『恋する新選組』外伝
「嗚呼、花の新選組」新選組屯所事件簿3
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土方歳三 「斬れ」
歳 「むろん、新選組に潜入している密偵だ。君に斬れるか?」
佐 「おうっ」
歳 「楠小十郎だが」
佐 「えっ」
歳 「……確か、君は小十郎と親しかったな。一緒に、野良犬を飼っていたようだが」
佐 「そ、そうなんだ。あいつ、犬好きで……。よく、飯や魚をかすめ取ってくれ……いや、残してくれたんだ」
歳 「ほう……で、斬れるのか斬れないのか」
佐 「斬れるさっ。任せとけ!」
強がって去る原田。それを見送る土方。
原田とすれ違って、沖田総司がやってくる。
沖田総司 「どうしたんですか、原田さん。ようすが変でしたけど」
歳 「はりきっていたか?」
総司 「いえ、しょげてたみたいですけど」
歳 「やっぱり、そうか。やむをえん。総司、お前、検分してこい」
総司 「何をですか?」
歳 「原田が密偵を斬れるかどうか。斬れなければ、お前が斬れ」
総司 「ま、まさか、原田さんを! 斬るんですか!?」
歳 「ばか、斬るのは楠小十郎だ」
総司 「楠君といえば、ああ、長州の密偵だとか。山崎さんがいってましたね」
歳 「どうやら、桂小五郎の手の者らしい」
総司 「ひどいな。長州の桂さんというのは、あんな若い人を密偵に使ってるんですか。楠君は、まだ前髪の少年ですよ」
歳 「誰であろうと、密偵は斬るしかない。行け」
冷たく言い放つ土方。しぶしぶ立ち上がる総司。
場面変わって、ここは屯所裏。野良犬の親子に飯をやる、楠小十郎。まだ前髪の美少年である。
そこへ、原田佐之助。
小 「あ、原田先生。こいつら、ぺろりと食べましたよ。今日の魚はうまかったからなあ」
佐 「あ、うん。そうか…」
小 「どうかなさいましたか?」
佐 「いや…その、おめえ、死にたくねえだろうなあ」
小 「えっ」
びくりと後ずさりをする小十郎。
佐 「なんで、密偵などになった……」
刀に手をかけた原田を見て、小十郎はぎょうてんする。
小 「ま、待って下さいっ、原田先生! わたしは密偵などではっ…」
佐 「だまれっ」
怒鳴りつけた原田の顔に、小十郎は凍りつく。
佐 「嘘をつくな。おれにまで、嘘をつくんじゃねえっ」
小 「うっうっ、た、助けて下さい……原田先生」泣きだす小十郎。
佐 「かわいそうだが、そうはいかねえんだよ」
キャンキャン
原田の殺気に子犬たちが吠え、母犬は小十郎の前に出て、小さく唸った。
佐 「なんだよ、おめえら。小十郎をかばうのかよ。おれだって、握り飯をやったろう」
グルルルルッ、ワンワン キャンキャン
野良犬の母子は吠え続ける
佐 「どけ。おれは人は斬れても、犬は斬れねえんだ。頼むからそこをどいてくれ」
小 「た、頼みます、原田先生。密偵はやめて、田舎へ帰ります! ですから…」
佐 「そうはいかねえっといったろう!」
地を蹴った原田の白刃が舞った。
小 「ぎゃあっ」
倒れる小十郎。
それを見下ろして、刀をおさめる佐之助。
佐 「土方さん、そこにいるんだろう。俺がやれるのはここまでだ、後は勝手にしてくれ」
振り向きもせず去っていく原田。だが、姿を現したのは沖田であった。
総司 「よしよし、怖がらなくていいぞ。この人は死んでない。峰打ちだ」
総司は、おびえる野良犬たちの頭をなでた。
その深夜。
意識を取り戻した楠小十郎は、長州屋敷へ駆けていた。
小 (原田さんには悪いが、わたしが逃げ込む場所は、桂さんの所しかないんだ……!)
屋敷の扉をたたこうとした時、灯篭のかげから人影が……
人影 「ここへ来てはいけないな」
小 「あっ」
小十郎がとんで逃げようとしたせつな、闇に白光がはしった。
小 「わあっ」
血しぶきがとんで、小十郎はどっと倒れた。
人影 「悪いが、右腕の筋を斬らせてもらった。これで、君はもう剣を使えない」
小 「あなたは、沖田先生……!」
総司 「今夜、新選組から君の噂を流した。君はすべてを白状して死んだとね。長州屋敷に入れば、裏切り者として殺されるだけだ。それとも、今ここで、斬って捨てようか。わたしは、原田さんと違って、君を斬るのに迷いはないが…」
と、小十郎は脱兎のごとく逃げた。
それをのんびり見送った沖田は、しずかに刀をおさめた。
歳 「ぶわっかもん! 副長助勤が二人もそろって、逃がしただとっ」
佐 「誠に面目ない」
総司 「土方さん、どうか、切腹だけはご勘弁を」
歳 「罪は重いぞ」
二人をねめつける土方。
歳 「罰として、原田はこれから十日間の飯炊きだ。総司、おめえは風呂炊きだ」
佐&総司 「ええーっ」
歳 「いっとくが、この罰は小十郎を逃がした罰ではない。副長を煙(けむ)に巻いた罰だ。二人して、せいぜい煙に巻かれやがれ!」
佐&総司 「ははーっ」
翌朝。
永倉 「おはよう! さあ、めしだめしだ〜」
籐堂 「おはようございます。いいお天気だなあ。あれ、どうしたんですか、斉藤さん」
斉藤 「いや、昨日の風呂が熱すぎて、ゆっくり湯につかれなかったんだ。うう、ちょっと、肩がこって…」
そこへ、ほっぺたに飯粒をつけ、でかくなった腹をたたきながら出てくる原田佐之助。
佐 「今日も元気だ!ご飯がうまいっ!!」
籐堂 「ええーっ! なんで、原田さんが…」
全員、だっと台所へ駆け込む。
その前にひろがった惨状は……
この後は恋組ファンには見えているかと。
というわけで、まさかのだじゃれオチ……すまぬ。ほんのお遊びなので、本格的な物語は拙著をお読み下され。
※ブログ中の新選組キャラ絵は『恋する新選組』(絵/朝未さん)シリーズのギャグパターンです。
恋組ファン・リクエストの「嗚呼、花の新選組」新選組屯所事件簿3です。
ようやっと、更新しました〜
その前に、角川つばさ文庫『恋する新選組3』のファンページも、ぜひご覧くださいまし。