科学・技術は日本の生命線…のはずだけど

京大の山中伸弥教授かっこよす - おこじょの日記
いやぁ素晴らしい成果ですね。停滞気味の日本生命科学に久しぶりの花火が上がった気分。
応用へのめどがついたという意味でも画期的ですが、幹細胞研究に胚を使わなくて済むということは特に欧米人にとっては大きな「倫理的枷」が外れたわけで、ここから実用に向けて真の研究的「仁義なき戦い」が始まると見ていいでしょう。

それから日本の厚生省の気の変わりやすさ。長期研究を短い期間に押し込めたり、十分な資金を与えずに放置したり。問題は、事務官の長が3年ごとに変わることだ。新しい人が来るたびに、科学研究に足跡を残そうと新しい予算を立ち上げるが、科学的な根拠はなく思い付きだけで、すでにある研究プロジェクト(どんなに成功していても)から予算を奪ってしまう。基本的に、3年でプロジェクトが完成できなければ、あきらめろということだ。

で、記事にあるような山中先生の嘆きも実にごもっとも。というか、幹細胞に限らずあらゆる科学研究分野において、研究者よりも官や政の都合が優先されるのが日本流。
個別でいろいろ訴える研究者もいないわけではありませんが、所詮トウロウの斧。科学者にとってこうやって大きな成果を上げた時の「海外メディアの取材」だけが唯一の効果的アピールといってもいいくらいです。
法人化にしろ、ポスドク問題にしろ、まあ唯々諾々と従った大学も大学ですが、批判意見もそれなりにあったわけです。大体、オーバードクター問題は20年間から分かっていたことですしね。
そしてもう一つ。ブクマでmahalさんが

日本って集団主義とか思われがちだけれど、こういう人が結果を出してるのを見ると、やっぱり個のパフォーマンスに依存してる部分が非常に強いなと。

とおっしゃっているけれど、日本は集団主義なんではなくて、「なんとなく集団主義なんです。で、しかるべき「機能集団主義はむしろ非常にニガテ。結果的に、個人のパフォーマンスでなんとかなる部分まではうまくいくんですが、社会集団が機能的に振舞うことによる成果にまではたどり着かない。
例えば今回の成果。こちらでもいわれているように今後カネとヒトが大量に投入されるとは思いますが、実用にたどり着くのは果たして日本かどうか。
なぜならば、ここから先は生命科学内の各分野はもちろん、医学、薬学、化学、工学そして経営や法律政策まであらゆる分野の連携にかかっているからです。理系も文系もない。日本が最も苦手とする、そしてこれまで何度となく失敗してきたやり方ですが、そろそろマジメに考えたほうがいい。
そしてもう一つ肝心なのが、山中教授ご自身がそうであったように、非主流派を枯れさせてしまわないこと。進化の袋小路を突破するのが辺縁の種であるように、ある方向性が行き詰った時には周縁にこそブレイクスルーの芽が育っているもの。多様性は資源なのです。
で、話は変わるんですが、このようなテーマについての記事を今回日経BTJジャーナルに書かせていただきました*1
以前AAASネタを書いた際にNPOサイエンス・コミュニケーションさんからお声をかけて頂きまして、22日に無料配布される11月号(PDF)に拙文を載せていただいております*2 *3
いつもごらん頂いている皆さんには周知のことばかりかもしれませんが、いつもより多少マジメに書いておりますので是非ご一読くださいませ。


関連:
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バイオベンチャーは社会力の試金石
ポスドク問題は博士のビジネス参入を阻害する

*1:9月号には山中教授のインタビューもあります。

*2:「科学技術政策を論じよう」第3回

*3:もちろんこのブログは完全に個人的なものですので、日経さんやサイエンス・コミュニケーションさんの意向とは基本的に無関係です。ただし意見が一致することに関してはいろいろな方と協力していきたいと思います。