吐息の日々 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-11-23

[]大久保幸夫・皆月みゆき『働き方改革個を生かすマネジメント』

リクルートワークス研究所大久保幸夫先生から、皆月みゆき先生とのご共著『働き方改革個を活かすマネジメント』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

働き方改革 個を活かすマネジメント

働き方改革 個を活かすマネジメント

前半の第2章までは昨今の働き方改革論議などを受けて今後の我が国の雇用慣行のあり方について問題提起する内容で、内容的には私もかなり同感するところもあるわけですが、一方で社会的な意識などもあって相当に漸進的に進める必要はあるな…という印象のものです。いっぽうで第3章以降はそういった先行きは念頭におきつつも現状の労働市場・労使関係・雇用慣行などを一応は前提におき、それなりに前段の今後の方向性も踏まえつつも実践的な職場マネジメントの考え方を解説しています。現下の情勢をふまえて管理監督・マネジメント職にある人たちにとっては有意義な内容を多く含む本だろうと思います。とりわけこの先の人事管理の在り方を模索している人たちにはいろいろな観点から有益ではないかと思います。

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2017-11-04

[]鶴光太郎『人材覚醒経済』

第60回日経・経済図書文化賞を受賞されました。おめでとうございます。

人材覚醒経済

人材覚醒経済

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2017-10-31

[]日本労働法学会誌130号

日本労働法学会誌130号が到着しました。今回は5月に龍谷大学で開催された第133回大会の内容が中心です。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03879-1

手弁当の社会人会員としては首都圏開催以外の大会に参加することは困難で、今回も菅野和夫先生の特別講演や、労働法学会では珍しい企業実務家の報告(資生堂の山極清子さん)を含む野川忍先生の小シンポなど興味深い内容が多かったのですが参加がかなわず残念でした。先日の134回大会もさすがに小樽までは行けなかったなあ。

さて菅野先生のご講演についてですが、JILPTの理事長という要職にあるお立場から、労働政策の現状と今後の展望についてお話しされたようです。前段では労働政策研究における各分野の学際的な協働の重要性と労働法学の役割について述べられ、後段ではJILPTが進めている日本的雇用システムの歴史と現状、変化と行方を探るプロジェクト研究について紹介されています。それを通じて、日本的雇用システムは「長期雇用慣行は保持しつつ中途採用併用・職責役割重視・早期選抜併用」「正社員の多様化と非正規労働者の統合」「OJT・面倒見などの職場集団機能の低下」が進んでおり、今後の展望としては「マクロの観点からの(政府主導による)改革が望まれることもありうる」「急激な変革は困難だが必要な修正はなされる」「現状を客観的に見据えた上での現場労使の対話が重要」とまとめられ、最後に労働法学の役割として「腰を据えた基礎研究(学際的な共同研究)こそが重要」と述べられています。さすがと申し上げるべきか、まことに適切な指摘であるようにも思われます。

各小シンポについては追い追い勉強させていただくとして、大会とは別の「回顧と展望」に大石玄先生が登場しておられるのを懐かしく拝見しました。福原学園事件の評釈で、研究者のキャリアの問題を指摘されているのは興味深く感じました。また、最後には花見忠先生がボブ・ハップルとロジェ・ブランパンへの追悼文を寄せておられ、偉大な先達の功績にあらためて思いを致すことができます。

[]日本労働研究雑誌688号

(独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌11月号(通巻688号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/11/index.html

今回のメインは恒例のディアローグ「労働判例この1年の争点」ですが、私としてはなんといっても特集(ミニ特集とのことですが)「スポーツと労働」が気になるところです。実は同誌は2005年4月号でも「スポーツと労働」を特集しており(http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2005/04/index.html)、このときは4月号ということで短いエッセイが中心の編集でしたが、今回は本格的な論文集になっています。

中でも注目されるのがわが国スポーツ社会学の泰斗であり最高権威である佐伯年詩雄先生が「企業スポーツの現在を考える」という論文を寄せられているところで、日本労働研究雑誌の学際性が際立っています。私も若干関与した経団連による実態調査の結果などもふまえ、これからの企業スポーツの意義・可能性として「組織力開発」と「人材育成・組織のダイバーシティによる活性化」をあげておられます。「企業スポーツには、自らが組織力開発において重要な要素である(1)ダイバーシティを統合化する「インクルージョン」、(2)参加の喜びを感じる「エンゲージメント」、(3)相互理解を推進する「コミュニケーション」があふれているからである。企業スポーツが、こうした要素を「状況従属的」ではなく「政策戦略的」に活用し、勝利からも敗北からも学ぶ「学習する組織」モデルを体現するとき、日本企業が難題とする組織力開発という重要な経営課題に応え得る貴重な経営資源としての意義を明確に示すことができよう」との結論は、長年(と言っていいと思う)企業スポーツに関わってきた私にも強く響くものです。

続く中村英仁先生の論文は2014年に先生が笹川スポーツ財団で実施した調査(この結果は佐伯先生も参照しておられます)にもとづく企業スポーツ選手のセカンドキャリアについての研究で、私が同誌の2007年7月号(これは福利厚生の特集でした)に載せた「企業スポーツと人事労務管理」も参照いただいております(ありがとうございます)。続く中澤篤史先生の論文は「部活動顧問教師の労働問題」という昨今話題のきわめて時宜を得たものであり、さらに川井圭司先生の論文「アスリートの組織化」は、スポーツ選手とクラブ(経営者)との集団的関係に関するものです。川井先生は2005年4月号の特集でもMLBにおけるプロ選手の法的について紹介しておられます(http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2005/04/pdf/017-019.pdf)。Bリーグが2シーズンめを迎え、卓球のTリーグも発足が間近となる中、やはり時宜を得たテーマと言えそうです。

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2017-10-30

[]リクルートワークス研究所「Works Roundtable 2017」

お招きいただきましたので行ってまいりました。先週金曜日の午後一杯かけて開催された標記のセミナーで、主催者のワークス研究所によれば「日本を代表する企業の人事リーダー、人事プロフェッショナルをお招きし、ともに学び合い、ともに考え、ともに日本の人事の進化を起こすための集い」とのことで、現役の人事リーダーでもなければ人事プロフェッショナルでもないアマチュアの私にはかなり場違い感はあったのですがせっかくの交流・情報収集の機会ということで出かけることにしました。近日中に資料などはワークス研究所のウェブサイトで公開されるものと思います。

最初に牧野正幸ワークスアプリケーションズ社長の基調講演があり、同社の事例紹介などもありましたが私が興味深く聞いたのは最後の働き方改革・生産性向上に関する話で、いわく日本の製造業の現場というのは個別の改善=個別最適を積み上げることで高い生産性を実現し競争優位を維持している。それに対してバックオフィス(まあ管理部門かな)は、各社が個別最適を積み上げた結果として仕事の進め方の標準化や共通化が進んでおらず、それぞれ異なるシステムを運用しているので全体としては生産性が低迷している。その理由は労働市場が流動化していないからで、流動化していれば人が入れ替わることで仕事の進め方もだいたい似たり寄ったりになる。そうすれば同じシステムを運用できるようになり、同一フォーマットの情報が大量に集まるのでそれを機械学習に突っ込めば人工知能の性能が上がって生産性も向上する…というような話ではなかったかと思います。

まあずいぶんと我が田に水を引かれるものだこらこらこら、いやそれはそれとして、これ自身はすでに90年代なかばには似たようなことが言われていたのでははないかとは思いました。ビジネス・プロセス・リエンジニアリングとかずいぶん流行ったけれど、まだ覚えている人、どのくらいいるのだろう。ITシステム投資をするにあたっては、従来えてのしくみのままシステム化する「あぜ道を舗装する」ようなやり方ではなく、仕事のやり方そのものを効率化してシステム化しなければならないとか、そういう話ですね。SAPとかオラクルとかいったものが普及することで、仕事の進め方にあわせてシステム化するのではなく、SAPやオラクルに仕事の進め方をあわせるのだ、とかいった話もずいぶん聞いたように思います。

ただ今回は背景にディープラーニング技術の進歩があるので、いよいよ本物かと思わなくもありません(いやこれまでがニセモノだったといいたいわけではありませんが)。ただまあ一企業が他社の業務プロセスのデータを大量かつ独占的に収集・保有するということになる可能性も相当にあり、いいのかそれはと思わなくもない。やるにしても上手なやり方を考える必要はあるのでしょう。

さて続いてはそれぞれにテーマが設定されたワークショップが前後半各3セッション×2回の計6セッションが開催され、参加者はそれぞれの関心に応じて前後半それぞれ1セッションを選択して受講するという趣向です。それぞれにワークス研究所の研究者がキーノートを行い、それを踏まえてグループワーク→全体討議という流れでした。

どのセッションも興味深そうで迷ったのですが、前半戦は「人生100年時代のキャリアデザイン」にしました。キーノートは大久保幸夫所長と豊田義博氏という豪華ラインナップです。

興味深く感じたところをご紹介しますと、まず豊田氏のキーノートで「自己学習×キャリア展望」という話がありました。ワークス研究所の全国就業実態パネル調査(JPSED2017)の結果をもとにキャズム理論をあてはめてみたという試みのようで、自己学習に取り組んでいる人は全体の34.9%、今後のキャリア展望が開けている人は2.7%、どちらかといえば開けている人が13.0%となっていて、これをクロス集計して「自己学習していてキャリア展望が開けている人」をキャズム理論のイノベーターとするとこれが1.6%、「自己学習していてキャリア展望がどちらかといえば開けている人」をアーリーアダプターとするとこれが7.1%いる。これに定義は不明ですがアーリーマジョリティに相当するモチベーションの高い層43.7%を合わせるとまあ半数で、残りはモチベーションが中〜低レベルにとどまるレイトマジョリティとラガードという整理をすると、キャズム理論どおりにアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に大きな断絶が観測できるというのです。これは私としてもかなり驚いたところで、たとえば成長実感をみるとイノベーターとアーリーアダプターはそれぞれ96%、87%があるのに対してアーリーマジョリティ以下は36%〜8%にとどまっている。生き生きと働いているか、という設問についてもイノベーターの90%、アーリーアダプターの80%があてはまっているのに対してアーリーマジョリティ以下は42%〜12%。いっぽうで収入や雇用形態、企業規模についてはそうした断絶はみられないということでした。

そこでこの断絶をどう克服するかというのが大久保所長のお話で、キャリア展望のもと自己学習する「キャリア・オーナーシップ」を醸成するキャリア・トランジションが機能不全を起こしていて、良質なトランジションが起きていないのではないかという問題提起でした。人生100年時代のキャリアデザインは、従来のようにキャリア前半でその領域を拡大し、中盤から集約していって専門化するというワンサイクルではなく、拡大と集約を繰り返す多サイクルとなる。そしてキャリア・トランジションが発生することでサイクルが回ると考えられるところ、そのトランジションが機能不全だというわけですね。

具体的な問題提起としては4点をあげられ、まずは管理職昇進というのは「自ら業績を上げる」ことから「他社を通じて業績を上げる」という大きなトランジションだが、そもそもその機会が限られているうえにプレイングマネージャー化が進んでいることでトランジションが阻害されていると指摘されました。二つめはプロフェッショナル化ですが、これも日本企業にまだ存在するゼネラリスト神話によって阻害されている。さらに本来きわめて大きなトランジションであるはずの定年後セカンドキャリアについても、雇用延長の義務化によって機能不全になっている。従来であれば定年後の備えをしていたはずなのに、雇用延長されるから何とかなるさになってしまったというわけですね(それが悪いとは私は思いませんが)。そしてもうひとつは両立支援で、本来であれば育休からの復帰というのは働き方が変わる相当に大きなトランジションであるはずなのに、これまた根強い偏見などのゆえに機能していない。これらのトランジションが機能するような人事施策が必要ではないか…という話だったと思います。

続けてグループワークとディスカッションとなったわけですが若干の感想を書きますと(このとおり発言したというわけではない)、まずキーノートの内容が「人生二毛作三毛作」とかいった話ではなく、長期雇用/定年モデルを踏まえたものでずいぶん現実的だなあと思いました。もちろんそれは当然といえば当然で、リクルートのご商売のことも考えれば「40歳定年」とかいった短絡的で非現実的ものをひねくってみても仕方ないというのはまことに妥当な考え方だと思います。人生100年時代への対応はもちろん重要ですが、それは65歳定年や70歳雇用延長などといった労使による漸進的な取り組みを通じて実現していくべきものだと私は思いますし、それを労使の自主的な取り組みを促す政策が重要だろうと思います。

そこで大久保所長の指摘はいずれも同感できるものでしたが、このブログでも過去何度も書いてきましたし、また他の参加者の方々も異口同音に言っておられたことですが管理職昇進とプロフェッショナルというのは表裏一体の問題といえるように思います。管理職ポストが限定される中で昇進を増やすためにはプレイングマネージャー化せざるを得ないという現実があり、その一方で管理職になれなかった人がプロフェッショナルという運用がされていて本当のプロフェッショナルとはやや性格が異なっていて、キャリア形成も会社事情による人事異動などがあるため自らプロフェッショナルとしてのキャリアを形成することが難しいといったことが言えるのだろうと思います。であれば、大久保所長の示唆に沿えば管理職の役割を管理業務に純化する一方、ある段階で従業員の専門分野を特定してその道一筋にキャリア形成していくという方向性になりそうですが、しかしなかなか一筋縄ではいかないかなあ。もちろん大きな方向性としてはそちらだろうとは思うのですが、しかし今現在働く人がそれを求めているかというと必ずしもそうとは思えない。一方で、それこそ技能が陳腐化したりすることはあるわけであり、そういう場合に専門分野を変更するというトランジションも十分あり得るものでしょう。企業内での人事異動がそうした役割をかなりの程度果たしてきたことには留意しなければならないと思います。定年制についても同様のことが言えると思われ、たしかに従来であればセカンドキャリアとまでは行かないまでも「定年後再雇用されるためにはどんなことに取り組むべきか」というのに労使で取り組んできたわけですが、希望者全員65歳までになってしまっている現状ではそういう取り組みも行われにくくなっているという面はあるのかもしれません。だからといって継続雇用をやめるというわけにもいかず、やはり労使で漸進的に65歳定年・再雇用で70歳までという仕組みを実現させ、「65歳以降も再雇用されるにはどうすれば」という地道な取り組みを進めていくことが望まれるのだろうと思います。

さて後半は「働き方改革の本当のゴールは」というセッションを選択しました。こちらのキーノートはワークス研究所研究顧問の野田稔先生と同所の石原直子人事研究センター長というこれまた豪華メンバーです。まず石原氏から昨今の各社における働き方改革について、精神論めいた労働時間短縮運動にとどまっているケースが見られ、かなりの割合で「やらされ感」を持つ従業員が存在する、といった、ああまあそうなんだろうなあという実態が紹介されました。続く野田先生のメッセージはシンプルですが非常に共感できるもので、働き方改革とは「成果の出し方改革」である。残業を減らし人を減らして生産性を上げるのではなく、成果の出し方を改革して付加価値を増やして生産性を上げなければならない、そのためには多くの人材を顧客とのインターフェイスに投入してマーケットインをさらに進化させた経営を行うべきだ、というお話だったと思います。

その後はこちらもグループワークとディスカッションになったわけですが、参加者のほとんどが意識改革や先入観の打破、たとえば「年功主義や性役割意識をなくすべき」とか「職業生活以外のキャリアも大切にすべき」といった一般的?なものだけではなく、「管理職昇進をめざすキャリアがすべてという考え方は変えるべき」とか「スキルチェンジを通じて65歳以降の雇用もめざすべき」といった踏み込んだ意識もかなり共有されているように思われ、まあこういうセミナーに参加する人というバイアスはかなりあるのだろうとは思いましたが、しかし人事管理される側の立場としては心強く感じました(笑)。いや本当に。

あとは人事のやるべきこと、経営者のやるべきこと、マネージャーのやるべきことといった段階論での議論で、まあ人事管理の方針を考えるのであれば正攻法ではあります。私はといえばもう人事担当者ではないのだからと開き直って、人事のやるべきことは短期的には定年延長だと申し上げました。これは他の方はきょとんとしておられましたが、上記の話に加えて要するに60歳の人にしてみれば「こんな私に誰がした」という話であり、会社の都合に従って会社の言いなりにキャリア形成してきた結果の責任はやはり会社として負うべきではないかといういつもの話です。プロ意識の高い人事担当者であればこそ、そこには自覚的であってほしいという願いですね。そして中期的な役割は「人事権を手放してラインに譲ること」。もちろん経営人材候補であるタレントプール人材は人事部が中央集権的に管理することが引き続き必要ですが、それ以外の人材については、野田先生が言われるように顧客とのインターフェイスに集中投入していくとなるとやはり現場がよくわかっているラインに権限を分散すべきではないかと申し上げたわけです。さすがにこれは言いませんでしたが、まあそれが人事部の権力の源泉となっていることを考えるとなかなか簡単にはできないだろうなとも思うわけですが…。

あとこれまたさすがにその場では申し上げませんでしたが経営者が人事施策として足元で最も求められているのは(その環境整備も含めて)さまざまな就労諸条件の改善ではないか、などということも考えておりました。いやまさに付加価値・生産性向上にも働き方改革にもつながるものであり、実際ヤマト運輸さんのようにやっておられる企業というのもあるわけであり、これはやはり経営トップでないとできないことというのが相当にあるのではないかと思うわけです。

ということで、アタマの普段あまり使わない部分を使ったのでいささか疲れましたが、まことに刺激的かつ有意義な充実したイベントでした。重ね重ねありがとうございます。まあ他の参加者とは違って仕事に役立てようというインセンティブはない人だったのでいくらか気合が抜けていたことは否めないのではないかと思われ、やや緊張感を損ねる結果となってしまったことを他の参加者のみなさまにはお詫びしたいと思います(いや誰も見ていないとは思うが)。

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2017-10-25

[]経団連人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度』、丹下一男『担当者必携障害者雇用入門』

(一社)経団連事業サービスの讃井暢子さんから、経団連出版の最新刊を2冊、経団連事業サービス人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度−職務給・役割給・職能給の再構築』と、丹下一男『担当者必携障害者雇用入門−雇用のプロセスから法的構成まで』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

経団連事業サービス人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度−職務給・役割給・職能給の再構築』

人事の現場を離れて久しい私には相当に懐かしさを覚える内容でしたが、それにしても脱年功とはかくも難しいかと思わせる本でもありました。本書18ページには「企業各社は現在、職務や成果にもとづく処遇制度への転換に本気で取り組みつつある」との記載があるのですが、「成果主義」が大流行したのは1990年代後半以降であってすでに20年前であり、また本書第3章では今後の方向性として「多立型賃金体系」があげられていますが、日経連がこれを提起したのはたしか経団連との統合を目前に控えた2002年の報告書「成果主義時代の賃金システムのあり方−多立型賃金体系に向けて」だと思いますので15年前の話です。もちろんこの間も、この本でも多くの事例や実例が引かれているように各労使でさまざまな取り組みは進められており、決して本気でなかったということもないだろうと思うのですが、しかしこういう本が出るということはやはりはかばかしい結果は出ていないということなのでしょう。

正直なところ私は職務分析にはやや懐疑的なのですが、もちろんこれは各労使の選択の問題でしょう。いっぽうで昨今多様な正社員とかジョブ型正社員といった話も出ているわけで、案外こちらの分野で職務分析の利用が進む可能性はあるようにも思われ、その点ではいろいろと考える材料にはなりそうです。

丹下一男『担当者必携障害者雇用入門−雇用のプロセスから法的構成まで』

まず障害者とその雇用をめぐる歴史と哲学、続いて雇用に限らない障害者関連法の歴史と全体像を述べ、さらに障害者雇用促進法の歴史を概観されます。ここまでで本文の三分の一以上が費やされています。その後に現行法規と就労支援諸制度の解説があり、これが本文の半分程度。残りは一応企業での実務の話ですが大半は抽象的な話にとどまっています。ということで企業の障害者雇用担当者にとっては自分の仕事の歴史や社会的意義を知り、誇りを持って働くという点では有用な本であり、実務マニュアル的な要素はあまりありません。まあ確かに障害者(に限らないが)の雇用管理のさまざまな困難を負担するのは人事担当者というよりは配置された現場の管理監督者や同僚たちなので、この本が想定する読者(必携であるところの「担当者」)を念頭におけばこういう本になるのかもしれません。

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2017-10-11

[]大竹文雄『競争社会の歩き方』

「キャリアデザインマガジン」134号に掲載の書評を転載します(実は少しフライングです)。

『競争社会の歩き方−自分の「強み」を見つけるには』 大竹文雄著 中公新書 2017.8.25

 2017年のノーベル経済学賞は、行動経済学の草分けであり権威である米シカゴ大のリチャード・セイラ―教授に決定した。一般的な経済学は合理的な個人を想定するが、現実の個人は感情に左右されるなどして多分に合理的でない。そうした不合理な個人を念頭に、経済学に心理学を導入して意思決定を分析するのが行動経済学だ。その成果は、すでに社会改良に有効に活用されている。たとえばわが国でも、より安価なジェネリック医薬品(後発品)の利用を増やして医療費を抑制するために、処方箋の書式を「後発品への変更には医師の許可が必要」から「医師が先発品を指定しない限り後発品」に変更して成果を上げたという例が紹介されている。

 この本は、そうした行動経済学の知見をふんだんに生かして、日本社会のさまざまな側面を読み解きつつ、「競争社会の歩き方」を説いていく。書名からはあるいは競争社会の「勝ち方」を指南するハウツー本に見えるかもしれないが、そうではない。賢明な「歩き方」を考えようと言う本である。

 もちろん、競争は往々にして厳しいし、つらいことも多い。とりわけ敗者は過酷な現実に直面することもある。そのために社会的セーフティーネットがあるとしても、できれば競争はしたくないという人は多いだろう。しかし、私たちが消費者として享受しているさまざまな恩恵は、実は競争を通じて生み出されている。競争に参加せずしてその果実のみを得ることは普通できないし、規制などで競争から保護されている人については、そのポジションを獲得するまでに激しい競争を経ることが多いだろう。

 決して楽ではない「競争社会」をより賢明に歩いていくためには、できるだけ合理的に意思決定することが大切になるだろう。しかし繰り返しになるが私たちは必ずしも合理的ではない。たとえば、同じ案件について意思決定する場合でも、怒っている人はよりリスク選好的に、おびえている人はリスク回避的になるという。逆に言えば、ある意思決定をするときに自分の感情を確認し、怒っているのであれば無用な冒険をしないように、おびえているのであれば無意味に消極的にならないようにと考えることで、より賢明な意思決定ができるだろう。この本では、私たちの意思決定がどのような傾向を持ち、何に左右されているのかを多くの事例をひいて説得的に解説している。

 また、最初に紹介したように、競争社会で人々がより賢明に振る舞うような政策誘導にも行動経済学は貢献している。ジェネリック医薬品の例は、私たちは比較的重要でない意思決定には手間をかけようとしないという傾向を応用したものだ。先発品でも後発品でも効能が変わらないとなると、医師はわざわざ手間をかけてどちらかを指定しようとはせず、処方箋の書式の初期設定(デフォルト)のままにする傾向がある。であれば、デフォルトを先発薬から後発薬に変更することで後発薬の使用を増やせるという寸法だ。このような、人々がより望ましい行動をとるようにしむけるちょっとした働きかけを、ノーベル賞受賞が決まったセイラ―は「ナッジ(nudge)」と呼んだ。この本では、こうしたナッジの事例もふんだんに紹介されている。

 ここまで読んで、あるいは「なんとなく難しい本」との印象を持たれたかもしれない。しかし、そういう印象を与えたとすれば評者の力不足であり、むしろこの本の最大の特色は非常にわかりやすく、読み物としても面白いという点にある。新聞広告などで話題になった「チケット転売問題」から説き起こし、ゆるキャラや落語・小説、プロスポーツ、テレビドラマなど、身近で親しみやすい、読者が関心を持ちやすい題材をうまく生かしながら、楽しく行動経済学の知見とその応用が理解できるように書かれているし、最後は格差や技術革新、高齢化といった重い課題に到達している。テレビ出演者やエッセイストとしても活躍し人気を博している著者の面目躍如というところだろう。

 この本は、同じく中公新書から出版された著者の『経済学的思考のセンス』(2005)、『競争と公平感』(2010)の続刊でもあるという。過去2冊は本書ほど行動経済学色が強くはないが、しかしいずれも楽しく読んで経済学のさまざまな知見や考え方を理解できる好著である。本書を読んで関心を持たれた方には、ぜひこれらにも触れていただくことをお勧めしたい。

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)

書評はこちらhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20060612

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

書評はこちらhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100426#p1

2017-10-05

[]日本労働研究雑誌10月号

(独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌10月号(通巻687号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

今回の特集は「大学教育の「実践性」」というもので、専門職大学を契機に企画されたもののようですが、昨今「人生100年時代構想会議」などというのも始まってリカレント教育にも注目が集まりはじめており、たいへん時宜にかなった特集といえそうです。

個人的には、先月某研究会の調査で石川県におもむき、金沢大学、金沢工業大学、北陸先端科学技術大学院大学などを訪問してお話をうかがってきましたので、門間「石川県におけるインターンシップの推進の状況」はたいへん興味深く読みました。その際にも金大・金工大の方々が口々に「学生の地元志向は(受け皿が多いこともあり)非常に強い」と言われていて、中島・堀「大学生の就職活動の変化」の「全国の学生が大都市圏で就職活動をしているというイメージはあたっていない」という指摘もなるほどそうなんだろうなと思ったところでした。なんか23区内の大学の定員増は認めないとか、どれほど意味があるんだろうとか。

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2017-10-01

[]神野直彦・井手英策・連合総研編『「分かち合い」社会の構想』

連合総研様から、神野直彦・井手英策・連合総研編『「分かち合い」社会の構想―連帯と共助のために』をお送りいただきました。ありがとうございます。

ざっと斜め読みした限りではあるのですが、読み進むほどに連合が希望の党を支援するのが不可解というか意味不明というか…むしろ自民党のほうが政策的に近いのではないかとか…(いや全世代型社会保障とか。。。)なにかと複雑というか単純というか、タイミング的にあれこれ思うところのある本ではあります、はい。

2017-09-30

[]平成29年版労働経済白書

厚生労働省の安達佳弘さんから、『平成29年版労働経済の分析(労働経済白書)』をお送りいただきました。ありがとうございます。

例によってまだ書店には並んでいないようですが、厚生労働省のウェブサイトで全文を読むことができます。報道発表はこちらになります

今回の第2章は「イノベーション」と「ワークライフバランス」の2本立てになっています。特にイノベーションの方は(本文中でも言及があるとおり)主観的な評価にもとづく部分も多く、分析も難しいのではないかと思われますので、なかなかに野心的な取り組みだと思います。まあ個別にみれば賃金についてはポリシーだけでなく水準も加味して考えなければあまり意味はないんじゃないかとか、元ネタでは統計的に有意でないとされている結果まで担ぎ出したりとか、いろいろ苦労してるなあという印象もありますが…。それだけイノベーションは重要だということでしょう。ワークライフバランスについてもそれなりに実感にあう分析だとは思うのですが、人事管理への応用となると、とりわけやはり働く人の意識という面を中心にそれなりにまだ難しいものはありそうです。

それよりなにより、ちょうど今選挙になっているわけですが、第1章で分析されている労働市場の現状の良好さが印象に残りました。まあいろいろな意見や感想はあるのでしょうが、とりあえず労働市場という面では現政権は十分に健闘しているように思います。

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2017-09-20

[]八代尚宏『働き方改革の経済学』

八代尚宏先生から、最近著『働き方改革の経済学−少子高齢化社会の人事管理』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

働き方改革の経済学

働き方改革の経済学

わが国の労働市場や人事管理の実情を正しくふまえ、「働き方改革」の課題とされているものの基本はわが国の「正規労働問題」であること、そしてそれを相当程度温存したままでの「働き方改革」には限界があることを経済学的な考え方のもとに的確に論じ、さらに求められる改革の方向性を提示した本です。

例によって時折極論に振れる部分もあり、ついていけない議論や余計なお世話という感想もあるのですが(しかし最近の何冊かに較べると少ない)、それも含めて八代先生らしい好著といえるのではないでしょうか。

個人的には、結局のところことの大半は終章「人事制度改革の方向」にある「専門職のままで結構」という社員を増やす、ということに尽きるようには感じました。とはいえもちろんこれは本書も説くとおりそれほど高くない賃金、相対的に弱い雇用保障とセットであり、はたして企業の人事管理だけでそちらに誘導できるのかと言うと、なかなか難しいようにも思うわけです。多くの人が「管理職になりたい、高い賃金と強い雇用保障がほしい」と望む中では、実現可能性は軽視して従来型の雇用を提示する企業が採用上有利になることは目に見えているわけで、となると政策的な介入も必要かもしれません。一方で、本書でも論じられている5年無期転換や同一労働同一賃金といった動きは案外それを誘導する効果もあるのかもしれないとも感じたところで、このあたりはまだまだ議論が必要なのでしょう。