【経済教室】収益率低下

経済教室集中講義 企業を考える(29)
斜陽の時代 収益率低下、成功体験が足かせ
 
 エンタープライズ(大企業)の斜陽は業績にも如実に表れている。売上高営業利益率の長期低落傾向が止まらないのである。

 
 その背景には国内外での競争激化など様々な要因があるものの、根源的な理由は経営者の変容にある。エンタープライズの誕生が2波に分かれた日本では、戦後派新興企業が遅れて姿を現した。ちょうど米国のエンタープライズが衰退期に入るころに、これらの企業は創始者に率いられ、全盛期に突入した。
 
 1980年代に日米貿易摩擦が起きたとき、日本の労働者の質の高さや社員の献身ぶりがもてはやされた。改めて考えると日本と米国は対等な勝負になっていなかった可能性が高い。片や全盛期、片や衰退期では結果はみえている。実際、日本の黄金時代を演出した第2波の創始者たちが引退していくと、日本企業もかつての勢いを失った。

 いまや日本のエンタープライズも生え抜きの経営者が率いる時代に入っている。彼らは黄金時代の記憶を断ち切れないせいか、異常なまでに成長を志向する。そして収穫逓減の法則にさからって、利益の見込めない事業に経営資源を注ぎ込み続けていく。それでは利益率が長期低落するのは当然である。

 この傾向に輪をかけるのが、経営目標に基づき管理する「計画経営」である。80年代を思い出していただきたい。四半期業績に一喜一憂する米企業を日本の経営者は批判した。株価をにらんで経営などできるはずがないと言い切った人もいた。それなのに、日本企業も四半期業績を開示して、証券アナリストに業績改善計画を提示するなど、今では同じことをしている。

 経営には、不確実性がついて回る。虫の良い前提は崩れるものと相場が決まっている。確実に原価を下げる策や、確実に売り上げを伸ばす策など、事後になってみれば往々にして愚策であったと分かるものである。ゆえに、算段を超えた次元でしか経営は成り立たない。企業経営は、テクノクラート(官僚)がするものではないのである。
 
神戸大学教授 三品和広