『金融NPO』

金融NPO―新しいお金の流れをつくる (岩波新書)

金融NPO―新しいお金の流れをつくる (岩波新書)

■読了文献。120冊目。藤井良広『金融NPO』。資本主義のもとで生きる私たちにとってまず必要なのはお金だ。生活が苦しかったり実現したい夢があったりするのだが、自分の稼ぎや蓄えだけでは困難――そんな人びとの期待に応えるべく存在しているのが金融である。しかし、銀行や証券、保険、投資ファンドなど既存の金融機関は、営利企業でもあるため、経済的リターンが見込めない相手には資金を提供しない。かくして、必要としている人びとのもとにお金が回らず、地域活性化が停滞していたり、貧困が放置された挙句、そこを狙った貧困ビジネスの跳梁跋扈を許し、結果的に多重債務者が激増したりするなどの問題が多発してきた。市場も政府も問題に対処してくれない。ならば、自分たちの力で、自分たちの意志で、必要なお金を集め、必要なところに回していこう。そうした意図のもと、市民が担い手となった非営利金融の取り組みが、日本国内でも近年活発化してきた。本書では、そうした動きを「金融NPO」と総称、そのユニークな事例を紹介している。例えば、NPOバンク(市民から集めた資金を、環境、社会的事業、地域振興などの非営利分野に融資)の代表事例として、1994年に東京都江戸川区で始まった老舗「未来バンク」や、人気ミュージシャン三人が出資して立ち上げた「APバンク」、若者起業支援を目的に愛知県で活動する「コミュニティ・ユース・バンクmomo」などが紹介されている。他にも、ソーシャル・ビジネスへの投資を行う市民ファンドや多重債務者対策に取り組む生協ファンドなどの先駆的事例、欧米の金融NPOを取材した現地報告などが掲載されている。非営利金融といえば、一般には、グラミン銀行バングラデシュ)のような開発途上国向けのマイクロファイナンスがイメージされるかもしれない。しかしながら、非営利金融は途上国のみならず、先進諸国においても活発に展開している。本書を紐解き、まずはそこに広がる金融のオルタナティヴな風景に触れてみよう。