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ギンザ プラスワン

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2017-02-19 大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-夢を見る木』

 夢を見る木


あなたわたし

この地球

ちらばった

種だった。


あなたは わたしより

先に生まれても

後に生れても

いけない人だった。

あなたわたし

同じ時代

さびしい共犯者

なくてはならなかった。


それなのに

めぐり逢う季節を

どこで間違えて

しまったのか。

あなたよりわたし

十年も早く

生れてしまった。


それでも

小麦粉当番の

十歳のあなた

かげろうの道で

逢えたとしたら

二十歳のわたし

やはりあなた

恋をしただろう。


寄宿舎

壁にあなたが描いた

夢の木に

わたし希望の葉を

描き足したかった。


わたしたちに

運命的な

出逢いがあったとしたら

水のように 触れあい

風のように 追いあって


草の蛍のように

うっとりと

別れたかった。

あなたが美しく

滅びてゆくのを

見ていたかった。


みどりの種だった

わたし

あれほどあなた

呼んだのに。


めぐり逢えなかった

季節を

稲妻

青く切り裂い

ていった。

失意の雨が

濡らしていった。


あなたの描いた

夢の木は

冷ややかな

情熱を秘め

永遠に夢を

見続けるだろう。


さびしい共犯者

なれなかった

わたしたちのために。


同じ季節に

めぐり逢えなかった

わたしたちのために。

2017-02-12 大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-花冷え』

 花冷え


あの日のように

桜が吹雪いている。

解体される

この家は廃屋

荒々しさ。


落花が鱗となって

屋根に貼りついている。

あの日

なかなか出てこぬ

あのひとを

家の外で待っていた。

桜は子供わたし

攫うように

隣のK荘から降ってきた。

素足で穿いていた

ズックを

花冷え

水のように

浸していた。


家のなかに

子供の知らない

生活があった。

カーテンの隙間から

見えたもの

洞窟の桜と

不気味さ。

衣紋掛けに

吊された

もの着物

それからのことは

記憶にない。

きっと忘れたかったのだろう。

覚えているのは

全身に浴びた

落花の痛さだけ。

そして

桜は恐い花

だと思った。


あの日のように

表札には

「O寓」と書いてある。

むかしここに

ひとりの

詩人が住んでいた。

2017-02-05 大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-薄氷』

 薄氷


刺客になれない 主婦

せいぜい大根

切るのが関の山


日常疲れた

主婦大根

切ってくれない。


輪切りの大根には

薄氷のはじらいがある。

それは人間

日々失ってゆくもの

そのことを忘れぬため

大根を切らずにはいられない。


夫より友達よりも

長い時間を共有する

包丁よ、今宵も

とびきり上等の大根

ためし切りをさせてあげよう。

刺客になれない主婦


大根を切る。

大根を切る。

2017-01-29 大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-rain maker』

  rain maker


鎌倉の駅を降りると小雨。

濡れながら谷戸を歩く。

こぶしの花が雨に煙ぶっている。


夜、こぶしの花が

蝶となって吹雪くんだ。

一緒に見よう

と男が囁いたことがあった。

日本脱出

夢ばかり

見ている男だった。

隧道に入ると

母の胎内さながら

風が吹いていた。

隧道は眠りを誘う

くらさと懐かしさがある。

ここに美男

幽霊が出るそうだ。

でも入口に

痴漢に御用心」

と書いてあったが

幽霊に御用心」と立札には

書いてなかった。

隧道を出ると

雑木山が霧を吐いていた。


霧がどんどん海へ流れてゆく。

雨の日はなぜか全身がだるい

英語で雨男のことを

rain makerというのだそうだ。


逢えなかった幽霊

実朝も

きっと雨男だったのだろう。

2017-01-22 大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-老醜』

 老醜


二十歳のわたし

悲しみを水栽培

アネモネのように育てていた。


三十歳のわたし

不自由さを虫のように

心の地下室に飼っていた。

歳月はいろいろなものを

飼いならす。

わたし自身まで。


四十歳をすぎたわたし

さな怪物を飼っている。

この怪物を飼ってから

生きることが自由になった。

桜が満開になったので

見に行こうと怪物を誘ったら

否! と答える。       (註:ノン)

太陽の下でわたしがたいそう

醜く見えるから

忠告までしてくれる。

それなのに夜になると

怪物は桜を見に行こうと

しきりに誘う。

常夜燈に浮き出た

数百本の桜は

凪の白い海。


横たわる 死のようだ。

そのうち

死も飼うことになるだろう。