エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究 その4
エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか
- 作者: M.クーパー,Mick Cooper,清水幹夫,福田玖美,末武康弘,田代千夏,村里忠之,高野嘉之
- 出版社/メーカー: 岩崎学術出版社
- 発売日: 2012/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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前章で紹介したように、クライエントに変化をもたらす要因の40%は「クライエント要因および治療外要因」だ (Assay & Lambert,1999)。しかし、「治療関係 (30%)」や「期待とプラシーボ (15%)」もクライエント自身の影響が多く含まれる。そう考えると治療による変化におけるクライエント要因は非常に重要だと言える。
クライエントの期待は特に重要で、「クライエントの動機づけと積極的参与」「治療結果への期待」「面接中に起こることへの期待」などはいずれも治療にポジティブな効果をもたらす。経験的に考えれば当然かもしれないが、治療を受ければよくなると信じ、治療の中へ積極的に参加することはプラスとなる。
問題の原因が何かというクライエントの認知 (Predilections:直訳すると偏好、本文中では「先入期待」)は治療初期の機能を高める。
具体的には、問題を生物学的な原因でなく心理的なものであるとみなすクライエントは、ドロップアウトの割合が低く、良好な治療同盟を確立する割合も高くなる (Elkin et al., 1999)。
ただしこの点については、まだエビデンスは十分とは言えない。Predilectionsがあればよいということではなく、治療技法との組み合わせが問題となるようだ。例えば、自分の問題を対人関係の側面から理解するクライエントは、認知療法の効果はあまり得られない(Addis & Jacobson, 1996)。
クライエントの心理社会的機能も、治療の結果に影響する。顕在的で高い水準の苦悩を持ったクライエントは、変化への動機づけが高くなるため、より良い成果を得ることが多い (e.g., Mohr & Beutler, 1990)。
しかし一方で、基底的な部分での機能の低さ、具体的には人格障害 (Ryle & Golynkina, 2000)、不安定な愛着 (Sattsi et al., 2007)、完全主義 (Blatt et al., 1995)、ソーシャルサポートの低さ (Beutler et al., 2006)などがあるクライエントは、そうでないクライエントに比べて治療の効果は得られにくくなる。
その他、治療の成果に影響するCLの心理社会的機能要因として明らかになっているものは、心理学的用語で人の心を語ったり理解したりする能力(Psycnhological mindedness)の高さ (Piper et al., 2001)や、Prochaska (1999)の変容段階モデルにおける、段階の進度 (Ockene et al., 2002)などである。
クライエントのデモグラフィック要因や性的志向による、治療の結果にはほぼ差がない。ただし、マイノリティや社会経済的地位の低い者はドロップアウト率が高く、そもそも専門家に対する援助要請自体が少なくなる。
エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか
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*1:文献は基本孫引きです