2021-04-09 パオ・チョニン・ドルジ監督作品『ブータン 山の教室』を観る

www.iwanami-hall.com

久しぶりに映画を観た。この一年、どうしても意欲が湧かず観たいなぁと思っても映画はスルーしてきた。美術館は動けるので昨年から少しずつ観るようになっていたのだが、固定される映画は行く気にならなかった。でもこの作品の情報が入ってくると、いてもたってもいられず仕事帰りの午後、神保町に向かう。コロナ禍にあってもやはり欲する人はいるようで、そこそこ混んでいた。
ダメ教師のウゲンはヒマラヤの麓の僻地ルナナに季節限定の教師として派遣される。鉄道も自動車道も無い、徒歩で行かなければならない土地だ。幕営し苦労の末、やっと村に着くと、村中をあげての大歓迎だ。しかし、学校の実情を見て、ウゲンは自分には出来ないと村長たちに伝える。みんなガッカリするのは当然だが、村長はなんと嫌なモノはしょうが無いと受け入れる。驚いた。仏教の教えに忠実なのであろう。
しかし、そんなダメ教師を変えるのはやはりいつも子供たちだ。輝く目。ノートも無いのに一生懸命聞き漏らす無いとする姿勢。学ぶ意欲に満ち満ちている。地元の子供たちに出てもらっているとのことだが、彼らはなんと皮肉なことに映画を観たことが無いのだ。なぜなら電気が無いから。素晴らしい演技を見せる子供たち。ただ実は演じているのは無く、本当に学びたいと思っているそんな姿を撮っているだけなのだろう。そして本当の主役はヒマラヤの自然とヤクなのかも知れない。真に幸せな2時間弱だった。


www.youtube.com

アニメ『映像研には手を出すな!』考察(覚書)

NHKで放映されていたアニメ

eizouken-anime.com

(以下、「映像研」)の魅力に取り憑かれ、全12回を録画・鑑賞したのみならず大童澄瞳氏の原作単行本5巻も完読するほどハマってしまった。やはりテーマに即したTVアニメ版のできは出色である。アニメ4回で単行本1冊分の内容で、それぞれ1本のアニメ作品を映像研(浅草みどり・水崎ツバメ・金森さやか)の面々は作り上げていく構成になっている。以下はアニメと原作との違いを考察(ただ記)したモノに過ぎない。詳しくは

https://wikiwiki.jp/eizouken/

を参照。

1.アニメ版のシークエンスは原作通りでは無く、大胆に前後させている。例として、第1回の冒頭シーンの幼い頃のエピソードは、原作1巻第6話からのモノである。他にも重要な登場人物の百目鬼氏(音響部)の登場がアニメ版では早いが、これについては後述。
2.宮崎駿作品『未来少年コナン』がアニメ版では「残され島のコナン」となっている。
3.顧問の藤本先生は出演がアニメ版では目立たない(詳しくは後述)。ただ、生徒会の「予算審議委員会」のチラシを持って部室にブラッと来るのはアニメ版のオリジナル。
4.風車のアニメ作りに没頭し、大雨の中、濡れながら三人が駅に向かうシーンがあるが、原作では学校(理科室?)に泊まらされる。そもそも嵐のシーンは先生も入れて4人。
5.部室の○に映のマークは、原作ではいつの間にか付いているが、アニメ版ではロゴが動くシーンとかを妄想する。アニメ3回では、アニメスタジオのメイキング編が挟み込まれ、三船敏郎の『用心棒』?が使われている。
6.アニメ4回は「予算審議委員会」での作品上映となるが、原作では表しきれない強烈な映像力で場を圧倒する。壁や床に現れる光線や戦車の薬莢、最後に戦車自体の登場シーンはアニメのオリジナル。旋律のデビューを飾る「映像研」メンバーの最強の世界。

7.アニメ5~8回は学園祭に向けての話となるが、ロボット研究会からの製作依頼が原作では生徒会経由となっている。
8.アニメ6回に音響部・百目鬼パーカーが登場する。これは原作3巻の17話(正確にはその前から出てはいる)の内容なので大幅に繰り上げ出演だが、SEの必要性からアニメ版では早まったのだろう。旧音響部にガサ入れを行うのも原作では生徒会に仕事をもらいに行って割り当てられたモノで、「映像研」3人で行っているのに、アニメ版では水崎氏はいない。
9.美術部との打ち合わせ後に「ロボアニメを辞めよう」と浅草氏が言い出す点が原作とは異なる。
10.アニメ7回の冒頭、水崎氏の思い出シーン(お祖母ちゃんとのエピソード・ダンスの思い出)は原作にはない。ロボ研メンバーが声優をやるシーンもない。
11.アニメ8回の大芝浜祭は、ほとんどオリジナル。
 ①水崎氏の箸の持ち方
 ②学園祭で校門前のクラブ勧誘
 ③空調管理部とのやりとり
 ④ロボ研メンバーの段ボール姿~アピール~段ボールロボに対する生徒会の取り締まり
 ⑤百目鬼氏によるSEの調整
 ⑥何よりもアニメ作品の「生アテレコ」
→前作よりも圧倒的破壊的な映像力を見せつける「映像研」の仲間たち

12.原作本3巻では文化祭の決算を顧問の藤本先生が行い、「遊べ、若人よ」の名言は職員室で宣う。藤本先生が部室前の廃車の中で「部活顧問はブラック」と言いながらゲームをしていて、「映像研」に寄り添っているシーンはアニメ11回。
13.アニメ9回の冒頭では音響部の家賃収入に関する生徒会の査問から始まる。アニメ版では、生徒会が敵対勢力としての扱いが強い。
14.アニメ版では、コメットAに出品する下りは商店会の担々麺屋の加島さんとの接点から始まる。これに伴い、寂れた不思議な地下商店街やフルーツ担々麺!などのディテールが描かれる。そこで新作は『芝浜UFO大戦』となるのだが、これも原作では「雑居UFO大戦争」となっている。
15.親戚の雑貨屋さんでチビ森氏(少女時代の金森氏)が働くシーンは概ね一緒だが、江戸時代から続く酒屋さんが落ちぶれて雑貨屋さんになってしまったというヒストリーはアニメ版のオリジナル。
16.アニメ10回では音楽を「パアトショウジ」というネットの知り合いに作曲を依頼している。
17.声優オーディションの話は原作には無い。
18.外部との金銭の授受を問題視した学校当局との話し合いは、原作ではほぼ教頭メインなのがアニメ版では異なる。最も異なるのが、顧問の藤本先生が全く発言せずゲームをやっている点。
19.小ネタとしては、宮崎駿風浅草氏の出演や対岸の旧発電所の時計の文字盤が漢数字であったり、授業中の居眠りシーンなどが見られる。
20.アニメ11回での美術部との打ち合わせは無い。写本筆写研究部との打ち合わせのシーンでの生徒会の襲撃は原作通りだが、「ドアの修理代」を上乗せしている。
21.浅草氏の探検と教頭が花壇にコスモスを植えているエピソードはアニメのオリジナル。
22.「映像研」部室に教頭の張り紙があるシーンは原作には無い(美術部の久保さんの心配そうな姿も)。アニメ版では風邪引きの金森氏を見舞うのはこの後に来る。そこでSNSで芝浜高校「映像研」の取り組みと町おこしに関して、問い合わせなどの電話が殺到するシーンもアニメだけ。
23.依頼していた音楽(byパアトショウジ)の曲がイメージに合わず混乱するシーンとこのトラブルを適切に処理する金森氏の姿はアニメのオリジナル。ある素材で作品の構成を組み替えることにした「映像研」メンバー。外部業者をキャンセルしたため、写本筆写研究部に乱入する金森氏の姿が後に出てくる。
24.コメットAの会場で見られる人々
 ①フルーツ担々麺屋の加島さん
 ②書道?のブースにいる生徒会の生徒会長と書記のさかき・ソワンデ
 ③ゲームに熱中する顧問の藤本先生
 ④歴史を説明するロボ研小野
 ⑤柱の陰から(巨人の星か!)見守る教頭
25.アニメDVDをそれぞれに楽しむ人々
 ①車の中で見る顧問の藤本先生
 ②部室で見守る美術部の面々
 ③担々麺屋の店先で見る加島さん
 ④自宅の居間で鑑賞する教頭

原作コミックを実に巧みにアニメ作品に昇華している。素晴らしい。原作にたびたび登場するタヌキは、次回作のアニメ「たぬきのエルドラド」に結実することを切に願っている。「映像研」よ、永遠なれ!

f:id:take-bow:20200425142140j:plain

 

全体の奉仕者を見殺しにしてはならない

今週発売の文春が完売しているという。都合の悪いヤツらが買い占めてるんじゃ無いかとゲスの勘ぐりをしたくなる。このブログでは政治的なことは一切書いてこなかった。純粋に興味関心があることは政治的なことでは無いからだが、こんなに酷いことを野放しにしてはならないと思う。

ラジオで久米宏さんが森友問題で自殺された財務省職員の記事を朗読していた。自分の目で読んだ時も怒りがこみ上げてきたが、さすがプロの朗読は違う。聞いているだけで、亡くなられた赤木俊夫氏の無念が湧き上がってきた。公文書を改ざんさせられ、そんな汚れ仕事をやらされた側が死に至り、そのおかげでのし上がったヤツらはまだ役所で胡座をかいて、のほほーんとしているのだろう。この国は自浄作用とはまったく無縁な、戦後直後に書類を焼いた時と全く進歩していない最低国家だ。

f:id:take-bow:20200321140513j:plain

J.J.エイブラムス監督作品「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」

blogを書くのもずいぶん久しぶりになってしまった。例年恒例の元旦映画を止めてしまったので、ちょっと遅れてスター・ウォーズ最終作を見た感想を少し。

女性のレイをジェダイの新しい騎士とした三部作の最終作でもある。一言で言うならルーカスが始めたスター・ウォーズの世界観を引き受けつつ監督の個性も入れつつソツなくまとめたと言うのが適切だろう。主人公レイの成長の過程とその謎を明らかにし、旧作品の雰囲気も上手く取り込まれていた。カイロ・レンとの関係に疑問を抱く人も多いかも知れない。凄く感動したかと言われれば、そこまででは無いが納得のいく作品だと思う。BB8は第一作の二つの太陽だったのか。。。長い長い大河ドラマを楽しめたことに感謝したい。            ★★★★ブラボー

f:id:take-bow:20200110173158j:plain

 

やっと読みました-矢部太郎著『大家さんと僕 これから』

話題になったカラテカ矢部太郎氏の『大家さんと僕』の続編が出版されたのを知って、購入。前作は手塚治虫賞を受けるほどの話題作となった。しかし、彼自身の話や書評だけで読んだ気になり、実は未読のまま今回の作品と出会う。シンプルな絵に淡々とした調子の語りが魅力の本作だが、一番は大家さんと僕の交流自身なのは言うまでも無い。戦前生まれのいかにも育ちの良い大家さんは、独特の感覚で僕を翻弄していくのは前作と同様だが、残念なことにお別れが絡んでくる。前作では描けなかった、でも大家さんが描いて欲しいと言った処も加わっているので、とても満足した。初め絵が拙く感じ(当然、僕は漫画ではない)で購入したのは間違いか、とも思ってしまったのだが、この感性が病みつきになる作品だ。ぜひご一読を。すぐ読めます(しかも何回も読みたくなる)。

大家さんと僕 これから

「松方コレクション」展を見る

久方ぶりに上野の国立西洋美術館に行き、

artexhibition.jp

を見てきた。先日東博に行った時、西洋美術館は空いていたので安心していたら、今日はトンデもない混み方だった。夏休み&日曜美術館を舐めていた。生まれた時からこの美術館はあり、あまり混んでいたイメージが無いのだが、久方ぶりの盛況だった。そもそもこの美術館が松方コレクションを展示するために作られたという基本的な事実すら知らず、それに関わる多くの人々の思いと努力のおかげで毎回常設展として楽しんできたのであった。

やはり見どころは,里帰りした(と松方のために言うべきであろう)フランスに止め置かれた作品群や売却処分された作品群が一堂に会したことが喜ばしい。今回、公開されていたが、イギリスの倉庫で燃えたコレクションのリストを見ると、本当にスゴイ内容だったのが解る。歴史にもしもはないが、すべて揃えられたらと思ってしまう。

そして次なる見どころは、最後の展示室のモネ「睡蓮、柳の反映」の修復画である。ここまで見られる形に、もっていった関係者の皆様の労苦をねぎらいたい。痛々しいので見ると辛いが、それでもぜひ脳裏に焼き付けておきたい。

いつも言っていることだが、常設展はガラ空きで理想的な環境で美術鑑賞ができた。お気に入りのドルチ「悲しみの聖母」にも会えた。何よりも当然のことだが、こちらにも松方コレクションはあり(3点ほど)、冒頭の睡蓮はいつもここにあるのだ。

小生にしてはハードスケジュールだったが、帰りに東博の「奈良大和四寺のみほとけ」展もタダ券をもらっていたので、拝見してきた。芸術三昧の一日であった。

f:id:take-bow:20190725161311j:plain

モネ「睡蓮、柳の反映」

 

原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』を読む

日頃、全く小説を読まない小生が、どうしても今すぐ味わってみたくなり、単行本を購入してアッと言う間に読み終わるほど引き寄せられた作品だった。

美しき愚かものたちのタブロー

本作は直木賞の候補作にもなっていたので、慌てて購入したのだが、(小生にとって幸いにも)賞を逃してしまったのでまだ注目度は低いのかも知れない。しかし、作家のお名前と言い、テーマが西洋絵画に興味のある者を引きつけて止まないのは言うまでも無い。

読後の感想をいくつか。

1.吉田茂がサンフランシスコの対日講和成立時に、フランスとの交渉で松方コレクションを返還させる端緒を作ったエピソードにはグッときた。言葉が拙くてこのようにしか表現できない自分に嫌気がさすが、シューマン外相とのたった20分の話し合いできっかけを作る外交官吉田茂のすごさに正直、涙した。まさか吉田茂に涙するとは。スゴイ。

2.西洋美術の専門家田代雄一(彼だけ本名でない。矢代幸雄)と松方幸次郎が画廊廻りやモネ宅に訪問するエピソードは有名なのかも知れないが、秀逸。特にゴッホの「アルルの寝室」を購入する話しは最高だった。

3.田代と日置釭三郎との対面のシーンは作家のイマジネーションの賜物。日本版「ルーブル美術館を救った男」のような話し。松方自身の許可を得ていながら、実際に売ったのはたった2枚だけだったという。絵画を守ることが、余りにも困難な時代。そんな時代にも忠実な部下は松方幸次郎の命を守り通した。本作品中のハイライトとも言うべき場面となっている。

4.ただ金持ちが財産にあかして、買いまくったに過ぎないと思っていた松方コレクション。しかし、現実はそんなに単純なモノでは無かった。素晴らしい作品群を形成していたであろう、ロンドンの作品群や日本で手放したモノも含めて見てみたかった。

f:id:take-bow:20190721152649j:plain

 

三国志展に行く

上野の東博で開催されている「特別展 三国志」を見てきた。

sangokushi2019.exhibit.jp

かなりの混み具合を想定していたが、ゆっくり鑑賞できる程度の混雑であった。やはり横山光輝先生作のマンガファンや人形劇ファンを意識した。展示になっていて親しみやすかった。全展示品撮影OKなので、みんなそのために来てるんじゃ無いか、と思えるほどであった。やはり実際の文物、特に印章や曹操墓の白磁には驚かされた。久しぶりの鑑賞なのでやや疲れたが、折角の夏休みなのでいろいろ楽しみたい。

f:id:take-bow:20190720151239j:plain

 

クリムト展を見る

f:id:take-bow:20190518162141j:plain


上野の東京都美術館で開催されている、「クリムト展-ウィーンと日本1900」

klimt2019.jp

を見てきた。土曜の午後というあまり恵まれていないシチュエーションであったが、なかなか時間が取れずやむなくの選択であった。当然の如く、若い女性を中心に混んでいた。日本とオーストリアの国交150周年を記念しての公開らしく、結構充実のラインナップだった。中でも代表作「ユディットⅠ」や「女の三世代」を見れたのは嬉しかった。あまり画家自身についても、ウィーン分離派についても知識が無いので、純粋に初見で予備知識無しで見る映画の如く、楽しめた。大きな作品も多く、レプリカの「ベートーヴェン・フリーズ」は圧倒された。折角だから第九をもっと大きくかければ良いのに、と思いながら眺めた。世紀末から第一次大戦にかけての激動時期をさまざまな技法を吸収しつつ、個人的な悲しみを乗り越えた作品たち「家族」「ヘレーネ・クリムトの肖像」などに惹かれた。体調がすぐれなかったのだが、見にいって本当に良かった展示だ。

鎌倉・歐林洞に初めて行く

f:id:take-bow:20190504141359j:plain


連休であるにもかかわらず、何処にも行かないので、家人がせめて鎌倉の歐林洞に連れて行けと宣うので、混雑覚悟でJR鎌倉駅に降り立った。小町通りを少し歩くがとてもじゃないが無理と言うことになり、若宮大路を歩いたがこちらもかなりの混みよう。途中創業1929年のセデリカというパン屋さんでコーヒーを飲んで休んだり、鎌倉彫のお店をのぞいたり、ナッツのお店に寄ったりしながら、鶴岡八幡宮前まで到達した。そこから流れに逆らって、左折して北鎌倉方面に向かう通りを上っていくと、写真で拝見していたオシャレなお店に到達した。お茶だけと思ったのだが、ランチもあるとのことだったのでそれを食し,食後にケーキを頂くという贅沢を堪能した。お店の方のお話ではライブなど音楽を楽しむのは2階だそうで、今回は拝見できなかった。イタリア製のエスプレッソマシーンなど独特の趣で、喧噪の中の鎌倉にこんな静寂があるのかとどっぷり楽しめた。幸せな気持ちで、帰りがけに鶴岡八幡宮に寄ってお参りもしてきた。帰りの電車も喧噪の中、何とか座れて家路につくことが出来た。