児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

デリヘル嬢として1か月稼働させたことについて100万円を認容した事例(東京地裁H23.1.21)

 訴額300万円
 デリヘル事案の場合は、この程度の被害でこの程度の認容額になるということです。

東京地裁平成23年 1月21日
◆原告が、被告が当時17歳である原告に対し、性的サービスを勧誘し、いわゆるデリヘル嬢として1か月以上にわたり約30名の客に性的サービスをさせたとして、不法行為に基づき、被告に対し、慰謝料等の支払を求めた事案において、被告の上記不法行為により、原告は精神的苦痛を被ったと認定した上で、被告の不法行為の内容・態様、原告の被った被害の内容・程度、原告は警察に相談したことを被告から責められたことを苦にしてその直後に自殺を図るに至ったこと等から、慰謝料100万円の限度で原告の請求を認容した事例
出典
エストロー・ジャパン
原告 X 
法定代理人親権者母 A 
訴訟代理人弁護士  島田敬介 

第2 当事者の主張
 1 請求原因
 別紙「請求の原因」記載のとおり。
 2 請求原因に対する認否
  (1) 請求原因第1の1は不知,被告が児童福祉法違反により処罰を受けたことは認めるが,不法行為の成立については争う。
  (2) 同第2のうち,被告が原告に風俗店で働くことを勧誘したこと,被告が警察に届出をしてデリバリーヘルスの経営を始めたことは認めるが,その余は不知ないし否認。
  (3) 同第3のうち,被告は児童福祉法違反の罪により相応の刑事処罰を受けており,被告の責任は果たされている。被告は原告に対し性的サービスを強制していない。
  (4) 被告は原告との間で,客から受領した金額を折半するとの合意をし,客1人当たり1万6000円のサービス料のうち,原告は報酬として8000円を受領していたのであり,原告に対し性的サービスを強制していない。



第3 当裁判所の判断
 1 証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
  (1) 原告は,平成4年○月○日生まれの女子であり,親権者母はAである。
  (2) 被告は,違法マッサージ店を経営しており,原告の友人が同店の風俗嬢をしていたことから,その紹介を受け,平成21年8月27日,原告を同店従業員として雇用した。原告は,翌28日に個室マッサージ店に出勤したところ,同日警察の取締りが入り,同店は閉店となった。
 被告は,平成21年10月上旬に警察に届出をし,同年11月2日ころ,派遣型ファッションヘルス(デリバリーヘルス)店「○○」の経営を始め,原告をいわゆるデリヘル嬢として雇用した。
  (3) 原告は,上記デリヘル店において,被告から口淫等の性交類似行為をする相手方として遊客の紹介を受け,平成21年11月2日から同年12月4日までの間,デリヘル嬢として約30名の客を相手に口淫等の性交類似行為という性的サービスをした。
  (4) 原告は,平成21年11月下旬ころ,デリバリーヘルスの仕事を辞めなければならないと決心し,母親に事情を話して相談した上,警察庁ヤングテレフォンコーナーの相談室に電話した上,同年12月6日母親と一緒に警察庁本庁に相談に行った。原告は,それでも店に出勤を続けていたが,同年12月11日に店に出勤したところ,被告が偶然原告の携帯電話を見て,警察に相談していることに気づき,原告を激しく責め立てた。原告は,翌12日の朝方まで店を閉める準備などをさせられ,同日午前5時か6時ころ店を出て帰宅し,自宅で睡眠薬を多量に飲んで自殺を図ったが,一命を取り留めた。
  (5) 被告は,原告(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,平成21年12月4日ころ,原告に対し,口淫等の性交類似行為をする相手方として不特定の遊客を紹介し,原告に客を相手に口淫等の性交類似行為をさせ,もって18歳に満たない児童に淫行をさせた児童福祉法違反の罪により起訴され,平成22年3月12日,東京地方裁判所で,懲役2年・執行猶予3年,罰金50万円の刑に処せられた。
 2 以上認定のとおり,被告は,当時17才で未成熟で思慮不十分な原告に対し,性的サービスを勧誘し,原告に対しいわゆるデリヘル嬢として1か月以上にわたり約30名の客に口淫等の性交類似行為という性的サービスをさせ,もって児童に淫行をさせたものである。被告の上記行為は児童福祉法に違反するとともに,児童である原告の健全育成を害するものであって,原告に対する不法行為を構成する。
 被告は,原告との間で客から受領した金額を折半するとの合意をし,客1人当たり1万6000円のサービス料のうち,原告は報酬として8000円を受領していたのであり,被告は性的サービスを強制していないと主張する。しかし,被告が当時17歳で思慮不十分な原告に対し上記淫行をさせた行為が児童福祉法に違反し原告に対する不法行為を構成することは前示のとおりであり,被告の指摘する点は上記判断を左右するものではない。
 3 被告の上記不法行為により,原告は精神的苦痛を被った。被告の上記不法行為の内容・態様,原告の被った被害の内容・程度,被告は警察に相談したことを原告から責められたことを苦にしてその直後に睡眠薬を多量に飲んで自殺を図るに至ったこと,その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると,原告の精神的苦痛を慰謝するには,100万円が相当である。
 4 以上によれば,原告の請求は,主文1項の金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 畠山稔)
 
 
 別紙
 請求の原因
 第1 当事者
  1 原告は、平成4年○月○日生まれ(現在18歳)の女子であり、両親の離婚のため、現在の親権者は母Aのみである。
  2 被告は、後述の本件不法行為(の一部の公訴事実)により、平成22年3月12日、児童福祉法(第34条1項6号)違反の罪で懲役2年(執行猶予3年)及び罰金50万円の刑に処せられた者である。
 第2 本件不法行為
  1 被告は、平成21年8月まで違法マッサージ店を経営していたが、同年7月下旬ころ、原告の友人(当時17歳)を風俗嬢として雇った。
  2 原告は、同年8月27日ころ、上記友人とカラオケ等に行った後、吉祥寺の居酒屋で友人から被告を紹介された。原告は、被告から「Xは可愛いね。女の子の数が少ない、Bちゃんも働いているから、一緒に働いてほしい。お小遣いたくさん入るよ」などと風俗店で働くことを勧誘された。原告はこれを承諾するような発言をしたことはなかったが、その後、被告が経営していた個室マッサージ店に上記友人と一緒に車で連れて行かれた上、個室に呼ばれ、「実技講習をする」等と言われて、無理矢理性交渉などをさせられた。原告は、個室マッサージ店で働くことを承諾した事実も一切ないにも関わらず、強引に被告から性交渉を強要させられたことに呆然とした。
  3 その後、原告は、上記友人から被告の経営する個室マッサージ店で働くことを誘われた。原告はこれに強く抵抗を感じたが、誘いを断ることで友人を失ってしまうかもしれない等と考え、同年8月28日、上記個室マッサージ店に出勤したが、同日に警察の取締りが入った。この際、原告は、被告から「個室マッサージ店は閉鎖するけど、10月中旬には、警察に正式な届出をしてデリヘルを開く」等と言われ、その後、マニュアルの作成などを手伝わされた。
  4 被告は、同年10月上旬に警察に届出をし、同年11月2日ころ、派遣型ファッションヘルス(デリバリーヘルス)店「○○」の経営を始めた。
 原告は、同デリバリーヘルス店で仕事をするよう被告から執拗に働きかけられたところ、被告の背中に刺青があり「俺はヤクザだ」などと言われていた上、住所や電話番号を知られていることなどから被告に著しい恐怖感を覚えており、やむなく同店で働くことを決めた。この際、被告から「(原告や上記友人が)17歳の未成年であることは誰も知らない」「ボーイや客らに年を聞かれても本当の年は答えるな」「お前達が未成年で、補導されたら俺達が捕まるし、お前達は少年院に入れられる」などと言われた。
  5 原告は、上記デリヘル店において、同年11月2日から同年12月4日までの間、デリヘル嬢として、30人前後の客に対して性的サービスをさせられた(本件不法行為)。
  6 原告は、同年11月下旬ころ、どうしてもデリヘルの仕事を辞めなければならないと決心し、母親に事情を話して相談した上、自分自身で警視庁ヤングテレフォンコーナーの相談室に電話した上、同年12月6日、母親と一緒に警視庁本庁に相談に行った。
 さらに、原告は、被告に対する恐怖感からそれでも店に出勤しなければならないという強迫観念にとらわれ、同年12月11日、店に出勤したところ、偶然原告の携帯電話を見た被告が、原告が警察に相談していることに気づき、原告はそのことを激しく責め立てられた上、翌12日の朝方まで、ほぼ店内に軟禁状態で店を閉める準備などをさせられた。
  7 原告は、母親にメールで助けを求めるなどして、翌12日の午前5時か6時頃、店を出て帰宅したが、かかる被告の態度などに著しく恐怖感を覚えて悲観し、同日、自宅で睡眠薬を多量に飲んで自殺を図ったが、幸い、一命を取り留めた。
 第3 責任
 以上のとおり、被告は、当時17歳の原告に対して、児童福祉法に違反し、原告が若年であることによる思慮・判断能力の欠如に乗じるばかりでなく、自己の風貌・発言により原告を畏怖させ、原告をして1ヶ月以上にわたり約30名前後の客に対して性的サービスを半ば強要したものであり、かかる被告の行為が不法行為民法709条)に該当することは言うまでもない。
 第4 損害
 上記被告の本件不法行為により、原告は、肉体的・精神的に著しく傷つき、まだ先の長い人生を悲観して自殺未遂を図るのほどの精神的損害を被ったものであり、かかる精神的損害に対する慰謝料は金300万円を下らない。
 第5 結語
 よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料金300万円、及びこれに対する被告による不法行為の最終日である平成21年12月4日から支払済まで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだものである。

師弟関係の性行為について、請求棄却した事例(東京地裁H22.11.19)

 訴額は300万円
 親は訴訟するほど怒っているようですが、裁判所は「原告は,高校教師としては,女子生徒が自己に恋愛感情を抱いていることを知っても,当該生徒と男女交際に至ってはならないという不作為義務を負っており,教師という立場から指導してその恋愛感情を解消していく義務があると主張するが,高校教師に女子生徒との関係で上記のような法的義務が生ずる法的根拠は不明であるから,原告の上記主張は採用することができない」「被告が原告を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等,その心身の未成熟に乗じた不当な手段によって肉体関係を持ったとか,被告が原告を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていたと認めるに足りる証拠はない。
 以上の事情のほか,前記(4)で認定した原告と被告が肉体関係を持つに至った前後の状況によれば,被告は,原告と恋愛感情に基づき肉体関係を持つに至ったと認められ,法が女性の婚姻適齢を16歳以上としていることも考慮すれば,被告が原告と肉体関係を持った行為が,原告に対する不法行為になるとはいえない。」という理由で棄却しました。

裁判年月日 平成22年11月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA11198010
東京都荒川区〈以下省略〉 
同訴訟代理人弁護士 
金子博人 
宇田川靖子 
土方恭子 
被告 
同訴訟代理人弁護士 
水原祥吾 
谷口香織 

主文

 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
 
事実

第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1) 被告は,原告に対し,330万円及びうち300万円に対する平成19年5月26日から,うち30万円に対する平成21年10月31日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  (3) 上記(1)につき仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第2 当事者の主張
 1 請求原因
  (1) 原告は,平成2年○月○日生まれで,平成18年4月にa高等学校(以下「a高校」という。)に入学したが,平成19年4月からb高等学校(以下「b高校」という。)に転校した。
  (2) 被告は,平成18年当時,a高校において非常勤講師をしていたが,平成19年3月に同高校の非常勤講師を辞め,後に,c高等学校(以下「c高校」という。)の教諭となった。
  (3) 被告は,原告が被告に好意を抱いていることを知りながら,同年3月20日,被告が原告に対して「まだ俺が好きか」との電子メールを送った。これをきっかけとして,原告と被告は,同年4月ころから交際を始め,同年5月5日,原告宅にて肉体関係を結んだ。
  (4) 違法性
 女子生徒は社会経験が浅く,高校教師に憧れを抱いても,それが尊敬なのか恋なのかも判断しがたく,また,学校教育の目的の観点からも,高等学校においては,男性教師は,女子生徒との間で,その在学中に,男女の恋愛関係となることは許されない。
 つまり,高校教師は,女子生徒が自己に恋愛感情を抱いていることを知っても,当該生徒と男女交際に至ってはならないという不作為義務を負っており,教師という立場から指導してその恋愛感情を解消していく義務がある。
 にもかかわらず,被告は,高校教師と女子生徒という立場を利用して原告との男女交際を始め,当時16歳である原告と肉体関係を持ったものであるから,被告が原告と肉体関係を持ったことは児童福祉法の趣旨からみても原告の権利又は法律上保護される利益を侵害したものであり,原告に対する不法行為となる。
  (5) 損害
 原告は,被告の不法行為により精神的苦痛を受け,これを慰謝するに足りる慰謝料の額は300万円が相当である。また,弁護士費用30万円が被告の不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。
  (6) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として330万円及びうち慰謝料である300万円に対する不法行為の終わった日より後の日である平成19年5月26日から支払済みまで,うち弁護士費用30万円に対する不法行為の終わった日より後の日である平成21年10月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで,それぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否等
  (1) 請求原因(1)のうち,原告が平成19年4月に転校したことは知らず,その余の事実は認める。
  (2) 請求原因(2)の事実は認める。
  (3) 請求原因(3)のうち,平成19年3月20日に,被告が原告に対して「まだ俺が好きか」との電子メールを送ったことは否認し,原告と被告が平成19年4月ころから交際を始め,同年5月5日に原告宅にて肉体関係を持ったことは認める。
  (4) 請求原因(4)及び(5)は争う。
 そもそも学校の教師には,生徒の自己に対する恋愛感情を解消していく義務や,生徒との交際を思いとどまる義務はない。
 被告は,平成18年9月ころから,原告から勉強等のことで相談を受けてアドバイスをしていたところ,やがて原告から好意を寄せられ,原告と被告はお互いに恋愛感情に基づいた真剣な男女交際をするに至った。
 原告と被告が肉体関係を持った平成19年5月5日以後,原告と被告は男女交際を解消するに至ったが,その原因は,原告の母親が被告に対して,被告が原告の体を目当てとして交際をしている旨の非難をしたために,原告との交際を続けることが困難になったことによる。
 
 
理由

 1 請求原因について
  (1) 請求原因(1)のうち,原告が平成2年○月○日生まれで,平成18年4月にa高校に入学したことは当事者間に争いがない。
  (2) 請求原因(2)の事実は当事者間に争いがない。
  (3) 請求原因(3)のうち,原告と被告が,平成19年4月ころから交際を始め,同年5月5日に原告宅にて肉体関係を持ったことは当事者間に争いがない。
  (4) 前記(1)ないし(3)の当事者間に争いのない事実に,証拠(後掲する。)及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実が認められる。
   ア a高校の生徒であった原告と,同高校の非常勤講師であった被告は,平成18年9月ころから,電子メールでやりとりをするようになり,被告は,原告から勉強などの相談を受けてアドバイスをしていた(甲1,弁論の全趣旨)。
   イ やがて,原告は,被告に好意を抱くようになり,遅くとも平成19年2月24日ころまでには,被告に対して好意を伝えていた(乙2)。
   ウ 同年4月,原告はb高校に転校し,被告はc高校の教諭となった(甲1,2)。
   エ 原告(当時16歳)と被告は,同年4月ころから交際を始め,同年5月5日には,原告宅にて肉体関係を持ち,それ以後も,同月14日までお互いに電子メールのやりとりをするなどして交際を続けていた(乙11)。
   オ しかし,原告の誕生日であった同月15日,被告は原告に対し,誕生日を祝う電子メールを送らなかった(甲1,弁論の全趣旨)。
   カ 原告は,被告から原告の誕生日を祝う電子メールが送られてこなかったため,精神的に落ち込んでいたところ,同月24日,その原告の様子に気付いた原告の母親が,原告にその理由を問いただしたため,原告は母親に被告との交際について打ち明けた。これを聞いた原告の母親が,被告に対して,原告との交際について肉体関係を目的としたものであるなどと被告を非難したことから,被告は原告との交際をやめることとし,翌日である同月25日,被告は原告にその意を伝えた。(甲1,乙6,10)
   キ 原告と被告は,交際を解消した後も,ときどき電子メールをやり取りすることはあった(乙3,弁論の全趣旨)。
  (5) 原告は,高校教師としては,女子生徒が自己に恋愛感情を抱いていることを知っても,当該生徒と男女交際に至ってはならないという不作為義務を負っており,教師という立場から指導してその恋愛感情を解消していく義務があると主張するが,高校教師に女子生徒との関係で上記のような法的義務が生ずる法的根拠は不明であるから,原告の上記主張は採用することができない。
 また,原告は,被告が高校教師と女子生徒という関係を利用して原告と肉体関係を持ったと主張する。しかし,原告と被告が交際を始めた平成19年4月の時点では,原告と被告はそれぞれ異なる高等学校の教師と生徒であったこと,前記(4)で認定した原告と被告が肉体関係を持つに至った前後の状況のほか,原告の主張する同年3月20日の被告から原告への電子メールの存在を認めるに足りる証拠がないことも併せれば,被告が高校教師と女子生徒という関係を利用して原告と肉体関係を持ったとは認められない。
 さらに,証拠(甲2,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同年5月27日,被告から交際解消を申し入れられて衝撃を受け,自殺を試みたが未遂に終わったこと,被告が謝罪や慰謝料支払の意向を示したことが認められるが,被告が原告に交際解消の意を伝えた経緯は,前記(4)カのとおりであるし,被告が謝罪や慰謝料支払の意向を示したのは,同年8月14日に原告の母親が被告に対し,責任をとってc高校を退職するよう求める内容の電子メールを送った(乙10)後であることに照らすと,上記認定事実をもって,被告が原告と性行為に至ったことについて,被告の原告に対する違法性を根拠づけるものとはいえない。
 そして,被告が原告を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等,その心身の未成熟に乗じた不当な手段によって肉体関係を持ったとか,被告が原告を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っていたと認めるに足りる証拠はない。
 以上の事情のほか,前記(4)で認定した原告と被告が肉体関係を持つに至った前後の状況によれば,被告は,原告と恋愛感情に基づき肉体関係を持つに至ったと認められ,法が女性の婚姻適齢を16歳以上としていることも考慮すれば,被告が原告と肉体関係を持った行為が,原告に対する不法行為になるとはいえない。
 2 結論
 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大段亨 裁判官 水野正則 裁判官 道場康介)

犯罪被害者白書H23

 http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20120521#1337551845
で指摘したことの関連で、裁判員制度導入後に性犯罪の起訴率が下がっているということは、タダでさえ躊躇する被害申告をしてきたところに、一応捜査を遂げて(被害者に負担を与え)、結局処罰しないということですから、深刻な問題ですよね。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120612-00000028-jij-soci
調査は昨年11月から12月、全国の男女5000人に実施。有効回答率は65.9%(女性1751人、男性1542人)だった。
 女性の7.7%(134人)が「無理やり性交された経験がある」と回答。このうち、67.9%(91人)は誰にも相談していなかった。
 理由(複数回答)は、「恥ずかしくて誰にもいえなかった」が46.2%で最多。次いで「思い出したくなかった」(22.0%)、「自分が我慢すればこのままやっていける」(20.9%)と続き、性犯罪被害を相談しにくい環境が浮き彫りになった。
 一方で、相談したと答えた38人のうち、30人が「(打ち明けて)良かった」と回答。相談先(複数回答)は「友人・知人」(18.7%)、「家族・親戚」(9.7%)など身近な相手が目立ち、警察や公的機関、民間団体や医療関係者への相談はいずれも4%以下にとどまった。


犯罪被害者白書H23
http://www8.cao.go.jp/hanzai/whitepaper/w-2012/pdf/zenbun/index.html
http://www8.cao.go.jp/hanzai/whitepaper/w-2012/pdf/zenbun/pdf/1s1s2_02.pdf


記事になった数字は、H24.4の男女間における暴力に関する調査(平成23年度調査)から白書への引用です。 
http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/images/pdf/h23danjokan-8.pdf

唇を舐める行為はわいせつ行為(刑法176条後段)か?

 あまり争わないのが不思議ですが、最近の判例は「刑法176条の「わいせつな行為」とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為」をいうとしています。
 これだとなんでも「わいせつ行為」になりうるので、弁護人にはわいせつ行為に当たらないと主張して欲しいものです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120612-00000081-san-l26
女児2人の唇なめる 陸士長を懲戒免職 京都・陸自桂駐屯地
産経新聞 6月12日(火)7時55分配信
 陸上自衛隊桂駐屯地(京都市西京区)は11日、小学生の女児2人に対する強制わいせつ罪で起訴された中部方面後方支援隊の男性陸士長(22)を同日付で懲戒免職にした。
 同隊によると、陸士長は4月14日夕方、向日市の路上で女児2人の頭を押さえ付け、2人の唇をなめたとして、強制わいせつ容疑で向日町署に逮捕された。同隊は「関係者に深くおわび申し上げる。綱紀粛正に努めたい」としている。

東京高等裁判所平成22年3月1日宣告 
理   由
 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書各記載のとおりであるから,これらを引用する。
 第2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,要するに,原判決は,原判示第1の女児の陰部及び同第2の女児の下着をそれぞれカメラ付き携帯電話機で撮影した行為(以下「本件各撮影行為」ということがある。)がいずれも刑法176条の「わいせつな行為」(以下,単に「わいせつ行為」ということがある。)に当たると判示しているが,①これらの行為は,被害者との身体的接触がないからわいせつ行為には当たらず,②仮に,従来の議論ではこれらの撮影行為がわいせつ行為に当たるとしても,平成16年に児童買春等処罰法により児童ポルノ製造罪が設けられた以上は,上記撮影行為は同罪で評価されるべきであって,強制わいせつ罪に当たるとすることは許されないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがあるというのである。
 しかしながら,①については,刑法176条の「わいせつな行為」とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいい,被害者との直接的な身体の接触を必要とするものではないと解するのが担当である。また,②については,児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪とは保護法益や処罰対象の範囲が異なっており,後者についてより重い法定刑が定められていることに照らしても,所論は失当である。さらに,所論は,公然わいせつ罪に当たる行為及びいわゆる迷惑防止条例上の盗撮行為と強制わいせつ罪に当たる行為とを区別する必要があるともいうが,同様の理由により失当である。
 そこで,さらに,本件各撮影行為が刑法176条の「わいせつな行為」に該当するかどうかについて検討する。
1 原判示第1の女児の陰部の撮影行為について
 性的興味を持って被害女性の陰部を撮影する行為がわいせつ行為に当たることは,前述したところから明らかであり,このことは,被害女性が原判示第1のような小学校低学年の女児(本件では,当時7歳)であっても同様である。
 したがって,原判示第1の女児の陰部を撮影した行為がわいせつ行為に当たるとした原判決の判断は正当であって,原判示第1についての論旨には理由がない。
2 原判示第2の女児の下着の撮影行為について
 所論指摘のとおり,原判決が,原判示第2の女児(当時8歳。以下,単に「第2の女児」という。)のスカートを手でまくり上げた上で,その下着(パンツを指す。以下同じ。)をカメラ付き携帯電話機で撮影した被告人の行為(以下「本件撮影行為」という。)がわいせつ行為に当たると判断していることは明らかである。
 しかしながら,第2の女児のような小学校低学年の女児の下着は,スカート等の形状や女児の動作によって,日常の生活の中で他者の目に触れることがしばしばあり得るものであって,学校,公園その他の場所で,この年代の女児の下着を目にしたとしても,社会一般には,いたずらに性欲を興奮,刺激させ,性的羞恥心を害して性的道義観念に反するとはとらえられていないと思われる。無論,このような下着を単に目にする行為と,記録化する目的でこれを撮影する行為とでは,その意昧合いが異なり得るが,上記のようなこの年代の女児の下着を目にすることに対する社会通念のほか,一定のわいせつ性が認められ得る成人女性のスカート内の下着を撮影する行為(盗撮行為)であっても,強制わいせつ罪より刑の軽い迷惑防止条例違反として検挙,処罰されているのが通例であることにもかんがみると,この年代の女児の下着を撮影する行為は,通常,刑法176条の「わいせつな行為」には当たらないと解するのが相当である。そして,本件についてみても,第2の女児が犯行当時着用していたスカートは丈が短く,公園等で遊んだりしている際に,他者に下着が見えることもあり得ることが容易に想像される形状のものであって(原審甲第12号証写真添付の8,同14号証添付の写真③),本件撮影行為も,同女児のスカートをまくり上げて同女児が着用している下着をそのまま1回撮影しただけで,特に執ようであるなど別異の評価が問題となり得るような特別の態様のものではないから,本件撮影行為は,わいせつ行為には当たらないというべきである。
 なお,検察官は,当審公判において,女児の下着の撮影行為そのものを取り出してみると,それがわいせつ行為といえるか疑問がないではないが,被告人の内心の意図と,その余のわいせつ行為と一連のものとして行われたものであることにかんがみると,本件における下着の撮影行為及び下着内に手を入れて陰部を触る行為が全体として強制わいせつ罪の実行行為に該当すると主張するが,わいせつ行為に当たるかどうかは,社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって,社会通念上わいせつ行為に当たらないものが,被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはないというべきであり,また,女児の下着の撮影に引き続いて下着内に手を入れて陰部をなでるわいせつ行為に及んだからといって,本来わいせつ行為に当たらない下着の撮影行為までがわいせつ行為に当たることになるものでもない。検察官の上記主張は採用できない。
 以上のとおり,原判決は,原判示第2につき,第2の女児の下着を撮影する行為がわいせつ行為に当たるとした点で,刑法176条の解釈適用を誤ったものといわざるを得ず,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 以上によれば,上記の所論①②とは趣旨が異なるものの,論旨はこの限度で理由があることとなる。
第3 破棄自判