Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

自分の後ろに誰もいないつもりで仕事をせよ

 本屋に入ったら平積みされていたので、すぐに手に取りました。

ザ・ラストマン 〜 自分の後ろに誰もいないつもりで仕事をせよ 〜

 若い頃に繰り返し叩き込まれた記憶・・・。
 転職にあたっては、ふりだしに戻ったつもりだったので、どの事業部がどうなったとかニュースで耳にしても遠い世界の出来事でした。この本で改めて、ドラスティックな構造改革を「あの」日立がしたことに驚き、冷徹さと表裏一体の愛社精神を貫く姿勢に、強い感銘を覚えました。
   
「野武士集団」とか「開拓者精神」とか、創業の理念なんかどこにも残っていないじゃないか、と在籍時は常々思っていましたが、有事には子会社に散っていた人材が呼び戻されて改革を断行してまた去っていく・・・ちゃんと野武士はいました。長い長い年月を経て、霧が晴れたような想いでした。
 愛社精神というか、古巣に対する深い感謝、それがまだ自分の中にあると自覚させてもらいました。直接的な恩返しはできそうもありませんが。

 丁度この本を手にした頃、母校(社内教育機関)の同窓会に声を掛けてもらいました。時代の流れなのか、その使命を終えて校舎も取り壊されるそうで、辞めた人間がノコノコ顔を出すのもどうかと思いながらも、本の内容とシンクロしたのでお邪魔させて頂きました。
日立茨城工業専門学院 - Wikipedia
     
     

 また時を同じくして、音信の途切れていた先輩とビッグサイトの展示会でばったりと再会。社内コンサル的に各事業部を転々としていた時期のチームメイトでした。当時から気心の通じる方でしたが、20年ぶりでも飲んで話せば通じ合えて「全ては必然」とお互いの認識が一致しました。

 なかったことにしていたはずの最初の社会人経験。その玉手箱を開けてしまい、「オレって結構トシくってんだ?」と気づいてしまった今年(ある精神年齢の診断サイトでは26歳・・・)、自分の足下にある揺るぎない土台の存在を再認識できました。

【追記】翌年になって、日本を代表する大手メーカーの経営不振が報じられる度に、過去に手を打ったパナソニック・日立、手遅れになったシャープ・東芝の違いを考えさせられました。創業者のカリスマ性とは別に、社員教育を通じて理念が組織に浸透していることの大切さ。川村元会長と面識がなくても、本の内容が自分の仕事観そのものであったことに深い感慨を覚えます。

 いつしか「逃げないこと」をひとつの信条としてきましたが、ビジネスには駆け引きの要素もあるので、それで損をしたことも少なくありません。
 そのタネ明かしが、若い頃に刷り込まれた「ザ・ラストマン」だったとしたら「オレは馬場粂夫博士の掌の上で転がされていただけなのか!?」とキント雲で一周してきた孫悟空のように愕然とさせられます・・・。
(それでは身も蓋もないので)改めて「教育って大事だな」と実感した年であった(ことにしよう)。社会人となって30年目、2015年の春から年末にかけての大きな流れでした。

【追記】下記のようなページを見つけて、またまた驚きました・・・。

仕事上の必要性から日立創業メンバーの歴史文献を紐解いてみたところ、至るところに陽明学的な精神論や言辞がありったけ出てくるのに面喰らった。
特に技術の総帥・馬場さんは、日本に陽明学を伝えた中江藤樹に傾倒し、社内でも公然と水戸学の講義をしているほどの生粋の本格派であったわけだ。
『格物致知と捨贋執真』を読む―陽明学と日立

 陽明学を知ったのは退職して7〜8年が過ぎてから、ようやく自分に合う価値観に辿り着けたと思ったものでしたが、精神論のDNAをちゃんと受け継いでいたことになります・・・。