Plucking モデルとオーストリア的景気循環論


 Pluckingをこの場合どう訳すか? とりあえず「ぐいっと下にひっぱりモデル」じゃあまずいからただの「プラッキングモデル」にいまはしておきます。このフリードマンが考えた景気循環論は、その正確な正体を田中はまだつかんでません(原論文を読めるのは来週くらい?)ので関連文献から類推しますと、1)景気が過熱して過剰在庫、過剰雇用、過剰債務だとかなんとかの非効率が発生して、それを不況が淘汰することで好況がくる、という清算主義的な発想への批判、2)金融・財政政策についての政府のファインチューニング的介入への批判 という二点をフォローしている点で興味深いものです。

 
 プラッキングモデル自体の紹介は日本のネットではhicksianさんのところ以外にないようですのでご参考ください(下の図もhicksianさんの引用のまた引用)。潜在成長率(トレンド)を一時的に下回る不況(その原因としての政策のミス)とその後の回復、という基本シナリオになっています。



 このプラッキングモデル自体はミーゼスのような清算主義的景気循環論への批判としてフリードマンが持ち出してきたようですが、現代オーストリア学派のGarrisonは、フリードマンオーストリア景気循環論はそんなに遠くはない、ということを示唆していますね。


http://www.auburn.edu/~garriro/fm2friedman.htm

http://www.auburn.edu/~garriro/fm1pluck.htm


 フリードマンオーストリアンもヴィクセルから端を発すると考えれば、実は理論の構造はあまりかわらず、問題点はどんな経済環境を考えていて、そのときどんな有効な政策対応(無対応含む)を考えているかの差異にも帰結していくのではないか、と僕も遠い目で思っています。ここらへんの問題圏としては数日以内に書こうと思ってますが、マネタリズムオーストリアンの接合をフィッシャー・ブラックのアイディアをもとにリテラリーに書いたTyler Cowenの業績が注目されると思います(梶ピエールさんとの公約ですので)。


Risk and Business Cycles: New and Old Austrian Perspectives (Routledge Foundations of the Market Economy)

Risk and Business Cycles: New and Old Austrian Perspectives (Routledge Foundations of the Market Economy)


 フリードマン景気循環論の基本的な性格は、いわばヴィクセルとケインズの『貨幣論』に展開されたものと共通でして、これについては今度の拙著『経済政策を歴史で学ぶ』でも書いたところです。その意味ではコーエンやガリソンの試みは、ハイエクケインズを結びつける試みともいえるでしょう。日本では最近でた根井雅弘氏の『物語 現代経済学』でも顕著なのですが、構造主義的なケインズ解釈(不況は投資や消費の構造的な“飽和”にあるとする考え)とフリードマン的なケインズ?経済学を互いに排他的な関係として扱っています(そしてフリードマンの言説自体の検討よりも彼がフランク・ナイトに“破門”された事実から彼の理論を劣るものとする一種の印象誘導を同書は行っているようにしか読めません)。しかし両方の見解が対立するものを含んでいる(経済環境の判断や政策対応の差異)としてもヴィクセルをブリッジすることで、上にも書いたようにその二項対立は理論的には同一のモデル(まだ未見なのでそれを仮にWモデルとしときます)のパラメーターの値をどうみるのか、という些細な点に帰することができるかもしれません。この将来現れるかもしれない統一モデルがいまはなくとも、少なくとも以前ここにも書きましたが、ヴィクセル的枠組みでの整理も一応はできるのではないでしょうか?

 とはいえ、一見しておかしい言説はそれこそ飽和知らずでいろいろあるわけで、美しく統合して終わりというのもお気楽な展望だといえるでしょうね。


ちなみに最初に話題を戻すとプラッキングモデルと政策レジーム転換論も異常に接近した話題でして、以下の論文なんかをとっかかりにkim氏の業績やSinclair女史の業績に今後目配りしていきたいと思います(まだざっとしか読んでないけど

Friedman's Plucking Model of Business Fluctuations: Tests and Estimates of Permanent and Transitory Components , Kim, Chang-Jin with Charles Nelson

また勉強したらこのプラッキングモデルに触れてみたいと思います。