くるり「ふれあいコンサート・ファイナル」(パシフィコ横浜)

12/12、2日目に行ってきた。セットリスト、今回はパンフレットに印刷されていたので載せてもよかろうもん。こんな感じでした。

  • 第一部
    • ハイリゲンシュタッド
    • ブレーメン
    • GUILTY
    • 恋人の時計
    • スラヴ
    • コンチネンタル
    • 春風
    • さよなら春の日
  • 第二部
  • アンコール
    • 男の子と女の子
    • ハローグッバイ
    • 言葉はさんかく こころは四角
  • ダブルコール

オーケストラを招いての公演、と聞いていたんだけど、ステージ上にいたのは20人くらいの弦楽団だった。そうよね、思えば管まで入っている音源というのは多分、ない*1。何故勘違いをしていたのでしょうか、わたしは。「ワルツを踊れ」の再現、というより、「THE WORLD IS MINE」の曲もたっぷりやっていたので、弦を入れてレコーディングした音源の再現、という感じだった。
雑なこと言えば、くるりのようにメンバーチェンジの多いバンドは、違う構成だった頃の曲をあまりやらなくても不思議はないと思う。メンバー2人になってから作った最新作を重点的に再現するのが、「これが今のくるりでっす」っていう、過去を上書きして最上層に「今」を塗る、みたいな自然なやり方だろうと思っていたんだけど、このライブはそういう質のものじゃなかったな。セットリストにもそれが滲み出してるじゃないですか。今のくるり、どんだけ自由なんだよ、っていうね。
髪を切った岸田くんは、子供みたいにてらいのない感じで、終始やたらと嬉しそうだった。「おおきに、ありがとう」って何度も何度も言っていて、どっちも西のイントネーションではあるんだけど、ちゃんと標準語でもお礼を言っているなあ、って。「31年生きてきたけど、多分、3歳くらいからずっとこういうことがやりたかったんやと思います」「ほんま、今死んでもいい、ちゅうくらいの気持ちよさです」「こんなん味わってしまって、明日から何をたのしみに生きてったらいいんでしょ?」って、なんかもう、いっぱい喋っておった。
普段、力抜いた喋り方することが多い人だと思ってたんだけど、まー言葉がわしゃわしゃ、溢れるみたいにたくさん喋ってたのは多分、彼も普通のモードじゃ全然なかったってことなんだろう。ラスト、ダブルコールで2回目の「ブレーメン」やるとき、前日もダブルコールもらったけど、やる曲用意してなかったから1曲を2回やることになって、今日はなんか違う曲やるのかなって感じになったけど、でもやっぱりこの曲をやります! みたいなことを、すごい早口で何言ってるのか分からないようなよれよれの喋りで喋っていて、あらやだこの人すごい舞い上がってる! って思って笑ってしまった。こんな大それたライブとか京都音博とかを仕掛けたりするようなタフさがあるのに、子供みたいに舞い上がってる有様が大変にひどく無防備に見えて、すごくまぶしかったなあ。
今回のライブは完全着席制で、開演前のアナウンスで何度も案内があったりしたんだけど、音響のこと考えたらこりゃあしょうがないや、と会場入ったら思った。なんか若い岸田ギャルズはうずうずしてる子もいっぱいいたようだけど、生の弦があんだけ入ってて、ステージ上でも何箇所もアクリル板を立てて演奏者同士の生音の干渉を防止してて、相当音のバランスを取るのが難しいセットだったと思う。あれで客が立ったらもう、客席に出る音をコントロールするのは超絶的に困難になるだろう。PA 即死。岸田くんが何度も「絶対に立たんでください」て注意してたのもしょうがなかったんだな、って。でもその注意が、「立つと壁んとこ立ってる SP に銃殺されます」なんつうお茶目さんなもんだったところがまたアレですが。ずるい男、て感じですが。
それでも、2回目の「ブレーメン」はラストだし、スタンディングオベーションでのダブルコールだったから、皆立って聴いていてね。そしたら、近くにいた女子が間奏で「うきゃー」と叫んで力いっぱい拍手をしていて、おいおい、と思った、ら、後半のテンポが変わるところで手拍子までし始めて、最後に大変後味の悪い思いをしました。なんですぐに手を叩くのかしら。猿なのか。身体を動かすだけが音楽の楽しみ方じゃない、というのをこれだけはっきりと伝えている岸田くんの今回のやり方をどうして尊重できないのか。楽しかったら叫ぶ、というのは直截的で正直ではあるけど、正直であれば許されると思う根拠は何なのか。自分ひとりが楽しめれば周囲はどうでもいいのか。
今回のドラムのあらきゆうこさんは、ジャストでべたべた拍を刻むタイプのドラマーではなかったので、例えば「ブレーメン」のリズムチェンジ後も、フレーズによって拍を微妙にもたつかせたり、アクセントを前に持ってきたり、生理的なレベルでメリハリのあるビートを作っていた。だから、猿の一本調子な手拍子はすぐに音とずれていて、それにわたしが気付いたということは、せっかく気持ちいいビートが鳴っているのに、それを邪魔する雑音をも聴かされていたわたし、っていうことな訳で。最後だったからまあ、我慢の範囲内だったんですけど、彼女は最初から、曲が終わったときの拍手をするときに何度も「うきゃー」つってて、なんだかなあ、うるさいなあ、って思いました。
でもまあ、そんな話はどうでもいいや、楽しくないしやめやめー。えっとね、今回演奏の鍵になったのは、意外なことに弦楽団以上にあらきゆうこのドラムだったかなーというのがわたしに今残っている印象。弦が入った、という以上に、くるり本体の音がなんかいつもと違っていた、その度合いが強烈で、一端を担っていたのがドラムだったようにも聴こえたというか。やー、あらきゆうこはホントにすごかった……「GUILTY」であやうく昇天しかかった。「惑星づくり」「ARMY」「アナーキー」も、えもいわれぬグルーブがあってたまらんかった。「コンチネンタル」の休符の気持ちよさとか、比べるのも可哀想だけど、ニャッキーが叩いてたときのこの曲と別物みたいだったわあ。ほんで「WORLD'S END」。もう再び昇天寸前。この曲はむしろ、弦とかいらないんじゃ…っていう雰囲気だった。あらきさんとサポートギター1人いれば充分な感じだったので、CDJ とかでやったらいいじゃないかな、わたしは観られないんだけどね…(ショボン。
逆に、弦が入って面白いことになっていたのは「春風」とか「家出娘」。よく分からないスケール感が出ていて、もはや別の曲みたいになってて笑った笑った。「恋人の時計*2」や「スラヴ」「ジュビリー」は非常に音源に近い感じで芳醇だった。「グッドモーニング」があんな風に聴ける日が来るとはなあ。この曲らへんから、岸田くんの歌い方がもう、普段と全然違ってきていて、新しい扉が開きつつあるのでは…! とどきどきしてしまった。何というのか…お腹のほうから、身体全体を楽器として鳴らすみたいな太い声、声楽家が出す「いい声」みたいな、そういう声の出し方をし始めて、ええええええ、となった。岸田くんのあんな声、わたしはこれまでに知らんよ…うう、びっくりしたなあ。「アマデウス」とかすごかった。べ、別人…! て思った。や、まじでまじで。
1回目のアンコールでやった「男の子と女の子」は、わたしにとってちょっと特別な曲で、何故かというと、去年の10月、京都のボロフェスタで岸田くんが弾き語りをしたのを聴いて、改めてよさに目覚めた曲だったから。そのとき、空にはとても綺麗な飛行機雲がかかっていて、「大人になった女の子、僕をどこまでも愛してくれよ、何も持て余さないで」という歌詞がむちゃくちゃ沁みて、ちょっと涙が出たりしていたもんだった。
その曲を今回岸田くんは、アンコールで他の人たちがステージに戻ってくる前に、佐藤くんと2人だけ、ギターとベースと声だけで演奏していたんだけど、2人きりのこの1曲、入魂、という感じで、佐藤くんのベースも無茶苦茶歌っていて、岸田くんも力いっぱい、全力で全身で歌っていて、それはロック的な全力ではなく、入魂の弾き語り、という風な表現しかできないんだけど、ホントそういう感じで、あれはこの上なく「うた」だったと思う。ものすごく、多くを伝えてしまう力のある演奏だった。きのうも去年の京都と同じ歌詞が胸に迫って、虫歯にアイスが凍みるみたいに沁みて、あのときからの己のこの1年余にあったいろんな、いろんなことをぼんやりと思って、またちょっと涙が出た。
岸田くんは、ステージ上にいる外人さんたちといっぱいアイコンタクトやら拳を打ち合わせる挨拶やらハグやらを交わしていて、その度にわたしの近くの席に座っていた女の子がいちいち嫉妬くさい溜息をついているのが面白くてしょうがなかった(物販の紹介中、Tシャツ着用の女性スタッフをステージに上げ、岸田がそのTシャツに書かれたオーストリアの地名を読み上げたときにはいよいよ「いいなあ…!」と口走っていた)んだけど、あらきさんとハグしてたときはさすがにぐうの音も出なかったのに笑った。そりゃあかなわんだろう、あんな小さな女の人が、あんな音を出してるんだから。若くて、世の中のことをあまり知らない女の子にだって、あの人のすごさは分かることでしょう。わはは。
そして、ステージ上でわやーっとなってる外人さんたちと行き違う度にコミュニケーションを次々重ねる中で、岸田くんは佐藤くんだけは避けるみたいにすっとすれ違って…そりゃそうか、やっぱり恥ずかしいよな…と思った瞬間、岸田くんが離れて行く佐藤くんの背中に飛びつくみたいにして抱きついていて、思わず、ぐがっ、みたいな変な声が喉から出た。ああ…すごい、ものすごいいいもん観た…ハアハアハアハア(腐。
…や、そうじゃない、そういうんじゃなくて! 違くて!! 違くっっってっっ! なんかね、7,000人入る大きな大きな会場で、2人だけになった今の「くるり」がステージの上で占めている面積っていうのはとても小さくて、ステージの上にはたくさんの「くるり以外の人」が上がっていたんだけども、それでも、鳴っている音は紛れもなく「くるりの音楽」だった、っていうそのことになんか、非常にやられた感じがあったのです。うまく言えないのだけれども、こないだの「音の系譜」でアッコちゃんが言っていた「大くるり」って言葉を思い出したり。
どれだけ手伝う人が増えても、あの2人はあの2人で「くるり」だし、そのこと重さとかしんどさとかもいっぱいあっただろうけど、それをあんだけの喜びに変えることができたからこその今回、だったんだろうなあ、って思って、そしたら、小さな指揮台の上に2人でぴょこん、て飛び乗ってオモシロなポーズを取ってお辞儀をした2人が、並んで笑っているだけで指先が痺れるみたいに嬉しくて、こんな綺麗な光景があるかしら、ってたまらん気持ちになった。と、そういう話。
楽器を増やして、音をたくさん重ねることで「うた」が浮かび上がる、っていうのは一見逆説的だけど、あの場で、わたしはその逆説の具象を観た、と思う。「JUBILEE」の歌詞じゃないけど、失ってしまったものがたくさんあって、それでも、重ねてきた痛みに導かれて「今」に至っている訳で、これまでの全部を含めての「今」を、胸を張って、岸田くんは高らかに歌っていたように見えた。おセンチで大変恐縮ですが、あの空間で、わたしはものすごく幸せだったのです。あれだけ綺麗で、喜びに満ちた時間を、同世代の人がつくり出したことに素直に感動して、彼らと同じ時代に生きてることを嬉しく、幸せに思った。とてもいいものを観たと思う。本当に、いいものを観た喜びでいっぱいになって、ありがとう、っていう気持ちで横浜を後にした夜でした。
こんな圧倒的でスペシャルなことを一度やってしまったら、次に何をやっても「あの時がピークだったね」って言われるのでは、という恐れだってなくはないだろう。彼らはまだ30代の入り口で、そんな若さであんだけのことをやって、この先どーすんの? ていうのは岸田くんも、「明日からどうしたら…」とか口走っていたとおりではあるのだけど。でも、岸田くんは、このことを「糧」にして明日からも音楽をつくる、というようなことを言っていた。だから大丈夫なんだと思う。この先でまた、きのうみたいな喜びをもらえるって信じていいんだと思った。くるりはいいバンドだ。本当にそう思う。手放しでそんな風に思えることの貴重さって格別だなあとしみじみ思った。
と、何を書いても似たところをぐるぐるまわってしまうのでここいらで。あ、今回のライブのためのウィーンでのリハの様子を含め、わたしの観た2日目のほうの演奏が CS の TBS チャンネルで放映されるそうです。来年の 2/17(日)の夜。是非色んな人が観たらいいと思う。詳細はこちら。
http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/ichioshi/special/quruli/
断髪済みの子供みたいな岸田のニイちゃんの写真がいっぱいあるのですけども、すべての画像の拡大ウインドに「くるりに密着」って書いてあるのが地味におかしい特設ページであった。

*1:後日追記:あった、管入れてる曲。「ハヴェルカ」は入ってますよね。急に思い出した。だから横浜でやらなかったのかなー。

*2:ウィーンから来たオケの人たちを全員紹介してゆく中で、1人が「恋人の時計」のヴォーカルを(日本語で)完コピしてる、って言って岸田くんがステージ上で歌わせていたんだけど、そのとき何度も「時計のうた」って呼んでいたのでひどいと思った。照れるくらいならタイトルに「恋人」とかつけなきゃいいじゃんねー。げらげら。

忘年会ー

やべえ、迫ってる! 一応リマインドしておこうと思いつつ寸前になってしまった…。

Lady Bownen/2007 christmas & farewell party
DATE: 12月16日(日)
TIME:17:00〜21:00
PLACE: 下北沢 escafe http://www.escafe.jp/
CHARGE:¥2500 (2drink,food,cakeつき)
詳細はコチラ → http://d.hatena.ne.jp/oolochi/20071114/p3

ディジェやらしてもらえるそうです。時間はわたしは 17:20-18:00 の予定だそうな。お暇な方、って言われても師走だし、あんまアレでしょうが、お茶がてらぷらっと寄ってくださったらウレシイ。おやつあるみたいですよ。
あ、もし来てくださるおつもりの方がいらしたら、明日中くらいにメールフォームから連絡いただけると非常に助かります。携帯ご存知の方はぎりぎりまで大丈夫ス。押忍。

  • hon-nin の表紙が異質すぎて本屋でなかなか見つけられんかった。積んであったのに。西原の破壊力はとんでもない。
  • グループ魂の慰安旅行~特典・ライヴat横浜BLITZ~ [DVD]」を amazon で頼んでいたことを忘れてあやうくフラゲしそうに。火曜日に発送完了メールに気付かなければ絶対帰りに買ってた。危なかった。でもまだ封を開けてもいないんだけどね。多分来週まで観る時間はない…。
  • Feel Young、「サプリ」が久々によかったなあ。宮内ナオ、作中の扱いはひどいけど着てる服が一番好み。かわかみじゅんこがストーリーマンガを書いててびっくりした。このままジョージ朝倉が復帰しないと読むものがなさすぎて買うのを止めてしまいそう。
  • スペシャボーイズ坂本美雨ちゃんがゲストで出て、お気に入りブログランキング、みたいなので2位に松尾さんの「ドブロクの唄」を挙げていた。あの…食べ物ブログとして読んでますね彼女…?
  • 猫とか子供とか食べ物ってキラーコンテンツなんですかね、ブログにとって?
  • 「僕もこれ読んでアレ試しましたよ!」と相槌打ってるこのメガネの男性に見覚えが…と思ったらボクデスの小浜さんだった。こんなん出てんのね! うわあ、びっくり。
  • それにつけても、美雨ちゃんは内田春菊に似ている。
  • くるりの横浜公演に TBS の何ちゃら、っていうドラマから花が出てた。んーと…主題歌か何か…かな? 気になる。
  • エリカさまの♪めさーきーの、ことにまよーうなー♪っていう譜割りが脳髄に沁み込んで取れません。目先て。
  • 明日の NEWS 23、天野祐吉が今年の CM を語るらしい。アップルの CM 来るかのう? 新聞連載でひどく褒めてたのよな…。