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私は月で少女たちと生きたい。筋肉少女帯「月光蟲」後編

昨日の続きです。
月光蟲
この作品のキーワードになっている「月の裏のクレーター」
コレが何を意味するのかは個々にゆだねられるのですが、人間の心理の裏にあるネガティブな部分だったり、逃避願望の一つだったりするのは間違いないでしょう。
筋少のすごいところは「狂う」とか「苦しい」とか直接的な言葉をあまり使わないのに、人間の持つネガティブな根っこの部分をほじくりかえすような言葉を連ねるところ。もうアルバム全体にネガティブでどんよりした空気をたたえているのですよ。「サーカス団パノラマ島に帰る」がそのネガティブ部分を膨らませたゆえに重苦しい空気になっているとしたら、「月光蟲」はそれをノリをよく「聞かせる」アルバムになった、という感じがします。非常にポップでメタルなノリは持っていますが、結局は月の裏のクレーターという、あるのかないのか分からない、自分の存在を半分だけ消してしまうようなところに、精神を高揚させたまま隠れてしまうんですけどね。
 
5曲目の「夜歩くプラネタリウム人間」は女性ボーカル入りのめずらしい曲。男性と女性がアガペーもリビドーも捨ててクレーターに行く、という一見「悟り」にも近い歌詞ですが、実はめくらめっぽうに逃避に向かう様を描いています。「俗な奴等にゃ二人は見えない、唄おうよこの世をはかなんで」というあたり、なんとも若者が歌う「大人なんて信用できねーよ!おれが一番!」みたいな反抗的な曲のつくりを、すでに斜めに見ているのが面白いです。
なんつうか、中2病ですよねこれ。純粋な気持ちの行動ではないです。
 
そこから展開して6曲目「僕の宗教へようこそ」が入ります。これも非常にファンの多い曲ですね。もしかしたら「NHKにようこそ!」はここからきてるのかなあ?なんて邪推。
これも「バントライン」同様、ストーリー仕立てで非常に面白い曲です。ここでもリュックサックに子猫をつめた少年が現れます。ただ、他の作品の逃げたり破壊したりする少年と違い、今回は教祖で自主的に動きます。そして、「釈迦」や「いくじなし」のときにも出てきた「アンテナ」を売って回ります。アンテナってくらいだからどこから受信するの?というと、やはりこのアルバムですから「月の裏のクレーター」から。月の裏側が、人間の心が逃避していきたい場所であると同時に、心の裏に眠る願望の「虚無感」をもきちんと描いているのが面白いですネ。
 
7曲目「悲しきダメ人間」で一転して曲調が変わります。作曲はドラムの太田明。前の曲でぐーっと「うさんくささ」満載で攻め立ててきたのを一気にガス抜き。そして出てきた「ダメ人間」。「踊るダメ人間」で一気に広まったこの言葉、先にこっちでさりげなく使っているのが面白いです。もちろんダメ人間だから、バッドエンドです。
 
8曲目「少女の王国」は自分が大好きな曲です。月のどこかで、地球をながめながら少女たちを集めて王国を作る。その幻影感ときたら!美しすぎて涙が出ますヨ。今まで描いてきた月自体が幻であるように、この少女の王国も幻。エゴと世界への憎しみと鬱憤が作り上げたニセモノです。10曲目のインストゥルメンタル「少女王国の崩壊」で締められる点が、猛烈な不安を抱かせます。言葉すら与えてくれず、ただぼろぼろとドラムの音にあわせて崩れていくのみ。
「私は月で少女たちと生きたい」と願う歌詞が持つやるせなさが、かげろうのようなオーケンの描く世界を物語っています。
 
9曲目「イワンのばか」筋少ファンで投票したらベスト10に入るのではないかと思われるほどの名曲。

もう奇跡的なほど橘高サウンドとオーケン理不尽ワードとメンバーの掛け声が調和して完成された一曲。一回聴いたら覚えてしまうからタマラン。
このイワンのやった行動の善悪は全く分かりません。彼だけが死ななかったことも正しいのかどうかわかりません。ただいえることは。
「イワンのばか!」
 
蛇足。「三年殺し」はロシアのサンボの裏技でもなんでもなくて、日本の古武術の伝説の技のようです。食らった瞬間はなんでもなくても、じわじわきいて3年後にぽっくり。元ネタは「空手バカ一代」でしょうネ。本当にあるかどうかは謎。はったり技かなあ。
しかし、これくらって、自分はイワンのようにならない自信がないです。もう、イワンのばか!
 
次回は「断罪!断罪!また断罪!!」

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ちょっとずつ追加してます。
「筋少のライブにいったまま、帰ってこなかった…」筋肉少女帯「仏陀L」
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