アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

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2017-02-26 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書第8回

[]ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第8回契約書チェックのポイントその3 23:44 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第8回契約書チェックのポイントその3を含むブックマーク ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第8回契約書チェックのポイントその3のブックマークコメント

ITビジネスの契約実務

ITビジネスの契約実務

1.はじめに

 契約書チェックのポイント第三回で最終回のつもりです。契約書チェックは多くの法務パーソンの皆様が日常的にされていると思いますので、重要性が高く、その結果、大分量が多くなりました。もちろん、実質面に入れば無限に続きそうな位ありますが、この連載の目的とは外れるので、この辺で一区切りとさせて頂きたく存じます。



2.ストーリーパート

「世間ではプレミアムフライデーとかいうものが始まったらしいですが、弊社はどうなんでしょう?」


ある月末の金曜日の昼休み、僕は井上先輩と昼ご飯を一緒に食べていた。


「うちは有給休暇の半日単位取得が可能。今日の午後半日有給を申請すればいい。」


即答する井上先輩。


実質は同じなのだろうが、有給休暇の半日単位取得」と呼んだ瞬間に、プレミアム感が激減するのはなぜだろうか。


「あ、今日は契約書のレビューをしないといけないので、午後は休めないです。うちの雛形をいじるのは慣れてきましたが、相手のドラフトにコメントを入れながら直すのは大変ですね。」


「今回は二人でレビューするだけだが、大きなプロジェクトでは、法務3人が弁護士先生と営業のコメント・修正を踏まえながら一条一条検討していくという、カオスな状態が出現する。」


「ひえーっ、ワードの修正履歴*1が超複雑になりそうです。」


「ワードの個人情報削除機能で保存時に自動的に同じ色にする方法を取る人もいるが、これだと消されたものが元々どちらが書いたものだったのかが分からなくなる等混乱が発生するので、基本的には、最後に修正履歴をまとめるしかない。ワードの文書の『比較』機能*2を利用して、元のバージョンと最終版と比較するのがよいだろう。その時は、比較元のバージョンをクリーンにすることが前提となるので、『貴社の修正をクリーンにさせて頂きました。』等と説明をするのがよいだろう。」


「確かに、その方法は分かり易いですね。」


「ただ、いくら綺麗なものができても、それで安心はできない。」


「ど、どうしてですか?」


「例えば、コメントには、営業だけに読んで欲しい『内部注』と、先方に見せる『相手方用コメント』の二種類がある。これを1つのファイルに書き込んで営業に送った場合、どういうリスクがある?」


「う〜ん、どういうリスクでしょう?」


営業が内部注を削除せず、そのまま先方に送ってしまう。」


「え!? そんな恐ろしいことが起こるんですか!?


「営業は忙しいから、法務のチェックを単なる『儀式』としか思っていないこともある。その場合、中を見てその中に内部注と相手方用コメントの二種類があることを認識して、内部注を削除するといった手間をかけると思うか?」


「思いません。。。」



「だからこそ、営業がミスをするリスクを十分理解しなければいけない。時間と手間が掛かるので概ね人を見て決めるべきだが、『営業用ドラフト』と『相手方用ドラフト』の2つのバージョンを作成するのが1つの手だな。」


「それはまた面倒ですね。」


「事案によっては、内部注としても読めるし、そのまま相手方に送られても問題がない表現を使うこともできる。


【本契約の趣旨からは、本条は相互的にすることが合理的と思われます。】

【本件のような取引で通例的な表現に修正させて頂きました。】

【事前に包括的に同意するのではなく、個別に承認を申請して頂き、合理的理由がある場合には同意するという対応が原則かと存じます。】



こんな感じの表現であれば、きちんと読む営業は「なるほど、フムフム」と読んで場合によってはフィードバックをもらえる。これに対し、読まない営業はそのまま相手方に投げるが、それでも害はない。」


「そんなテクニックもあったのですね。」


「コメントの内容によってはやはりそういう表現による対応ではうまくいかないこともある。その場合にはメール本文に『なお、添付のコメントは〜を前提としております。』等と書いたりすることもできるが、営業がメール本文を含めて丸ごと相手方に転送することもあるので、安心はできない。」



「恐ろしいですね。。。」



「営業の意見を聞かなくとも一義的に修正できる場合にはこういう中立的コメントで対応できるが、やはり営業の意見によって修正内容が変わる場合には、内線とか会議等によって知りたい情報を入手して、その上で修正するというのが本筋だろう。結局、自分と相手がミスをすることを前提に対応する必要がある、ということだな。」

ミスを前提に対応する、一見簡単そうに見えて実は難しそうな話に、一流法務パーソンへの道の険しさの一端を垣間見た気がした。



3.解説のようなもの

 修正履歴については、特に自社の複数人で修正を入れる場合、自社の修正か先方の修正かがごちゃごちゃにならないように整理する必要がありますが、手作業は面倒です。ここで、最初の修正はとりあえず内部では普通に修正履歴で対応した後、送信時に一度クリーンにして、ワードの比較機能を利用するのがよいでしょう*3。なお、二回目以降では、相手の修正をクリーンにしなければこの手はつかえません*4


 加えて、直接法務同士でやり取りする場合ではなく、営業等事業部門を通じてやり取りをする場合には、「営業がどう対応するか」が問題となることがあります。典型的には、「ここは最後はしょうがないと思いますが、今回は押し戻しましょう」といった内部注が入ったバージョンを何の躊躇もなく相手方に送るというミスがあります。


 これに対する対応としては、営業用と先方送付用の2バージョンを作成するといった方法もありますが、手間がかかります。1つの方法としては、

【本契約の趣旨からは、本条は相互的にすることが合理的と思われます。】

【本件のような取引で通例的な表現に修正させて頂きました。】

【事前に包括的に同意するのではなく、個別に承認を申請して頂き、合理的理由がある場合には同意するという対応が原則かと存じます。】

というように、「営業へのコメントにもなるが、これをそのまま転送しても問題がない、当たり障りのない表現を使う」というものがあり、これで対応できる範囲であれば、2つのバージョンを作る労力を削減できるのですが、修正内容によってはなかなかそういう当たり障りのない表現が使えない場合もない訳ではないので、どう対応するか悩ましいところです*5


 なお、このようなことをする営業の場合、法務の送ったメールそのものを先方に転送していることがありますので、メール本文に書いたコメントが転送される可能性にも留意が必要でしょう。


まとめ

これ以外にも、「重要!」とコメントすることの是非*6や、コメントを書く場合にワードのコメント機能(吹き出し)を使うか、本文に打ち込むか*7等様々な論点がありますし、合意後の製本等*8の問題もありますが、問題提起としてお読み頂ければ幸いです。

なお、この続きとして次回は、「同僚への配慮」をテーマにしようか、と少し考えております。

*1:なお、「最終版」で作業をしていると、クリーンなのか履歴付きなのか分からなくなる。「もらったドラフトが何か重いなと思って良く見たら別の案件の契約書に履歴付きで修正したものだった」とか、実際あります。

*2:バージョンによるが校閲→比較で出て来るはず。

*3プライバシー機能で全部の修正を同じ色にするという方法がありますが、色が同じになるだけなので、複数人が削除等をしあうと混乱するのと、送られた相手は結局プライバシー機能を解除しなければならないということで、あまりお勧めしません。

*4:その場合「貴社の修正をクリーンにさせて頂きました。」とコメントすしましょう。なお、クリーンにすることで、どこが先方の提案で、どこが既に合意した部分かが分かりにくくなるというデメリットもあるので、万能ではありません。

*5:営業と事前に内線で協議する等が考えられます。

*6:相手がまともなら「重要!」と書いた部分は尊重してもらえるが、それ以外は全部戻して来てもおかしくない、だからといって全部「重要」と書いていたら書く意味はなくなる等。

*7:個人的には本文派だが、コメント機能派も根強い

*8:多分少し端に寄せてホチキスで止めてマスキングテープという「簡易製本」がポピュラーと思われますが、これは人毎にノウハウがあり、「同人作家」の「コピー本作成術」が生かせるところでもあります。

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2017-02-19 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書第7回

[]ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第7回契約書チェックのポイントその2 23:59 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第7回契約書チェックのポイントその2を含むブックマーク ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第7回契約書チェックのポイントその2のブックマークコメント

1.はじめに

 この連載、先週は残念ながら考えがまとまらないまま時間切れとなってしまったのですが、なんとかツイッターで考えをまとめ、今回公表に至りました。2月14日にツイッターでご反応頂いた皆様、ありがとうございました。


2/23追記:dtk様に

契約書の内容確認について(リアクション芸人風) : dtk’s blog (ver.3)

で補足していただきました。ありがとうございます!


2.ストーリー

「お疲れ!」

定時に帰ろうとすると、井上先輩もちょうど帰り支度をしていた。見ると30分前に井上先輩にレビューをお願いした契約書は、先ほど僕をCCにして営業に送付されている。


「井上先輩ってレビュー速いですよね。」


独り言のように呟くと、井上先輩が食いついてきた。


「君は4時30分にドラフトを送った。営業は今日まで欲しいという。逆算すると、レビューに使えるのは30分。」


まあ、ロジカルに考えるとそうなる。


「ドラフトが遅くなったのは悪かったと思ってます。でも、レビューのときにどういう風に契約書を見るんですか? 僕は最初から最後までベターっと見て行くので、一読するだけで1時間とか掛かってしまい、その後修正を入れていくとかなりの時間が掛かってしまいます。」


「契約の実質面のレビューのポイントは、各契約類型毎に変わってくる。要するに、各契約類型毎に適用される任意規定の内容を前提に、当該契約書によって明確にしたい事項、特にその具体的な取引における事情を元に、事前に処理しておきたいリスクの処理が明確にされており、行為規範、つまり事業部門が取引をする際に疑義がないようになっているか、そして裁判規範、つまりトラブルが裁判所に持ち込まれたときに裁判官がきちんと我々の意図どおりに解釈してもらえるのかを重視する必要がある。」


「なるほど。これは一朝一夕には身に付かないなぁ。」


「より汎用性が高いのは、形式面のレビューのポイント。例えば表題、頭書・前文、本文、後文、日付、署名欄(記名押印欄)が揃っているか、条文が1から順番に抜け・ダブりなく並んでいるか、「前条」とかも含めた引用条文が矛盾なく引用できているか、といったことはかなり基本的な部分だが、できていないとそれこそ『ダメ契約の推定』が働く。」


確かに、形式面がしっかりしていないことが、実質面も含めてしっかりしていないことを推定させるという面はあるだろう。


「この辺りは、僕でも注意すればできそうですね。」


「この程度は、契約書を扱う以上は必須だ。後は定義。『本件』なのか『本』なのか、一度定義したら契約書の末尾まで全て同じ表現を続けて表記揺れをなくす。雛形をいじっていると、定義している条文を削除してしまって、定義なく『本件●●』を多用している例とか、定義を活用している条文を削除してしまって、上で『本○○』と定義した後、一度もその『本○○』が使われないこともある。さっきの契約書でも、いくつかあったから、今後注意するように*1。」


帰宅時の軽い雑談のはずなのに、カジュアルにディスられてしまった。

「すみません。定義はあまり注意していませんでした。」


「英文契約では、『大文字のA(で始まる単語)と小文字のa(で始まる単語)の意味は天と地ほど違う』というくらい重要*2だが、和文契約だとそこまでトリッキーなことをすることも多くないから、楽な方に流れがちな傾向にある。ただ、例えば、NDA(秘密保持契約)で、『秘密情報』を『甲が乙に開示した甲の経営情報、技術情報その他の秘密情報』と定義してしまうと、その後『当事者は秘密情報を厳重に保管し、第三者に漏洩、開示してはならない。』という一見平等な規定が入っていても、その意味は直感的な意味と大きく異なるだろう。」


「乙だけが一方的に秘密保持義務を負い、甲は秘密保持義務を負わないということですね。」


「そのとおり。その意味では、やはり定義の部分は力を入れてレビューする必要があるな。後は、甲乙を逆にしてしまう例。賃貸人が甲のはずなのに『甲は乙に対し毎月末日まで翌月分の賃料を支払わなければならない。』と書いているとか、そういうミスは結構見るので、気をつけるように*3。」


「当たり前のことだけれども、それを『当たり前じゃないか』で済ませず、頻出のミスを知った上で『そういうミスがあり得るから気をつけてレビューしよう』、ということを心がけると、契約書のレビューが意識的なものになり、効率も上がりそうですね。」


「少しずつ、コツが分かってきたみたいだな。じゃあ、また明日。」


話に夢中になっているうちに、駅まで着いてしまった。流石に明日突然30分でレビューできるようにはならないけれど、少しずつ効率を上げて行くコツのようなものを何か掴めた気がした。



3.解説のようなもの

 ということで、契約書チェックのポイントのうち、純粋に形式面でもないけど、内容面でもない中間的なものをまとめてみました。

 やはり、形式がしっかりしていることが、内容・実質の充実を推定させるという面があります。法務パーソンは自社の雛形を修正したり、相手方雛形をレビューするということが多いと思われますが、その過程で、雛形ないしは相手送付バージョンにはなかったミス(例えば条文を削除した場合に適切な処理を怠る等)を生じさせてしまうことがあります。そう言う意味で、常に契約書の全体を見ながら「この条文を削除したらどういう影響が出るのか」を、形式面と実質面の両面で考える必要があります。最低でも形式面をきちんと対応するように心がけると、その過程で実質面に気付くという面もあります。

 そこで、実質面は類型毎に契約の実質面を詳説する他の本を参照していただきたいものの、どのような契約書をレビューする場合でも、このような形式面をきちんとチェックし、一貫性のある、整った契約書となるよう心がけ、その過程で実質面にも気付くという付随的効果を狙うというのが良いと思われます。

 なお、このようなチェックのためには(会社によっては資源の節約等の観点から印刷が制限されているところもありますが)パソコンのモニタ上で見てチェックした後、印刷して紙でもチェックすると言う二重チェックが効果的です。モニタ上で見つからないミスが、印刷た紙を見るとゾロゾロ出て来るという効果があります。また、今回の事例のような、当日中に営業に送付しなければならないという事案では使えない訳ですが、「1晩寝かせる」、つまり、一度修正した後、夜ぐっすり眠って、翌朝再度チェックするという方法も有効です*4


まとめ

 簡単に契約書チェックのポイントのうち、純粋に形式面でもないけど、内容面でもない中間的なものをまとめてみましたが、足りない部分も多々あろうかと存じます。法務の諸先輩からの忌憚なきご意見をお待ちしております。

*1:ただ、定義条項がどのような意味を持っているかは、定義条項が具体的に本文でどのように使われるかとも関係するので、定義条項に触れられているところとの連関で理解すべきだろう。

*2:特に、定義条項に当事者の義務を入れる等、定義をいじって当事者の権利関係を変えようという試みをすることがある。このようなやり方は、契約書が読みにくなるのでこちらからは積極的にやるべきでないというのが一般論ではあるが、相手がやって来ることがあるので気をつけるべきである。

*3:そもそも、可能であれば「甲」を「賃貸人」、「乙」を「賃借人」としてしまうのがよい。

*4:なお、dtk様の「押印名義(サイナー)となる方の異動がある場合に、締結日との関係で整合性が取れているか、何らかの事情でバックデートになるときに、締結時点の適切な押印(サイン)権限者になっているか、という点も気を付けた方がいいように思う。なお、バックデートのときは、会計・税務上問題となる可能性があることも要確認。」というのは今回は扱いませんでしたが重要です。

2017-02-05 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第6回

[]ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第6回契約書チェックのポイント 23:58 ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第6回契約書チェックのポイントを含むブックマーク ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第6回契約書チェックのポイントのブックマークコメント

1.はじめに

さて、連載6回になります。

毎日かなり忙しいながらも、こうやって6週間連載続いているという奇跡的なことが起こっているのは、読者の皆様にご愛顧頂いているお陰であり、大変感謝しております。

さて、何回シリーズか、どのようなテーマにするのかは事前に全く考えておらず、毎回泥縄式に動いているのですが、とりあえず、今回のテーマは、「契約書チェック(実質面以外)」の前編といたします。


ここで「実質面以外」としたのはどういうことかと申しますと、

法令・判例・通説等を踏まえて行為規範として平時に事業部門が当該契約に基づきしっかりと契約を履行でき、実務上迷いが出るシチュエーションが最小限ととなり、裁判規範として有事でも裁判官に自社を守ってくれる契約解釈をしてもらう可能性をあげるため*1

・売買契約の起案・修正のポイント

一般条項の起案・修正のポイント

・英文契約の起案・修正のポイント

等のいわゆる実質面については、様々な良書もありますので、この連載では基本的には入らないことを想定しておりますので、それ以外のポイントとして気付いたことの解説のみを行うことになります。1回で書き切るつもりが、長くなってしまったので、2回に分けます。


2/7追記:いわき ‏@s_1wk 様に貴重なコメントを頂き、加筆修正致しました。ありがとうございました。


2.ストーリー


「これ、いったいなんなんすか?」


XYZ社から送られた契約書のチェックをして欲しいと依頼されて転送されたメールの添付ファイルに、正直戸惑った。


現在の日本の企業法務実務においては、Microsoft Wordによって作成された.docxまたは.docという拡張子によるファイルをやりとりし、修正履歴機能を利用して修正を積み重ねる、というのが一般的な対応と思われる。


しかし、今回のXYZ社はPDFファイルを送付してきたのである。


「またXYZ社か。とりあえずReaderじゃない方のAcrobat立ち上げて、名前を付けて保存でワードにしてみたら?」


井上先輩は飄々としてこう答える。


「ダメです、完全な画像ファイルです。」


どうも一度打ち出したものをご丁寧にもスキャンしてきたらしい。ワード形式で保存しても画像が表示されるだけで、テキストにならない。


OCRを掛けて、できたテキストを画像と照らし合わせて修正する。幸いにも、この画像はかなり綺麗だから、修正にそう時間はかからない。」


井上先輩が素早く指示する。


「えっと先輩、メール本文を見ると、内規により契約の文言を変更できないので、そのままプリントアウトして、押印して返送してくださいとあるんですが、まず契約ドラフトの内容を見て、それから受け入れるか、修正提案をするか決めてはどうでしょう?」


「無駄だと思うけど、やってみれば?」


ぶっきらぼうにそう言われて、契約書を読んでみる。全部の条文が一方的で、自社だけが一方的に義務を負い、XYZ社だけが一方的に権利を持つ形になっている。


「確かにこれはダメですね。先輩、契約の内容読んでないのに、よく分かりましたね。」


「結構合理的な内容のドラフトを送って来る取引先もあるのは事実。その場合はミニマムな修正で終わる。でも、そもそも画像PDFを送りつけるような会社が、合理的な内容のドラフトを送って来るか、という問題*2。」


井上先輩のおっしゃることは大変ロジカルだ。


「そうすると、ワードに落としていつも通り修正履歴付きで修正することになると思いますが、『内規により契約の文言を変更できない』って言っているので、修正を提案してもどうせ断られるんじゃないですか?」


「こういうのはブラフの場合と、本当にダメな場合の2つがある。ブラフの可能性がある限り修正して送るのが基本。ただ、こっちの交渉力が弱く、先方の意向として本当に修正ができない場合には、特約事項、サイドレター、場合によっては議事録等、うまく先方の「内規」等を回避しながら最低限の内容を確保できるような方法を考えるしかない。」



色々な状況に応じて、それを克服するための色々な方法があるんですね。なんか、井上先輩と話していると、もしかして法務ってクリエイティブな仕事なんじゃないか、と思ってしまいます。」



クリエイティブな法務パーソンが生き残り、クリエイティブではない法務パーソンが淘汰される、ってことじゃないのか?」


井上先輩の棘のあるフレーズが、僕の心に突き刺さった。



3.解説のようなもの

 まず、契約はお互いに合意の上で結ぶので、一方的にPDFファイルを送って、「これを打ち出して押印をして2部返送するように」といった態度は、かなり高圧的で高慢な印象を与えると言えます。それでも、こういう事態はまま出現します*3が、そういう高圧的な相手方だと、公平な内容のドラフトが送られてきている可能性はほぼゼロです。そこで、これに対しては、ストーリーにあるとおり、Acrobatの「名前を付けて保存」機能でワードに戻すか*4OCRかけて誤変換を修正する等して、ガッツリ直すしかないと思われます。


 とはいえ、このような対応をする趣旨は「直されると面倒なので、直さないでそのまま契約して欲しい」ということなのでしょう。特に自社の交渉力がない場合には、その要請をかなり大幅に飲まなければならない場合もあります。その場合どうするかですが、特約事項にしたりサイドアグリーメントを結ぶ。了解事項を記載した議事録に押印してもらうといった奥の手もあります*5



まとめ

 とりあえず、前編となりますが、法務の諸先輩方の御意見を参考に後編も頑張りたいと思います。

 どうぞよろしくお願い致します。

*1:なおこの2つの両立は必ずしも容易ではない

*2:なお、ヘッダに入った企業ロゴ等をポリシー上ワードのような転用可能な形で送付できないので、PDFで送らざるを得ないといった事情がある場合、PDFを送ることそのものが著しく不合理とはいえない。しかし、それでもテキストを読み取れるpdfで送るのが通常と思われる。

*3:なお、似ていて異なるものに、「手書きで修正・コメントを入れ、PDF化」というのがあります。多分ワードを使いこなせない方なのでしょうが、こちらで反映する手間が増えるので大変困ります。

*4:なお、契約実務ではあまり見かけない気がするが、いわゆる社内説明資料の場合、ワードに「戻す」とかなり変になるパターンは、いわゆる「神エクセル」で作っている事例が多い気がするところ。

*5:ただし、サイドアグリーメントの合意時期(本契約締結直前に結ぶと、完全合意で飛ばされる危険)や契約修正のために契約上どのような手続が必要か(両当事者の権限ある者による記名押印等が要求されていることがある)等を踏まえた配慮が必要です