ある晴れた日、エミール・ノルデ

ノルデの「キリストの生涯」

グランパレでエミール・ノルデ(1867-1956)の展覧会が開かれている。晴れた日に歩いて行ってみた。ピカソ展が始まったばかりで、そちらは長蛇の列だが、こちらは比較的静か。
数年前バーゼルの美術館で、心象的な風景画を見て、初めてその名前を知った。強烈な印象を受けたので、調べてみると、ノルデはデンマークの、ドイツ国境近くの村で生まれ、ドイツ表現主義の流れに位置づけられる重要画家であった。私が無知だったのね。(いくつになっても、新しい”発見”があるのは嬉しいものだ)
今回の回顧展では、ゴッホゴーギャン、キルヒナーにも通じる色使いが、いかにも19世紀末という時代性を感じさせることが私には興味深かった。解説によると、ナチの国家社会主義に染まったが、そのナチから、背徳・退廃芸術のレッテルを張られ、ゲシュタポの監視のもとで創作活動を禁止される。40歳代に描いた「キリストの生涯」などの宗教画は、宗教を冒涜するもの、として断罪された。

これら”異端”の宗教画に1室が割かれている。どれだけ宗教心が強い人だったのかは知らないが(田舎に隠棲し、人付き合いもあまりなく、手紙、日記など書き残したものもあまりない)、キリストやその周囲の人物が、彼独特のデフォルメと色使いで、神性を排して描かれている。画家の意図は、教会や権威者のキリスト教を描くことではなく、自分自身の信仰を描くことだった、と私は思う。
アダムとイブ

展覧会を見て、アレクサンドル5世橋を渡ると、ラブシーンの撮影をやっていた。

金融不安が募るなか、晴れた日はそれを忘れさせてくれた。