放送総局長会見要旨(1月)について

関根 昭義  放送総局長の放送総局長会見要旨がホームページにアップされた。
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/toptalk/soukyoku.htm


目次は、

1月
「第55回紅白歌合戦」について
放送80周年事業について
「列島縦断 鉄道乗りつくしの旅」について


朝日新聞記事問題について

とする。
愛もかわらず朝日新聞の記事について事実誤認だというが、
では、NHKとして、どの機関が、どういう内部調査をして、どういう結果をだしたのか、
ということについてのコメントがないのはどういうことか?
「どういう結果をだした」の部分については、それらしきものが、
総局長名ででていたりもするが、正規のコメントはないのか?
然るべき機関が、然るべき手続きでだした結論をまず示すべきではないのか?
なんだかよくわからない放送総局長見解で反論されても困るのである。
(これはコンプライアンス推進室の件とは関係がない。)


さて、さんざん見てきたが、確認しておく。
<「ETV2001」を巡る報道に関する記者会見要旨>
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/toptalk/s0501-2.html

安倍氏とは、放送前日の1月29日頃に面会したが、朝日新聞の記事にある「安倍氏から呼ばれた」というのは間違いで、NHKの平成13年度予算案や事業計画等を説明する際に、当時話題になっていた「女性国際戦犯法廷」を素材の一つにした番組の趣旨や狙いなどを説明した。面会によって「番組の内容が改変された」という事実はない。安倍氏に面会した当時の松尾放送総局長と総合企画室の野島担当局長から話を聞いて確認した。その際、安倍氏は、公平・公正な報道をしてほしいといった主旨の発言をした。放送前日から当日にかけての編集で、番組の放送時間が短くなった点についても誤解されている。

すでに何度も述べているが、私自身はこのことを事実としても十分問題であると認識している。
1.「当時話題になっていた「女性国際戦犯法廷」を素材の一つにした番組の趣旨や狙いなどを説明した」
  そもそも、政治家にこのことを説明する必要がない。
2.「安倍氏は、公平・公正な報道をしてほしいといった主旨の発言をした。」
  仮に安倍氏に内容に賛同しないという意図がないにしても、
  ニュアンスによっては誤解されうるこのようなコメントをしたことは問題である。
  一般論なのか、改変意図なのか、文面からはわからないし、密室なのだから事後検証のしようもない。
  安易にするべきではなかったのである。
  そして、これは仮に番組が中立公正でなかたっとしてもあてはまることである。
  それは一政治家が判断することではないし、できることでもないからである。


さて、この後、コンプライアンス推進室の調査結果についての報告がある。
しかも、しかも資料として、調査結果そのものが配布されている。
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/otherpress/006.html

(宮下理事)コンプライアンス推進室の調査結果を、本日、通報者に通知した。本来、通報者は厳密に秘匿されなければならず、細心の注意を払ってきたが、通報者が一方的に通報の事実を公にしていることや、通報者が結果の公表を望んでいること、それにコンプライアンス推進室への誤解を解くために、通報した長井職員の名前も公表して、説明する。
長井職員から通報があったのは去年の12月9日。調査は、政治的な圧力を背景としてこの番組の改編が行われた事実があったかどうかや、放送番組は何人からも干渉されないなどと定められた放送法3条や「NHKの倫理・行動憲章」に違反する行為があったかどうかについて行われた。松尾放送総局長と総合企画室の野島担当局長、伊東番組制作局長(いずれも当時)の3人からは当初、今行われている裁判に関わってくるので、ヒアリングは待ってほしいと言われた。この事を今年1月7日に長井職員に通知しようとしたが、連絡が取れなかった。11日にようやく通知できた。松尾元総局長など3人は、朝日新聞の12日付朝刊の記事や、長井職員の記者会見の報道を見て、事実を話したいとヒアリングに応じた。さらに調査を進めた結果、長井職員が主張するような事実はなく、放送法3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する行為も認められなかった。

このことを評価するか。
本来的には公表されない事項が公表された。
これによって、NHKの設置したコンプライアンス推進室が機能しているかどうかを
一般国民が評価することが可能になったという点でとても有意義なことである。
しかし、残念ながら、コンプライアンス推進室の存在によってNHKの不信を払拭するには足りないと言わざるを得ない。
1.報道があるまで調査対象をヒアリングできなかった。
  これでよしとした推進室の姿勢が問題であるし、一定の役職者にある者ですらそれに応ずべきという認識がなかった。
  このような状態では、コンプライアンス推進室が有効に機能するとは思えない。
  そもそも、報道がなければ、ヒアリングすらできていない可能性が大きく、
  (現にヒアリングは待ってほしいという要望を受け入れて通知しようとしている)
  結果は今日の時点ですらでてないのである。
  これでは、コンプライアンス推進室は単なるお飾りと言わざるをえない。
  このことは、本件事案についての結論として別のものとして重大な問題である。
2.調査結果をみても、事実の認定に際して証拠の類いがない。結論だけである。
  疑いだせばきりがないが、証言の真実性はどのように担保されているのであろうか。


さて、次に内容についてみてみよう。
ここでまず、調査対象については、

1. 調査対象
  ・ NHKの放送番組「ETV2001」のシリーズ「戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」(以下、「本件番組」)に関して、放送前に中川昭一氏および安倍晋三氏による2度にわたる政治的圧力を背景とした本件番組の改編が行われるという事実があったのか否か。
  ・ また、かかる事実が認められる場合、これが放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するのか否か。

と設定されていることを確認していおく。
では、これらの点についてどう判断したか?(中川氏との関係については割愛する。)
この点については報告書の論理構造がどうも理解しにくい。
まず、「政治的圧力を背景とした本件番組の改編が行われるという事実があった」かどうかを判断することになろう。

(2) 安倍氏からの番組放送中止の求めの有無について
  ・ 松尾氏、野島氏について、本件番組の放送前である1月29日ころに安倍氏と面談していた事実が認められた。
  ・ 松尾氏、野島氏の面談の目的は、協会の予算および事業計画を説明するためであった。
  ・ この時、松尾氏は、当時本件番組および本件番組で取り上げる予定の「女性国際戦犯法廷」に関し、国会議員の間で様々な議論があることを認識していたので、この機会に安倍氏にも本件番組について説明しておこうと思い、番組の趣旨について概略説明をした。
  ・ この説明に際して、まだ編集途中であった本件番組の内容について、安倍氏は全く認知していなかった。
  ・ 安倍氏は概略の説明を受けた上で「番組は公平・中立であるべきだ」との感想を述べた。

とする。しかし、この事実をどう評価したのかは必ずしも明らかではないのである。
そもそも、「政治的圧力を背景とした本件番組の改編」の有無を判断すると宣言しながら、
安倍氏からの番組放送“中止の求め”の有無」というのはどういうことか。
政治的圧力=番組放送“中止の求め”と考えているのだろうか?
上記事実からすれば、番組放送“中止の求め”はなかったと判断することになろうが、その結論の記載がない。
(この後、すぐに (3) 放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するのか否かについて)」に続く)
さらに、その事実が認められる場合に「これが放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為
該当するのか否か。」を判断すると言うことからすれば、
放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するのか否かについて」の判断をしたということは、
「政治的圧力を背景とした本件番組の改編」はあったというべきなのだろうか?
コンプライアンス推進室の評価では、政治的圧力を背景とした本件番組の改編の有無については明らかになっていない。


さて、よくわからないまま、「放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するのか」の判断がある。

安倍氏との関係については、本件番組放送前に野島氏と松尾氏が面談をしていたという事実が認められたが、まず、面談したことそのものについては、国会議員に対して予算及び事業計画を説明するに際して担当局長が役員を同行することは通常行われていることであることを考え合わせると、このこと自体は通常の業務遂行の範囲内であり、これをもって放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するとは言えない。

「本件番組放送前に野島氏と松尾氏が面談をしていたという事実」が政治介入か?ということだろうか?
この点から、「放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するとは言えない。」
とした結論に異論はない。

本件番組についてその概略を説明したことについては、事業計画の説明等に付随して今後放送される放送番組についての説明を行うことも通常行われていることを考え合わせると、このことについても業務遂行の範囲内であり、これをもって放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するとは言えない。

「本件番組についてその概略を説明したこと」が政治介入か?ということだろうか?
この点、「事業計画の説明等に付随して今後放送される放送番組についての説明を行うことも
通常行われていることを考え合わせると」というが、
面談の事実については「通常の業務遂行の範囲内」としたにもかかわらず、
概略については、単に「通常行われていること」としたにすぎない。
つまり、本来的な「業務遂行の範囲内」でないにもかかわらず、「通常行われていること」から
放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するとは言えない。」というのである。
しかし、政治からの中立性ということを考えるならば、
「今後放送される放送番組についての説明を行うこと」自体が「政治からの中立性」に反しているのである。
このことを有無の判断対象である政治介入というかどうかは別論であるが、
放送に言う「政治的に公平であること。 」に反しているというべきであろう。

安倍氏の発言については、それ自体NHKに対する不当な圧力といった内容とは認められず、安倍氏の発言をもってNHKが不当な政治的圧力を受けたとの根拠とは言えない。

ここで、やっと「不当な政治的圧力を受けた」とはいえないとは言うが(そもそも論理が逆だが)、
「不当」でないだけかもしれない。
「政治的圧力を受けた」から判断をしているのではないかという疑問が依然として残る。
さらにいえば、
1.「国会議員の間で様々な議論があることを認識していた」
2.「安倍氏にも本件番組について説明しておこうと思い、番組の趣旨について概略説明をした」
3.「この説明に際して、まだ編集途中であった本件番組の内容について、安倍氏は全く認知していなかった」
4.「安倍氏は概略の説明を受けた上で「番組は公平・中立であるべきだ」との感想を述べた」
という事実からすれば、少なくともNHK側は圧力があったと認識することは可能である。
1.からすれば、国会議員安倍氏にも見解があったはずである。
2.で番組の趣旨について概略説明をしたことからすれば、3.内容(おそらく具体的内容)を認知せずとも、
 ある程度の判断は可能である。
4.そして、NHK安倍氏の「番組は公平・中立であるべきだ」を“感想”を述べたとしている。
つまり、抽象的にでも認識し得た番組内容について「番組は公平・中立であるべきだ」との感想を言ったのである。
すくなくとも当時の幹部や委員会はそういう事実だと認識しているのである。
もちろん、なんら安倍氏の意図の認定はしていない。
しかし、受けてとしては、「不当」とまではいわないにしても、
「政治的圧力を受けた」と認識しているものと思われるのである。

更に、念のために最終的に放送された本件番組について見ると、国民の間で様々な議論のあるいわゆる従軍慰安婦問題について、ある特定の立場のみを殊更支持するような内容とはなっておらず、また、女性国際戦犯法廷に対する肯定的評価と否定的評価も公平に扱われている。公平中立性の観点から問題のある番組とは言えず、不当な圧力に基づく改変等が行われたことは伺われない。

「公平中立性の観点から問題のある番組とは言え」ないと判断したことは問題ない。
しかし、そのことと「不当な圧力に基づく改変等が行われたこと」ということは関係ない。
圧力があっても、それによって「公平中立性の観点から問題のある番組」とならなければ、
それは「不当な圧力」ではないと思っているのだろうか?
「公平中立性」の要請があるといっても、それを正すのは政治家ではないはずである。
これを政治家が判断しては、報道の自由と思想からは、むしろ相反することになるのである。


話は少しそれるが、関根総局長はこの会見で

Q放送前に政治家に番組内容を説明することについて
(関根総局長)NHKの予算や事業計画などは国会の承認を受ける。国会は国民の代表である国会議員で構成されており、与野党の国会議員に、どういう事業を進めていくか、きちんと説明する中で、公平中立性を担保していく。誤解があれば、それを解いていく。国会議員に会うことを、「圧力」と短絡的に結びつけられることは残念だ。

という。ここにも同じことがいえる。
「NHKの予算や事業計画などは国会の承認を受ける。」
だから「国会は国民の代表である国会議員で構成されており、与野党の国会議員に、どういう事業を進めていくか、
きちんと説明」するという。確かに人的にある程度個別的でもそれだけ非難することはできない。
しかし、だからといって、個別の番組内容について国会議員に説明し、
公平中立性を担保していくと考えているのであれば、それは、間違いである。
むしろ、番組ないようについては、国会議員から距離を置くことが公平中立性の担保となるのである。
「予算や事業計画」と「番組内容」について国会議員の承認と疑いなく認識していることにNHKの体質の欠陥があるのである。


コンプライアンス推進室も関根総局長もすこし認識に問題があるように思えてならない。

4. 当室の結論
  ・ 当室の調査の結果、放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為は認められない。

は、以上のようなわけでまったく賛同できない。 


ここから、NHKのもっている体質が明らかになった。
番組内容についてまで、政治家を意識してつくっているのである。
しかも、そのことをコンプライアンス推進室が堂々と公表することにすら、何の疑問も感じていないのである。
このような体質でのコンプライアンス推進室など百害あって一利もない。
そのことについて大きな話題にならないことも疑問である。
日本国民は何が公正中立であるかは政治家が判断するべきものと思っているのであろうか?
政治家しかも与党政治家の判断=「公平中立性」と思っているとすればなんともおめでたい国民性である
この告発によって見えたものは大きい。
世間では政治家の側に大きなスポットがあたりすぎているが、問題の本質はそこにあるのではない。
だとすれば、長井氏は最初からマスコミに公表していたはずである。
彼が問うているのは、NHKの政治家に対する姿勢なのである。
彼が問題にしたにはまさに、コンプライアンス推進室が堂々と認定した、
幹部が番組内容について政治家に気を使っているという体質ではなかったのだろうか?