ダーウィンの悪食

10年以上前、某大手食品メーカーの子会社が展開する中食チェーンの店(ようは宅配弁当店)でアルバイトをしていました。

そのお店には「銀ダラの西京焼き御膳」なる商品があったのですが、ある時、社員さんが「うちの銀ダラの正体は‘メルルーサ’っていう深海魚だよ」なんて言っていたんですね。
まぁこれは昔の話で、近年はJAS法も改正されてそんなこともないのでしょうが、「深海魚」なんて聞いていい気はしません。
実際はアンコウ、タチウオ、ムツ、キンメダイ、スケトウダラ等々、私たちが日常的に口にする魚も、れっきとした深海魚なわけですが、インターネットが一般的でなく「ググる」なんて言葉も存在しなった時代、「深海魚」なんて聞いたら、
こんなのや
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こんなのかんじの
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グロテスクな姿を想像してしまいますよね。
まさに「スキーマ効果」というやつなんでしょうが、当時まだ純真無垢(言い換えれば阿呆)だった僕は、それからというもの社販の「銀ダラの西京焼き御膳」に手を付けなかったわけです。

ちなみにメルルーサは、ちゃんとした食用魚で、こんなかわいい姿をしています。念のため。
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ともあれ、何故こんなことを思い出したかというと、最近こんな本を読んだからなんですね。

回転寿司激安のウラ (宝島SUGOI文庫)

回転寿司激安のウラ (宝島SUGOI文庫)

年がら年中経済的に困窮している僕にとっては、たとえ回転といえど立派な「高級寿司」なんですが、一般的に「安い」とされている回転寿司、一皿100円かそこらで、鯛やらヒラメやら伊勢海老やらアワビやらと高級食材が扱えるわけありません。安いのには当然それ相応の理由というか、偽装というか、欺瞞があったりするんです。
先述の銀ダラの正体がメルルーサだったのと同じように、鯛はテラピアアメリカナマズ、ヒラメもアメリカナマズ、伊勢海老はウチダザリガニアメリカザリガニ、アワビはコロ貝、ラバス貝、チョウセンボラ貝、アカニシ貝が正体だったりするらしい。
他にもネギトロの正体は、赤マンボウとトロミ油や植物油を混ぜたものだったり、サーモンが着色されたニジマスだったりと、神経過敏な人が読んだら、二度と回転寿司に行く気にならないかもしれません。

すべての回転寿司店がそうとは限りませんが、やはりモノには適正な価格があるわけで、安い値段のモノは何かしら安い理由があるのです。
「偽る」ことや「大事なことを知らせない」店側の商法は当然問題なのですが、「安い」からといって、安易に飛びつく消費者側も問題なわけで、「適正なモノを適正な価格で売っていては商売にならない世の中」になってしまった責任は僕らにあるのかもしれない。
食品に限らず、家電品や日用品にいたるまで「安いモノ」を求め続けていれば、当然そこに投じられる人件費やコストも抑えられて、めぐりめぐって自分の賃金なり収入に返ってくる。そこで更に「安いモノ」を求める悪循環に加えて、健康を害する食品や、「安かろう悪かろう」の低クオリティの家電がはびこれば、それこそ『1984』や『未来世紀ブラジル』のような、グロテスクに階級化、近代化された未来社会が実現するのかもしれませんね。
(前回アレだったので、今回はアレなアレに迎合してみました(苦笑))

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

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ついでなのでもう一つ。
そんな偽装魚の話なんですが、日本でも食べられている白身魚で「ナイルパーチ」なる魚がいます。
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スズキ目に属する魚なので、もしかしたら僕たちも外食でスズキとして食べているかもしれませんが、ブラックバスなんて比較にならないほど厄介な魚なんです。

まず、見て分かるように非常にデカイ。最大で体長2メートル、体重は200キロにもなるわけですから、当然食べる量も半端じゃないわけです。加えて大型魚なので天敵も皆無。
元々生息していないような場所に放流しようもんなら、あっという間に定住してる魚を食い尽くして、どんどん増えます。

幸いにして熱帯の魚なので琵琶湖あたりに放流される心配はないのですが、放流されてとんでもない被害を蒙っている地域もあるんですね。
それがアフリカ最大の湖・ヴィクトリア湖で、『ダーウィンの悪夢』というドキュメント映画にもなっています。

ダーウィンの悪夢 デラックス版 [DVD]

ダーウィンの悪夢 デラックス版 [DVD]

内容が恣意的だという批判もありますが、グローバリズムの弊害の一端を知るにはいい題材で、非常に考えさせられる作品です。

食料増産の名目で先進国が持ち込んだナイルパーチが固有魚を駆逐してしまい、小船で細々と漁業をしていた地元民の生活が成り立たなくなってしまう。
そして住民は生活のために、先進国の資本が投入された水産会社や食品加工会社に雇用され、「商品」であるナイルパーチは全て先進国に輸出されて、地元民は十重二十重に搾取される・・・という、グローバル化がもたらす構造問題が好きな方には、非常におすすめです。

先進国の「貧困」が、さらに後進国の「貧困」の上に成り立っているなんて、なんともシニカルな世の中ですねえ。





・・・これだけ書いときゃ大丈夫だろ(?)。