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2018-01-13

[][] 舞城王太郎『淵の王』  舞城王太郎『淵の王』を含むブックマーク

 久々の舞城王太郎作品。今、このブログをさかのぼってみたら前に読んだのは2010年の『獣の樹』と『イキルキス』。『イキルキス』の中の「パッキャラ魔道」は良かったんですけど、『獣の樹』がいまいちだったのと、その前の超大作『ディスコ探偵水曜日』がいまいちで、その後あまりフォローしてませんでした。

 ところが、この『淵の王』が2015年Twitter文学賞国内編を獲り「舞城王太郎復活か?」と思って本屋に行ったものの近所の本屋には置いておらず、結局今回文庫化したので読んでみたのですが、これは良い!

 まずは文体と会話に勢いがありますし、読後感は初期の名作『世界は密室でできている。』を思い起こさせますホラーテイストの中に舞城王太郎ならではの「圧縮された人生」が上手く描かれています


 この『淵の王』は、「中島さゆり」、「堀江果歩」、「中村悟堂」という3つの中編から構成されています

 いずれも直接のつながりはないですが、テーマはほぼ同じで、それぞれの話での設定などがちょっとズレた形で響きあうようになっています。また、それぞれのタイトル主人公名前ですが、それぞれの主人公に少し似たところがあります

 そして何よりも、主人公にぴったりと寄り添う謎の語り手によって語られる二人称小説であるという共通点があります読み手主人公の行動に関してはこの謎の語り手を通じてほぼすべて把握できるのですが、主人公内面に関してはよくわかりません。この二人称の語の使い方が非常に上手いのです。


 まず、「中島さゆり」ですが、主人公福井から東京に出てくる女子大生特に尖ったところもない普通女子に見えますが、唐突に「私は光の道を歩まねばならない」などと言い出す、ちょっと変わったところもあります彼女杉田くんという気になる幼なじみもいるのですが、特に拘るわけではなく淡々東京女子大生としての生活を送ります

 前半は会話の部分が抜群にうまくて面白く、ホラーっぽさは微塵もありません。福井の友人の伊都ちゃんから杉田の様子が変だということを聞かされますが、それも最初はそんなに大事に思えません。

 ところが、最後は見事なサイコホラーになり、読者は中島さゆりの「強さ」に驚くのです。


 次の「堀江果歩」は、負けず嫌いで何事にも没入する主人公中学生になったら家にある『世界文学全集』を読まねばと考え、実際にそれを実行しようとするような人物です。その負けず嫌いテニスでも発揮され、テニスにのめり込むわけですが、同時に姉に勧められたマンガものめり込みます

 そんな中、姉との会話の中であるはずのない「グルニエ」(屋根裏部屋)という言葉が出てきたこと、コンビニ痴漢撃退したことから物語が動き始めます、そして、びっくりするほど長い年月と波乱の半生を経て、結末へと辿り着くのです。


 「中村悟堂」は、ふらふらした遊び人に見える20代後半の男が主人公福井出身現在東京に住み、中学高校同級生湯川虹色(にじいろ)と付き合っているのだかいないのだかよく割らない関係を結んでいますが、同じく中学高校同級生福井に残っている斉藤範子のことも気にしています

 この話は前半から比較ホラーテイストが前面に出ているのですが、それでもだんだんホラーや謎解きよりも、人間の「倫理」のようなものがせり出してくるのが舞城王太郎ならでは。


 読み終えてスッキリするような作品ではないかもしれませんが、この速度に、この強度に、「倫理」への執着、舞城王太郎しか書けない世界ですし、非常に面白いです。


淵の王 (新潮文庫)
舞城太郎
4101186383

2018-01-11

[][] 清田耕造『日本比較優位 清田耕造『日本の比較優位』を含むブックマーク

 「比較優位」は高校政治経済教科書などにも登場する経済学理論であり、提唱者のリカードとともにそれなりの知名度はあると思います

 しかし、一方で教科書知識としては普及していても実際には理解されていない(現実世界に当てはめられてない)理論だとも言えるでしょう。

 この本の冒頭にはサミュエルソンが「社会科学の中で真実であり、自明でない命題を一つ挙げてみたまえ」と言われ、しばらく後に「リカード比較優位」を思いついたエピソードが紹介されていますサミュエルソンが言うには「比較優位論理的には数学者の前で議論をするまでもなく正しい。しかし、何千もの知的要人たちが理解できず、また説明されても信じることができない命題である」とのことなのです(2p)。


 そんな比較優位が実際に成り立っているとのかということを日本を事例として実証的に分析した本になります

 具体的にはヘクシャー=オリーン・モデルを使った分析がメインです。理論としてはヘクシャー=オリーン・モデル伝統貿易理論と呼ばれ、「新」貿易理論や「新」新貿易理論に比べると目新しさはないですが、この本では比較優位いか実証するかということに主眼が置かれており、実証に適した理論としてヘクシャー=オリーン・モデルが選ばれています

 

 やっていることは非常に興味深く、勉強にもなる本ですが、かなり難しい部分もあります経済学の専門的なトレーニングを受けていない自分にとっては第III部は、正直、理解できない部分もありました。

 今までも計量経済学や計量政治学などの本を読んできて、「何をしようとしているのかはわかるものの、その数式や統計処理妥当なのかはよくわからず、とりあえず著者を信頼するしかない」という場面は多々ありましたが、この本の第III部は著者が「何をしようとしているのかが掴み難い」というレベル。

 それでも第I部や第II部の分析は興味深いですし、読める人が読めば第III部も面白いのだと思います


 目次は以下の通り。

第1章 なぜいま比較優位

第吃 わが国の貿易の変遷と比較優位

第2章 日本国際貿易の変遷

第3章 比較優位机上の空論

第局 HO(ヘクシャー=オリーン)モデル日本貿易パターン

第4章 貿易生産要素をつなぐメカニズム

第5章 日本の純輸出は今なお熟練労働集約的か

第6章 日本の純輸出はエネルギー節約的か

第敬 拡張HO(ヘクシャー=オリーン)モデルによる日本産業構造分析

第7章 都道府県産業構造賃金格差

第8章 日本の要素賦存と産業構造の変遷

第9章 日本比較優位はどこにあるのか


 最初にも書いたように比較優位とはなかなか世間一般理解されない考えです。

 この本の第1章ではクルーグマンの「他のすべての国が年に生産性を3%上げて、アメリカけが1%生産性を上げていたらどうなるか?」という問をとり上げています。多くの人はアメリカは停滞するか、あるいは生活水準が下がると予想しますが、これは外れです。他の国がどうだろうとアメリカ生活水準は上がっていきます(10p)。

 世の中には「国際競争力」なる重要概念があって、これがなければその国は輸出ができなくなるように考える人もいますが、「仮にすべての材の国際競争力を失ったとしても、すべての材の比較優位を失うということは起こりえ」(10p)ません。日本がすべての産業において競争力を失った(絶対優位を失った)としても、比較優位に特化して貿易したほうが、日本にも貿易相手国にもメリットはあるのです。


 この比較優位の考えを打ち出したリカード労働という1つ生産要素のみに注目してモデルを構築しています比較優位の源泉を労働生産性の差に求めているのです。

 このモデルにそって考えると、労働生産性の大きい相手、つまり先進国途上国との間で貿易が活発になりそうですが、実際は労働生産性の差が小さいと考えられる先進国同士の貿易が活発です。リカードモデルには現実をうまく説明できていない面もあるのです。


 一方、ヘクシャー=オリーン・モデルでは労働だけではなく資本という生産要素にも注目しています。このモデルは「たとえ二つの国の間で技術や選好がまったく同じであっても、それぞれの国が別の財に比較優位を持ちうることを示すことに成功して」(16p)います

 しかし、後の実証において同じ産業内でも貿易が行われていることが明らかになってきました。そこでクルーグマンヘルプマンの「新」貿易理論が登場し、さらに「新」新貿易理論とも呼ばれるメリッツモデルが登場するのですが、この本で使われるのはヘクシャー=オリーン・モデルです。

 「なぜ古い理論を?」と思う人もいるでしょうが分析企業レベルのデータ必要なメリッツモデルでは、過去に遡って分析することが難しいです。一方、産業に焦点を当てたヘクシャー=オリーン・モデルを使えば、日本貿易についてある程度遡って分析することが可能なのです。


 第2章では過去30年の日本貿易パターンデータに基づいて確認しています

 まず1980〜2009年にかけての輸入・輸出のシェアをほぼ5年おきに見ています。輸入において一貫してシェアトップにあるのが鉱業です。この鉱業には原油天然ガスも含まれており、日本天然資源輸入国であることが確認できます。また常に輸入のトップ10に含まれているのが石油製品非鉄金属製錬・精錬繊維工業製品です。さらに近年は電子計算機・同付属装置半導体素子・集積回路シェアが高まっています

 輸出で一貫してベスト5をキープしているのが、自動車自動車部品・同附属品、特殊産業機械の3つです。一方、1980年には6位だった繊維工業製品2009年ではシェア0.6%と大きく落ち込み、1980年シェア0.3%だった半導体素子・集積回路2009年にはシェア8.4%で自動車に次ぐ第2位となっています

 また、全産業でも見ると、輸入内需比率1980年の7.9%から2009年の16.2%へ、輸出生産比率1980年の8.1%から2009年17.9%に上昇しています国内需要に占める輸入の割合国内生産における輸出の割合はともに高まったいるのです(38p)。


 輸出入相手国を見ると、これが意外に安定しています。輸入相手国において中国米国オーストラリアサウジアラビア韓国アラブ首長国連邦インドネシアドイツの8カ国はずっとトップ10に入っています。また1985年以降は台湾も一貫してトップ10に入っており、トップ10のうち9カ国はほぼ固定されています

 輸出においても、中国米国韓国香港ドイツ台湾の6つの国と地域は一貫してトップ10に入っており、シンガポールタイ1990年以降、継続してトップ10に入っています。そして輸出に関しては相手国が集中していてトップ10シェア1980年の54.9%から2009年には70.9%にまで伸びています(42p)。

 

 また、諸外国との比較から取り出された貿易パターンとしては、非耐久消費財一人当たりのGDPの上昇とともに純輸入国から輸出国に転じ再び純輸入国に転じる逆U字型の構造資本財は一人当たりのGDPの上昇とともに純輸入から純輸出に転じるという右上がりのパターンが窺えます。ただし、米国はすでに資本財も純輸入に転じており、日本も純輸出から純輸入に向かう傾向にあります(47p)。


 そもそも比較優位理論は成り立つのか? この問題にチャレンジしたのが第3章です。

 現在も日々貿易が行われていますが、それが比較有利の理論に基づいているのかを確かめるのは難しいことです。Deardorffは「比較優位法則」と呼ばれる比較優位貿易関係理論的に示しましたが、それを実証するには閉鎖経済下の価格情報、つまり貿易を行っていない時の価格情報必要になります

 この情報を手に入れるのは難しいように思えます。まったく貿易をしていないような未開社会では価格情報は集まらないだろうからです。しかし、実は使える例が存在ます。それが江戸時代日本です。


 鎖国下でも貿易ゼロであったわけではありませんが、その影響は無視できるほど小さく、江戸時代日本は閉鎖経済といえます

 Deardorffによれば、閉鎖経済下の価格自由貿易下の価格よりも低い財を輸出する傾向があり、閉鎖経済下の価格自由貿易下の価格よりも高い材を輸入する傾向(比較優位にある材を輸出し、比較劣位にある材を輸入する)があるとのことです(59p)。

 ここでの分析は具体的な品目をあげずに、主に数式を使って展開しているためにイメージは湧きにくいのですが、幕末開国から明治初期の貿易パターン比較優位理論に基づいて変化しているとのことです。


 第4章では、ヘクシャー=オリーン・モデルと、それが実証されうるか検証されています

 リカードモデルでは比較優位の源泉は労働生産性にありましたが、ヘクシャー=オリーン・モデルでは各国の要素賦存の差にあります。「各国の要素賦存」などというと大方の人には意味不明ですが、ヘクシャー=オリーン・モデルから導かれるヘクシャー=オリーンの定理とは次のようなものです。

ヘクシャー=オリーンの定理労働資本)が相対的豊富な国は、労働資本)集約的な財を輸出する。(73p)

 つまり、資本に比べて労働相対的豊富な国は労働集約的な財を輸出し、労働に比べて資本相対的豊富な国は資本集約的な財を輸出するというわけです。この労働資本のような2つの要素を組み合わせるのがヘクシャー=オリーン・モデルの特徴であり、この要素は労働資本だけではなく他のものでも成り立ちます

 また、ヘクシャー=オリーン・モデルの基本は二国・二財・二要素ですが、このモデルは後の拡張され、多要素・多国間を扱うようなモデルも構築されています


 第5章では熟練労働/非熟練労働という2つの要素に注目し、本当に日本貿易比較優位に基づいているのかを検証ます

 日本他国に比べて熟練労働豊富な国と言っていいでしょう。ヘクシャー=オリーン・モデルによれば、日本熟練労働集約的な財を輸出し、非熟練労働集約的な財を輸入するはずです。この章ではこのことを1980年から2009年までのデータを使って明らかにしようとします

 

 ここでは専門的・技術職業従事者、管理職業従事者を熟練労働事務従事者、販売従事者、サービス職業従事者、生産工程労務作業者、保安職業従事者、農林漁業作業者、運輸通信従事者、分類不能を非熟練労働とし、産業別に熟練労働者割合を調べます。すると教育情報サービス業医療研究開発といった産業熟練労働割合が高いことがわかります。また、製造業において熟練労働割合が高いのは機械産業特に電子計算機・同付属装置電子応用装置電気計測器、通信機器などの電気機械産業のおいて熟練労働割合が高くなっています(101p)。


 そうしてこうした分類に従って日本貿易分析すると、以下の3点の分析結果が出てきます(110p)。

 1 1980年から2009年にかけて日本は一貫して熟練労働集約的な財を純輸出していること。

 2 熟練・非熟練コンテンツ熟練労働と非熟練労働相対的関係1994年ピークに低下を続けており、2000年代には1980年代の水準を下回っている。これは日  本が熟練労働集約的な財の比較優位を失いつつあることを示唆する。

 3 日本熟練・非熟練コンテンツの低下には輸入の変化が寄与しており、具体的には中国から電気機械産業の輸入の拡大が影響を与えている可能性がある。

 

 第6章ではエネルギーに焦点を当て、日本貿易構造分析されています

 日本天然資源の乏しい国であり、エネルギー節約的な財に比較優位があることが予想されます。それが本当なのかということを確かめようとしたのが本章です。

 この章ではエネルギー節約産業エネルギー使用産業を分類し、さらエネルギーだけではなく、資本熟練・非熟練といった要素も同時に考慮した分析を行っています

 分析の結果、日本資本集約的な財と熟練労働集約的な財を輸出し、非熟練労働集約的な財とエネルギー使用的な財を輸入する傾向にあることが明らかになりましたが、輸入については系統的関係性を見いだせないこともあり、また輸出も2000年以降は系統的関係確認しにくくなっているとのことです。

 

 第7章から第III部になりますが、ここからは正直難しい。

 ヘクシャー=オリーン・モデルには、両国が両財を同時に生産しているときには、生産要素の価格両国で同じになるという「要素価格均等化定理」があるわけですが(74p)、この仮定に関してはオリー自身現実にはありそうもないと述べています(140p)。

 そこでそのようなシングルコーン世界ではない、マルチコーン世界を想定して分析してみようというのが第III部なのですが、このシングルコーンマルチコーン説明する力が自分にはないですね。

 一応、第7章では日本都道府県産業構造賃金格差と、第8章では日本の雁行形態産業発展のパターン分析しています


 このように後半は理論的にちょっと手に負えないものでしたけど、やろうとしていることは非常に興味深いと思います

 経済学理論はどんどん複雑な数式を駆使するようになっていますけど、基本的理論でもそれを現実事象を使って検証していることは少ないと思います。以前読んだ神取道宏『ミクロ経済学の力』の中に、平均費用限界費用の曲線を東北電力の実際の費用曲線を例にして見せてくれている部分があって感心しましたが、この本にも同じように抽象的な理論現実に結びつけようとする姿勢があります


日本の比較優位:国際貿易の変遷と源泉
清田 耕造
4766423747

 

2018-01-01

[] 2017年紅白歌合戦を振り返る  2017年の紅白歌合戦を振り返るを含むブックマーク

 あけましておめでとうございます

 今年も一年の計は紅白の振り返りにありということで、まずは去年の紅白について。

 直前で安室奈美恵の登場が決まるまでまったく目玉のなかった今年の紅白。去年はヒット曲もほぼ皆無で番組的には苦しいところだったと思いますが、それならばとライブ音源となる歌手、例えば竹原ピストルとか三浦大知とかX JAPANとかエレファントカシマシとかSuperflyとかをを揃えたラインナップは正解だったのではないかと思います

 去年はこのブログ記事でも指摘したように、「SMAPの不在」という事態を中心にしてすべてが否定神学的に構築されたステージだったわけですが、今年はおそらくそうした否定神学的な構成に対して、「SMAPを呼べなかった失態を糊塗しているだけで、もっと今ここの存在肯定すべき!」というニーチェ主義者から批判の声が上がったのでしょう。今年はある種の「過剰さ」を追求するような構成だったと思います欅坂46の「不協和音」が繰り返されたのはもちろん永劫回帰の現れ。詳しくは発表未定の論文紅白的、あまり紅白的〜あるいは回帰する欅坂46について」を参照)。

 司会に関しては、「LIFE」ネタが多くて「そんなのしらねーよ」という視聴者も多かったと思いますが、そういう場合は早めに二宮和也が引き取っていて全体的に安定していたのではないかと。去年、「歌ってないのでは?」という疑惑を指摘した有村架純も今年はちゃんと歌っていた感じでしたね。


 以下、各歌手の短評


三山ひろしけん玉で早々に失敗が出て、みんな「あ!」となったので曲を覚えている人なんていないだろう。

竹原ピストル→うざそうなんだけどうざくない。すごく説教臭そうな歌詞なんだけどうざくならないのは歌い手としての上手さなんだと思います

丘みどり→細かいテクニックをひとまず置いておいて全力で歌うという作戦がよかった。巧さはなかったけど若手演歌歌手の中ではエモいステージでした。

市川由紀乃→やはり若手(というか誰でも)に美空ひばりの歌を歌わせるのはどうなのか?美空ひばりは声量、音域、テクニックとすべてにおいて傑出しているので、上回れる部分というのがないんですよね。ちょっとしかったと思います

SEKAI NO OWARI→『メアリと魔女の花』の主題歌。それなのにバックに『メアリと魔女の花』の映像が流れないのはなんでだろ?しかもこの曲が終わった後にアニメ100年と銘打って、コナン映像をバックに倉木麻衣が歌ったのに『メアリと魔女の花』の映像が流れないのはなんでだろ?この曲自体Fukaseボーカル個性がよく出る曲でなかなかいいと思います

三浦大知→これはカッコ良かった!昔から歌もダンスも上手いのは知ってたけど、こういう紅白のようなステージでも十分通用しますね。

欅坂46立憲民主党枝野代表カラオケで歌ったと聞いて、歌詞枝野の姿がシンクロして味わい深かった。相変わらずファシズムぽいんだけど。

福山雅治だんだんと歌が説教じみてきている。一言で言えば「さだまさし化」。

松田聖子→声も出てなかったし、自作の曲もダメだったし、いいところなし。

平井堅→この曲のサビとか展開は良いと思うし平井堅歌唱も良いと思うんだけど、歌詞が前半から単純で重い。もう少しうまい比喩なり何なりが使えていればさらに良いと思うんだけど…

椎名林檎歌い手としてのパワーでは後続のX JAPANなどには対抗できないので、そこでトータス松本を呼んでくる椎名林檎作戦勝ち。

X JAPANYOSHIKIドクターストップというのは、アンパンマンの顔が一度は濡れるか汚されるのと同じような様式美なんだけど、それでも「来た来た!」となるところが偉大。

AKB48→近年は毎回ごちゃごちゃしていてどうでもいい感じのAKB48ステージだったけど、今年は「渡辺麻友花道」というまとまりがあって良かったんではないでしょうか。ただ、渡辺麻友卒業するとAKB48というグループはなくなってAKB48というシステムだけが残る感じではありますよね。

エレファントカシマシ→「今宵の月のように」はやはり良い曲なのだ再確認。曲の緩急が心地よい。

松たか子→曲自体はすごく平凡だと思うのですが、松たか子が歌うと何か立派なことを歌っているように感じる松たか子マジック

Superfly→もともとすごいパワーがるのは知ってたけど、今回は押し一本じゃなくてやや抑えて入ってサビは圧巻の迫力。今回のMVPなんじゃないでしょうか?

嵐→一時期はかなり凝ったステージで「最先端」ということを意識していた嵐だけど、今回は非常にオーソドックスSMAPがいなくなって差異化の必要がなくなったということなのですかね。

安室奈美恵→中継だしそんなにライブ感を感じさせないステージでしたけど、でないと去年の「SMAPを待ちながら」になってしまうので、出ることが重要なんでしょうね。さすがの説得力はありますし。

石川さゆり→1番のアレンジには賛否両論あるでしょうが、毎年、「津軽海峡景色」ち「天城越え」の無限ループですから、本人もちょっとは趣向を変えたくなるでしょう。本人の歌唱はさすが。ただ、1番のバックのピアノの入れ方はあんまり好きじゃない。

ゆず北川悠仁はあまり好きではないのですが、岩沢がいますからね。「北川さんが急病のため、急遽、岩沢さんが1人で歌います」とかいう展開を期待しているくらいに岩沢の高音の伸びは良いと思います



 勝敗的には松たか子Superfly石川さゆりがいた紅組勝利で良かったと思いますが、去年の疑惑の判定の後だと紅組を勝たせにくいですよね。審査員投票オープンにするスタイルでしたし、白の勝利は仕方がない。今回、審査員ステージ上にいましたけど、あれは高橋一生を映し続けるためなのか?あれは審査員に余計なプレッシャーがかかって良くないと思う。

2017-12-30

[] 2017年映画  2017年の映画を含むブックマーク

 今年も映画を見たのはほぼ立川シネマシティ。というわけで「2017年映画」というよりも、「2017年立川シネマシティでやっていた映画」というタイトルのほうがふさわしいかもしれませんが、とりあえず今年の5本を。

1位 『ダンケルク

B076SLRNYXダンケルク ブルーレイ&DVDセット(3枚組) [Blu-ray]
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント 2017-12-20

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 クリストファー・ノーラン初の本格的な戦争映画ノーラン作品だけあって、単純な戦争映画ではなく、陸での1週間と海での1日そして空での1時間が違った時間軸で同時進行しつつ、最後に一つに重なっていくという構成になっています(『インセプション』がそんな映画でした)。

 そういう複雑な構成面白いのですが、なんといっても冒頭のビーチのシーンが良い。一面の白い砂と撤退の船に乗るために列をなす兵士たちの黒い線。そこにサイレンのような音を立ててドイツ軍の急降下爆撃機が襲い掛かる。スケール感のある画面で、この作戦の規模や兵士たちの焦燥と絶望を印象づけていますデヴィッド・リーンとかキューブリックを思わせる画でした。


2位 『ベイビー・ドライバー

B07729ZFDKベイビー・ドライバー [DVD]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2018-01-24

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 まずは音楽カーチェイスシンクロの見事さ。カーチェイスというのは今までのアクション映画でさんざんやり尽くされてますが、この映画では音楽をうまく使うことで、今までにないような気持ちよさをつくり出しています

 前半は、音楽に沿ったシーンのつくりや、長回し、そして現代舞台にしながらどこかしらレトロ雰囲気を漂わせる画面づくりは、『ラ・ラ・ランド』あたりを思い出しましたが、後半はやや血生臭くなってタランティーノ映画を思い出します最後までノリを落とすことなく、鮮やかに走り抜けるような映画です。

 ケヴィン・スペイシーいかにもケヴィン・スペイシーな役柄ででてるのですが、こういうケヴィン・スペイシーを見るのもこれで最後になるんですかね…。


3位 『お嬢さん

B072HGXFS7お嬢さん 通常版 [Blu-ray]
TCエンタテインメント 2017-07-05

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 『オールド・ボーイ』や『親切なクムジャさん』のパク・チャヌク監督作品サラ・ウォーターズ小説『荊の城』を原案にし、舞台ヴィクトリア朝イギリスから日本統治下の朝鮮に移したサスペンスになります

 日韓併合のドサクサのなかで財をなし、日本人結婚して日本人のように振る舞う主人公の秀子の叔父がつくり上げるキッチュ日本的エログロ世界。その中でひときわ輝く魅力を見せる秀子を演じるキム・ミニさらに中盤以降の鮮やかな話の折り返しと、パク・チャヌクらしさが詰まった作品ですね。


4位 『メッセージ

B073WZN976メッセージ [Blu-ray]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2017-10-18

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 テッド・チャンあなたの人生の物語」の映画化作品。「あなたの人生の物語」は近年屈指のSF中編、というかSFに限らずとも中短編でこれだけの作品はめったにないというそういうクラス作品だと思うのですが、それだけに映画を見る前には不安もありました。

 しかし、その不安を見事に払拭してくれました。特にSFガジェットの描き方は非常に秀逸で、ある日突然現れる宇宙船らしき物体、そこに乗っているヘプタポッドと彼らの発する音や彼らの描く文字、これらが非常に見事に描かれています

 フィルマーの最小時間定理など、物理学的な説明をバッサリと削ったことでラストがややシャマラン映画のようになってしまった感もありますが、丁寧にそして美しくつくられたSF映画でした。


5位 『ラ・ラ・ランド

B071F1696Tラ・ラ・ランド スタンダード・エディション [Blu-ray]
ポニーキャニオン 2017-08-02

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 アルバムにおいて冒頭とラストの曲が良いと、それだけで繰り返し聴く気になるということがありますが、この『ラ・ラ・ランド』もそんな印象。中盤のストーリーはありきたりですし、予告で良さそうだったプラネタリウムのシーンなどもそれほど鮮やかではありませんでした。けれども、何と言っても冒頭の高速道路エマ・ストーンらが通りを踊りながら歩く冒頭のミュージカルシーン、そしてラストの盛り上がりが中盤の平板さをかき消しますね。

 そして、テーマソングの高揚感!このテーマソング気持ちよさは近年でも屈指のものだと思います



 次点は『ハクソー・リッジ』あたりですかね。去年はけっこう邦画を選んだのですが、今年はそんなに引っかかる邦画がなくてすべて洋画になりました。

 秋ごろはバタバタしていて『ドリーム』と『散歩する侵略者』を見ようと心に決めていたのに見逃しました。そしてアン・リーの『ビリーリン永遠の一日』が公開されなかったのはなぜだ?

2017-12-29

[] 2017年ベストアルバム  2017年ベストアルバムを含むブックマーク

 今年は後半になって「チャットモンチー来年解散」というニュースと、「ふくろうずが突然解散」というニュースが飛び込んできて、「これから邦楽は何聴いていけばいいの?」ムードになっている状況ですが、それでも時代はまわるということで2017年ベストアルバムを去年に引き続き8枚。

 文句なしの出来はThe Nationalで、他は好みでという感じ。一応、今年見つけたのは、Low RoarとOh Wonderですが、Oh Wonderは2nd、Low Roarは3rdアルバムなんですよね。今まで完全に見逃していたということ。本当に年々シーンを追えなくなっている気がする。


1位 The National/Sleep Well Beast

B0716RP8ZHSLEEP WELL BEAST [CD]
THE NATIONAL
4AD 2017-09-07

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 The Nationalは3枚目の「Alligator」から聴いていますが、今までの彼らの総決算的な作品でもあり、10年代の新しいロックを切り拓く傑作。なんといっても2曲目の"Day I Die"を聴いてほしいわけですが、複雑なドラムの鋭い切込みを入れていくギター、近年のロックで追求されていたウワモノにもなるようなドラムと装飾的なギターが高いレベルで誘導している文句なし名曲だと思います

 他の曲もレベルが高く、アルバムトータルでも飽きるところがありません。

D



2位 橋本絵莉子波多野裕文/橋本絵莉子波多野裕文

B06ZXR5KWC橋本絵莉子波多野裕文
橋本絵莉子波多野裕文
KRE 2017-06-20

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 チャットモンチー橋本絵莉子People In The Box波多野裕文によるデュオ。橋下絵莉子が「自分以外の人の作った曲を歌いたい」という思いからスタートした企画で、基本的橋本絵莉子歌詞波多野裕文が曲をつけるという形で楽曲作成されているらしいです。

 最初は悪くはないものの、もっと橋本絵莉子ボーカルを活かすようなジェットコースター的展開もあっていいんじゃないかと思ってたのですが、聴けば聴くほど「これでよかった」と思うようになりました。橋本絵莉子のやや不思議歌詞がちょうどよい音に包まれている感じです。特に"トークトーク"は今年の邦楽No.1の曲ですね。

D


3位 Oh Wonder/Ultralife

B06Y3Y4YFHULTRALIFE
OH WONDER
ISLAN 2017-07-13

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 Oh Wonderはイギリスの男女デュオでこれが2ndアルバム。今作で初めて知りましたが、男女デュオ好きとしてはこれは素直に良いと思います。とりあえずこのOh Wonderの売りはポップセンスメロディの良さ。エレクトロポップなのですが比較的起伏のあるメロディでどの曲にもしっかりとした見せ場のようなものがあります

 自分が大好きなSlow Clubに比べると女性ボーカルの迫力や音楽へのオタク的なこだわりという点では劣るかもしれませんが、センスありますし、こちらのほうが一般的な人気は出そう。


4位 ふくろうず/びゅーてぃふる

B071JBW7DSびゅーてぃふる
ふくろうず
徳間ジャパンコミュニケーションズ 2017-09-05

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 去年に引きつづきのフルアルバムリリースで、レコード会社移籍後順調だなと思っていたのですが、これがラストアルバムとなってしまいました。1曲目、2曲目にそれぞれシングル曲的な"びゅーてぃふる"と"デイドリーム"を持ってきていて、いよいよ売るための作戦を考えてきたのか思っていたんですけどね…。

 当初はアルバムの前半に比べると後半が弱いかなと思っていたのですが、だんだんラストの"サンライズサンセット"の♪また君に会えたなら/なにしようか?/一緒に暮らそう?/猫も飼おう!/幸せでしょ?♪の部分が大好きになりました。


5位 Syrup16g/delaidback

B0765TZZGBdelaidback
syrup16g
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT 2017-11-07

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 Syrup16gアルバムは今までライブなどで演奏されていなかったものCD化されていなかった楽曲を集めたもの

 冒頭の"光のような"からいかにもシロップ歌詞とサビ。♪中央線が止まっても/最終に乗り遅れても/この人生は終わらない♪とか歌詞だけでシロップだとわかるような感じですよね。次の"透明な日"の♪停留所に/年老いた老人が 独りで/寝ているように 待っていた/ああ そのバス今日も来ませんか♪という部分なんかもいかにもな歌詞だと思います

 未発表曲を集めたアルバムというとコアなファン向けのように思えますが、名曲の"赤いカラス"も入っていますし、普通アルバム収録曲と遜色ない出来です(むしろ粒が揃っているといえるかも)。


6位 Stars/There Is No Love In Fluorescent Light

B074XLZDV2There Is No Love in..
Stars
Last Gang Records 2017-10-12

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 Stars、9枚目のアルバム。前作の「No One Is Lost」が2014年なので3年ぶり。今回のアルバムは「とてもStarsらしい」アルバム特に目新しいことはまったくないんですが、Starsファンであれば、安心して聴けるような内容になっています

 まあStars過去アルバムの中で特に上位に入る出来というものではないですが、ラストの"Wanderers"のストリングスの使い方などはいいですし、ファンを裏切らない内容です。


7位 Low Roar/Once In A Long, Long While...

B06VSLBHJYOnce in a Long, Long While
Low Roar
Nevado Music 2017-04-13

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 Low Roarはアイスランド出身の二人組ユニットでこれが3rdアルバムアイスランドといえば、何と言ってもビョークSigur Rosで、最近ではアウスゲイルなんかがでてきているわけですが、このLow Roarの音楽もそういったアイスランドアーティストの流れの中にありますエレクトロニカと生楽器の融合、浮遊感を感じさせるようなメロディやアレンジ、少し神秘的な世界観など、多くのもの共通しています

 ただ、このLow Roarは今まで上げたアーティストに比べるとややポップ寄り。例えば、冒頭の"Don't Be So Serious"も、基本的にはダークな雰囲気の曲なのですが、サビの部分のアレンジがほんの少しポップによっていて、気持よく抜けていく感じがあります


8位 Jens Lekman/Life Will See You Now

B01N7L5OPPLife Will See You Now
Jens Lekman
Secretly Canadian 2017-02-16

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 スウェーデン出身シンガーソングライター、Jens Lekmanの4枚目のアルバム。前前作が2007年、前作が2012年なのでここ最近は5年毎にアルバムを出してます。Jens Lekmanといえば、デビュー当時の"Rocky Dennis' Farewell Song"における、優しい歌声メロディ北欧ならではのポップさなどが魅力的でした。ただ、その後、優しい歌声メロディは健在でしたが北欧的なポップさはやや後退していたと思います

 しかし、それが今作では帰ってきた感じです。1曲目の"To Know Your Mission"も非常にシンプルな音で始まりながら、非常にポップなできで、しかも優しい歌声メロディの良さは相変わらずで、気持ちよく聴けるアルバムになっています

2017-12-28

[] 2017年の本  2017年の本を含むブックマーク

 去年の「2016年の本」では経済学の本を多くあげましたが、今年はどちらかというと政治学の本の当たり年。読み応えのある本が数多くありました。

 一方、小説に関しては、小さい子どものいる影響で今年も冊数は読めず。ただ、去年よりも面白い小説に出会えたような気はします。

 というわけで、小説以外の本の新刊を読んだ順に6冊、さらにやや古めの本を1冊あげ、小説に関しては順位をつけて5冊紹介したいと思います。

 なお、新書に関しては別のブログで「2017年の新書」をまとめています。


トーマス・シェリングミクロ動機とマクロ行動』

4326550767ミクロ動機とマクロ行動
トーマス シェリング Thomas Schelling
勁草書房 2016-11-29

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 2005年ノーベル経済学賞を受賞し、昨年の12月に95歳で亡くなったトーマス・シェリングが、さまざまな身近な事例を、単純な「算術」とゲーム理論を始めとする経済学のいくつかの知見で読み解いた本。

 「なぜ、教室の前の席が爆心地のように空いてしまうのか?」、「研究会読書会が続かないのはなぜなのか?」、「なぜ人種ごとに居住地域が分かれていくのか?」、「スキーリフトの列を解消させるためにリフトの速度を上げても無駄なのはなぜか?」、そんなさまざまな疑問にシェリングが答えていきます。

 さらに最後には「なぜ広島長崎以降、核兵器使用されなかったのか?」という問題を扱ったノーベル賞受賞講演「驚くべき60年 ー 広島の遺産」も収録されており、日常の問題と国際政治の問題が接続されています。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170117/p1


曽我謙悟『現代日本官僚制

4130301616現代日本の官僚制
曽我 謙悟
東京大学出版会 2016-12-24

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 もし、「『現代日本官僚制』というタイトルの本を書け」と命令されたら、どのような構成を考えるでしょうか?

 おそらく、多くの人は明治期における官僚制のはじまりや55年体制下における官僚の動きなどを追いつつ、90年代後半の橋本行革などによって日本官僚制がいかなる変化を遂げたのかということを分析する、といったスタイルを考えると思います。

 ところが、この本はまったく違います。政治制度が官僚制に与える影響を数理モデルを使って構築し仮説を提示、さらに国際比較や日本の実態を通してその仮説が妥当かどうかを検討します。仮説の中には日本の実態と乖離したものもあるのですが、著者は仮説を棄却するのではなく、そのズレを日本官僚制歴史を見ていくことで埋めていくのです。

 かなりハードな内容ですが、議論は非常に刺激的で、日本官僚制を考える上で、今後長く参照されつづけていく本と言えるでしょう。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170201/p1


マイケル・L・ロス『石油呪い

4905497493石油の呪い――国家の発展経路はいかに決定されるか
マイケル・L ロス 松尾 昌樹
吉田書店 2017-02-03

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 経済学を少しかじったことのある人なら、石油の存在がかえって経済成長を妨げる「オランダ病」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。原油の輸出が通貨高をもたらし、その他の産業競争力を削ぐという現象です。

 しかし、「石油呪い」は、こうした経済的側面だけにとどまらず、政治的な側面にも負の影響を与えるのです。本書によれば、1980年以降、産油国は非産油国に比べて民主化が進展せず、より秘密主義的になっています。また、途上国産油国に限れば、女性雇用政治的な進出が進まない傾向が見られ、暴力的な反乱に苦しむ傾向にあります。こうした石油のもたらす政治的な負の側面を、計量分析を駆使しながら明らかにしたのがこの本です。

 政治学開発経済学を股にかけるような議論は面白いですし、中東女性の地位の低さはイスラームの影響ではなく石油の影響である、など重要な知見を含んだ本です。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170302/p1


田中拓道『福祉政治史

4326351691福祉政治史: 格差に抗するデモクラシー
田中 拓道
勁草書房 2017-02-14

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 「福祉国家」というと、少し古臭いイメージもあるかもしれませんが、スウェーデンなどの北欧諸国はさまざまな改革を行いつつ、充実した福祉と経済的パフォーマンスを両立させていますし、ドイツフランスなどでも福祉の改革が行われてきました。一方、少子高齢化財政難の中、日本では効果的な福祉改革は行われているとはいい難い状況です。

 「このような状況はなぜ生まれたのか?」、「そもそもそれぞれの国の福祉制度はなぜ違っているのか?」、こうした疑問に答えるために、各国の福祉制度の歴史を説き起こし、90年代以降、どのような改革が、なぜ行われたのかということを分析したのがこの本になります。主にとり上げているのは日本アメリカイギリススウェーデンドイツフランスの6カ国。これらの国の福祉制度をタテ(歴史)とヨコ(国際比較)から分析しようとしたかなり野心的な構成で、今後の福祉国家日本の福祉を考えていく上で一つの見取り図を与えてくれる内容になっています。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170409/p1


山口一男『働き方の男女不平等』

4532134714働き方の男女不平等 理論と実証分析
山口 一男
日本経済新聞出版社 2017-05-25

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 1980年代ポストモダニズムが議論されていた日本社会の特性の一部は、実は現代でも未だ近代社会とも呼べない特性を有しているといえる。重要な業績である大卒か否かより、生まれが男性である女性であるかが、課長以上の管理職になる可能性の大きな決定要因なのである。(70p)

 日本において女性給与が男性よりも低く、女性管理職は少ないです。この理由としては、「女性の方が勤続年数が短いから」、「最近はずいぶん詰まってきたとはいえ、男性の学歴女性よりも高いから」といったものがよくあげられています。

 これはもちろんまったくの間違いではないのですが、この本では、統計分析を使って、そうした学歴や勤続年数などで説明できる部分と説明できない部分に分解し、学歴や勤続年数でも説明できない、つまり生まれつきの性差でしか説明できない部分が残ることを明らかにしています。しかも、学歴や就業経験などの人的資本特性、さらに就業時間などの要因を加味しても男女の管理職差の40%程度しか説明しておらず、管理職差の約60%は男女差によるものだというのです。

 テクニカルで難しい部分のある本なのですが、働き方における男女不平等についてある程度専門的に語っていくためには外せない本になっていくと思います。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170727/p1


砂原庸介『分裂と統合日本政治

4805111127分裂と統合の日本政治 - 統治機構改革と政党システムの変容
砂原 庸介
千倉書房 2017-07-10

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 今年は衆議院総選挙があったわけですが、注目を浴びたのは与党の勝利という選挙結果よりも、民進党の自爆的崩壊と希望の党の爆死、立憲民主党の健闘といったものでした。

 「なぜ野党は自壊していってしまうのか?」、この疑問に選挙制度地方分権改革の視点から答えたのがこの本になります。衆議院に関しては90年代選挙制度改革において2大政党制を志向する小選挙区比例代表並立制が導入されましたが、参議院地方議会選挙制度そのままでした。この選挙制度のズレが地方政治民主党のような政党が伸び切れない原因であり、また、地方分権改革によって力をつけた首長がつくった政党民主党と競合しました。このような「野党が育ちにくい土壌」をさまざまな分析によって示したタイムリーな本です。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170808/p1


ポール・ピアソンポリティクス・イン・タイム

4326301872ポリティクス・イン・タイム―歴史・制度・社会分析 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 5)
ポール・ピアソン 粕谷 祐子
勁草書房 2010-04-15

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 政治学において経済学生まれの合理的選択論が幅を利かせる中で、「歴史重要である」との主張を行った本。政治上の選択が過去の積み重ねに依存しているという「経路依存」の考えを打ち出した本として有名なのですが、それとともに政治経済の違いを強調しています。

 基本的には政治学やその方法論に興味がある人に向けた本なのでしょうが、「政治」あるいは「歴史」について考えてみたい人にとってもいろいろと面白い論点が提示されている本だと思います。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170825/p1



1位 ウィリアム・トレヴァー『ふたつの人生

4336059179ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)
ウィリアム トレヴァー William Trevor
国書刊行会 2017-10-25

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 「ツルゲーネフを読む声」と「ウンブリアのわたしの家」という2つの中編が収録されているけど、なんといっても「ツルゲーネフを読む声」。

 年上の夫と独身の姉に囲まれて窮屈な結婚生活を送るメアリー・ルイーズと、病気のために外の世界をほとんど経験できなメアリー・ルイーズのいとこのロバート。この二人が出会い、そして惹かれ合います。

 この物語の道具立てやストーリーの展開の仕方は平凡です。もちろん、本人たちのとっては特別な恋ですが、小説の筋立てとしては陳腐なものと言っていいでしょう。ところが、何を語り何を語らないのか、そして語る場合のディティールの積み重ねいおいてトレヴァーの筆は抜群の冴えを見せます。

 さらに物語が進行するに連れて、平凡だったメアリー・ルイーズが一種の凄みを帯びてきます。平凡な人間が特別な記憶を手に入れたとき、人はそれをどのように守っていくのか、それは人をどのように変えていくのか。トレヴァーが描き出すのはその行く末です。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20171227/p1


2位 パク・ミンギュ『ピンポン

4560090513ピンポン (エクス・リブリス)
パク・ミンギュ 斎藤 真理子
白水社 2017-05-27

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 「痛い」のにポップ。これは素晴らしい文体であり、小説だと思います。

 いじめられている中学生男子卓球に出会う話ということで、読む前は松本大洋の『ピンポン』を少しイメージしましたが、この小説スポーツとかそういうことを飛び越えて「人類」にまで話が及ぶもっと全然ぶっ飛んだお話。それでいて男子中学生の「痛み」がしっかりと伝わってくる。異常なまでにメタ的な視点を導入したりしつつも、最後まで男子中学生の肉体的感覚が失われないというのがこの小説の優れた点の1つです。ちょっと舞城王太郎の初期の作品を思い出させますね。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170729/p1


3位 ケンリュウ『母の記憶に』

415335032X母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
ケン リュウ 牧野 千穂
早川書房 2017-04-20

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 中国に生まれ現在アメリカ執筆活動をしているSF作家ケンリュウ短篇集。とにかく多彩な作家で、テクノロジー家族などのドラマに絡めた表題作の「母の記憶に」、「存在」、「残されし者」といった作品も魅力的なのですが、今作で特に光っているのが、中国をはじめとする東アジア圏への批評的な眼差し

 特に、清による揚州大虐殺を背景にした「草を結びて環を銜えん」と「訴訟師と猿の王」という2つの作品では、天安門事件の扱いをはじめとする中国現在社会状況に鋭い批評的な眼差しを投げかけていると思います。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170708/p1


4位 アダム・ロバーツジャック・グラス伝』

4153350346ジャック・グラス伝: 宇宙的殺人者 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
アダム ロバーツ Adam Roberts
早川書房 2017-08-24

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 イギリスSF作家が放つピカレスクロマン?、それとも本格推理小説?、それともトンデモSF?

 なかなか説明しがたい小説なのですが、小惑星に開けた穴の中に放り込まれた刑期11年の7人の囚人たちがサバイバルを繰り広げる第1部の「箱の中」は息苦しくなるような展開。そして、最後の主人公ジャック・グラスによる映像不可能な鮮やかな逃走劇。ここは見事という他ないです。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20171123/p1


5位 オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界

415120086Xすばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
オルダス・ハクスリー 水戸部
早川書房 2017-01-07

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 1932年オルダス・ハクスリーによって書かれたディストピア小説の新訳。同じディストピア小説の『一九八四年』が人々を抑圧する社会を描いたのに対して、この『すばらしい新世界』はむしろ人々の欲望が肯定されている世界を描いており、この2つのディストピア小説の違いは以前からよく言及されていました。しかし、解説で大森望が言っているように実際に読んだことのある人は少ない小説でもありました。

 ところが、今回読んでみたら面白いアイディアだけでなく、小説の書き方としても面白いですし、何よりも登場人物ダメさ加減が面白い

 ディストピアに楔を打ち込むために後半に「野人」のジョンが登場するのですが、これがまためんどくさい。ジョンはシェイクスピアのセリフを引用しまくるのですが、これがまたうざいです。

 ディストピア小説でありながら、善悪二元論的な展開から完全に離れているのがこの小説面白いところ。世界設定よりも、小説の展開のしかたが「新しい」と思います。

 紹介記事はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20170304/p1

2017-12-27

[][] ウィリアム・トレヴァー『ふたつの人生 ウィリアム・トレヴァー『ふたつの人生』を含むブックマーク

 「ウィリアム・トレヴァーコレクション」の第3弾は、「ツルゲーネフを読む声」と「ウンブリアのわたしの家」という2つの中編を収録したものになります


 なんといっても特筆すべきは「ツルゲーネフを読む声」。

 アイルランドプロテスタント信徒の娘メアリー・ルイーズが、服地商会を営む年上のエルマー・クウォーリーとの結婚へと動き出すことから話は始まりますが、章の間に挟まれ精神病院らしき場所描写から、この結婚が不幸に終わったことが暗示されます

 舞台となるのは1950年代後半ですが、その頃すでにアイルランドにおけるプロテスタント教徒地位斜陽化しており、結婚という祝福すべき出来事の中でも、なんとなく沈滞したムードが漂っています

 メアリー・ルイーズは21歳なのに対してエルマー・クウォーリーは35歳であり、しかもエルマーの店には独身の姉が二人住んでおり、店を手伝っています。傍から見てもあまりうまくいかないのではないかと思われる結婚なのです。


 そんなうまくいかない結婚の中で、メアリー・ルイーズはいとこのロバートと再会します

 ロバートは病弱で、子どもの頃はメアリー・ルイーズとともに仲良く遊んでいたものの、その後は家に引きこもっており、読書ボードゲームなどに慰めを見出しているような状態でした。ロバート愛読書ツルゲーネフであり、タイトルの「ツルゲーネフ」はここから来ています


 年上の夫と独身の姉に囲まれて窮屈な毎日を送るメアリー・ルイーズと、病気のために外の世界をほとんど経験できないロバート。この二人が惹かれ合うのは当然といえば当然です。

 そして、この恋がそんなにうまくいきそうにもないことも予想できるでしょう。

 ある意味、この話の道具立てやストーリーの展開の仕方は平凡です。もちろん、本人たちのとっては特別な恋ですが、小説の筋立てとしては陳腐ものと言っていいでしょう。

   

 

 ところが、何を語り何を語らないのか、そして語る場合のディティールの積み重ねいおいてトレヴァーの筆は抜群の冴えを見せます

 例えば、新婚旅行海辺ホテルとバーでの出来事メアリー・ルイーズもエルマーもたまたま居合わせた人々と酒を飲み楽しそうにするのですが、その夜の描き方にも今後の結婚生活に指す影が書き込まれています

 

 さら物語が進行するに連れて、平凡だったメアリー・ルイーズが一種の凄みを帯びてきます

 平凡な人間特別記憶を手に入れたとき、人はそれをどのように守っていくのか、それは人をどのように変えていくのか。トレヴァーが描き出すのはその行く末です。


 今まで読んだトレヴァー作品では、『聖母の贈り物』に収録された「マティルダイングランド」が圧倒的な凄みをもった作品だと思っていましたが、この「ツルゲーネフを読む声」はそれに匹敵するような迫力を持った作品です。


 一方、「ウンブリアのわたしの家」は、イングランドで幼少期を、その後アメリカアフリカ暮らしイタリアのウンブリ地方ペンションオーナーとなったミセス・デラハンティが主人公です。

 ミセス・デラハンティはペンションのオーナであると同時にロマンス作家でもあり、いくつかの作品イギリスで発表しています


 そのミセス・デラハンティが列車爆破テロに巻き込まれたこから物語が動き出します。ミセス・デラハンティの近くで生き残ったのが、娘と娘婿を失ったイギリス人将軍恋人を失ったドイツ人のオトマー、そして母親を失ったアメリカ人少女エイミーです。

 ともに病院リハビリを行った彼らは、ミセス・デラハンティの勧めもあり、ウンブリアのミセス・デラハンティのペンションでしばらく共同生活を送ることになります

 それぞれ大切なものを失った人々による癒し物語…、と想像するところですが、トレヴァーはそのような話は組み立てません。

 『異国の出来事』を読んだとき外国舞台となっているトレヴァー作品辛辣ものが多いなと思ったものですが、これもある意味辛辣

 作家でも主人公の生み出す虚構夢想)が徐々に作品内にせり出してくるわけですが、個人的にはそれが痛々しい。ある意味人間を抉った作品ですが、好きではないですね。


 なにはともあれ「ツルゲーネフを読む声」です。これは文句なしにすごい作品です。


ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)
ウィリアム トレヴァー William Trevor
4336059179