たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

妹と二人きりの、瓶詰めの天国。「姉妹みっくす」

エロマンガの話なので収納ー。
 
 

9・10月に出るロリマンガのレベルがおしなべて高いんですが、個人的にツボ中のツボだったのがこの「姉妹みっくす」でした。
正確には姉ものも3編入っているのでロリオンリーではないです。
むしろ「姉妹もの」と言った方がいいですね。
ものすごくはしょっと言うと、すごくよかったです。エロさも、女の子のかわいさも自分の性癖と合わせると最高峰レベルです。ほめすぎかもしれませんが、この密閉空間はエロ漫画として実に「エロさ」という意味で、正しい。逆に物語性は一切排除されています。
「エロティックさ」を作りつつ「かわいさ」も包含したこの本の中に描かれている空間の正体ってなんなんだろう?
 

●妹という名のファンタジー●

「自分にはリアル妹がいるので、妹萌えは分からない」という声がよく挙がります。
いやはや、全くです。どんなに可愛い妹キャラが出てきても、ふと現実を思い返したときに「いや、ないない。」と言ってしまう冷めた自分に気づく人は多いでしょう。
 
というのも、「萌え」そのものが、そもそも現実に覆われることでその機能を失ってしまうんですよね。
イメージへの飽くなき欲求が「萌える」という感情であれば、現実から抽出するのは「いいとこどり」でいいわけです。
 
妹萌え」のブームははるか昔からありますが、ポイントになる部分は共通していると思います。

・自分のいる空間に、限りなく近い。
・近いのに、ある意味一番遠い存在。
・普段は女性としての意識をしていない。
・「禁断」として最も分かりやすい。

などでしょうか。ここからリアル寄りになるか、ファンタジー寄りになるかで針が振れます。
 
ようは、バランスなんですよね。
どっちか極端に振れてしまうから「ないない」となるのであって、一旦現実から切り離して、再構築する時の微妙なさじ加減で魅力はがらっとかわります。
多くのエロマンガの中の「かわいらしさ」は8割のファンタジーと2割のリアルで出来ているます。勿論作品によって変動はありますが。
それを受け手側がスムーズに吸収して、特に難しい思考を求めずにすんなり再構築出来るだけの空間と時間感覚を持っているか、それが特に「ライト近親相姦もの」に求められる能力になります。
 

●禁断と密閉●

さて、先ほども書きましたが近親物において「禁断」は重要なキーワードになります。
描き手がそれを「最たるタブー」として描くか、それとも「それはそれでいいんじゃない?」と割り切ってしまうかで話の進む方向って大きく変わっていくわけです。
なぜかというと、人間の中にもう倫理的に最初から「近親相姦は罪」という意識がすり込まれているから。これが本能的なものなのかどうかは、心理学者さんにお任せするとして。
 
この作品は後者です。そこにタブー感が全くありません。昨今の近親物は罪の意識が全くないものが増加傾向。あくまでも「妹」「姉」というのは要素の一つでしかありません。エロ漫画単行本の中の10作品中に1つ出てくる、とかという扱いの場合はむしろコスプレに近いかもしれません。
しかし作家さんによっては、まるまる一冊妹もの・姉ものだったりするわけですよ。
有名なのは狩野蒼穹先生でしょうか。

今まで数冊出して折られますが、95%が姉と妹もの、という突き抜けっぷり。お見事です。
 
椿十四郎先生の描く「妹との距離感」は抜群の安定性を誇っています。
まず重要なのは、「自分」にあたる男性キャラが非常に幼い(高校生?)ということです。

「秘密の淫棒!」より。
二人の年齢差は確実にあるけど、ものすごく離れているわけじゃないんですよね。
多少アホなやりとりをかわしながら、二人がわいわいやる光景がこの後広がるのですが、確かにこの距離感は恋人では描くことが出来ません。
特にこのコマを見るとわかるのですが、エロ漫画として確かに、現実にはあり得ないくらい仲良しこよしなわけですが、それでも微妙に二人の間に変な空間があるんです。
そもそも今まではこの二人はお互いを異性として意識なんてしていなかったわけです。ふとした弾みに、保ち続けていた距離がひっくり返ってしまう、その瞬間のドキドキがライト近親物の醍醐味。

「あたしのもの」より。
恋人同士や好きな相手なら、もう最初から異性として見ているのでそこに後ろめたさはありません。しかし相手は妹。そして自分は中高生。
ふと、相手が女性であるのを気づいてしまう瞬間があるのです。
それに気づくのは、もうこの二人のいるのは現実世界ではないから。
ここは、完全に切り離された二人だけの孤島です。
 

●瓶詰めの地獄と天国●


「かき☆すて」より。
兄と妹二人きりで温泉宿に来ているのを「途中で両親が帰った」とカモフラージュする、そんな綱渡りみたいな作品です。
この二人は全く罪の意識を持っていません。未来のこととか全く考えていない超刹那主義で動いています。
しかし二人の置かれている空間は外部の何かが入ってこない密閉空間です。ここが、いいんだなあ。
 
夢野久作の作品に「瓶詰の地獄」という短編があります。
兄と妹が孤島にたどり着き、ふとしたきっかけでお互いの性を意識したあと、罪悪感に責めさいなまれて遺書を残す、極彩色のエロスとまばゆい自然の残酷さに彩られた、近親作品の傑作です。
妹と兄のエロスを描く場合、「罪に悩む」か「それを努力で乗り越える」か「全く何も考えない」かの3つに分かれるでしょう。
それでいえば、椿十四郎先生の作品は「全く何も考えない」です。短いページの中に徹底的にエロを詰め込むための手法とも言えます。
 
しかし上のコマを見て分かるように、この二人の視点はものすごく狭いわけです。
明らかにおかしな二人の行動も、目の前にいる兄・妹に対しての性的欲求で全く見えなくなってしまっています。
また隔離された空間が絶対的に必要になります。温泉だったり、二人で出かけた海だったり、誰も帰ってこないリビングだったり。時間的には短いですが、それは間違いなく孤島です。瓶詰めなのです。
 
瓶詰め状態というのは確かに地獄。現実的な問題や倫理観に直面した場合、二人きりしか見えていない視野狭窄の世界では発狂することもあるでしょう。
ところがそれを第三者の視点で覗くのは、これは天国なんですよ。だってその二人の未来を考える必要ないんですもの。

「ぱーてぃー☆こんてぃにゅー」より。
舞台がこたつから一歩も動かないのは、エロ漫画の正義ですね。
彼らと先ほどの温泉宿の兄妹は、もう性関係は幾度も重ねたカップル(?)なんですよ。
ここに「将来お嫁さんにする」とか「子供が出来たら」という思考は、一切入りません。
見ての通り、女の子側も非常に貪欲です。男の子側も手に届くところにある快楽にただおぼれるだけです。
もう恋愛とかという世界じゃないんですよ。
いわば、お互いにお互いの性的欲求を満たす相互オナニー状態なのです。
瓶詰めの中にいる二人が、脳みそハッピーに快楽にむせぶのを覗き込むのは、エロ漫画らしい至高の快楽です。
 

●男性にも適用される幼形成熟

ところで、妹物といっても妹が必ずしも幼い必要はありません。まあ多くの場合のマンガはターゲット層が20代〜30代前後なので、20代男子かそれ以前の男子にとっての妹として小学生から中学生に据えることが多いでしょう。
この作品集の妹側はおそらくそこにのっとって幼め。それに対して兄側も学生服を着ていることが多いです。

「ビーチパラダイス」より。
かなり幼いですね。明確には年齢は決められていません。
妹が幼いのはロリマンガとしての意味を持たせるためなのも当然あるでしょう。しかしながらこの作品集、少年達もまた幼いです。
その象徴であるかのように、全男性キャラ仮性包茎なんですよ。いやはや、素晴らしいことじゃないかね!
 
ようするに、少女が少女である一瞬を保っているように、少年もまた少年の時間のまま動いていないんですよ。
同じような点で、ここに出てくる女の子達は初体験でも全員破瓜の血が出ません。性癖的な好みもあるとは思いますが、仮性包茎と血がでないことのあまりの徹底っぷりは、この瞬間からの卒業を望んでいない二人がそこにいることをうまく表しています。
追記・いくつか「日本人は仮性包茎の方が多い」という意見をもらいました。現実の話はそうですよね。ただ、これはエロ漫画の世界。記号としては破瓜は処女の証、仮性包茎は幼さの表現(エロ漫画では圧倒的にムケているほうが多い)となっていることを踏まえると、それが完成されたものとして徹底された、幼形成熟な世界ってやっぱり魅力あると思うのです。
閉じた世界の破壊や心身の成熟を望む場合は、その正反対で描かれていくことになります。
 
兄と妹の享楽的な瓶詰めに、余計なものはいらないんですよ。
だから二人とも少年・少女のまま時間を止めてしまいます。全て短編で、その続きもありません。まるで標本のように、すべてそこで止まっています。冷凍保存の陳列のように、いつまでもその色は褪せることがないのです。
すでに少年と少女の姿で完結しているものこそ美しい。
そんな幼形成熟した世界は「ただエロい」のではなく「きちんとエロい」です。
 

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個人的性癖としては、明るく楽しいお姉ちゃん物の方が好きなんですが(姉が中高生、自分が年下、とかベスト!)今回は完全にやられました。前作は姉メインな椿先生ですが、今後は是非、妹道を爆走してください。
完全にリアルから切り取った標本のようなこの本ですが、逆にまさに「瓶詰の地獄」たる兄妹ものの背徳感も面白いんですよね。こちらは劇薬注意。まるっきりベクトルが逆です。
最初の短編の、兄妹間の性の興味が生む苦渋はトラウマ級。現実の味付けが心に苦い。妹道を極めつつ、そこに流れる後ろめたい感情の重みと、努力ではどうにも越えられない壁を描いて、セックスの後のはかなさを緻密に描くきりりん先生。こちらも鬱度高し。でも読んだ後の充実感もはかりしれないので、エロが平気であれば是非読んで欲しい作品です。
セックスでしか描き得ない関係がある〜エロマンガ家きりりん先生の世界〜

何度見ても心がギリギリするコマだなあ…。
 
余談ですが、「瓶詰め」って言われるとどうしてもみさくらなんこつ先生思い出しますね。