『ともだち同盟』/ 森田季節

ともだち同盟

ともだち同盟

読んでから書こう書こう思って数日経ってやっと重い腰あげたし、腰あげてからも書くのに時間かかっておりました。
先月あたり、氏のラノベ近作『不堕落なルイシュ』ですが、あらすじのディストピア設定(とまぁ当然オーラ)に惹かれるなどして読んでみたが、(これに関しては期待すべくもなかったかもしれないが)センス・オブ・ワンダー的印象は無くとも、そのぶっとんだ物語感覚にはどこか鬼気迫るものを感じたのだ。
不堕落なルイシュ (MF文庫J)

不堕落なルイシュ (MF文庫J)

そんで同日に、氏が一般文芸デビューもしていたとのことで調べてみれば、まず何より(伊藤計劃『ハーモニー』で相当に知名度得たと思われるが)大好きなイラストレーター、シライシユウコさんの美麗なカバー絵に心奪われ、物語もドツボそうであったので早速読もうと思ったのだが、時期が過ぎていたのででかい本屋でも見当たらず(ABCにも無く…)、やっと先日Amazonから届いた。
先に余談を言ってしまうが、9月にはなんとハヤカワから『不動カリンは一切動ぜず』でSFデビューとのことでめでたい限りである。
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/issue_schedules/paperback/list.html
森田氏のスレによると、

220 名前:イラストに騙された名無しさん[sage] 投稿日:2010/07/30(金) 22:59:34 ID:3VDkGlbQ
不動カリン、ググったら元々はガガガ文庫ラノベ大賞に出した作品だったのか
221 名前:イラストに騙された名無しさん[sage] 投稿日:2010/07/30(金) 23:07:33 id:wqUCVOXL
ホントだ
ttp://gagaga-lululu.jp/gagaga/keika2.html
一次選考通過か
タイトルそのまんまだなぁ

とのことだが、本人ブログで

http://moritarail.blog108.fc2.com/blog-entry-60.html


ページにて告知するのを忘れていましたが、9月にハヤカワJAより、新刊『不動カリンは一切動ぜず』が出ます。今回は文庫です。
過去に書いた作品のタイトルだけ使ってますがイチから書いてて、設定とかも何もかも違います。とりあえず、ハヤカワさんらしく多少SFっぽいものをという意識でやりました。よろしくいお願いいたします。

とあるように、やはりハヤカワ、ただじゃ出させるべくもないので期待である。


そんでもって、自分の感想を後回しにするのも変だが、ブログ検索でレビューを探してみると、

http://blog.search.yahoo.co.jp/search?p=%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%A0%E3%81%A1%E5%90%8C%E7%9B%9F&type=article&aq=-1&oq=&ei=UTF-8


[ラノベ][いずれ消す]『ともだち同盟』祭りがネット外で発生-7月8日
定期刊行物のラノベクラスタが総出で祭り。 7/2 週刊読書人 坂上秋成 7/10 本の雑誌 前島賢 7/17 小説すばる 大森望 そして漫画評論サイトとニュースサイトが激賞、大手ラノサイの反応は鈍い。
d.hatena.ne.jp/Thsc/20100708/p1- 詳細情報- はてなダイアリー Thsc

という既に消された記事が引っかかった。確かに『ともだち同盟』のネットでの反応はあまり観測されないが、この三者の評に説得力があるならばますます私も自信を持ってプッシュしていきたいものである。ということで地元の図書館で調べてみたら"小説すばる"だけは取り寄せで読めそうである。大学図書館には残りの二つがあって、"読書人"の方は確認できたものの、"本の雑誌"はバックナンバー数冊をどんなに最後の方の索引でチェックしても"前島賢"、"ともだち同盟"の語が見つからない。検索では前島氏自身のツイッターでの言及が引っかかったので存在は間違いないとは思うのだが…どなたか所在を教えてください。
ところで今回これを機に、文芸系雑誌シーン全体に目を向けることになったけど、未だにこれだけの数が存在してんのか!と。すでに多く潰れてもっと少ないのではないかという印象だった。いや、すでに多く潰れて、これでも減ったのかも知れないが。詳しくは知らん。しかしあくまで客観的にですよ、どこの誰が読んでるんだろう…と。本の為の本がこんだけあったらそれはもう絶望的に追っかけ切れんぞ。
それにしてもいつも読んでるたまごまごさんとこで紹介されていたのには気付かなかった。これは失敬。http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20100630/1277825150


さて自分の感想、といっても大したことは書けん。
まず鉄オタな著者ゆえの、鉄道に着想を得た人物・物語設定の面白さ。そして著者がかつて暮らしていたであろうゆえに、愛着を持って描写されている舞台である兵庫。(と聞くとハルヒ的な情景をイメージしてしまう)
鉄道という要素に関しては、特に鉄道に乗る旅人が抱き、また鉄道が象徴もするだろう、不確定性、未決定性、超越性といったものとの出会いに崇高さを求めるような属性を登場人物、特に千里に付与するものとして、また後半においては、三者の揺れる関係性を示すものとして(かといって上手く説明はできないけど)、物語全体を覆う幽玄とした雰囲気、旅情にも近い寂莫としたロマンティシズムの内包に大きく貢献していて、とても奥深い設定に思える。そしてラストで千里が明かす、彼らの名前を駅名になぞらえたトリック、といってもこれはいわゆるそれとは言えぬ、不思議な仕掛けなのだが、決して緊密な根拠付けでなしに、あくまで再帰的なゆるい関連性を醸し出しているところが浮遊感のある感情を呼び起こすゆえんである。
ここで言い出すが、自分がこの物語に想起させられたのは「無根拠」と「根拠」、そのはざまといったところである。先に述べた鉄道に関する形容とも通ずる。
この物語を駆動する自称魔女・千里を軸にした三者のつながりは運命的であると簡単にもいえる。
考えてみよう、特に異界に連れ出されて以降の弥刀、朝日は、トリスタンの効果を否定しつつ、互いが結ばれる根拠なき必然性への確信を強めていく。(しかし異界における描写は終始、まさしく現実離れしたような空気感の中、朝日、そして特に読者が最も同一化しているであろう弥刀の意識がドロドロと定かではなくなっていくような、静かな狂気さえ孕んだようなものとして感じられる)
しかしその感情の変化は、千里のトリスタンによる、あくまで予定調和で、崇高な運命的出会い、とは縁遠いものなはずだ。
いや、トリスタンなんて本当に効果があったもんじゃないが、あくまでトリガーとして作用し*1、メタに考えればそこに三人の関係の運命性はあったのだ、ともいえるかもしれない。
読者は、ここで弥刀と一緒に、「この物語はどう解釈されるべきなのか」と、無根拠と根拠のはざまで宙吊りのまま揺れ動くことになり、容易に感動に誘ってくれたりはしない。
だが本質はもっと高次にあり、トリスタンが一般的尺度でホンモノであるかどうかは問題ではない。
アイロニカルにも、フィクショナルな根拠性に支えられる魔女である千里は、彼女自身もトリスタンを飲んだことに象徴されるように、彼女さえあずかり知れぬほどに肥大化した自意識〜魔術に身を委ねることで、根拠性を逆転させ、無根拠性の果てにある、運命的な物語の崇高さを獲得しようとしたのではないか、と読んでみたのだがどうか…。いや自分でもよくまとまってない。


しかし、千里と共に異界に残ることを選択した弥刀であるが、ここで選ばれた二人だけの世界は、エヴァ以降の男性性、女性性のひたすら退廃的で甘美な一体化願望に支えられるものでも決してない。*2今のところ唯一読むことが出来た坂上秋成氏の評も、「セクシャリティという現実的な問題に現代的強度を見出したい」というものであった。

「二人とも女の子だったら、体目当てだったなんて言えないじゃないですか。わたしは恋愛するつもりなんてなかったんです。ただ、大神君がほしかったんです」
「ですね。わたしは意味を作りたくなかったんです。男と女じゃ、わたしたちはどうせいつか劣化して恋をしてしまいます。そしたら大神君と手をつないで日なたぼっこする幸せもわからなくなってしまう。それを思い出にして老けていく。いい大学に入っていい会社に勤めること。たくさんお金を稼ぐこと。スポーツや芸術の腕を磨くこと。幸せな家庭を築くこと。すごく快感なセックスをすること。みんな有意義なことです。だからそういう薄皮をはがして弥刀だけをとらえようとしたらこんな方法しかなかったんです」
(p221〜)

この千里の告白の意味するところについて考える必要がありそう…


そういやあずまんがクォンタム・ファミリーズ関連の発言や早稲田での講演で、この時代において人生に一回性、必然性を見出すなんて無理、でアーキテクチャに身を委ねて生きざるを得ない、的な主張があったけど関連するかもしれん。


それにしてもAmazon唯一のレビューなんかはラストシーンが衝撃、とか言ってるけど、どこのことを指すのやらという感じで、というのもラストのラストの妙にホラーチックな着地と、朝日が未だ俗世に居残り続けている感じが、3章までの崇高さから一転して、少々興ざめというのは否定できないからだ。(これ以外のどんなラストがありえたか、と言われれば私は全く思いつかないが…)


ただでさえレビュー少ない中でこちらは秀逸
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20100703/p1
後半など仰る通りなのでしょう。


『ともだち同盟』聖地巡礼記事。素晴らしい。
nonki@rNote - 「ともだち同盟」現地探訪-箕谷駅から
森田季節「ともだち同盟」舞台探訪@JR関西本線大河原駅 - きーぼー堂


ちょっとまだ追記、改稿する気満々…
20100911、言葉遣いなど直した、しかしあんまり検索で人が来なかったな


といっても今晩、高速バスで東北へと旅に出ることになっているので(ここで鉄道じゃないのかよ)、まとめ切れない…

*1:オリジナルにもそういう解釈があるのね http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%83%87

*2:また、(大学での貴重かつ良質な文化系授業であった表象文化論の先生の受け売りであるが…)ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチやマクロスFにも表象された、旧来的男女観を更新し、クィアな男女観を肯定していく潮流にも関連付けられるだろう、という