近藤さんはセカイ系かなと思ってしまった件について

近藤さんのCNET Blogの記事、「世の中はでたらめな仕組みで動いている」、「でたらめさはどこから来るか」を読んで、「近藤さんってセカイ系かな?」なんてことをふと思ってしまった。
以下は適当なつけたし。

セカイ系とはある種の世界観に基づくフィクションを指す言葉で、笠井潔の言葉を借りると「私的な日常(小状況)とハルマゲドン(大状況)を媒介する社会領域(中状況)を方法的に消去した作品群」*1である。代表作は『新世紀エヴァンゲリオン』『ブギーポップは笑わない』など。パターンとしては主人公は中高生で、ごく平凡な日常に微妙な違和感を持ちつつも何となく暮らしている。ところがこの日常がある日突然、世界レベルの物語と直結してしまい*2、主人公は否応なしに日常生活において世界のあり方を巡る戦いに巻き込まれていく。巻き込まれると言っても大はそれこそ巨大ロボットに乗せられて使徒と戦うというあたりから始まり、小はガールフレンドが宇宙人や人造人間やブギーポップであったなど巻き込まれ方は様々である。

こういうラノベ系のお話と近藤さんがどう関わってくるかというと、近藤さんの話はいきなりこう始まる。

僕はなぜか、「世の中は誰かが適当に作ったとんでもなくでたらめな仕組みで動いている」という世界観を持っています。「世の中は遠い過去からこれまで人類の英知が作り上げてきた精巧な仕組みで動いていて、現時点での最適解になっている」などとは到底思えないのです。

「世の中は誰かが適当に作ったとんでもなくでたらめな仕組みで動いている」。まさしくハルマゲドンと呼ぶにふさわしい世界のあり方を巡る大状況である。
こうした認識に至る過程というのは全て日常的な状況の積み重ねである。「野球のルール」、「中学校の制服」、「誰も居ない交差点の信号」。近藤さんは誰かによって我々に押しつけられた状況に疑問を持つ。もちろんこのような疑問は誰もが抱く疑問であり、疑問の矛先は必然的にボク達をとりまく世界へと向かう。ただし疑問の矛先は力を込めて突き刺したところで、せいぜい学校であるとか、警察であるとか、あるいは社会一般であるとか、国家であるとか、日本人論であるとかといったボク達と世界との間を幾重にも隔てる様々な階層のどこかに留まるものである。そこから先には普通行かない。
ところが近藤さんの矛先はそうした階層を全て突き抜けて、最後には世界のあり方そのものを突き刺してしまうのだ。
「中学校の制服」や「誰も居ない交差点の信号」もボク達には何の関わりもない隠蔽された権力機構によって押しつけられた状況だ。世界はこうした権力機構によって攪乱されでたらめにされている。これが近藤さんの世界観である。「中学校の制服」や「誰も居ない交差点の信号」といった日常的な風景は世界のあり方とついには直結してしまう。これはまさにセカイ系的な世界観のあり方を示していると思う。

またセカイ系の物語にはたいてい謎の組織が登場する。その組織の内部は隠蔽されており、組織の幹部、あるいは組織の幹部会議がテレビの画面の中に出てくる場面でも、会話はほのめかしに終始する。その組織は外部にはうかがい知ることの出来ない原理に基づいて統治されており、その原理から演繹された非合理、不条理、あるいは非情ともいえる状況を、セカイ系の登場人物に押しつけてくる。
新世紀エヴァンゲリオン』のゼーレ、『ブギーポップ』の統和機構がそうした組織の代表例である。この両組織、名称だけならルーツはコードウェイナー・スミスの「人類補完機構」に行き着く。ここから「必読書論争」なるものが生まれてくるのだが、真のルーツは名前を出すのも気恥ずかしいのだがストレートにカフカの諸作品、とくに「城」に行き着く*3


城 (新潮文庫)

城 (新潮文庫)


「城」は、とある城に招聘された測量技師Kが、その城を支配する権力機構に翻弄される話である。この権力機構の実体は城の中深くに収まっており外部からは見えない。Kは自分が呼び出されたまま放置されている理由を城に問い合わせようとするが何の回答も得られない。呼び出され放置されるという状況が何の説明もなく一方的に押しつけられる。こうした状況は近藤さんが嫌うところである。

当事者と違う場所でルールが作られ、それが絶対的真理であるかのように受け入れられ、そのルールに疑問を呈することはタブー視され、現場では理由も示されず本質から外れた管理が行われていて、疑問を持った当事者が疑問を投げかけるための窓口は用意されておらず、推理に近い努力をしないとその理由すら分からない。

近藤さんの権力観はゼーレや統和機構や「城」といった謎の組織に近いものがある。
そしてこうした権力機構が世界を攪乱しでたらめなものにしている。
そう、近藤さんにとって隠蔽された権力機構は「世界の敵」(by 上遠野浩平)なのである。


というわけで結論。
はてなは「城」である。砦である。
とはいえカフカの城とは違い、世界の不条理さに抗するための拠点なのである。
そしてボク達はてな市民は、セカイを支配する謎の組織と戦う革命戦士なのだ。たぶん。

*1:keyword:セカイ系

*2:大抵は転校生の可愛い女の子が…

*3:だからと言ってラノベの読者はカフカを読むべしとはもちろん言わない