よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

「パリ・スケッチブック」アーウィン・ショー

パリではすべてがカフェではじまりカフェで終わる。著者はそこから乾いた眼で眺めているが、やはりこの街を愛しているのだ。

(2006年5月15日読了)

はてな年間100冊読書クラブ

パリ・スケッチブックに関する簡単なリストを下に置きます。


【この作品は】長い間パリに住んだアメリカの劇作家が淡々とした筆致で、ときおりニヤリと笑いながらパリの町を描く。やはりパリに住んでいた英国人画家ロナルド・サールの漫画的で風刺っぽいイラストと化学反応を起こすか?
アンドレ・マルロー】文化相として文句を言われながらもいろいろ文化的な施策を実施し、やってみれば特に文句も出ず「これもアリかな」と受け止められたようです。著名な作家でもあります。
印象派美術館】《中へ入るとどんなに薄暗い冬の日の午後でもここは壁から日光が差しているようだ。セザンヌルノワール、モネ、マネ、ドガピサロ――そんな連中が口をそろえてアナウンスしている――「空気が実においしいな。女性が実に美しいな。食べ物が実にうまいな。ワインも実にうまいな。(中略)この世は住むにあたいするところだぞ」》(p.75)
エッフェル塔】《少し傾いたエレベーターに乗りこんでギーギー音を立てながら昇り出すと、フランス人がこしらえた機械に命をまかせてこんな高くに登るんじゃなかった、と後悔する。》(p.53)
【オートバイ】《いったん乗り出したが最後、少なくとも一度くらいはまっさかさまに放り出される覚悟なのだろう。》(p.72)
【カフェ】パリではすべてがカフェではじまり、カフェで終わるのだそうです(p.47&p.209)。なんだかいいですね。
【建築】《すべて人間のスケールに合わせた町がパリなんだ。パリ人はパリの空を深く深く愛していてね》(p.54)
【交通】《パリでは車を運転する者の十二人に一人は平均して人を一名ひき殺した経験がある。》そうです。(p.73)
【国歌】《歌詞の中に「市民よ、武器を取れ!」とあるあの国歌だ。》(p.50)
サラ・ベルナール劇場】大女優の名前がついていた劇場もいまはパリ市演劇場というあいそのない名前になってしまっているそうです。著者はとても残念がっていました。著者にとっての古きよきパリはしだいに失われていったようです。まあ、それは常ですが。
【政治家】政治家の色恋がらみのスキャンダルは政治家としての失点にはならないそうです。ちょっとした気の迷いさという感じで。大人だ。でもお金が絡むとちょっとうるさいようです。それでもまあ、政治家ってそんなもんさという感覚はあるようです。
【立ちのき】《いざパリを立ちのくとなると、ノスタルジアの原因になるようなことばかりではない》(p.152)
【愉しみ】パリ生活で最高の愉しみであり最もお金がかからないのはパリ散策だそうです。
【煙草】《年金生活者が一人自殺した。インフレで煙草が吸えなくなるのを苦にして死んだ》(p.49)。この気持ちはよくわかります。
ノスタルジア】《ノスタルジアがいつも志向する憧れの首都だ。ここを離れるときはだれも必ず流浪の旅に出る思いを抱くパリなのだ》(p.51)。永井荷風の作品もそんな感じでした。でもショーの方「ふらんす物語」より乾いています。
【パリという町は…】《一日二十四時間活動している都市だ》(p.177)。パリという町は舞台のようでもあります。ちゃんと暮らしてはいるのだが、大金持ちから浮浪者にいたるまで、老若男女、品のいい人わるい人、悪人善人、殺す人殺される人みいんなパリという舞台でそれぞれの役を雑然と演じているようです。
バルザックの像】ロダンが作った39体のブリンズ像。ロダン美術館にあるらしい。凄い迫力らしい。どうでもいいことですが。