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2017-12-25 法務系アドベントカレンダー企画「江頭差分」

[]江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分) 00:00 江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)を含むブックマーク 江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)のブックマークコメント

株式会社法 第7版

株式会社法 第7版


1.はじめに

 伝統芸能化している本ブログ法務アドベントカレンダー( #legalAC ) 企画に、「江頭会社法の改訂版のどこが改訂されたのかを通じて近侍の会社法の重要な変化を探る」というものがある。


 そもそも、このような企画が始まった理由は、アニメ、漫画、ゲームの話しかしていない当アカウント (twitter: @ahowota) が、2014年の法務系アドベンチャーになぜかエントリーしてしまい、直前まで

・3月のライオンと法律*1

・楽園追放と法律*2

等のエントリしか思いつかないまま、戦々恐々としていたところ、そういえば、昔江頭会社法の初版と2版を比較したことがあったことを踏まえ、


「江頭」第2版から「新司法試験商法」にヤマをかける - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


 法務関係の皆様のお役に立てることといえば江頭差分以外にないだろう(逆に、アニメの法律分析等をすれば皆様に「ドン引き」されるだけだろう)というものであった。


2014年

「江頭会社法第5版」でこの4年間で会社法の変わったところを総さらえ〜「修正履歴付江頭会社法」〜 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


2015年

Legal Advent Calendar 2015企画:江頭憲治郎『株式会社法』第6版改正点まとめ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


と、総じてご好評をいただき、江差追分等と呼ばれながら、ここまでくることができた*3


 昨年は江頭会社法が改正されなかったので、この企画は大変残念ながら開催できなかったが、今年はついに江頭会社法第7版が発売されたことを受け、本エントリを公開させていただきたい。


 今年の法務アドベントカレンダーはポエム系が多いように思われるところ、全くポエムではない空気を読めないエントリをあげたこと、おわび申し上げる*4


法務系 Advent Calendar 2017



2.本エントリの構成

 某記事でも少し書いたところであるが、


 統計的にいうと、第6版から第7版への変化が10頁増、つまり1%しか増えていないことから、買い替えは不要なのではないかという人もいるかもしれない。しかし、そうではないことを明らかにする、これが本エントリの重要な目的である*5


 この目的を達成するため、本エントリは、まず、江頭会社法がその「はしがき」で改訂の契機として述べる、民法改正及びコーポレートガバナンス改革について簡単にどの部分に影響しているかを要約したい。その上で、それ以外の重要判例や重要改訂点について説明したい。


 なお、文献の入れ替え等*6細かな改訂は多い。新規引用文献では「企業法の進路 -- 江頭憲治郎先生古稀記念」からの引用が比較的多く、同書掲載の論文のうち、江頭会社法で引用されているものとされていないものを比較すると面白いと思われる。その意味では、網羅的に改訂点を説明するというよりは、個人がその独断と偏見により興味深いと思ったところをいくつかピックアップしたとご理解頂きたい。


3.民法改正

 民法が改正されることで、会社法にはいかなる変化がもたらされるのだろうか。

 会社法は民法の特則の部分があるところ、「本則」たる民法が変わることは、会社法にどのような影響を与えるのだろうか*7


(1)時効関係

 まず、 江頭会社法「はしがき」は、以下のように述べる。


>>

消滅時効に関する「債権者が権利を行使することができることを知った時」(民166条1項1号)とは、株主代表訴訟については、いつの時点なのだろうか。

江頭憲治郎『株式会社法』(第7版、有斐閣、2017年)1頁


改正民法166条1項は、


債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。


と規定する。


 ここでいう「債権者が権利を行使することができることを知った時」というのは、取引に基づく代金支払請求権等であればその時期について争いはないものの、取締役の責任はどうだろうか、しかも、株主代表訴訟を考えると、誰の認識を基準とすべきだろうか。この点は読者の皆様も興味を持たれるのではないか。


 さわりだけ紹介すると、江頭会社法は481頁で「取締役の責任の消滅時効期間につき、「債権者が権利を行使することができることを知った時」(民166条1項1号)とは、原則として、会社の提訴権限を有する機関(会社349条4項、353条、364条、386条1項1号)が当該取締役に責任があることを認識した時と解すべきである。」という原則を示している。問題は、代表訴訟であるが、会社の提訴権限を有する機関が責任はない(権利を行使できない)と考えているからこそ提訴請求が来るものの、提訴請求を受け取った時点で会社の提訴権限を有する機関は認識したと見るべきと論じた上で、会社法853条1項の類推といった解釈論まで展開している(481頁注16)。


 このように、民法改正によって会社法に生じる影響について論じているところが、第6版から第7版への大きな改訂点であり、やはり第7版を購入すべきである。*8



(2)連帯債務

 連帯債務の免除については、改正民法441条が以下の通り定める。

改正民法441条 第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、 債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したとき は、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。


これは、免除の相対効の原則を定めるものである。


ところで、責任限定契約(会社法427条1項)は、業務執行取締役等については結ぶことができないことから、関係する(責任がある)役員の間で「責任限定契約により免除を受けられる者」と「免除を受けられない者」に別れることになる。すると、免除を受けられない者が全額を支払った後、免除を受けられる者に対して求償をすることが可能となる可能性がある。この問題につき、江頭会社法は、長めの脚注で他の連帯債務者の免除を可能とする定款の定め、求償権放棄契約、事後的補償という3つの方策を検討している(480頁注18)*9


(3)債権者代位

 債権者代位権が行使される場合、債務者(代位行使対象債権の債権者)は、当該債権を処分できるのか。改正民法423条の5は以下の通り定める。

改正民法423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も 、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。


 つまり、民法の原則としては、債務者は処分ができるということになっている。では、代表訴訟につき、例えばまずいと思った会社は役員に対する損害賠償請求権を役員に対して責任追及の手を緩めることが記載される第三者に譲渡することができるのだろうか。


 ここで、大判昭和14年5月16日民集18巻557頁*10株主代表訴訟のような法定訴訟担当の対象債権の債務者による処分を禁じるのが原則としており、第6版487頁注3もそのような前提であった。しかし、民法改正を踏まえ、江頭会社法第7版では、民法423条の5により、処分は一般に禁じられるわけではないが責任追及回避目的の譲渡は会社法の責任免除の制限規定との関係で無効と論じる(496頁)。民法の原則が会社法では修正されるという議論は注目に値する*11


(4)債権譲渡

 改正民法466条2項、3項は以下の通り定める。

改正民法466条2項 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。

3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の 第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことがで き、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。


 つまり、債権譲渡の効力そのものは妨げられないのであって、譲渡制限を知り又は重過失により知らなかった場合でも、履行を拒んだりできるに留まる。江頭会社法第7版は、この点を捉え、金商法における公募と私募の区別等に転売制限の有無を利用しているが、これが問題になるのではないかと論じる(735頁注23)。


(5)その他

・指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限(民法520条の6、178頁)

・代表権の濫用について民法107条を本文で引いた上で(431頁)脚注(433頁注5)で、会社法356条1項3号との均衡を問題視している。

・詐害行為取消(445頁注4、918頁注2)

・錯誤が取消事由となる(755頁)

・免責的債務引受(民法472条)又は更改(民法514条1項)(949頁)

等々についてもそれぞれ言及がある。


4.コーポレートガバナンス

(1)コーポレートガバナンスコード

 本文で独立社外取締役の2名以上の選任等についてコンプライ・オア・エクスプレインが求められていること(388頁)を述べた上で、脚注では、コーポレートガバナンスコードの導入の経緯、内容面における特徴等を述べた上で、独立社外取締役等のコーポレートガバナンスコードの採用する手法が企業の持続的な成長という目的と合致したものであるかは、相当疑わしいと論じている(390頁注9)江頭節がなかなか良買った。なお、より詳しくは、江頭憲治郎「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」早法92巻1号109頁を参照されたい。


(2)スチュワードシップコード

 スチュワードシップコード及び議決権行使助言会社等の存在により「経営者支配」に変化の兆しがあるとした上で(310頁)、スチュワードシップコードについて、国際比較を含むその概説がなされている(310頁注6)。


(3)会社補償

 会社補償とは、取締役が職務執行に関して損害賠償請求、刑事訴追等を受けた場合に、取締役が要した争訟費用、損害賠償金等を会社が負担することを言う。コーポレートガバナンスコード策定等に伴いこの問題への関心が高まったことから、項目を立てて約2頁に渡ってこれを論じている(466〜467頁)。

 関連してD&O保険についても本文で取締役が会社に対して負う損害賠償部分の保険料を会社が負担することについて、平成28年以降保険実務の取り扱いは、社外取締役の承認等の一定の手続きを経た場合には可能として処理するとした上で(491頁)脚注で補足している(491頁注32)。


(4)その他

 監査委員会設置会社に既に移行したか、移行する旨を表明した上場企業の数が平成28年6月までに700社であることについて、コーポレートガバナンスコードの2名以上の独立社外取締役設置の要求を満たしやすい、取締役会による業務執行の決定の委任が広く認められる等が理由だとされている旨の言及がある(582頁)。


6.その他

(1)最新判例

 新規収録裁判例は多いが、最高裁レベルだと

最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁(122頁注3)

最判平成27年2月19日民集69巻1号51頁(771頁注3*12

・最決平成27年3月25日金判1467号34頁(19頁注8)

最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁(979頁注1)

最判平成28年3月4日民集70巻3号827頁(401頁注11)

・最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁(162頁)

最判平成29年2月21日判タ1436号102頁(318頁注5)

 の7判例が新規収録である。


 新規収録下級審裁判例で個人的に興味深いのは、

・属人的定めに関する東京地判平成27年9月7日判時2286号122頁及び東京地立川支判平成25年9月25日金判1518号54頁(169頁)

・取締役の実質解任について東京地判平成27年6月29日判時2274号113頁(393頁)

安全配慮義務違反による取締役の第三者責任についての東京地判平成26年11月4日判時2249号54頁(514頁注4)

監査役の任務懈怠責任が認められた大阪地判平成28年5月30日金判1495号23頁(546頁)

・新株発行差し止めが認められた山口地宇部支判平成26年12月4日金判1458号34頁(773頁注4)

・募集株式発行等の無効訴訟の提訴期間経過を会社が信義則上主張できないとされた名古屋地判平成28年9月30日金判1509号38頁(782頁注8)

MBOに失敗した事案につき会社にMBO費用相当額の損害を被らせたとした大阪高判平成27年10月29日判時2285号117頁(835頁注2)

 辺りだろうか。

(2)税制改正

 完全子会社化のための全部取得条項付き種類株式の利用が株式交換等の一種として税制の均一化が図られた(164頁)

 特定譲渡制限付株式というインセンティブ報酬に関する税制改正(455頁注7)

 スピンオフ税制の導入による適格株式分配(688頁注10)や適格分割型分割(900頁注6)。

 その他合併と税制の変更(859頁注7)

 交付金株式交換(937頁注3)

 等の部分に改正の影響があるので参考にされたい。

(3)その他

 少なくとも代表取締役の一人の住所を日本としなければ会社の設立登記申請を受理しない扱いにつき変更があったことをフォローしている(104頁)。

 特別支配株主に対する売渡株主の差し止め請求については、会社に対するものではないので個別株主通知が不要という点はそう言われればそうなのだが、明記してもらえるのはありがたい(282頁)。

 特別利害関係を有する取締役が加わってされた議決であっても当該取締役を除外してもなお議決に必要な多数が存するときは、その効力は否定されないという点を最判昭和54年2月23日民集33巻1号125頁を引いて論じている(421頁注15の末尾)。この判例は、第6版では持分払い戻しの際の価格算定の判例として同19頁注9で引くだけであったので、興味深い。

 ベイルイン(bail-in)債*13について新たに記載が追加されている(726頁)。

 公正な価格につきシナジー分配を織り込むべきではないという議論に対する反論が詳細化している(880頁注4)。


まとめ

 江頭会社法は、改訂前後の「差分」に着目することで、その期間における会社法のトレンドを理解できる、たいへん素晴らしい書物である。

 ただ、例えば第6版315頁注4で「今後、そのような新株予約権の発行を定款の定めにより株主総会の決議事項とした上で行う事例が増えるであろう」という記述を2005年の文献を引用して述べていたところが、第7版では文献のみが消えており、実際に増えたかどうかが明確にされない(318頁注4)等、疑問が残る部分があることは否めない。やはり第8版においてもより良い内容になる改訂を期待したい。


 なお、この企画、毎年やるのはものすごく大変なので、勝手なお願いではあるが、第8版の刊行はあと数年位待っていただけるとありがたい、と思ったところである。

[]江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分) 00:00 江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)を含むブックマーク 江頭会社法の第7版と第6版の相違点からこの2年間の会社法の動きを探る(江頭差分)のブックマークコメント

株式会社法 第7版

株式会社法 第7版


1.はじめに

 伝統芸能化している本ブログ法務アドベントカレンダー( #legalAC ) 企画に、「江頭会社法の改訂版のどこが改訂されたのかを通じて近侍の会社法の重要な変化を探る」というものがある。


 そもそも、このような企画が始まった理由は、アニメ、漫画、ゲームの話しかしていない当アカウント (@

・3月のライオンと法律*14

・楽園追放と法律*15

等のエントリしか思いつかないまま、戦々恐々としていたところ、そういえば、昔江頭会社法の初版と2版を比較したことがあったことを踏まえ、


「江頭」第2版から「新司法試験商法」にヤマをかける - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


 法務関係の皆様のお役に立てることといえば江頭差分以外にないだろう(逆に、アニメの法律分析等をすれば皆様に「ドン引き」されるだけだろう)というものであった。


2014年

「江頭会社法第5版」でこの4年間で会社法の変わったところを総さらえ〜「修正履歴付江頭会社法」〜 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


2015年

Legal Advent Calendar 2015企画:江頭憲治郎『株式会社法』第6版改正点まとめ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


と、総じてご好評をいただき、江差追分等と呼ばれながら、ここまでくることができた*16


 昨年は江頭会社法が改正されなかったので、この企画は大変残念ながら開催できなかったが、今年はついに江頭会社法第7版が発売されたことを受け、本エントリを公開させていただきたい。


 今年の法務アドベントカレンダーはポエム系が多いように思われるところ、全くポエムではない空気を読めないエントリをあげたこと、おわび申し上げる*17


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2.本エントリの構成

 某記事でも少し書いたところであるが、


 統計的にいうと、第6版から第7版への変化が10頁増、つまり1%しか増えていないことから、買い替えは不要なのではないかという人もいるかもしれない。しかし、そうではないことを明らかにする、これが本エントリの重要な目的である*18


 この目的を達成するため、本エントリは、まず、江頭会社法がその「はしがき」で改訂の契機として述べる、民法改正及びコーポレートガバナンス改革について簡単にどの部分に影響しているかを要約したい。その上で、それ以外の重要判例や重要改訂点について説明したい。


 なお、文献の入れ替え等*19細かな改訂は多い。新規引用文献では「企業法の進路 -- 江頭憲治郎先生古稀記念」からの引用が比較的多く、同書掲載の論文のうち、江頭会社法で引用されているものとされていないものを比較すると面白いと思われる。その意味では、網羅的に改訂点を説明するというよりは、個人がその独断と偏見により興味深いと思ったところをいくつかピックアップしたとご理解頂きたい。


3.民法改正

 民法が改正されることで、会社法にはいかなる変化がもたらされるのだろうか。

 会社法は民法の特則の部分があるところ、「本則」たる民法が変わることは、会社法にどのような影響を与えるのだろうか*20


(1)時効関係

 まず、 江頭会社法「はしがき」は、以下のように述べる。


>>

消滅時効に関する「債権者が権利を行使することができることを知った時」(民166条1項1号)とは、株主代表訴訟については、いつの時点なのだろうか。

江頭憲治郎『株式会社法』(第7版、有斐閣、2017年)1頁


改正民法166条1項は、


債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。


と規定する。


 ここでいう「債権者が権利を行使することができることを知った時」というのは、取引に基づく代金支払請求権等であればその時期について争いはないものの、取締役の責任はどうだろうか、しかも、株主代表訴訟を考えると、誰の認識を基準とすべきだろうか。この点は読者の皆様も興味を持たれるのではないか。


 さわりだけ紹介すると、江頭会社法は481頁で「取締役の責任の消滅時効期間につき、「債権者が権利を行使することができることを知った時」(民166条1項1号)とは、原則として、会社の提訴権限を有する機関(会社349条4項、353条、364条、386条1項1号)が当該取締役に責任があることを認識した時と解すべきである。」という原則を示している。問題は、代表訴訟であるが、会社の提訴権限を有する機関が責任はない(権利を行使できない)と考えているからこそ提訴請求が来るものの、提訴請求を受け取った時点で会社の提訴権限を有する機関は認識したと見るべきと論じた上で、会社法853条1項の類推といった解釈論まで展開している(481頁注16)。


 このように、民法改正によって会社法に生じる影響について論じているところが、第6版から第7版への大きな改訂点であり、やはり第7版を購入すべきである。*21



(2)連帯債務

 連帯債務の免除については、改正民法441条が以下の通り定める。

改正民法441条 第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、 債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したとき は、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。


これは、免除の相対効の原則を定めるものである。


ところで、責任限定契約(会社法427条1項)は、業務執行取締役等については結ぶことができないことから、関係する(責任がある)役員の間で「責任限定契約により免除を受けられる者」と「免除を受けられない者」に別れることになる。すると、免除を受けられない者が全額を支払った後、免除を受けられる者に対して求償をすることが可能となる可能性がある。この問題につき、江頭会社法は、長めの脚注で他の連帯債務者の免除を可能とする定款の定め、求償権放棄契約、事後的補償という3つの方策を検討している(480頁注18)*22


(3)債権者代位

 債権者代位権が行使される場合、債務者(代位行使対象債権の債権者)は、当該債権を処分できるのか。改正民法423条の5は以下の通り定める。

改正民法423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も 、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。


 つまり、民法の原則としては、債務者は処分ができるということになっている。では、代表訴訟につき、例えばまずいと思った会社は役員に対する損害賠償請求権を役員に対して責任追及の手を緩めることが記載される第三者に譲渡することができるのだろうか。


 ここで、大判昭和14年5月16日民集18巻557頁*23株主代表訴訟のような法定訴訟担当の対象債権の債務者による処分を禁じるのが原則としており、第6版487頁注3もそのような前提であった。しかし、民法改正を踏まえ、江頭会社法第7版では、民法423条の5により、処分は一般に禁じられるわけではないが責任追及回避目的の譲渡は会社法の責任免除の制限規定との関係で無効と論じる(496頁)。民法の原則が会社法では修正されるという議論は注目に値する*24


(4)債権譲渡

 改正民法466条2項、3項は以下の通り定める。

改正民法466条2項 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。

3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の 第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことがで き、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。


 つまり、債権譲渡の効力そのものは妨げられないのであって、譲渡制限を知り又は重過失により知らなかった場合でも、履行を拒んだりできるに留まる。江頭会社法第7版は、この点を捉え、金商法における公募と私募の区別等に転売制限の有無を利用しているが、これが問題になるのではないかと論じる(735頁注23)。


(5)その他

・指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限(民法520条の6、178頁)

・代表権の濫用について民法107条を本文で引いた上で(431頁)脚注(433頁注5)で、会社法356条1項3号との均衡を問題視している。

・詐害行為取消(445頁注4、918頁注2)

・錯誤が取消事由となる(755頁)

・免責的債務引受(民法472条)又は更改(民法514条1項)(949頁)

等々についてもそれぞれ言及がある。


4.コーポレートガバナンス

(1)コーポレートガバナンスコード

 本文で独立社外取締役の2名以上の選任等についてコンプライ・オア・エクスプレインが求められていること(388頁)を述べた上で、脚注では、コーポレートガバナンスコードの導入の経緯、内容面における特徴等を述べた上で、独立社外取締役等のコーポレートガバナンスコードの採用する手法が企業の持続的な成長という目的と合致したものであるかは、相当疑わしいと論じている(390頁注9)江頭節がなかなか良買った。なお、より詳しくは、江頭憲治郎「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」早法92巻1号109頁を参照されたい。


(2)スチュワードシップコード

 スチュワードシップコード及び議決権行使助言会社等の存在により「経営者支配」に変化の兆しがあるとした上で(310頁)、スチュワードシップコードについて、国際比較を含むその概説がなされている(310頁注6)。


(3)会社補償

 会社補償とは、取締役が職務執行に関して損害賠償請求、刑事訴追等を受けた場合に、取締役が要した争訟費用、損害賠償金等を会社が負担することを言う。コーポレートガバナンスコード策定等に伴いこの問題への関心が高まったことから、項目を立てて約2頁に渡ってこれを論じている(466〜467頁)。

 関連してD&O保険についても本文で取締役が会社に対して負う損害賠償部分の保険料を会社が負担することについて、平成28年以降保険実務の取り扱いは、社外取締役の承認等の一定の手続きを経た場合には可能として処理するとした上で(491頁)脚注で補足している(491頁注32)。


(4)その他

 監査委員会設置会社に既に移行したか、移行する旨を表明した上場企業の数が平成28年6月までに700社であることについて、コーポレートガバナンスコードの2名以上の独立社外取締役設置の要求を満たしやすい、取締役会による業務執行の決定の委任が広く認められる等が理由だとされている旨の言及がある(582頁)。


6.その他

(1)最新判例

 新規収録裁判例は多いが、最高裁レベルだと

最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁(122頁注3)

最判平成27年2月19日民集69巻1号51頁(771頁注3*25

・最決平成27年3月25日金判1467号34頁(19頁注8)

最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁(979頁注1)

最判平成28年3月4日民集70巻3号827頁(401頁注11)

・最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁(162頁)

最判平成29年2月21日判タ1436号102頁(318頁注5)

 の7判例が新規収録である。


 新規収録下級審裁判例で個人的に興味深いのは、

・属人的定めに関する東京地判平成27年9月7日判時2286号122頁及び東京地立川支判平成25年9月25日金判1518号54頁(169頁)

・取締役の実質解任について東京地判平成27年6月29日判時2274号113頁(393頁)

安全配慮義務違反による取締役の第三者責任についての東京地判平成26年11月4日判時2249号54頁(514頁注4)

監査役の任務懈怠責任が認められた大阪地判平成28年5月30日金判1495号23頁(546頁)

・新株発行差し止めが認められた山口地宇部支判平成26年12月4日金判1458号34頁(773頁注4)

・募集株式発行等の無効訴訟の提訴期間経過を会社が信義則上主張できないとされた名古屋地判平成28年9月30日金判1509号38頁(782頁注8)

MBOに失敗した事案につき会社にMBO費用相当額の損害を被らせたとした大阪高判平成27年10月29日判時2285号117頁(835頁注2)

 辺りだろうか。

(2)税制改正

 完全子会社化のための全部取得条項付き種類株式の利用が株式交換等の一種として税制の均一化が図られた(164頁)

 特定譲渡制限付株式というインセンティブ報酬に関する税制改正(455頁注7)

 スピンオフ税制の導入による適格株式分配(688頁注10)や適格分割型分割(900頁注6)。

 その他合併と税制の変更(859頁注7)

 交付金株式交換(937頁注3)

 等の部分に改正の影響があるので参考にされたい。

(3)その他

 少なくとも代表取締役の一人の住所を日本としなければ会社の設立登記申請を受理しない扱いにつき変更があったことをフォローしている(104頁)。

 特別支配株主に対する売渡株主の差し止め請求については、会社に対するものではないので個別株主通知が不要という点はそう言われればそうなのだが、明記してもらえるのはありがたい(282頁)。

 特別利害関係を有する取締役が加わってされた議決であっても当該取締役を除外してもなお議決に必要な多数が存するときは、その効力は否定されないという点を最判昭和54年2月23日民集33巻1号125頁を引いて論じている(421頁注15の末尾)。この判例は、第6版では持分払い戻しの際の価格算定の判例として同19頁注9で引くだけであったので、興味深い。

 ベイルイン(bail-in)債*26について新たに記載が追加されている(726頁)。

 公正な価格につきシナジー分配を織り込むべきではないという議論に対する反論が詳細化している(880頁注4)。


まとめ

 江頭会社法は、改訂前後の「差分」に着目することで、その期間における会社法のトレンドを理解できる、たいへん素晴らしい書物である。

 ただ、例えば第6版315頁注4で「今後、そのような新株予約権の発行を定款の定めにより株主総会の決議事項とした上で行う事例が増えるであろう」という記述を2005年の文献を引用して述べていたところが、第7版では文献のみが消えており、実際に増えたかどうかが明確にされない(318頁注4)等、疑問が残る部分があることは否めない。やはり第8版においてもより良い内容になる改訂を期待したい。


 なお、この企画、毎年やるのはものすごく大変なので、勝手なお願いではあるが、第8版の刊行はあと数年位待っていただけるとありがたい、と思ったところである。

*1http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141214/1418484677

*2http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141210/1418139000

*3法務アドベントカレンダーをみて著作権モノを期待された方には平に謝罪申し上げる。

*4:なお、トリを務めたいと思った訳ではないが、単純に12月があまりにも忙しく、1日1秒でも時間が欲しかったというのと、「24日の夜にブログ記事書けるのは非リアの特権!」と思ったというだけであり、他の例えば「法務組織の(中間)管理職は何をしているのか」 (http://tokyo.way-nifty.com/blog/2017/12/legalac-07c2.html)のような、素晴らしい記事がトリを務める機会を奪った結果になったことにつき心からお詫び申し上げる。

*5:要するに「ステマ」であるが、私は単なる1ファンとして本書を「布教」しているだけである。

*6:ただし、細かいかどうかは議論があるものもないではないかもしれない。個人的には第6版402頁注4の3段落の野村修也「内部統制への企業の対応と責任」企会58巻5号100頁が第7版407頁注4で削除されているところが気になったところである。

*7:関係する論文としては431頁で引用される青竹正一「民法改正の会社法への影響(上)(下)」判時2300号19頁以下がある。

*8:なお、自己監査の問題に関する言及の際も消滅時効期間は「10年」(第6版561頁注1)から「5年以上」へと変わっている(569頁注1)。

*9:ただしいずれの方法もとても優れた解決とは言えないだろう。

*10:会社関係の事件ではないようである。

*11:なお、特殊な状況につき687頁注9も参照。

*12:判例索引では「772頁」とされているが誤り。

*13金融機関が発行する劣後債で実質破綻事由が生じた場合に元利金支払いを免除されるもの

*14http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141214/1418484677

*15http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20141210/1418139000

*16法務アドベントカレンダーをみて著作権モノを期待された方には平に謝罪申し上げる。

*17:なお、トリを務めたいと思った訳ではないが、単純に12月があまりにも忙しく、1日1秒でも時間が欲しかったというのと、「24日の夜にブログ記事書けるのは非リアの特権!」と思ったというだけであり、他の例えば「法務組織の(中間)管理職は何をしているのか」 (http://tokyo.way-nifty.com/blog/2017/12/legalac-07c2.html)のような、素晴らしい記事がトリを務める機会を奪った結果になったことにつき心からお詫び申し上げる。

*18:要するに「ステマ」であるが、私は単なる1ファンとして本書を「布教」しているだけである。

*19:ただし、細かいかどうかは議論があるものもないではないかもしれない。個人的には第6版402頁注4の3段落の野村修也「内部統制への企業の対応と責任」企会58巻5号100頁が第7版407頁注4で削除されているところが気になったところである。

*20:関係する論文としては431頁で引用される青竹正一「民法改正の会社法への影響(上)(下)」判時2300号19頁以下がある。

*21:なお、自己監査の問題に関する言及の際も消滅時効期間は「10年」(第6版561頁注1)から「5年以上」へと変わっている(569頁注1)。

*22:ただしいずれの方法もとても優れた解決とは言えないだろう。

*23:会社関係の事件ではないようである。

*24:なお、特殊な状況につき687頁注9も参照。

*25:判例索引では「772頁」とされているが誤り。

*26金融機関が発行する劣後債で実質破綻事由が生じた場合に元利金支払いを免除されるもの

2017-11-11 ラブライブ!サンシャイン!!の原作? 「九官鳥事件」

[]はぐれた九官鳥を拾ったら誰の物になる? 90年前の大事件「九官鳥事件」を読み解く 00:01 はぐれた九官鳥を拾ったら誰の物になる? 90年前の大事件「九官鳥事件」を読み解くを含むブックマーク はぐれた九官鳥を拾ったら誰の物になる? 90年前の大事件「九官鳥事件」を読み解くのブックマークコメント


本エントリはラブライブ!サンシャイン!!の2期アニメ第5話のネタバレになる可能性があります。


1.手に汗握る逆転事件

 九官鳥事件(大判昭和7年2月16日大審院民事判例集11巻138頁)、これは民法195条を勉強する法学部生は皆聞いたことがある事件である。しかし、この事件は、手に汗握る逆転事件であり、内容自体が面白い。


まるで、アニメの原作になりそうなくらいである。


以下、穂積重遠『有閑法学』の第53話と第54話を題材に、九官鳥事件の解説をしたい。


2.事案の概要


さて、場所はある港町*1。話は、桜内某(仮名)の家に九官鳥が飛び込んできたことから始まる。


桜内某は、九官鳥をかわいがり、ノクターン(仮名)と名付けた。


それから、荒牧某(仮名)がやってきて、この九官鳥は荒牧が飼っていたアンコ(仮名)であるとして、九官鳥を持ち去ってしまった。


そこで、桜内は、荒牧に対し所有権に基づく九官鳥の返還を請求した。要するに、この九官鳥は自分の所有物であるから返せ、ということである。




3.所有権に基づく主張と占有権に基づく主張


 少し複雑だが、民法において「物を返せ」という主張には2種類のものがある。


 1つは所有権に基づく請求であり、自分の物、所有物については、それが第三者の下にあれば、所有権(自分のものだ!)を理由にその返還を請求できる。


 もう1つは占有権に基づく主張であり、ある物を自分が事実として持っていたことを理由に第三者に対して返還を請求できる。


 そして、桜内がノクターンの所有者で、かつ、占有者であれば、荒牧に対し、所有権に基づく返還を請求できるだけではなく、占有権に基づく返還請求もできる。


 このような2つの類似の請求が存在する理由は非常に分かりにくいが、簡単に言えば、裁判制度がある以上、どういう理由があっても、他人が現に占有しているものを裁判制度外で持っていくこと(自力救済)は許されないので、とりあえず事実上占有していることを根拠に(つまり所有者が誰かを問うことなく)、元々の占有状態への復帰を認めるという趣旨ということになる*2



4.所有権に関する訴訟ー民法195条を巡る戦い


 さて、桜内はノクターンが自分の物だ、つまり、自己の所有物だから返せという所有権に基づく訴訟を荒牧に対して起こした。



 このような主張の根拠として、桜内は、民法195条を使った。

民法195条 「家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。


要するに、桜内は九官鳥という「家畜以外の動物」を、他人(荒牧)のものとは知らずに1ヶ月以上飼っていたので、九官鳥の所有者になった、と主張したのである。


第一審と第二審では、この主張が認められ、桜内が勝訴した。


ここで重要なのは、第一審と第二審では、時系列として、


先に桜内のところに九官鳥ノクターン)が舞い込んできて、その後で荒牧の九官鳥(アンコ)が逃げた


という時系列を認定していたことである。つまり、この2つの九官鳥が違う九官鳥である、というのが第一審と第二審の認定であって、当然に九官鳥は荒牧のものではないことになる。


ところが、最終審の大審院(今の最高裁判所)は、民法195条の解釈を理由に桜内を敗訴させた

九官鳥は我国においては人に飼育されその支配に服して生活するを通常の状態となすことは一般に顕著な事実なれば、同条にいわゆる家畜以外の動物に該当せず。」(カタカナをひらがなにする等の所要の修正済み)

要するに日本において九官鳥は「家畜」なので、家畜以外の動物に関する民法195条は本件には適用されないから、桜内は所有権を同条に基づき手に入れることはできないとされてしまったのである。


確かに(上記第一審と第二審のいうように)荒牧は所有者ではないかもしれない。しかし、桜内が起こした訴えは「(桜内の)所有権」を根拠とする訴えである。そこで、桜内は自分の所有権の存在を基礎付けなければならない。その際に桜内は民法195条を根拠としていた。大審院の判断によると、民法195条が適用されない以上、桜内の所有権を理由とする返還請求は認められないことになった、というだけである。


5.占有権に関する紛争ー桜内の勝訴


このように、所有権に基づく訴えでは桜内は苦杯をなめたが、ノクターンへの思い入れの強い桜内は、抜かりなく別の請求もしていた。


つまり、桜内は、荒牧に対し「占有権」に基づく訴えを別の事件として起こしていたのである。


上記のとおり、この占有権による訴えは、それが所有権に基づくものではなくてもよく、あくまでも自分が元々占有していた物(ノクターン)の占有を奪われたということを主張すればよい


つまり、桜内がこれまで占有していたノクターンについて、荒牧がその占有を奪ったとさえ主張すれば、誰の所有物かに関係なく、その返還を求めることができるのである。


そして実際に桜内は占有の訴えに勝訴し、大審院での敗訴判決後にかかる勝訴判決執行により九官鳥の返還を受けることに成功した



6.差戻し後の経緯


 とはいえ、これで全てが終わった訳ではない。占有の訴えによって暫定的に元の状態に回復はしたものの、最終的には所有権者が荒牧であることが決まれば、荒牧は桜内に対しアンコの返還を求めることができる


そして、所有権の帰属を争う事件は、大審院によって元の裁判所に差し戻された


桜内は、もう民法195条を根拠に、九官鳥が自分のものであるとは主張できないことから、違う理由で桜内の所有権を基礎付けようとした。


なんと、「実は津島某(仮名)が九官鳥ライラプス)を逃がしており、桜内が拾ったのはこの九官鳥である。桜内はその後津島から九官鳥の譲渡を受けた。」と主張したのである。


これに対し、荒牧は反訴を起こして所有権等の確認を求めると共に、(上記のとおり占有の訴えで負けてアンコが桜内の下に移転したので)所有権に基づく引渡も求め、徹底抗戦の姿勢を取った


この際には、荒牧は「差戻し前の第一審と第二審での事実認定は誤りであり、荒牧が九官鳥(アンコ)を逃がした直後に桜内が九官鳥を飼い始めたのだ」と主張した。


このように、荒牧の主張と桜内の主張は真っ向から対立した。勝敗は裁判所の事実認定にかかっている。


裁判所は、荒牧に軍配を上げた。


裁判所は、津島の九官鳥ライラプス)と、桜内の九官鳥ノクターン)の同一性について、問題の九官鳥ノクターン)は時折「バカヤロウ」といった下品な言葉を使って鳴くが、津島の九官鳥ライラプス)はこのような下品な言葉を使うことはなかったとして、桜内が津島の九官鳥を譲り受けた事実を否定し、その上で、荒牧が九官鳥(アンコ)を逃がした直後に桜内が九官鳥を飼い始めたとして、桜内の九官鳥ノクターン)は、荒牧の九官鳥(アンコ)であると認定したのであった。


こうして、九官鳥は荒牧のものであるとして、荒牧の勝利(荒牧に九官鳥の引渡を命じる判決)で裁判は終わりを迎えたのである。



まとめ

 九官鳥事件は九官鳥の所在が荒牧ー(逃げる)→桜内ー(奪う)→荒牧ー(占有権の訴えの執行)→桜内ー(所有権の訴えの執行)→荒牧とめまぐるしく移っていく、大逆転に次ぐ大逆転事件であった。


 しかも、第三者(津島)からの譲渡の話が大審院判決後に突然出て来る等、まるで「運命」とか「見えない力」が働いているようである。



 このようなストーリーであれば、アニメの原作になってもおかしくない



私は密かに、ラブライブ!サンシャイン!!2期アニメ第5話の原作は、九官鳥事件ではないかと思っているのだが、テレビ版ではクレジット表示がなかった。ブルーレイに「原作 大審院」という表示が出ることを期待したい


*1小樽市である。

*2:そこで、事実上の占有をしていたかだけを問う占有の訴えは簡易迅速に行うことが想定され、所有者が誰かと言った議論は無関係である(民法202条)。

2017-03-26 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書第12回

[]ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第12回「要領」良く仕事をするための「選択と集中23:49 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第12回「要領」良く仕事をするための「選択と集中」を含むブックマーク ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第12回「要領」良く仕事をするための「選択と集中」のブックマークコメント

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)


1.はじめに


仕事の「要領」がいい人と悪い人っていますよね。


 私はどちらかというと要領が悪い方でして、色々とうまくいかないことも多かったのですが、●(「禁則事項」です!)年間頑張っていく中で少しずつ自分なりにコツのようなものがつかめてきました。要するに、上司等の「レビュアー」がレビューして評価する訳ですから、そのレビュアーの評価するポイントだけに資源を集中投下し、それ以外は節約モードに入る、ということです。


「仕事が終わらない」「頑張ったのに質が低いと怒られる」等という悩みを持っている方、特に1月から働き始めて既に辛い方や4月から仕事を始める方の参考になればと思います。



2.ストーリーパート

 珍しく井上先輩と二人で残業をすることになった。


 午後8時。全館一時消灯の時間。部屋は暗闇に包まれる。


 電気をつけて仕事を続けようと、スイッチの方に歩き出したら、井上先輩が袖を引っ張って僕を止める。



さあ、怪談の時間だ。


かすかな非常灯の明かりに照らされた井上先輩は、とても怖い顔をしていた。



「か、怪談ですか?」



「そう。怪談。その人は私の同期同クラス、真面目な修習生だった。頭は特にいい訳ではなく、要領も特にいい訳でもないが、毎日遅くまで真面目に予習復習をして、中の上の成績を取っていた。」


「あ、よくいますね、そういうタイプ。同期にもいました。」


「うまく東京の弁護士一人、秘書一人のこじんまりとした事務所に就職が決まり、修習が終わった1月から勤務を始めた。でも、同期の集まりとかになかなか顔を出さない。メッセージを送っても『忙しい』としか返ってこない。これはおかしいと思っていたが、半年位してやっと会えた時『自分は弁護士に向いてなかった』と『死にたい』ばかり言っていた。」


井上先輩の顔が怖い。


「どうしちゃったんですか?ブラック事務所に入ってしまったとか?」


「ある意味ではそうだし、ある意味ではそうではない。」


「なかなか微妙な回答ですね。」


「ボス弁の先生は、器用で要領がいいタイプで、サクサク仕事を進めて細かいことにも気にされる方だった。だいたいボス弁自身が4時間位でできる仕事を、新人だから8時間位かかるだろう、と、1日の仕事としてイソ弁に振って、できた成果物を手直しして裁判所等に提出していた。」


「2対1の割合がどうか、という話はありますが、あり得そうな話ですね。」


「同期は最初の仕事でつまずいたらしい。比較的平易な訴状起案だったのだが、早く終わらせようと焦ったのか、要件事実を1つ落としてしまった。」


「このまま陳述すると、相手が欠席でも、欠席判決請求を認容してもらえない、ということですから、ミスはミスですね。」


「そのミスに対し、ボス弁から、『最近の修習生はやっぱりレベルが落ちてるのかな、あ、君は弁護士だったね。』と嫌味を言われて、かなり落ち込み、『もうミスは絶対できない』と思い込んだらしい」



「それはトラウマになりますね。」


「それで、慎重に慎重に対応するようになった。毎日遅くまで残って、調べて、考えて、疲労の限界で倒れそうになるまで検討を重ねて、成果物をボス弁に提出するようになった。」


「ボス弁から褒められるようになったんですか?」


その真逆だ。まず、仕事が遅くなった。ボス弁が当然できてると思う時期までに仕事ができていない。次に、深夜まで、そして気力と体力の限界まで作業しているから、ミスが出る。ボス弁は細かいからそういう細かいミスも含めて全部指摘して、『仕事が遅い上、質も低い」と批判する。」



気が狂いそうになりますね。」


「このような負のスパイラルは、他人事ではなく、特に真面目な人程陥り易い。」


自分も真面目だから、当てはまるかも、と思わず背筋が寒くなる。


「どうすればいいのですか?」


選択と集中だ。時間と労力を投下すべきところに集中して投下し、そうでないところへの投下を最小限に抑える。 特に最初に提出したものに低い評価が返って来たトラウマがある場合、慎重になり過ぎ、時間と労力をかけるべき所を間違った「遅く質が低い」人になりやすい。」


「理屈はそうなんでしょうが、問題はどこに時間と労力をかけるべきかが分からないことなんですよ。」


これは僕の実感である。


形式面のカオの部分(目立つところ)と実質面のキモの部分(当該事案の特性に応じた重要部分)にリソースを集中投下すればいい。」


「そういいますと?」


「まず、形式面の「カオ」の部分(目立つところ)としては、固有名詞(前株後株、異体字、肩書き等)、数字、条文、敬称等が重要だ。後は「1頁目」を綺麗に整える。これだけで、よい成果物っぽく見える。」


「なんか印象を操作してる気がするのですが、それ以外は形式を整えなくてもいいんですか?」


「どうやれば少ない労力で形式的に見栄えがするのか、という観点からの優先順位付けだ。もちろん、時間の許す範囲で2頁以降も形式面を綺麗にすべきだが、レビューする人は、最初の方で固有名詞や数字等目立つミスがあると、それだけで『この資料はしっかり作られてない』という印象を持ってしまう。そういう間違った印象を持たれることを防ぐための努力だな。」



「人は見た目が9割」と言われるが、「成果物も見た目が9割」なのだろうな、と思う。



「 実質面の「キモ」は、業務の類型別の問題と事案毎の問題の2つがある。例えば契約書チェックであれば、売買契約なら売買契約等当該契約類型でよく問題となる条項(注文・支払方法、瑕疵担保等)がある。また、当該事案で「買主の資力が心配」等の事情があればそれに対応する。」


「どうやってその事案における『キモ』を判断するんですか?」


「類型別は、モノの本の記載を参考にして、後は経験をする中で蓄積していけばいい。事案毎はコミュニケーション。丁寧に事情を聞き取ればいい。その際には、その契約では何をしたいのか、その結果どこでいくらお金が動くかを基本的な手掛かりにすればいい。」


井上先輩の言葉に、先輩がいつも定時に帰れる理由を垣間みた気がした。


3.解説

 さて、1月に仕事始めた方、4月から仕事を始められる方、皆様に申し上げたいことは「仕事よりも自分の人生の方がずっと大事」ということです。気難しい上司、優秀過ぎる上司等の下にいると、その要求に応えなきゃ、応えなきゃと思って精神的に追いつめられる人が多いのですが、精神的に気が詰まる位仕事をさせられる職場は、会社か上司個人のどちらか又は双方がおかしいのです。


 とはいえ、「嫌なら辞めればいいじゃないか」と簡単に申し上げるつもりもありません。やはりできるだけ業務を効率化して、短時間で高評価をもらえる成果をあげるよう努力すべきでしょう。その方法として、これまで私が試行錯誤と失敗を繰り返した結果、現時点でやっているのが上記の「選択と集中」ということです。


 これで全てがうまく行くかは分かりません。例えばお役所の対応をやっている場合、2頁目も詳細にチェックされる可能性もあります。ただ、一般論としてどこをレビュアーが重点的に見るかということですので、その観点を取入れて効率を上げる足しにして頂ければ幸いです。


 なお、上記の内容はツイッター(@ahowota)で呟かせて頂いたが、以下のとおり有益なコメントを頂き、これを取り入れさせて頂いきました。心より感謝させて頂きたい。


まとめ

 不器用な私が経験からまとめた「私見」も多い内容ですので、法務の諸先輩方のご意見をお待ちしております。