宮田重雄のマチエール

osamuharada2009-02-23

宮田重雄は、まず油彩画の画家で、医師でもあり、戦後のラジオ(二十の扉)やTVで人気があった、今でいうなら文化人タレントでもありました。獅子文六との親密な交流から、挿絵を担当することになり、それらが続々と大ヒット作となりましたが、あくまでも挿絵は画家の余技で、専門の挿絵画家(今ならイラストレーター)ではないのです。 今回の挿絵原画『青春怪談』は、和紙に水墨で描かれています。墨のニジミやカスレの扱いが見事です。特に風景は水墨画を見るようです。 その後の『流れる雲』『ある日、その人』の原画は、筆とペンで描かれ、墨とインク、ガッシュなどを使用。こちらは和紙にかわって水をはじくケント紙で、大和絵たらしこみ技法を駆使した、スピード感のある都会的なタッチです。 マチエールの効果を自由自在に操る宮田重雄の画風は、もとより本業の油彩画で顕著です。ぼくの持っているこの油彩画小品《吉野の春》は、晩年の作風で、奔放な荒い筆触はフォービスムに近い。明朗で大らかな感性は、天性のものでしょう。それが挿絵のような通俗的な作品においても、画品を失わさせていないのです。この生得の画品こそが、何度見ても飽きさせることなく、常にフレッシュネスをぼくに感じさせてくれるのです。