではなく、仮説を立て推理や解釈を楽しむ雑誌」だった。オカルト文化に詳しい評論家の唐沢俊一さんは「UFOや心霊現象など、世の中の一般常識から外れた“裏の文化”を整理し、オカルトにはオカルトの理論体系があることを教えた初の専門紙だった」と語る。
 守ってきた姿勢に「宗教の宣伝はしない」がある。かつて読者参加ページにオウム真理教が売り込みに来た。会うと怖しく、以後は遠ざけた。そのオウム真理教が95年、地下鉄サリン事件を起こした。「ムー」も大打撃を受ける。「神秘」という言葉が汚いものを背負うようになった。推理すら拒絶する人が増え、科学だけではなく「不思議」にも希望がない、という空気になったという。
 ネタの種類は創刊時から変わっておらず、「謎」「不思議」に対して、仮説を紹介するという姿勢も不変。変わったのは読者の年齢だ。現在の中心読者は30代から40代。初めて雑誌を手に取る世代も20代前半に上がった。
 息の長い支持を受ける理由について、唐沢氏はこうみる。「社会に居場所が見つからず、アイデンティティーが確立できない若者の受け皿になってきた。未来に希望が持てない社会が続く限り、オカルトは現実に対するアンチテーゼとして機能する。その老舗として『ムー』が存続するのは当然かもしれない。」