motowakaの備忘録

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現場を知らない人の提言ではあるけれど

日本人よ!秘宝は隠さず、どんどん見せよ:日経ビジネスオンライン
登録必要かもしれないので、読めない人はごめんなさい。
ツイッタータイムラインで批判が多い記事でした。
日経ビジネス「日本人よ! 秘宝は隠さず、どんどん見せよ 」に抗議する - Togetterまとめ
ここにまとまってます。
ざっくりした感想としては、問題意識は悪くなかったけど、それに対する処方箋が現場を知らなさすぎで、突っ込みどころが多すぎでした。ところが驚いたことに、著者の方は全くの門外漢かと思えば、
上山信一@"見えないもの"を見よう

上山信一
(男)
慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ55歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、愛知県政策顧問、日本公共政策学会理事、日本博物館協会評議員等、各種企業・行政機関の監査役、顧問、委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士ツイッター@ShinichiUeyama

とのこと。「日本博物館協会評議員」?

何かとお騒がせの橋下大阪市長のブレーンだそうです。
「統合」より28億円安上がり、大阪の美術館併存へ 6月正式決定の見込み(1/2ページ) - MSN産経west

 大阪市北区中之島に市が建設予定の新美術館と、市立美術館(同市天王寺区)の統合が検討されている問題で、上山信一・慶応大教授(府市特別顧問)らは30日、市立東洋陶磁美術館(同市北区)を含め3美術館を併存すべきとする報告書をまとめたと発表した。6月の市戦略会議で併存が正式決定する見通し。
 報告書によると、新美術館と市立美術館を統合した場合、投資費用は最大226億円と想定。一方、2つの美術館を併存させる場合、新美術館の建設(112億円)▽市立美術館の耐震改修(65億円)▽売店などを備えた別館建設(21億円)の総計は198億円に抑えられるため、上山氏は「統合より低コストですむ」と説明した。
 また、上山氏は「新美術館と市立美術館を統合しても、所蔵品の質で東京や京都の国立美術館のレベルを凌駕(りょうが)することは難しい」と指摘。「特徴の異なる収蔵品を備えた3つの美術館の魅力をそれぞれ発揮させるべきだ」と強調した。

あくまでコスト論。それと、いくら大阪が大都市とはいえ、コストコストと言いながら、国立の美術館を凌駕するレベルを目標とするというのがよく分からないところ。(何か国に恨みでもあるのでしょうか?)

ご本人のツイッターを読みに行ってみたら、実は、自身に批判的なつぶやきもリツイートしていたりして、批判には耳も貸さないというタイプではないのかもしれません。
冒頭の記事に戻ると、
日本人よ!秘宝は隠さず、どんどん見せよ:日経ビジネスオンライン

 また、身近なリアルとの出会いの場としては、ミュージアム(美術館、博物館など)がある。例えば世界中の人々がリアルのモナリザサモトラケのニケに会うために、ルーブル美術館にやってくる。ルーブルの年間入館者数はなんと972万人にものぼり、これは世界のミュージアムの中でも断トツの1位だ。もはや巡礼地並みと言っていいだろう。インターネットの発達で、いつでも世界中の美術品の写真を見ることができる。しかし、手軽に映像で見られるとなると、逆に本物を見たい気持ちも生まれてくるのだ。

 そもそも、美術館・博物館は、公立、私立を問わず、よほどのキラーコンテンツを持つか、イベントをやり続けない限り黒字にならない。国内外を問わず、平均でいうと、支出の約2割分しか入場料収入ではカバーできない。公立や国立が多いゆえんである。しかし、役所には資金がなく、もともと深い理解もない。

こういう風にインターネット時代に、逆に美術館・博物館が重要になる、という問題意識はいいと思うのです。フランスのように、国是として「文化で国を興す」という意識を持ち、日本より経済的にうまくいってなかったとしても、そこへは十分に予算を使っている国を目指すのはいい。

ミュージアムの経済効果は3段階で考える。第1段階は単体の収支だが、これだけだとたいていは赤字だ。ミュージアム自体やそれを目的に集まる人がもたらす消費、つまり外部経済効果も計算に入れるべきだ

街に“文化的”あるいは“楽しい”というブランドができてくると、人材が集まり、彼らを求める企業もやってくる。これを創造都市効果という

こういう観点は、たしかに重要。少なくとも、美術館・博物館の中でこういうことを言っていても誰も聞いてくれないので、外部の専門家がこういうことを言ってくれるのはありがたい。金沢や倉敷は、文化都市としてうまくやっている。そこまでの指摘はいいんだけど、例えば「ミュージアムが街を再生する」と言っても、金沢や倉敷は、そもそもはじめから文化的に死んでる街ではないですよね。21世紀美術館がなかったら金沢は「さえない街、特徴のない街」だなんて、金沢を知らない人だから言えること。その辺は残念。
で、ミュージアムの発信力を活かすために行政が考えるべきことを提言していけばよかったんだろうに、美術館・博物館の側にあれこれ現場を知らない提案を乱暴に投げるものだから、現場の人間たちには総スカンを食ってしまう。その辺はこまごま挙げる気にもならないので、最初のほうにリンクを貼ったトゥギャッターを参照ください。

行政の人たちはこういう方々の話には耳を傾けるのだから、何とか現場のこともきちんと理解してもらえるように、努力していかないといけないのだろうなぁと思うのです。ミュージアムには単体の収支では測りきれない価値があるということを知っているというだけでも、「赤字だ」「無駄だ」というばかりの政治家の皆さんよりは話してみる甲斐があると思います。(でも、今まででもいろんな現場と関わってきたはずなのにこうなのだから、難しいんでしょうかねぇ。)