最近の合併事例

第二次審査においては案件公表が求められることを念頭に置くこと。第一次審査は合併計画が非公開の状態で受け付けてもらえますが、第二次審査においては合併による競争の実質的制限の有無をより踏み込んで検討するため、取引先等に対するヒアリング調査が予定されています。したがって、第二次審査に入るには当事会社自ら案件を公表することが必要とされています。合併を計画している当事会社は、独占禁止法上の懸念がある取引について公正取引委員会からの内諾を得てから取引を公表したいと希望する場合が多く、この第二次審査の前提としての公表の要件はときに頭の痛い問題となります。

第二次審査への移行が明らかとなる時点までには、公表して審査を進めてもらうか、事前相談を取り下げて公正取引委員会のお墨付きを得ずに(ときには弁護士の意見書に依拠して)取引を進めるか、あるいは問題がありそうな案件については断念するか、といった判断が求められます。前記ですでに述べたもの以外に、公正取引委員会が公表している最近の合併の事前相談の事例として、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジの合併(平成21年度事例、平成22年6月委員会公表)、三菱東京フィナンシヤルーグループとUFJホールディングスの合併(平成11年度事例、平成17年5月委員会公表)、KDDIパワードコムの合併(平成17年度事例、平成18年6月委員会公表)などがあります。

公表内容によれば、これらについてはいずれも、結果として一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断され、何らの措置をとることなく合併が認められています。合併当事会社の営む事業が、銀行業のような免許事業や電気事業のような許可事業など、いわゆる「業法」の規制に服するものである場合、合併について行政官庁の認可を必要とするときがあります。この認可は、存続会社側でも解散する消滅会社側でも必要となる場合があります。このようなタイプの業法で代表的なものは、銀行法保険業法電気事業法鉄道事業法などです。

また、消滅会社の事業に必要な許認可を存続会社では有していないという場合、その許認可を合併により承継できるかどうかを確認する必要があります。承継できないとすると、存続会社で合併の効力発生日に向けて新たに取得する必要がありますし、そもそもその問題が当事会社のいずれを存続会社とするかの判断に影響する場合もあるからです。さきで述べたような合併について認可を要する業種では、認可を得られたことを前提として消滅会社からの免許・許可の承継を認める場合もあります。合併当事会社が事業上保持している許認可や登録によっては、合併の実行について一定期間内に届出や報告が必要となる場合があります。旅行業法上の消滅会社側の届出などです。合併をすることについての認可の取得とは異なり、通常形式的に書面上の手続を履行すればよいというもので、負担はそれほど重くありません。

金融商品取引法上の発行開示規制。適切な情報開示により有価証券取引の公正さを担保するための規制として、金融商品取引法はいわゆる「発行開示」と「継続開示」の規制を設けています。「発行開示」とは、有価証券を新規に発行または売出し等をする場面(プライマリー・マーケットとも言います)における情報開示、「継続開示」とはすでに発行された有価証券が流通する(売買される)場面(セカンダリー・マーケットとも言います)における情報開示です。平成19年改正前の証券取引法金融商品取引法の前身)においては、合併により消滅会社の株主に存続会社の株式が交付される場合には、合併の効力発生により自動的に行われるのであり、会社による有価証券の勧誘がないことから、「募集」(ぼ己株式の交付の場合には「売出し」)には該当しないものと整理され、発行開示規制は適用されませんでした(改正前企業内容等開示ガイドライン参照)。