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2001-02-12

『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー

    • 『ボーン・コレクター』

 持ち歩くことを自ら禁じた。なぜなら、何一つ手につかなくなることがハッキリしていたからだ。寝しなに読むよう心掛けた。その結果、私は4日間にわたり睡眠不足を余儀なくされた。普段は12時30分に寝るのだが、本書を開くや否や覚醒状態となり、私の強靭なる意志をもって本を閉じても、常に深夜の2時を回っていた。読み終えた瞬間は――2時17分。押し寄せる昂奮で、しばし眠れなくなった。


 噂に違わぬ剛速球だった。レクター教授の向こうを張る見事なキャラクターの登場だ。彼の名はリンカーン・ライム。ニューヨーク市警の元科学捜査本部長にして、“世界最高の犯罪学者”と呼ばれた男である。彼の元に異常な殺人事件が知らされる。犯人は人間の骨を偏愛する殺人鬼だった。犯行現場には必ず微(かす)かなメッセージとおぼしき証拠物件が残されていた。警察から捜査の手助けを依頼されたライムは、警邏(けいら)化の女性巡査、アメリア・サックスを助手にして捜査を展開する。


 ライムは四肢が完全に麻痺している重度の障害者だった。数年前の事故によるもので、それ以降、捜査の第一線を退かざるを得なくなる。動くのは頸(くび)から上と左手の小指のみ。


「ケッ、どうせ全知全能の主人公が居ながらにして謎解きをするんだろうが!」などと邪推するのは私だけではないだろう。「まあ、その内、読もう」ぐらいにしか思っていなかったのは確かだ。ところがドッコイ! 見事に裏切られた。嬉しいね〜。


 この作品の正しい読み方を教えよう。普通のミステリやサスペンスと同様に読んではならない。出来過ぎだ! とか、んなことあるわけねえだろ! と思った瞬間、あなたの負けだと考えて頂こう。 これは、“主人公が四肢麻痺という設定”で、どのようにして最後まで飽きさせることなく読者を楽しませるか――という著者の挑戦なのだ。さて、あなたの想像と著者のストーリー・テリングとどちらに軍配が上がるだろうか? 因みに私は完敗した、とだけ記しておこう。


 ほぼ全身が麻痺しているライムが“悪態吐(つ)きの名人”であるところが、まず、意表を衝いている。介護士のトムに対する罵倒はなかなかの見物。そんな反面、彼は自ら安楽死を望んでいた。サックスも同様で心に傷を負っていた。望んでいた転属先がやっと決まり、これからという時に彼女はライムによって起用される。憤懣やる方ないサックスと、そのようなことは全く意に介さないライム。登場人物は皆一様にクセがあるのも好ましい。


 骨の鳴る音に取り憑かれた殺人鬼は次々と犯行に及ぶ。サックスを手足の如く使い、携帯電話で指示を出すライム。事件を追うごとに深まる二人の絆。微量の土、首筋に付着した指紋といった証拠からボーン・コレクターをプロファイリングによって特定してゆく過程が見所。決して読みにくくならないのは巧みな筆さばきの為せる業(わざ)。


 犯人逮捕まで、あとわずかとなった時点でライムは安楽死の選択を自ら決める。雄弁な彼を止めることはアメリア・サックスをしてもかなわなかった。


 そして全てがもつれ、絡み合いながら終局へとなだれ込む。圧巻のラストは殺人鬼、ボーン・コレクターとライムの直接対決。四肢が動かぬライムはどう立ち向かうのか。それを知りたくば買え、読め、堪能せよ! ハード・カバー1900円は安いもんだ。

ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫) ボーン・コレクター〈下〉 (文春文庫)

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