福岡県の麻生渡知事は4日の年頭記者会見で、韓国・ソウルにある同県の海外事務所を本年度末で撤退する方針を明らかにした。麻生知事は撤退理由について「県が現地の情報を集めて日本人にアドバイスするなどの(事務所機能の)意味合いが薄れてきた。民間交流が進み、一定の役割は果たした」とした。
 派遣職員1人を引き揚げるが、観光情報などを県側に送る現地スタッフとの契約は続ける予定。県はソウル事務所は撤退する一方、今年夏をめどに、タイのバンコクに海外事務所を開設する。経済成長を続ける東南アジア地域との経済交流を促進させる狙い。

本記事では,福岡県における海外事務所の再編方針を紹介.同県における海外事務所の設置状況に関しては同県HPを参照*1.香港事務所,上海事務所,ソウル事務所,フランクフルト事務所,サンフランシスコ事務所と,4カ国5事務所が設置.本記事では,これらのうちソウル事務所を廃止し,バンコク事務所を設置する方針であると紹介.
同県の4カ国5事務所体制,他の都道府県との対比では,どのような規模に当たるのかと寝ぼけ頭で想起し,では,他都道府県における海外事務所の設置状況の把握を試みようと思い,各都道府県HPにて北海道から順次確認を進めてみると,何と,青森県において,毎年度の国際交流事業の成果報告書内に「都道府県による海外事務所等設置状況」*2を作成されていることが分かる(貴重かつ素晴らしい資料ですね).
そこで,同資料に基づき国別の設置状況で整理を行うと,まず,32道府県において海外事務所が設置されていることが分かる.次いで,各道府県の海外事務所の国別の設置状況は,最も多い国が,中国の29府県(事務所数は30.内訳は,上海(17),大連(5),香港(5),深セン(1),湖南省長沙(1),福州市(1).以下括弧内は都市名と事務所数),次いで,13道県の韓国(事務所数13.ソウル(12),大田(1).なお,北海道・青森・岩手・宮城県による共同事務所はそれぞれ1道県としてカウント).第3位は,アメリカの9府県(事務所数も9.サンフランシスコ(3),ニューヨーク(2),メリーランド(1),シアトル(1),ミシガン州ランシング(1),モンタナ州ヘレナ(1)),第4位は,シンガポールの4府県(シンガポール(4)),第5位は,台湾2県(台北2)とフランス2県(パリ(2)).以下は各1府県となり,イギリス1県(ロンドン(1)),オランダ1府(ロッテルダム(1)),ドイツ1県(フランクフルト(1)),ロシア1道(ユジサハリンスク(1)),オーストラリア1県(バース(1)),ブラジル1県(クリチーバ(1))となる.
同事務所での職員構成は,派遣職員が1〜2名,現地職員が1〜4名(北海道のユジノサハリンスク事務所).ただ,派遣職員を行われていない事務所もあるようであり(北海道・青森・岩手・宮城県による共同事務所は除く),兵庫県のバース事務所(現地職員3名),タリチーバ事務所(現地職員3名),広島県の上海事務所(財団法人ひろしま産業振興機構から現地企業に業務委託),鳥取県のソウル事務所(委託駐在員1名),宮崎県の台北事務所,沖縄県のソウル事務所(沖縄観光コンベンションビューローのソウル事務所として設置)と福州市事務所(財団法人沖縄県産業振興公社の福州事務所として設置)が,これに該当する.
また,各府県別での国単位での設置形態は,大別すると3形態に分類ができる.まずは,「単一国単一事務所型」が12県,「単一国複数事務所型」は3県,そして,「複数国複数事務所型」が,最も多く,17都府県となる.このうち,「複数国複数事務所型」では,本記事の福岡県のように,単一国単一事務所型と単一国複数事務所型が合わさることで,4カ国5事業所体制となる県がある一方で,神奈川県,大阪府兵庫県のように単一国単一事務所型を複数設置することで,4カ国4事業所体制を採用している府県もある.事業所の最多設置は,沖縄県で3カ国6事業所型となることと対比すれば,福岡県の海外事務所の設置数は,比較的多い道府県群に属しているようでもある.
加えて,各海外事務所設置年では,2000年代での設置は28事務所,1990年代の設置も28事務所,1980年代は7事務所,1970年代は4事務所.ただ,同設置年,例えば,1964年にニューヨークに設置*3された東京都のように,現在では既に廃止された海外事務所は加えられていないため,同資料のみでは正確な海外事務所の設置動向は把握はできないものの,現存する海外事務所の状況を明らかにした同資料からは,1990年代以降での海外事務所の設置が多いことが分かる(下名個人的には,意外にも2000年代の設置が多いことにもやや驚き).同資料から把握できる,最古の設置は,大阪府が1970年に設置されたロッテルダム事務所,次いで,1973年に兵庫県が設置されたクリチーバ事務所.一方で,最も近年での設置は,2007年の静岡県におけるソウル事務所(社団法人静岡県国際経済振興会ソウル事務所へ派遣).
事務所空間の設置形態は,各府県における単独設置型(共同設置型も含む)が32事務所,ジェトロ及び各種団体等における各国事務所への派遣型が30事務所が多数を占めている.ただ,兵庫県のランシング事務所及び湖南省長沙事務所,熊本県のヘレナ事務所及び大田事務所のように,各海外事務所が設置されている地域の州及び省レベル政府庁舎内に設置されている場合もある(4事務所).
ただ,同資料では,各海外事務所の実質的な機能までは把握できない.2009年5月4日付の本備忘録で取りあげた都道府県の東京事務所の研究結果では,国内の東京に設置する各事務所については,その「情報入手活動」*4の重みが観察されてはいるものの,東京事務所の機能から類推し「情報入手活動」が主たる業務との推測もある一方で,本記事を拝読すると同機能は「薄れ」つつあり,むしろ,国外に設置される海外事務所の場合は,東京事務所に比べれば,2009年5月11日付の本備忘録にて触れたアンテナショップの設置や同年9月14日付及び同年12月1日付の本備忘録でも言及した東京事務所の取組とも共通した「情報提供活動」とも共通する機能が置かれているのだろうか.都道府県をはじめとした自治体が設置する海外事務所の実質的な機能に関しては,要確認.
なお,蛇足.最多設置都市であるソウル特別市に関しては,新宿区に「ソウル特別市東京事務所」*5が設置されてはいるものの,上記海外事務所設置の都市を含めた,他国の各都市の我が国への海外事務所の設置状況も把握してみたい(そもそも,他国の自治体において,海外事務所を設置するという取組があるのでしょうか).

*1:福岡県HP(観光・文化・教育国際交流)「福岡県の海外事務所

*2:青森県HP(くらし・税金国際交流)「平成21年度青森県の国際交流の概要」(「24 都道府県による海外事務所等設置状況」)

*3:東京都『東京都政五十年史 事業史Ⅱ』(東京都,1994年)873頁

*4:大谷基道「都道府県東京事務所の研究−東京事務所不要論と国・都道府県の関係−」『年報行政研究44 変貌する行政』(ぎょうせい,2009年)174頁

変貌する行政―公共サービス・公務員・行政文書 (年報行政研究)

変貌する行政―公共サービス・公務員・行政文書 (年報行政研究)

*5:駐日韓国企業連合会HP「사무소통합(ソウル特別市東京事務所)