『ドラゴンクエストIX』の主人公は天使だとか
本日は7月11日。日本を代表する(まあ、事実だ)二大RPGシリーズの一翼、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』の発売日である。最近すっかりKenjoPとして有名になったけんじょ氏が面白半分に朝7時から営業を開始しているショップへ足を運んでみたところ、並ぶでもなく混雑するでもなく普通にさらりと買えてしまったらしい。
先日、楽画喜堂さんなどで徹夜の行列ができた『ドラゴンクエストIII そして伝説へ……』の発売時のニュース映像が紹介されていたが、つくづくゲーム業界(特に小売店)は急勾配の下降気味であるらしい。(お陰で、弊社のゲーム開発部門もあがったりである*1)
追記:秋葉原ではそれなりに行列ができたらしい。
今回の『ドラクエIX』の主人公は「天使」ということだ。公式サイトに掲載されている解説によれば−−。
物語の発端となるのは、なんと天使界! あなたは天使のひとりとして、地上の人々の感謝の気持ちの結晶「星のオーラ」を集めるのが使命。それを「世界樹」にささげることで「女神の果実」がなり、神への道が開かれるというのですが−−。
微妙に北欧神話(世界樹)、カバラやグノーシス(シェキナー or ソフィア(共に女性的な神性)が神の道へと導く)が混ざった感じの設定だけれど、背中に白い翼を備え、頭上に光輪(ハイロウ)を浮かべた姿は非常にわかりやすいキリスト教的な天使の姿そのものだ。
ところで、天使の象徴とも言える翼と光輪なのだけれど、最初、天使はそのどちらも持っちゃいなかった。ユダヤ教の聖典(キリスト教で言う旧約聖書)のそこかしこに登場する「御使い(=天使)」は人間と変わらない姿か、さもなくば光り輝く雲の柱(「出エジプト記」参照)として描写される。彼らが明確に翼を持った存在として描かれるようになったのは、紀元前一〜二世紀頃の外典・偽典の中だった。
「創世記」「エゼキエル書」のケルビムや「イザヤ書」(ところで、「イザヤ書」の成立は「創世記」よりも早い)のセラフィムは翼を持っているじゃないかとの疑問を抱くむきもあろうが、それがそもそもの勘違い。ケルビムが有翼の天使、セラフィムが高位の天使の代名詞として定着するのはやはり紀元前一〜二世紀頃のことであって、当初は天使(御使い)とは異なる一種の神獣的な存在だったのだ。*2
光輪に至っては、ペルシアの太陽神のあたりにまで遡り、古代エジプトのホルスやラー、ギリシアのヘリオス、ローマ皇帝の肖像などを経て「神の力」の象徴として一般化し、ようやく四世紀頃になって天使の頭上に出現した「異教由来のシンボル」なのである。*3
このあたりの薀蓄については拙著にいやってほど書いているので、興味を持たれた方はそちらを参照されたい。
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*1:具体的にどうあがったりかというと、「すぐに大きい案件があるのでタスク空けておいてください!」な話が舞い込んではくるのだけれど、雲散無消するならばまだしも、数ヶ月間ウンともスンとも言わず、いざ動いてみれば工期がやたら短いとか面倒な仕様が増えているとか。
*2:なお、カナン神話(ラス・シャムラ文書)の中には一箇所だけ「ケルブ(ケルビムの単数形)」についての言及があるid:m-toroia氏から、ラス・シャムラ文章中にkrbの文字が見当たらないとの指摘がありました。手元の文献の誤りなのかも知れません、折をみて確認します。
*3:中央アジアの神々の光背との関連性も指摘されているが、このあたりについては確信が持てるほどに知悉しているわけではないので割愛。