煙突はどこへ?

三重県伊勢市にある旧制宇治山田中学(現宇治山田高校)跡地。ここに、ついこのあいだまで一本の古い煙突が建っていた。この煙突は、映画監督小津安二郎が宇治山田中学在学中に寄宿していた寮の一部で、当時の建造物の中では唯一現存する遺構だったのだ。したがって、少なくとも日本映画の歴史的価値に関心を払う者にとっては、非常に大事な遺構のはずである。
ところがその煙突が、いつの間にか消えてなくなってしまっている。取り壊されたか、それともどこかに移設されたのか(ご存知の方がいらっしゃれば教えていただきたいが・・・・)、とにかく忽然と影も形もなくなってしまった。今の今まで気が付かなかったのはウカツだったが、比較的最近、この煙突を見た覚えがあるので、つい最近までそこに建っていたのは間違いない。
それにしても、もしあの煙突が取り壊されてしまったのだとすれば、大変な損失である。現地では今、煙突に隣接していた某企業の社員寮が取り壊され、その跡地にマンションが建設中。個人的には、壊されるくらいなら煙突を買い取っておきたかったくらいだが、維持管理のコストを考えると、篤志家、あるいは市の教育委員会(に期待する方が間違いか?!)あたりでないと、到底買取なんてムリなハナシ。
閑話休題。この十二月十二日、小津の誕生日でもあり命日でもある日に、宇治山田中学跡地で“しのぶ会”なるものが催され、集まった十人足らずの人々が、数年前に寄付金を集めて建立した記念碑に献花したのだそうな。
このメンバーの方々、いったい小津の作品をどれほどご覧になっているのか、ちょっと伺ってみたい気もするが、それはさておき、小津本人とは何の縁もない石ころを拝みに集まるくらいなら、そのエネルギーをなぜ寄宿舎の煙突保存に向けてくださらなかったのか、そこがなんとも残念。
己の無為無策を棚上げする気もないが、煙突より記念碑が大事という心根は、(例えは良くないかもしれないが)イエスより教会を信じる信徒のような気がしてならないが。いかがか。

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