日本の風俗嬢

日本の風俗嬢
中村淳彦 2014 新潮社

内容、カバー折口より

「そこ」で働く女性は三〇万人以上。そんな一大産業でありながら、ほとんど表で語られることがないのが性風俗業界だ。どんな業態があるのか? 濡れ手で粟で儲かるのか? なぜ女子大生と介護職員が急増しているのか? どのレベルの女性まで就業可能なのか? 成功する女性の条件は? 業界を熟知した著者が、あらゆる疑問に答えながら、「自らの意思でポジティブに働く」現代日本の風俗嬢たちのリアルを活写する。

感想

・仕事先の先輩から借りた。新潮新書だと知って、ギョッと思った。読んでみて心配したとおりのクオリティ。あのいい加減な「バカの壁」がラインナップするだけのことはある質の低い新書シリーズの一書だった。本書も。

・題材が題材だからか、一部からの聞き取りによって論を進めており、その結論がどれだけ普遍性があるのか、評価のしようがない。
もっといえば疑わしい。もちろん、性産業は裏経済も含む分野だから正確な統計を集め、分析するのは難しいだろう。しかし少しでもそうしようとか、本来はそうしなければならないという姿勢が、本書にはきわめて欠けているのである。そんな本の主張は疑わしいといわざるをえまい。

少なくとも、学術的な土台で議論できる内容ではない。

・本書のなかほどで、「性風俗店の採用偏差値」なるものが出てくる。「偏差値」を名乗りつつも、その実は関係者の聞き取りを元に著者が提示しているものだ。聞き取りでつくったというだけで、数値の根拠は不明。「偏差値」という厳密なものとは到底言えない。むしろかけ離れている。単に「偏差値」がキャッチーな言葉だからつかったのだろう。ここからも、著者の雑な姿勢が伝わってくる。

性風俗やスカウト会社とヤクザとの関わりが指摘されていた。やっぱり法の抜け目や倫理的に躊躇してしまう分野には、こういう集団がつけいってくるんだなあ、と思った。そりゃ、問題が起きたとしても警察に相談できないもんね。法的に、あるいは倫理的にスネに傷があれば。

・著者は近年、供給の増加から風俗嬢の質的レベルが高くなっていると指摘している。確かに質が向上しているという指摘に対しては、理由としてなるほどな、と思わせる部分もある。しかしその質自体の説明に対しては、オーバーではないかと感じさせられた。盛って表現しているように感じたのである。
正直にいうと、著者の指摘の妥当性はよくわからない。ただ著者は業界関係者であり、ポジショントークの可能性もあると割り引いて考える必要があろう。
風俗業界が盛り上がれば、それ関係のライターである著者も得をするのだから。

メモ

・2008年の世界不況以降、性風俗をポジティブにとらえる働き手の女性が増加。

・近年、風俗嬢のレベルが高くなっている。「容姿を中心とした外見スペックだけでなく、接客サービス業なので技術、育ちや性格や知性などを含めたコミュニケーション能力が加味されて、性風俗セーフティネットでなくなり、選ばれた女性が就く職業になってしまった」p139
〈理由〉
 格差拡大により性風俗を目指す女性も増えている。供給過多。3割近くしか採用されないという、例を複数提示。
 かつて友人による紹介やスカウトによって性風俗で働く女性が多かった。現在はインターネットの発達により性風俗へのアクセス手段が広がる。
 規制強化により無店舗型が増加。無店舗型は、気軽に入れる有店舗と比べると、一見さんに対してリピーターの割合が多くなる。(内容がよくないと客がつかない) 

・風俗業界で働く女性は意外に多く、確率的にいうと身の回りにいてもおかしくない。

売春防止法が禁じている性行為は本番行為のみ。

ソープランドは、店が女性たちに部屋を貸しているだけ、という建前を徹底している。

売春防止法は、女性の処罰ではなく保護が目的。運営者は処罰されるが客や女性は基本的に処罰されない。

・規制を厳しくしすぎると性風俗アンダーグラウンドな世界になりかねない。そうすると税の徴収や実態の把握が困難になる。

・ヤクザにショバ代を払っている例を紹介し、ヤクザと風俗業のつながりを指摘。ショバ代を払わないと嫌がらせを受けるという。

・90年代と比べ、風俗嬢の収入は低下。稼いでいるのはトップに位置する一部の嬢。一部の店。

・スカウトについて。
AV女優や性風俗業を紹介した場合、嬢の稼いだ一定の割合がスカウトマンに入ってくる仕組み。そのため、長期間働けるよう、精神的なバックアップも求められる。
一方キャバクラ、ガールズバーなどは買い取り。
暴力団との関わりもあり。